呼吸器のコントラバーシー:妊婦気胸の治療法

月経随伴性気胸の患者が妊娠したあと、
どういうわけか28週目で気胸を再発してしまったという相談を最近受けた。
これに対して手術をすべきか、保存的に様子をみるべきかという
問題が起こったが、答えがないコントラバーシーだと思った。

「感染症のコントラバーシー」という訳本があるが、非常に素晴らしい。
日々出会う、エビデンスと実臨床との摩擦をうまい具合に記した書籍である。
呼吸器内科をしていても、コントラバーシーにはたくさん出会うことがある。
せっかくなので勉強したコントラバーシーを書き留めるようにしたいと考えた。
コントラバーシーは、基本的に答えがない。
答えがないからこそ、蓄積した症例や経験からある程度自分なりの答えを
持っておく必要があると考えている。


●妊婦気胸の治療法:胸腔ドレナージ vs 早期手術
妊婦に起こった気胸をどう対処するかというエビデンスはほとんどない。
そのため、総合病院でこういった事象が起こると意見が分かれる。
その理由は、個々の医師が考えるリスクとベネフィットの境界線が異なるからだ。

●胸腔ドレナージ
 胸腔ドレナージをおこないつつ分娩を先行し、分娩後に必要であれば
 手術を行う方が安全だという報告が優勢。
 British Thoracic Society自然気胸治療ガイドライン2010でも
 保存治療を優先してもよいとある。
Lal A, et al. Pneumothorax and pregnancy. Chest 2007; 132: 1044-8.
 しかしながら、特にドレナージ単独が長期になると感染のリスクが高まる。
 たとえばドレナージ期間が4週間を超過する場合や、明らかな感染徴候が出た
 場合は、速やかな帝王切開を考慮すべきとの意見もある。
竹内幸康ら,妊娠36週時に発症した自然気胸の1手術例.日呼外会誌2009; 23: 594-7.
 エアリークを早期に止める方法としてはドレーン内への自己血注入も
 考慮してもよいかもしれない。ミノマイシンやピシバニールは妊婦への
 安全性の観点からすすめられない。
黄英哲.妊娠中に発症した自然気胸3例.日臨外会誌2008; 69: 2822-6.
 12週の保存治療で出産後4日目に呼吸器外科的手術が可能だったという
 報告例もある。
今清水恒太ら, 妊娠第25週に発症し,12週間の保存的治療を続けた自然気胸の1例. 日呼外会誌2011; 25:626-629.

●早期手術
 長期にエアリークが続く場合や再発例では、
 産科医と呼吸器外科医のタッグのもと早期に手術すべきであるという意見もあり、
 最終的なメリットは手術にあると考える呼吸器外科医も多い。
 ただ、塩酸リトドリンの投与をおこなう必要性が出るリスクは高まる。
・足立広幸ら,妊娠第21週に胸腔鏡下手術を施行した自然気胸の1例.日呼外会誌2009; 23: 833-7.
・篠原博彦ら,妊娠37週にて手術した自然気胸の1例.日呼外会誌2005; 19: 94-7.

 硬膜外麻酔による手術であれば全身麻酔を避けることができるため
 手術を行う場合にはこれも選択肢となりうるかもしれない。
野田雅史ら,外科的治療を施行した超高齢者(80歳以上)難治性続発性気胸の検討.日呼外会誌2008; 22: 129-34.

文責"倉原優"

by otowelt | 2011-11-07 05:33 | コントラバーシー

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