血液培養各論
2010年 06月 14日
以前の記事の補追。
血液培養の意義・目的
・菌血症の確定診断
・感染症の重症度の指標
・感染部位からの検体採取が困難な疾患において起因菌の検出に有効.
(IE、化膿性骨髄炎など)
・原因不明の感染症における、病巣予測
血液培養採取の適応とタイミング
・菌血症を疑う症状がみられる(発熱・悪寒/戦慄・頻脈・頻呼吸など)
・原因不明の低体温や低血圧
・突然変調を来した高齢者もしくは小児
・免疫抑制患者での原因不明の呼吸不全・腎不全・肝障害
・昏迷などの意識の変調(特に高齢者)
・説明のつかない白血球増多や減少、代謝性アシドーシス
・抗菌薬の変更時
治療開始後では菌の検出の可能性が相当に低くなるため、
抗菌薬投与中であれば、血中濃度が最も低いトラフ時に採取すべきと思われる。
また、IEの持続的菌血症の証明目的であれば、
24時間以内に間隔を空けて、最低3セット採取するのが望ましい。
●血液培養採取準備
・使用前に、ボトルに破損や変質がないか確認する。培地の濁りや過剰なガス圧
はコンタミネーションを惹起するためそのような培地の入ったボトルは使わない。
・各ボトルに印字されている有効期限を確認した上、期限切れボトルは処分する。
・血液培養ボトルには、わかりやすく正確にラベルを付ける。
・各セット(1セット2ボトル)を別々の部位から採取する。
・培養用の血液は、動脈ではなく静脈から採取する。
Clin Infect Dis. 1996;23:40-46
・血管カテーテルからの採取はコンタミ率が高くなるので、避けるのが望ましい。
J. Clin Microbiol. 2001;39:3393-3394
・検体採取前に必ず皮膚を消毒。
・ボトルと、記入済みの血液培養依頼書を、できるだけ早く
微生物検査室へ搬送する。遅くなる場合はボトルを室温で一時保存する。
J Med Microbiol. 2004;53:869-874
●血液培養ボトル
・採取した血液は好気/嫌気ボトルに同量ずつ分ける。
・成人用でルーチン血液培養セットは、好気/嫌気ボトルをペアとすること。
J Clin Microbiol.2003;41:213-217
・注射針と注射器を使用する場合は、最初に嫌気ボトルに接種して空気混入を防ぐ。
採血量が推奨される量に満たない場合は、まず好気ボトルに接種する。
これは菌血症の多くが好気性/通性細菌に起因し、病原性酵母および
偏性好気性菌(Pseudomonas spp.など)はほぼ例外なく好気ボトルから
検出されるからである。そして残りの血液を嫌気ボトルに接種する。
・成人の血液からの微生物の回収率は、30mLまで培養血液量を1mL増加させる
ごとに正比例して増加する。この相関関係は、成人の血液1mL中CFU数が
少ないことに関係している。
Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI); 2007
・ボトル注入時に針を付け替えても、コンタミ率は変わらない。
むしろ針刺しの危険もあるので、針は付け替えないこと。
・成人の場合、推奨されている培養セット毎の採血量は20~30mLである。
・各培養セットは好気ボトルと嫌気ボトルのペアであるため、各ボトルへの
接種量は10mL以内とする。3番目のボトルを追加する場合は好気ボトルがよい。
・血液培養連続モニタリングシステムを用いて、24時間中順次採取した
血液培養の累積感度の調査では、1セット20mL(各ボトル10mL)の
血液培養3セットから採取した病原菌の検出感度は、最初の1セットでは
73.2%、次の1セットを合わせると93.9%、3セット累積すると96.9%。
99%以上の血流感染症検出率を確保するには、4セットが必要。
J Clin Microbiol. 2007; 45:3546-3548
・ルーチン血液培養に、現在望ましいとされている標準的な培養期間は、5日間。
Diagn Microbiol Infect Dis. 1993;16:31-34
●血液培養コンタミネーション
・30ヵ月間連続採取した血液培養から分離した有意な微生物数
(1日あたりの分離株数)が明らかにされた。それによれば、全採取検体
35500件中2609株が臨床的に有意な分離株で、1097株が汚染菌だった。
J Clin Microbiol. 2005;43:2506-2509
・Corynebacterium、Propionibacterium spp.、CNS、
Streptococcus viridians 、Bacillus spp.などが、重度の細菌感染や
BSIを引き起こすことはほとんどない。これらは一般的な皮膚汚染菌で、
条件が揃った環境下では重篤な感染症を引き起こし得るが、血液培養1セットのみ
の陽性は、臨床上コンタミネーションと判断し処理してよい。
ただしCNSは、CRBSIと偽陽性血液培養の主因であり、
臨床的に有意となり得るのは症例の20%程度である点に注意しなければならない。
J Clin Microbiol. 2002;40:2437-2444
・血培のコンタミは、不要な抗菌化学療法、入院期間の延長、費用増大を
招く可能性がある。偽陽性判定1件につき、入院期間の延長、
静脈内投与抗菌薬コストなどのリスクがある。
JAMA. 1991; Vol. 265 No. 3:365-369
●血液培養を採取する場合の消毒方法
・皮膚から採血する場合の皮膚消毒は注意深く行うべきで、
アルコールまたはヨードチンキ、アルコール性クロルヘキシジン
(0.5%以上)を使って(ポピドンヨードはあまりよくない)消毒して、
血液培養のコンタミネーションを防ぐため、十分な皮膚への接触時間
および乾燥時間をとるべきである。
・A randomized trial of povidone-iodine compared with iodine tincture for venipuncture site disinfection: effects on rates of blood culture contamination.
Am J Med 1999; 107:119–25.(ヨードチンキをすすめる論文)
・Chlorhexidine compared with povidone-iodine as skin preparation before blood culture: a randomized, controlled trial.
Ann Intern Med 1999; 131:834–7.(クロルヘキシジンをすすめる論文)
上記2つの論文では、イソジン(ポピドンヨード)の乾燥時間が十分に
とれていなかったため、いずれもイソジンが必ずしも劣るわけではないかも
しれないと考察されている。
Calfee医師が、以下の論文を2002年に出した。
・Comparison of Four Antiseptic Preparations for Skin in the Prevention of Contamination of Percutaneously Drawn Blood Cultures: a Randomized Trial
Clin. Microbiol. 2002;40:1660-1665.
これは、イソジン、アルコール、ヨードチンキ、イソジンアルコールの4種類とも
同等の効果であることを示す論文である。
IDSA2009年ガイドラインでこれが採択されなかった理由がわからないが、
こちらはイソジンの乾燥時間をしっかりと保ったクロスオーバーRCTである。
IDSAガイドラインでは採択されなかった論文は、
Cumitechガイドラインには採用されており、同血液培養ガイドラインでは
イソジンの使用はクロルヘキシジンとともにファーストチョイスになっている。
Principles and Procedures for Blood Cultures: Approved Guideline.
CLSI 2007 Cumitech Blood Cultures IV.
やや、IDSAとCumitechで差がある。
現在の血液培養時の消毒のエビデンスとしては、
アルコールでも構わないし、イソジンでも構わないと考えていいのではないか。
「絶対にこちらを使うべきだ」という積極的なデータはないと思われる。
ただ、イソジンは即効性は(―)です(30秒以上乾かすあるいはふき取る)が、
持続性があるのが利点。逆にアルコールは即効性はあるが、全く持続性はない。
「臨床に直結する感染症のエビデンス」では、
以下のようなまとめがなされている。
1.イソジン:
利点:持続性+、穿刺に手間取っても雑菌混入のリスク上昇しない
欠点:即効性―、穿刺までの時間を十分取らなければならない
推奨される臨床場面:穿刺まで十分時間をとれる
術者の習熟度問わない
2.アルコール:
利点:即効性+、すぐ穿刺可能、コスト安い
欠点:持続性―、穿刺に手間取ると雑菌混入のリスク上昇
推奨される臨床場面:穿刺に時間がかけられない緊迫した状況
術者がベテラン
3.クロルヘキシジン:
利点:即効性と持続性をあわせもつ、すぐ穿刺可能
穿刺に手間取っても雑菌混入のリスク上昇しない
欠点:コストが高い
推奨される臨床場面:コストが許せばさまざまな場面で使用可能
そのため、自信があればアルコールでも構わないと考えられる。
文責 "倉原優"
血液培養の意義・目的
・菌血症の確定診断
・感染症の重症度の指標
・感染部位からの検体採取が困難な疾患において起因菌の検出に有効.
(IE、化膿性骨髄炎など)
・原因不明の感染症における、病巣予測
血液培養採取の適応とタイミング
・菌血症を疑う症状がみられる(発熱・悪寒/戦慄・頻脈・頻呼吸など)
・原因不明の低体温や低血圧
・突然変調を来した高齢者もしくは小児
・免疫抑制患者での原因不明の呼吸不全・腎不全・肝障害
・昏迷などの意識の変調(特に高齢者)
・説明のつかない白血球増多や減少、代謝性アシドーシス
・抗菌薬の変更時
治療開始後では菌の検出の可能性が相当に低くなるため、
抗菌薬投与中であれば、血中濃度が最も低いトラフ時に採取すべきと思われる。
また、IEの持続的菌血症の証明目的であれば、
24時間以内に間隔を空けて、最低3セット採取するのが望ましい。
●血液培養採取準備
・使用前に、ボトルに破損や変質がないか確認する。培地の濁りや過剰なガス圧
はコンタミネーションを惹起するためそのような培地の入ったボトルは使わない。
・各ボトルに印字されている有効期限を確認した上、期限切れボトルは処分する。
・血液培養ボトルには、わかりやすく正確にラベルを付ける。
・各セット(1セット2ボトル)を別々の部位から採取する。
・培養用の血液は、動脈ではなく静脈から採取する。
Clin Infect Dis. 1996;23:40-46
・血管カテーテルからの採取はコンタミ率が高くなるので、避けるのが望ましい。
J. Clin Microbiol. 2001;39:3393-3394
・検体採取前に必ず皮膚を消毒。
・ボトルと、記入済みの血液培養依頼書を、できるだけ早く
微生物検査室へ搬送する。遅くなる場合はボトルを室温で一時保存する。
J Med Microbiol. 2004;53:869-874
●血液培養ボトル
・採取した血液は好気/嫌気ボトルに同量ずつ分ける。
・成人用でルーチン血液培養セットは、好気/嫌気ボトルをペアとすること。
J Clin Microbiol.2003;41:213-217
・注射針と注射器を使用する場合は、最初に嫌気ボトルに接種して空気混入を防ぐ。
採血量が推奨される量に満たない場合は、まず好気ボトルに接種する。
これは菌血症の多くが好気性/通性細菌に起因し、病原性酵母および
偏性好気性菌(Pseudomonas spp.など)はほぼ例外なく好気ボトルから
検出されるからである。そして残りの血液を嫌気ボトルに接種する。
・成人の血液からの微生物の回収率は、30mLまで培養血液量を1mL増加させる
ごとに正比例して増加する。この相関関係は、成人の血液1mL中CFU数が
少ないことに関係している。
Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI); 2007
・ボトル注入時に針を付け替えても、コンタミ率は変わらない。
むしろ針刺しの危険もあるので、針は付け替えないこと。
・成人の場合、推奨されている培養セット毎の採血量は20~30mLである。
・各培養セットは好気ボトルと嫌気ボトルのペアであるため、各ボトルへの
接種量は10mL以内とする。3番目のボトルを追加する場合は好気ボトルがよい。
・血液培養連続モニタリングシステムを用いて、24時間中順次採取した
血液培養の累積感度の調査では、1セット20mL(各ボトル10mL)の
血液培養3セットから採取した病原菌の検出感度は、最初の1セットでは
73.2%、次の1セットを合わせると93.9%、3セット累積すると96.9%。
99%以上の血流感染症検出率を確保するには、4セットが必要。
J Clin Microbiol. 2007; 45:3546-3548
・ルーチン血液培養に、現在望ましいとされている標準的な培養期間は、5日間。
Diagn Microbiol Infect Dis. 1993;16:31-34
●血液培養コンタミネーション
・30ヵ月間連続採取した血液培養から分離した有意な微生物数
(1日あたりの分離株数)が明らかにされた。それによれば、全採取検体
35500件中2609株が臨床的に有意な分離株で、1097株が汚染菌だった。
J Clin Microbiol. 2005;43:2506-2509
・Corynebacterium、Propionibacterium spp.、CNS、
Streptococcus viridians 、Bacillus spp.などが、重度の細菌感染や
BSIを引き起こすことはほとんどない。これらは一般的な皮膚汚染菌で、
条件が揃った環境下では重篤な感染症を引き起こし得るが、血液培養1セットのみ
の陽性は、臨床上コンタミネーションと判断し処理してよい。
ただしCNSは、CRBSIと偽陽性血液培養の主因であり、
臨床的に有意となり得るのは症例の20%程度である点に注意しなければならない。
J Clin Microbiol. 2002;40:2437-2444
・血培のコンタミは、不要な抗菌化学療法、入院期間の延長、費用増大を
招く可能性がある。偽陽性判定1件につき、入院期間の延長、
静脈内投与抗菌薬コストなどのリスクがある。
JAMA. 1991; Vol. 265 No. 3:365-369
●血液培養を採取する場合の消毒方法
・皮膚から採血する場合の皮膚消毒は注意深く行うべきで、
アルコールまたはヨードチンキ、アルコール性クロルヘキシジン
(0.5%以上)を使って(ポピドンヨードはあまりよくない)消毒して、
血液培養のコンタミネーションを防ぐため、十分な皮膚への接触時間
および乾燥時間をとるべきである。
・A randomized trial of povidone-iodine compared with iodine tincture for venipuncture site disinfection: effects on rates of blood culture contamination.
Am J Med 1999; 107:119–25.(ヨードチンキをすすめる論文)
・Chlorhexidine compared with povidone-iodine as skin preparation before blood culture: a randomized, controlled trial.
Ann Intern Med 1999; 131:834–7.(クロルヘキシジンをすすめる論文)
上記2つの論文では、イソジン(ポピドンヨード)の乾燥時間が十分に
とれていなかったため、いずれもイソジンが必ずしも劣るわけではないかも
しれないと考察されている。
Calfee医師が、以下の論文を2002年に出した。
・Comparison of Four Antiseptic Preparations for Skin in the Prevention of Contamination of Percutaneously Drawn Blood Cultures: a Randomized Trial
Clin. Microbiol. 2002;40:1660-1665.
これは、イソジン、アルコール、ヨードチンキ、イソジンアルコールの4種類とも
同等の効果であることを示す論文である。
IDSA2009年ガイドラインでこれが採択されなかった理由がわからないが、
こちらはイソジンの乾燥時間をしっかりと保ったクロスオーバーRCTである。
IDSAガイドラインでは採択されなかった論文は、
Cumitechガイドラインには採用されており、同血液培養ガイドラインでは
イソジンの使用はクロルヘキシジンとともにファーストチョイスになっている。
Principles and Procedures for Blood Cultures: Approved Guideline.
CLSI 2007 Cumitech Blood Cultures IV.
やや、IDSAとCumitechで差がある。
現在の血液培養時の消毒のエビデンスとしては、
アルコールでも構わないし、イソジンでも構わないと考えていいのではないか。
「絶対にこちらを使うべきだ」という積極的なデータはないと思われる。
ただ、イソジンは即効性は(―)です(30秒以上乾かすあるいはふき取る)が、
持続性があるのが利点。逆にアルコールは即効性はあるが、全く持続性はない。
「臨床に直結する感染症のエビデンス」では、
以下のようなまとめがなされている。
1.イソジン:
利点:持続性+、穿刺に手間取っても雑菌混入のリスク上昇しない
欠点:即効性―、穿刺までの時間を十分取らなければならない
推奨される臨床場面:穿刺まで十分時間をとれる
術者の習熟度問わない
2.アルコール:
利点:即効性+、すぐ穿刺可能、コスト安い
欠点:持続性―、穿刺に手間取ると雑菌混入のリスク上昇
推奨される臨床場面:穿刺に時間がかけられない緊迫した状況
術者がベテラン
3.クロルヘキシジン:
利点:即効性と持続性をあわせもつ、すぐ穿刺可能
穿刺に手間取っても雑菌混入のリスク上昇しない
欠点:コストが高い
推奨される臨床場面:コストが許せばさまざまな場面で使用可能
そのため、自信があればアルコールでも構わないと考えられる。
文責 "倉原優"
by otowelt
| 2010-06-14 14:35
| 感染症全般