ICSによるCOPD急性増悪減少は誇張されすぎかもしれない

COPD患者への吸入ステロイドは是か非か。

今週のCHESTの論文も、それほどでもないという結論にとどめている。
”それほどでもない”が、少しでも効果があるのであれば、
エエやないかと思うのはダメなのだろうか?
ICSによる肺炎リスクはやはりあるのだろうか?
まだ結論は出ないと考えてよいだろうか・・・。


COPDに対する吸入ステロイドは、呼吸器内科医の間でも議論の
わかれるところであった。それは、結果の異なる報告が複数あるためかもしれない。

2008年に、JAMAからICS療法は安定期COPD患者の全死因死亡リスクを低減せず、
肺炎リスクが有意に上昇するというメタ分析が報告された。これは11のRCT
(14426人)のメタ分析によるもので、2008年の論文で発表されている。
Inhaled Corticosteroids in Patients With Stable Chronic Obstructive Pulmonary Disease
JAMA. 2008 Nov 26;300(20):2407-16.


しかしながら、オランダのRCTでは中等度~重症のCOPDにおけるICSが
肺機能の低下を遅らせるとの結果が示された。
Effect of Fluticasone With and Without Salmeterol on Pulmonary Outcomes in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Randomized Trial
Ann Intern Med 2009; 151: 517-527


呼吸器学会からのCOPDガイドラインには以下の記述がみられる。
 %FEV1が50%未満のCOPDで増悪回数の多い症例では、吸入ステロイド療法が
 増悪の回数を減らし、患者QOLの悪化速度を抑制すると報告されている。
 COPDに対する吸入ステロイド薬の用量反応性の検討は少ない。これまでの大規
 模トライアルの報告では、高用量の吸入ステロイドが用いられている。



今週、CHESTに新しいメタ分析の報告が掲載されていたので特記しておく。

Inhaled Corticosteroids vs Placebo for Preventing COPD Exacerbations A Systematic Review and Metaregression of Randomized Controlled Trials
CHEST February 2010 vol. 137 no. 2 318-325


背景:
 吸入ステロイド (ICS) は、COPD急性増悪を減少させるといわれている。
 しかしながら、もともとの肺機能とICSによる急性増悪減少が
 どのように関連しているかはわかっていない。

方法:
 PubMed、EmBase、Cochrane Central Database of
 Controlled Trials databases (1988-2008)を解析し、
 ICSとプラセボによる効果の差を検証。
 これにより、risk ratio (RR)と95%CIを2群間で抽出。

結果:
 11試験、8164人の患者を抽出。
 ICSは急性増悪の減少と関連していた(RR, 0.82; 95% CI, 0.73-0.92)。
 しかしながら、有意な統計学的hetergeneityを認めるが、出版バイアスの根拠はなし。
 FEV1 < 50% の患者においては、ICSは有意な利益を持っていた
 (RR, 0.79; 95% CI, 0.69-0.89)。
 これも統計学的heterogeneityを認める。
 メタ回帰において、急性増悪リスク減少は、COPD重症度にかかわらず不変と
 考えられた。(一秒量解析による)

結論:
 現在言われているICSによるCOPD急性増悪減少は、誇張されすぎかもしれない。
by otowelt | 2010-02-08 22:57 | 気管支喘息・COPD

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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