Birt-Hogg-Dubé症候群

 呼吸器内科医の間で必ず話題になるのは、「Birt-Hogg-Dubé」をどう発音するかという点です。日本語に表記すると「バート・ホッグ・デューブ」が正しい発音になります。英語の発音に関して言えば、「ホッジ」・「ダブ」・「デュベ」は誤りです。YouTubeに発音の仕方という動画があるので参考にしてください。ただし、Birt-Hogg-Dubé 症候群情報ネット (BHD ネット)(http://www.bhd-net.jp/)では「バート・ホッグ・デュベ」と明記されていますので、国内ではこちらの発音を採用すべきでしょうか。

・「How to Say or Pronounce Birt Hogg Dube Syndrome」https://www.youtube.com/watch?v=FnjWfok9YEI

 フランス語ベースの場合、「ビエト・ホッグ・デュベィ」のように聴こえます。Dubéという名前を現地の発音に記すと、正しくは「デュベィ」でもよい気がします。

 BHD症候群は皮膚だけでなく、肺病変(肺嚢胞・自然気胸)、腎病変(腎細胞癌)、消化器病変(大腸ポリープ)を合併しやすいことが知られています。そのため、呼吸器内科医も多発性嚢胞性肺疾患の鑑別としてBHD症候群の存在を知っておく必要があります。極めてまれな疾患ですが、日本国内に約100家系、 300人程度がBHD症候群と推察されます。
 
 BHD症候群は、1977年にBirt, Hogg, Dubéの3人が常染色体優性遺伝性と考えられる頭頸部の多発性皮膚丘疹を呈するカナダの一家系を報告したのが始まりです1)。BHD症候群全体では、顔面頭頸部皮疹、多発性肺嚢胞、腎腫瘍を3徴としていますが、線維毛包腫(fibrofolliculoma)が頭頚部に多発し、毛盤腫(trichodiscoma)、線維性疣贅(acrochordon)を合併し、これら皮膚病変はBHD症候群の皮膚所見3徴とされてます。2001年、BHD症候群が17番染色体短腕に位置するフォリクリン (folliculin [FLCN])遺伝子の変異が原因と判明しました2)。 FLCN遺伝子はとりわけ腎細胞癌において癌抑制遺伝子として機能していることがわかっています。しかし、肺の嚢胞性病変や反復性気胸においてFLCNがどう関与しているのかはいまだによく分かっていません。通常の嚢胞と違い、肺の中葉・下葉にできることが多いのが特徴です。
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(文献3)より引用)

 2002年にZbarら4)が、BHD症候群が自然気胸、腎細胞癌、大腸ポリープに関連するかどうかを詳細に検討し報告していますが、この論文ではBHD症候群33家系223人をBHD症候群の罹患者(BHD遺伝子のキャリアを含む)111人と非罹患者112人に分けて解析しています。BHD症候群の罹患者は非罹患者と比較して、自然気胸の既往、腎細胞癌の発生が有意に多かったと報告されています(大腸ポリープの発生には有意差がなかった)。アジア人のBHD症候群の場合、皮疹はの出現は5人に1人程度と少ないことが分かっています。その反面肺嚢胞・反復性気胸の既往は全体の9割以上にのぼります(気胸は欧米の1.5倍ほど多いようです)。BHD症候群の肺病変の病理所見についての記述は少ないものの、BHD症候群だからといって特異的な所見があるわけではなく、通常の肺嚢胞と変わらないとする報告があります5)。ゆえに、多くのBHD症候群は見逃されていると考えられています。Furuyaらは通常のブラ・ブレブは上葉・肺尖に多いのに対してBHD症候群の嚢胞は下葉・縦隔周囲に多いことを報告しています3)。また、その数も前者が単発であるのに対して後者は多発すること、病理学的な炎症像はBHD症候群の嚢胞ではあったとしても軽度であることを記載しています。

 肺嚢胞は多くの場合、20~30代で発見されます。また皮膚病変は30代前後で発症します。腎細胞癌は中高年以降の発症が多いようです。合併症の中でもっとも予後に反映するのは腎細胞癌です。生命予後に直接影響するのは腎細胞癌です。BHD症候群における腎細胞癌は、多発性でオンコサイトーマ(hybrid oncocyte chromophobe tumor)などの低悪性腫瘍も多いため、腫瘍径が3cmに発育するのを待って腫瘍のみ核出する手術が推奨されています。

 上述したように、BHD症候群診療ウェブサイト“BHDネット”というものがあり(http://www.bhd-net.jp/)、BHD症候群の啓蒙活動と遺伝子診断、定期検査を推進しています。

遺伝子検査を受けて陽性だった場合の推奨検診は、以下の通りです。
1. 肺:原則として21歳から定期検診開始。胸部CTを6年に1回, MRIを3年に1回。
2. 腎臓:CT/MRIを2年に1回。もし5mm以上の腎臓嚢胞が見つかった場合は1年に1回。しかしご家族に腎腫瘍の患者さんがいる場合は, より慎重に定期検診をするべき。


(参考文献)
1) Birt AR, Hogg GR, Dubé WJ. Hereditary multiple fibrofolliculomas with trichodiscomas and acrochordons. Arch Dermatol. 1977 Dec;113(12):1674-7.
2) Schmidt LS, et al. Birt-Hogg-Dubé syndrome, a genodermatosis associated with spontaneous pneumothorax and kidney neoplasia, maps to chromosome 17p11.2. Am J Hum Genet. 2001 Oct;69(4):876-82.
3) Furuya M, et al. Birt-Hogg-Dube syndrome: clinicopathological features of the lung. J Clin Pathol. 2013 Mar;66(3):178-86.
4) Zbar B, et al. Risk of renal and colonic neoplasms and spontaneous pneumothorax in the Birt-Hogg-Dubé syndrome. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2002 Apr;11(4):393-400.
5) Butnor KJ, et al. Pleuropulmonary pathology of Birt-Hogg-Dubé syndrome. Am J Surg Pathol. 2006 Mar;30(3):395-9.


by otowelt | 2016-10-22 00:56 | コラム:稀少呼吸疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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