ALIと集中治療における2009年アップデート

2009年に発表されたALI/ARDSに関する論文をすべてまとめた
AJRCCMからの最新のUPDATESである。集中治療に興味のある呼吸器内科医必読!
遺伝子とかキライなので、そこらへんはすっ飛ばしてみた。

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009
Am. J. Respir. Crit. Care Med..2010; 181: 1027-1032
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●はじめに
 急性肺傷害(ALI)の疫学、臨床経過、病因および治療の解明に関連する論文で
 2009年に発表されたものをふまえて、レビューする。

●ALIの疫学
 罹患する人種や民族性がALIの死亡率に及ぼす影響は、明らかにされていない。
 ARDSネットワークによれば、人工呼吸患者2362名のデータがある
 (白人1715名、アフリカ系米国人449名、ヒスパニック系米国人198名)。
 ALI患者のうち、アフリカ系およびヒスパニック系米国人の死亡率は、
 白人の死亡率より有意に高かった。ALIの死亡率に人種・民族性による
 違いが生まれる機序や環境および遺伝要因を解明する研究が必要かもしれない。
              Crit Care Med 2009;37:1–6.
 2009年は、ALI/ARDSの死亡率が低下しているかどうかを扱った論文が 
 2つ発表された。1つ目はは過去の文献を検討し、1994までは死亡率の
 低下が認められるものの1994年以降は低下していないと論じている。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:220–227.
 2つ目の論文では、ARDSネットワーク参加施設で行われた臨床試験の
 対象となったALI患者の死亡率が検討。1996年から2005年に
 ARDSネットワークが行ったランダム化試験に登録された2451名のデータが
 解析され、1996年の死亡率は35%であり、その後、年ごとに低下。
 2005年には26%まで低下していることがわかっている。 
 スタディにおいて一回換気量や重症度などの共変量と背景因子の調整を
 施行しても、死亡率の経時的低下傾向は認められた(P=0.0002)。つまり、
 肺保護戦略による死亡率低下効果に関係なく、重症患者管理の進歩により
 ALI患者の死亡率が低下している

              Crit Care Med 2009;37:1574–1579.

●ALIの定義と診断
 ALI/ARDSの定義では、気管挿管と人工呼吸が前提になっている。しかしながら、
 大半の症例では、気管挿管および人工呼吸開始に先んじて、ALIが発症している。
 そのため、早期のALIの診断が死亡率の改善につながるかもしれない。
 2009年に、胸部レントゲン上で血管内容量過多or心不全では
 説明のつかない両肺透過性低下が認められる救急患者100名を対象とした研究が
 行われた。100名のうち、入院後ALIを発症したのは33名。
 多変量解析を行ったところ両側透過性低下があり当初から吸入酸素2L/min以上
 が必要だったケースがALI発症の予測因子だった。
 ”初期ALI”という臨床診断が、実際にALIへと進展する症例を予測する際の
 感度は73%、特異度は79%
として有用である。
              Chest 2009;135:936–943
 また、別のグループは、P/F比がある一定の値を下回り、胸部レントゲンで
 両側浸潤影または両側肺水腫の所見が認められる患者を自動的にひろう
 スクリーニングシステムを紹介している。
              Neth J Med 2009;67:268–271.

●ALIと遺伝
 一塩基多型(SNP)がALIの臨床アウトカムに関わっていることが、明らかになった。
 2009年には優れたレビューが発表された。ALIに関係する候補遺伝子が
 挙げられているのである。
      Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2009;296:L713–L725.
 細胞外スーパーオキサイドジスムターゼ:SODは強力な活性酸素除去作用があり、
 過酸化物質による傷害から肺を守る重要な働きがある。
 細胞外SODのプロモータと遺伝子の塩基配列を解析するという研究が発表され、
 その結果、細胞外SODがGCCTハプロタイプを呈するグループでは、
 人工呼吸期間が短く死亡率も低いことが分かっている。
 肺炎患者およびALI患者では、血漿中・肺浮遊液中の
 プラスミノゲン活性化抑制因子-1(PAI-1)濃度が高いほど、死亡率が高い。
 PAI-1遺伝子の持つ4G/5G多型の中でも4G対立遺伝子があると、PAI-1が増える。
 肺炎による入院患者111名を対象とした研究で、
 PAI-1→4G/5G多型4G対立遺伝子があると、
 人工呼吸器非使用日数が少なく、また死亡率が高いことがわかった

              Anesthesiology 2009;110:1086–1091.
 別の研究では、プロテアーゼ阻害物質:エラフィンの遺伝子多型が、
 ARDS発症リスクの上昇に関わっていることが報告された。
              Am J Respir Cell Mol Biol 2009;41:696–704.

●ALIの病因とヒト研究
 DcR3によって、生存者と非生存者を判別できるかもしれない。
 DcR3の血中濃度が、28日後死亡率、多臓器不全および人工呼吸器依存状態の
 遷延と独立して相関することも明らかになっている。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:751–760.
 TNF-αやIL-6を測定するよりも、良い。また、ARDSでは健常者と比べ
 BAL中の活性型20Sプロテアソームが高いことが報告された。
 しかし、一つのバイオマーカーだけでは、正確な予後診断はできないと考えられる。
 ARDSネットワークに登録された患者549名について臨床アウトカムと
 バイオマーカーの関係についての研究が行われた。臨床予測因子と8つの
 バイオマーカーを組み合わせるとAUCは0.85だった。
              Chest 2010;137:288–296.

●ALIの病因と動物研究
 マウスを用いた実験では、エンドトキシンによるALIの治癒プロセスにおいて
 リンパ球が重要な役割を担っていることが明らかになった。
 別の研究グループは、IL-10を介した好中球の動員をリンパ球が
 制御していることを明らかにした。
              J Clin Invest 2009;119:2891–2894.
 ALI/ARDS分野では、Toll-like-receptor(TLR)が関与する非感染性
 刺激シグナル伝達についての研究が進んでおり、メジャーである。
 2009年マウスを用いたin vitroおよびin vivo研究で示された。
 エンドセリンB受容体がエンドセリン-1によって活性化されNOが産生されると
 Na-K―ATPアーゼのダウンレギュレーションが起こって、肺胞水分除去能が低下。
 ブレオマイシンモデルを用いた研究では、インスリン様成長因子を阻害すると
 生存率が向上し、線維化が抑制された。また別の研究グループは、
 IL-6に肺傷害を軽減する作用があることを明らかにした。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:113–122.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:212–219.


●ALIと臨床診断研究
 ALI治療において特に留意すべきことは、抗菌薬療法を迅速かつ計画的に
 行うことである。抗菌薬療法の全体的なイニシアチブをとり、
 多面的な取り組みを行い抗菌薬の使用法を改善することにより、
 耐性菌の発生を防ぎ、臨床アウトカムを改善させ、費用を抑えるということが
 重要である。
    Am J Respir Crit Care Med 2009;179:434–438.
 ALIの診断および治療に重要である可能性のある、新しい画像診断法や
 核医学検査が開発されている。2009年、ALI患者の細胞代謝を
 18F-2-deoxy-2-fluoro-D-glucoseを用いたPET検査で画像化して
 評価する研究が行われた。炎症性代謝活性の強い部分は、含気が少ない部分
 に局在するわけではなく、肺全体において、炎症性代謝活性の上昇がみられた。
 すなわち、ALIでは胸部レントゲン・CTにおける肺の虚脱や浸潤影の程度は、
 その部分の炎症の程度を反映しているわけではない。
              Crit Care Med 2009;37:2216–2222.
 FACTT試験の考察で、肺動脈カテーテル群に割り当てられたALI/ARDS患者
 500名について、循環動態が不良である所見と、PACなしで得られる客観的データ
 (1日総水分喪失量、ScvO2およびCVP)はCIおよびSvO2低値と相関する、
 という仮説が検証されている。
 循環動態不良を示す理学的所見として用いられたのは、
 毛細血管再充満時間延長(>2秒)、膝のまだら模様、皮膚温低下であり、
 こういった理学的所見は、感度も特異度も低く役に立たないことが判明した。

              Crit Care Med 2009;37:2720–2726.

●ALIと治療:基礎
 ALI/ARDSで行われる”open lung strategy”に異議を唱える研究がある。
 ブタモデルを用いた研究では、肺胞のリクルートメントを行っても
 過膨脹を防ぐことはできないことが明らかにされた。理由として
 再膨脹した肺組織のメカニカルな特性は、周囲の虚脱または浸潤肺組織とは
 異なるからである。肺の急性炎症において重大な役割を果たす
 メディエーターを阻害すれば肺傷害を軽くできるのではないかと考えられる。
              Crit Care Med 2009;37:2604–2611.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:415–423.

 最近、ALIの治療における細胞療法に対する注目が集まっている。
 骨髄間葉系幹細胞:MSCは、骨髄、胎盤、臍帯血および脂肪組織などにみられ、
 免疫抑制性サイトカインなどを分泌し、臓器傷害を抑制する。
 MSCを投与すると、肺胞マクロファージがPGE-2を介してリプログラミング
 されることによって抗炎症性サイトカインであるIL-10が増えるため、
 死亡率低下をもたらす可能性が示唆されている。
              Proc Natl Acad Sci USA 2009;106:16357–16362.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:1131–1142.
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:1122–1130.
              J Am Soc Nephrol 2009;20:1053–1067.
              Nat Med 2009;15:42–49.


●ALI、その他重症疾患の治療:臨床
 ALI/ARDSに体外式膜型人工肺:ECMOを使用するのは、従来は
 緊急避難的な救命方法としての意味合いがあった。イギリスのグループは、
 重症肺傷害および重症呼吸不全に対する治療法としてのECMOの有効性を評価
 (CESAR試験)。6ヶ月後も生存し後遺症のなかった患者数は、
 ECMO実施施設群では90名中57名、ECMO非実施施設群では87名中47名
 (63% vs 47%; P=0.03)、ECMO実施施設の方がわずかに優位であった。
 この結果から、イギリスでは肺保護換気法をはじめとするALI/ARDS治療に
 詳しい地域基幹病院への患者転送が有効であるとされた。
              Lancet 2009;374:1351–1363.
 H1N1インフルエンザ肺炎による重症ARDS患者では、救命的にECMOを用いる
 ことが有効であるとされている。ただ、いずれの研究も対照群がないため、
 インフルエンザによる重症ウイルス性肺炎に対してECMOが有効と結論はできない。
              JAMA 2009;302:1888–1895.
 スタチンを投与すると敗血症・ALIのアウトカムが改善する可能性がある。
 健常者にプラセボあるいはシンバスタチン40mg・80mgを4日間投与し、
 引き続いてエンドトキシン噴霧剤を吸入させた試験がある。
 シンバスタチン投与群ではエンドトキシンによる肺胞への好中球、
 MPO、TNF-α、MMP7、8、9の集積が少なかった。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;179:1107–1114.
 小児ALI症例ではサーファクタント投与が有効である可能性がある。
 成人ALI症例ではサーファクタントが有効であることを示す論文はない。
 2009年、成人ALIに対するサーファクタント効果を検証する臨床試験が行われた。
 この研究では、418名の患者を通常治療群または通常治療+ブタサーファクタント
 HL10を肺内へ直接注入する群のいずれかにランダムに割り当てた。
 対照群とサーファクタント投与群のあいだに死亡率の有意差はなし。
 むしろ、サーファクタント投与群の方が有害事象が多い傾向が認められた。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180: 989–994.
 敗血症および肺傷害患者に対するearly goal directed therapy、ステロイド、
 遺伝子組換ヒト活性化プロテインC、強化血糖値管理、肺保護換気法の有効性に
 関しては、議論の余地がある。成人重症敗血症患者を対象としたコホート研究では、
 EGDTの目標の遵守度、広域スペクトラム抗菌薬の早期投与、輸液負荷試験、
 少量ステロイドおよび活性化プロテインCの有効性が評価された。
 これにより、最重症患者では広域スペクトラム抗菌薬の早期投与および
 活性化プロテインCの投与が死亡率低下に寄与する。
              Am J Respir Crit Care Med 2009;180:989–994.
 敗血症に対する活性化プロテインCの有効性を検証する試験が現在行われている。
 (PROWESS-SHOCK試験)
 早期・晩期ALIのどちらにおいてもステロイドが有効ではないという研究が
 複数発表されているので、これは重要な知見であろう。

 重症患者における強化血糖管理の有用性については、よくわかっていない。
 強化血糖値管理群(81~108mg/dL)は従来(180mg/dL以下)と比べ、
 死亡率が高かった。ただし、試験開始後第20日以降ではじめて死亡率の差が
 出たことは留意しておく必要がある。
              N Engl J Med 2009;360:1283–1297.

by otowelt | 2010-05-25 12:47 | 集中治療

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