百日咳

勉強しなおした。

●百日咳とは
 百日咳(pertussis, whooping cough )は、特有の痙性の
 咳発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症である。
 母親からの免疫が期待できないため、乳児期早期から罹患し、
 1歳以下の乳児、生後6 カ月以下では死に至る危険性も高い。
 百日咳ワクチンを含むDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)は
 我が国を含めて世界各国で実施されており、その普及とともに
 各国で百日咳の発生数は激減している。しかし、ワクチン接種を
 行っていない人での発病はわが国でも見られており、
 世界各国でいまだ多くの流行が発生している。

●疫学
 世界の百日咳患者数は年間2,000 ~4,000 万人で、
 その約90%は発展途上国の小児であり、
 死亡数は約20~40 万人
 1999年4月施行の感染症法の元では「百日咳」として定点
 把握疾患に分類され、全国約3,000の小児科定点から報告
 されており、2002年は1,488 例である。
 この報告数を元に算出した年間罹患数の推計値は
 2000年2.8万人、2001年1.5万人である
 厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究」

●細菌学
 グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis )の
 感染による。一部パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis )、
 Bordetella bronchisepticaも原因となる。
 感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染、
 および接触感染である。

●症状
・カタル期(約2週間持続)
 通常7~10日間程度の潜伏期を経て、普通のかぜ症状で始まり、
 次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。
 一般的に発熱はないとされている。
・痙咳期(約2~3週間持続):
 次第に特徴ある発作性の痙咳)となる。これは短い咳が連続的
 に起こり(スタッカート)、続いて、息を吸う時に笛音のような
 ヒューという音が出る(笛声:whoop)。
 この様な咳嗽発作がくり返すことをレプリーゼと呼ぶ。
 しばしば嘔吐を伴う。
・回復期(2, 3 週~)
 激しい発作は次第に減衰し、2~3週間で認められなくなるが、
 その後も時折忘れた頃に発作性の咳が出る。全経過約2~3カ月で回復する。
 成人の百日咳では咳が長期にわたって持続するが、
 典型的な発作性の咳嗽を示すことはなく、やがて回復に向かう。
 軽症で診断が見のがされやすいが、菌の排出があるため、
 ワクチン未接種の新生児・乳児に対する感染源として注意が必要である。
 これらの点から、成人における百日咳の免疫状況に今後注意していく必要がある。

●合併症
 米国での1997~2000年の28187例の報告では、6か月未満児に多く、
 入院率63.1%、肺炎11.8%、痙攣1.4% 脳症0.2%、死亡0.8%であった。
 生後2か月以内の児の合併症は、肺炎25%、痙攣3%、脳症1%と
 他の年齢群より高い。
 Pertussis--United States, 1997-2000 Morb Mortal Wkly Rep. 51(4):73-76, 2002

●咳の持続はせいぜい50日
 咳の持続は4±3.6週間
 診断までの日数は平均23日
 典型的な症状は6%
 平均白血球数8.7±2.6/mm3
 リンパ球40±12%
 Clinical manifestations of Bordetella pertussis infection in immunized children and young adults.Chest 115:1254-1258,1999

●百日咳の診断
世界的にはCDC診断基準を採用している。
・臨床基準
 A cough illness lasting at least 2 weeks with one of the following:
 paroxysms of coughing, inspiratory "whoop," or post-tussive vomiting,
 without other apparent cause
・検査基準
 Isolation of Bordetella pertussis from clinical specimen
 Positive polymerase chain reaction (PCR) for B. pertussis
 上記では抗体価の記載がなく、あくまで微生物学的な同定を必要としている。
 つまり、鼻咽頭からの百日咳菌の分離同定が必要である。
 Bordet-Gengou培地、CSMなどの特殊培地を使うが、
 運搬している最中に菌が死ぬので特異度100%、感度15%となっている。
 患者さんが受診される痙咳期に入ると、菌がもはや検出されにくい。
 そのため、実際の臨床では菌の分離同定は難しいと考えられる。

 一般臨床で利用できる抗体検査は
 1.百日咳凝集素(山口株,東浜株)
 2.抗PT抗体
 3.抗FHA抗体        の3つである。
 日常診療では百日咳菌凝集素価の測定が行われることが多いが、
 東浜株・山口株を用いて、ペア血清(2週間以上の間隔)で4倍以上の
 抗体価上昇あるいはシングル血清で40倍以上であれば診断価値は高い、
 とされている。
 DTPワクチン最終接種から2年以内の場合は
 ⅰ)凝集原を含まないワクチン接種児ではワクチン株、
   流行株いずれかが40倍以上
 ⅱ)凝集原を含むワクチン接種児では対血清でいずれかの株の4倍以上の上昇
 としている。

 ACCP (American College of Chest Physicians)の感染後咳嗽の
 ガイドラインでは、百日咳は以下のように記載されている。
 1.別の明白な原因がなく2週間以上持続する咳があり、
  発作性の咳込み、咳込み後の嘔吐、または吸気性笛声を伴う時は、
  百日咳感染症の診断を行うべきである。
 2.吸気性笛声があると疑われるすべての患者に対して、確定診断を行うため、
  百日咳菌の存在を確認する培養のための鼻咽頭吸引、咽頭スワブを行う。
  細菌の分離は診断を確定するための唯一の方法である。
 3.PCR 検査は利用可能であるが、通常の臨床検査をしては広く使用
  されたものでも検証された技術でもない。
 4.百日咳と診断が確定、または可能性が高いときはマクロライド系抗菌薬
  を投与すべきで、治療の開始から5日間は隔離するべきである。なぜなら
  発症から最初の2~3週間以内の早期治療は発作性の咳込みを減少させ、
  疾患のまん延を防ぐからである。この期間をすぎての治療は提示されうるが、
  患者の改善には寄与しない可能性が高い。

 ペア血清を測定するころには、病状がよくなっていることが多いので、
 シングル血清での診断基準作成が求められている。
 そのため、シングル血清の論文が多い。

・シングル結成抗PT抗体が94もしくは100EU/ml以上が適当とされている報告
   Clin Diagn Lab Immunol 2004 ;11 : 1045―1053.
   J Clin Microbiol2000 ; 38 : 800―806.

・「呼吸器疾患最新の治療2010~2012」では抗PT抗体125EU/ml以上
 の論文を採用している。
   J Clin Microbiol 35: 2435-2443, 1997
・沖縄医報Vol.39 No.7 2003 診療所における遷延性咳嗽の検討 では
 シングル百日咳凝集素1280倍を有意ととらえる考察がある。
 これは、以下の+3SDという海外の文献をもとに考察されたもの。
 孫引きすると、212人の患者から考察した論文で、Abstractを見ると
 PT-IgG抗体価の+3SDと書いており、凝集素価は書いていない。
   J Infect Dis 2001 May 1;183(9):1353-9.


●百日咳の治療
・発症後4週間隔離
・カタル期における抗生物質の投与は疾患の改善に有用な場合がある。
 痙咳期からは通常抗生物質の有効性はないが、拡大を防ぐため投与される。
・エリスロマイシン 40~50mg/kgを6時間毎 14日間経口投与
・通常治療開始後5-7日で百日咳菌は陰性化
 エリスロマイシン(EM) 14日間治療(長期療法)とクラリスロマイシン(CAM)
 7日間治療およびアジスロマシン(AZM) 3日間治療(短期療法)を比較。
 → 菌の消失率は、短期療法と長期療法と同等(RR :1.02)に有効
   副作用は、短期療法が少ない(RR: 0.66)
   臨床症状の改善および細菌学的再発率も長期療法と短期療法に差なし
・CDCガイドラインではマクロライド薬の選択には、有効性・安全性・服用性
 などを考慮し以下のように推奨している。
 6カ月以上の乳幼児ではAZM・CAMはEMと同等な有効性があり、
 副作用は少なく使いやすい。CAM ・EMはチトクロームp450酵素系の抑制
 作用があるため、他の薬剤との相互作用を起こしやすい。
 CAM・AZMは、EMに比較して耐酸性で組織内濃度も高く、半減期も長い。
 EMは他の2剤より安価。新生児でのAZM・CAMの有効性を実証した報告
 はないが、肥厚性幽門狭窄症を考慮してEM やCAMよりAZMを推奨している。

Antibiotics for whooping cough(pertussis). Cochrane Database Syst.Rev. no1.:CD004404. 2005

●予防
 わが国で現在使われている無細胞百日咳ワクチンを含む
 DPT 三種混合ワクチンは
 第1期:
  初回生後3 ~90カ月(標準的には生後3~12カ月)に3回
             及びその12~18カ月後に追加接種
 第2期:
  11~12 歳に、百日咳を除いたDT二種混合ワクチン

わが国の無細胞百日咳ワクチンの有効成分はPT とFHA が主

●予後不良因子
・白血球10万以上は致死的、白血球5万以上は肺炎リスクかつ死亡リスク。
Is leukocytosis a predictor of mortality in severe pertussis infection? Intensive Care Med 2000; 159: 898-900
・生後1年未満の百日咳は死亡率上昇のリスク。

●出席停止
 特有の咳が消失するまで出席停止。
 感染拡大が疑われるときはこの限りでない。

文責"倉原優"

by otowelt | 2011-05-01 06:47 | レクチャー

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