zygomycosis (ムコール症;mucormycosis)

●zygomycosis
zygomycosisは真菌感染の3~4%を占め、
Mucor症は全体の約20%を占めるとされている。
           Ann Intern Med 1980;93:93―108.
zygomycetes網mucorales目によって起こることが多いため、
zygomycosis=mucormycosisと考えるケースがほとんどである。
クモノスカビ(Rhizopus)、リゾムコール(Rhizomucor)、
アブシディア(Absidia)、バシディオボールス(Basidiobolus)などの
様々な真菌種による感染症の総称と考えるべきである。
”ムコール症”と”ムーコル症”と2種類の日本語表記があるが、
Google検索でヒットが多いのは、”ムコール症”の方である。
CID2005にわかりやすいレビューがあるので、参考にしたい。
癌と血液疾患では半数が肺型であり、ものの文献では全体の半数以上に
肺zygomycosisがみられるとの報告もある。
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松島らは宿主の要因により肺ムーコル感染症を健常人に発症した一次性、
重篤な基礎疾患があり免疫抑制剤が使用されている患者に発症してくる二次性、
肺内の空洞などの病的空間に菌が付着・増殖する腐生性
の3つに分類している。しかしながら、文献が古すぎる。
           日胸疾会誌1979 ; 17 : 791―797.

●肺Mucor症の病態生理
肺Mucor症は胞子の吸入により発症する。
健常人で発症することは稀でであり、糖尿病や腎不全、白血病などの
免疫不全をきたす基礎疾患を持つ患者に発症する。
経過は急速であり、また血管侵襲性が強いため、生前診断が困難で予後不良である。
血管浸潤による血栓形成と梗塞を特徴とした、壊死性血管炎が特徴的である。
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●zygomycosisの症型・症状
・rhinocerebral zygomycosis(鼻脳型)e0156318_21564420.jpg
 鼻脳型は、もっともよくみられるパターンである。
 糖尿病のある患者において、50%のzygomycosisが
 このタイプである。脳感染症は通常重度で、高頻度に致死性。
 壊死性病変が鼻粘膜、しばしば口蓋にみられる。菌糸による
 血管侵入は、鼻中隔~副鼻腔の骨を進行性に組織壊死させる。
 症状として疼痛、発熱、眼窩蜂巣炎、眼球突出、膿性鼻汁など。
 海綿静脈洞血栓症、失語症、片麻痺などの症状を起こすことも。

・pulmonary zygomycosis(肺型)
 侵襲性アスペルギルス症に類似する症状である。
 発熱、咳嗽、血痰、胸痛、呼吸困難など。

・gastrointestinal zygomycosis(消化管型)
 腹痛、悪心、嘔吐、下痢、血便など。
 zygomycosisの表現型としては最も少ないタイプである。
              Clin Infect Dis. Sep 1 2005;41(5):634-53

・cutaneous zygomycosis(皮膚型)
 全zygomycosisの20%を占める。血液疾患に続発するケースもあるが、
 多くは皮膚になにかしらの外傷を負ったケースである。
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・disseminated zygomycosis(播種性)
 肺zygomycosisが全身に播種することが一般的で、中枢神経系や血中に
 散布される。肺zygomycosis患者が、頭痛、複視などを訴え始めた場合には
 これを考える必要がある。deferoxamine治療の患者はこのタイプの
 リスクファクターである。(鉄キレート剤)
 
●zygomycosisの診断
 β-Dグルカンは陰性である。抗原検査もない。
 なので、痰や気管支鏡で直接病原体を検出するしかないのが現状である。
 血液疾患患者において疑われた症例でも、半数以下しか診断できなかった。
          Haematologica. 2000;85(10):1068-71.
 アスペルギルスの可能性を考えた場合に、必ずcriticalな経過をたどる
 zygomycosisを頭に入れておくことが大事である。
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 HE染色とGrocott染色(肝zygomycosis)

●胸部の画像所見
 肺zygomycosisは上葉に起こることが多い。
          J Comput Assist Tomogr. 1995;19(5):733-8. 
 画像所見としてはIPAと非常に類似している。
 境界のはっきりした結節影とconsolidationが認められる。
 consolidationが66%、caviationが40%にみられる。
          Arch Intern Med. 1999;159(12):1301-9.
 本症を疑ったら、頭~副鼻腔MRIを撮影する必要がある。
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●zygomycosisの治療
血球異常や血糖異常はすぐに是正すべきである。
これにより予後は改善する。
本症の治療としては外科的治療またはAMPH-B の投与が有効とされている。
病変が限局し、全身状態が改善した例では外科治療の対象となる。
           Ann Thorac Surg 1994 ; 57 : 1044―1050.
アムホテリシンBの総使用量1000 mg 以上を用いた方が予後が良いとされている。
フルコナゾールや5-FCについては、アムホテリシンBとの併用投与で
効果を報告した文献もあるが、あくまで報告例である。

ポサコナゾールはin vivoでもin vitroでも効果が証明されている。
           Antimicrob Agents Chemother. May 2002;46(5):1581-2
           J Antimicrob Chemother. Jan 2003;51(1):45-52
           Int J Clin Pract. Jun 2004;58(6):612-24.

現実的には、アムホテリシンBのde-escalationの役割として
用いられていることが多いようである。

●zygomycosisの予後
かつて死亡率は80~90%と高かったが、2000年に入るまでに早期診断により
20~40% にまで低下している。
           Arch Intern Med 1999;159:1301―9.
           Ann Thorac Surg 1994;57:1044―50.

白血病などを基礎疾患として発症した場合、
出血性梗塞で急速な経過をたどり多くは2 週以内に死亡すると言われている。
しかし、重症の基礎疾患がない場合、慢性の経過をとるとされている。
           日胸疾会誌1988;57:116―8.
30 年間の肺ムーコル症をまとめた論文では、
内科治療のみの31 例の死亡率は55%、外科治療を行った30例の死亡率は27%。
           Arch Internal Medicine 1999 ;159 : 1301―1309.
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-06-20 22:04 | レクチャー

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