Acinetobacter baumannii

e0156318_16354959.jpg●AcinetobacterおよびAcinetobacter baumannii概論
 アシネトバクター属は、グラム陰性桿菌であり、
 土や水などの環境から分離される菌である。
 a(非)/cineto(運動性)/bacter(桿菌)という語源である。
 水場のアシネトバクターは、環境で1ヶ月以上
 生きることができる。クロルヘキシジンやベンザルコニウムが
 無効であるため院内に蔓延した場合には根絶はきわめて難しい。
Correlation between reduced susceptibility to disinfectants and multidrug resistance among clinical isolates of Acinetobacter species. J Antimicrob Chemother 65:1975-1983, 2010
 A. baumanniiは、他のアシネトバクターと異なり酸素下で
 ブドウ糖を発酵能を持つ(ブドウ糖発酵グラム陰性桿菌)。
 A. baumanniiにより、ヒト体内で繁殖しエンドトキシン産生が進むと
 受容体であるToll-like receptor(TLR)によりALI、septic shock、
 DIC、MOFなどにより死亡することもある。
Acinetobacter baumannii lipopolysaccharides are potent stimulators of human monocyte activation via Toll-like receptor 4 signalling. J Med Microbiol 56:165-71, 2007
 DNAの違いで、30種類以上のAcinetobacterが存在する。
 1~3、13型は類似しており、A. calcpaceticus-A. baumannii complexという。
 Acinetobacterは、Gram染色にてNeiserriaやMoraxellaと間違えることがあるが
 オキシダーゼ陰性であることから判別可能である。嫌気性環境下では成育
 しにくいので腸内細菌とは区別可能である。

A.baumanniiの感染リスク
 A.baumanniiは、術後患者や感染防御能の低下した患者において、
 VAPを含むHAP、SSI、UTIやCRBSIなど日和見感染症における原因菌である。
 他の多剤耐性菌と同様、老健施設入所者、人工呼吸器、ICU への入室、外科手術、
 CVカテーテルの留置、気管切開、経管栄養、第3 世代セフェム薬、
 キノロン薬、カルバペネム薬の投与がリスクファクターである。
Acinetobacter Infection. N Engl J Med 2008; 358:1271-1281

●MDRAB(multi druf resistant A. baumannii)
 MDRABの定義は、MDRPと同様に、カルバペネム、アミノグリコシド、キノロン
 の3 系統の薬剤に耐性を獲得した菌のことである。
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 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)では、A.baumannii
 分離株において、2008 年0.24%(34/14755)、2009 年0.19%(32/16929)
 にMDR株が出現。
 A. baumanniiは、生体内や環境下で鉄を利用して生息する。鉄利用環境下で
 bfmR geneによりバイオフィルムを形成するようになり抗菌薬透過性を低下させる。
pacity of multidrug-resistant clinical isolates of Acinetobacter baumannii to form biofilm and adhere to epithelial cell surfaces. Clin Microbiol Infect 14:49-54, 2008
 A. baumannii は、抗菌薬を菌外に排出するefflux pump や
 もともと保有するβラクタマーゼのひとつであるAmpC により、ペニシリンや
 第1~2 世代セフェム薬には耐性である。MDR株は、Class D
 カルバペネマーゼ(アジアではOXA-23 型が多い)を産生することが多いとされている。
 トランスポゾン由来のアミノグリコシド耐性、排泄ポンプ機能によるキノロン等の
 耐性機序もある。また、最近コリスチンやチゲサイクリンの耐性菌が見つかっている。
Acinetobacter baumannii: emergence of a successful pathogen. Clin Microbiol Rev 21:538-582, 2008
 2008 年九州の大学病院で韓国からの渡航者を発端としたMDRABによる
 院内感染事例がみられた以降、複数の報告がみられている。また、
 アフガニスタンやイラクでの対テロ戦争では多くの負傷兵がMDRABによる
 創傷感染症を発症し問題となった。
An outbreak of multi-drug resistant Acinetobacter baumannii- calcoaceticus complex infections in the U.S. military health-care system associated with military operations in Iraq. Clin Infect Dis. 2007;44:1577-1584.

 MDRABの治療については、感受性があればアンピシリン/スルバクタム、
 アンピシリン・スルバクタム耐性であればカルバペネムを最大量用いる。
・Combination carbapenem–sulbactam therapy for critically ill patients with multidrugresistant Acinetobacter baumannii bacteremia: four case reports and an in vitro combination synergy study. Pharmacotherapy 27:1506–1511, 2007
・In vitro activities of the beta-lactamase inhibitors clavulanic acid, sulbactam, and tazobactam alone or in combination with beta-lactams against epidemiologically characterized multidrug-resistant Acinetobacter baumannii strains. Antimicrob Agents Chemother 48:1586–1592, 2004

 実際にMDRABの治療となると、日本の抗菌薬がすべて無効である可能性が高いため
 コリスチンを使用しなければならないケースが多い。チゲサイクリンを
 本菌に用いることも可能だが、治療中耐性獲得した例があるため臨床情報は十分ではない。
Acinetobacter baumannii bloodstream infection while receiving tigecycline: a cautionary report. J Antimicrob Chemother 2007;59:128-131

●MDRABの感染予防
 基本的に、アルコール消毒などの通常の消毒薬は本菌の殺菌に有効であるが
 感染の有無にかかわらず患者からMDRAB分離されたら速やかに厳重な感染対策を行う。
 接触予防策を適用し、可能であれば個室管理ないしはコホート隔離を行う。
 医療器具はその患者専用とし、退室後はアルコールなどで消毒する。
 次亜塩素酸ナトリウムの効果を報告したものもある。
Role of environmental cleaning in controlling an outbreak of Acinetobacter baumannii
on a neurosurgical intensive care unit. J Hosp Infect. 56, 2004, 106-10.

 ギリシャの大学関連病院におけるカルバペネム耐性A. baumannii
 アウトブレイクでは、観察期間中に医療従事者の手の保菌が28.6%(12/42)と
 非常に保菌が効率にみられた。MDRに限らず、A.baumanniiは、
 乾燥にも強い性質をもつため、一度病院内に広まると対応が極めて難しく、
 アウトブレイク時には、環境消毒の重要性を見直す必要がある。

文責"倉原優"

by otowelt | 2010-12-13 16:30 | 感染症全般

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