RSウイルス感染症

●RSウイルスとは
・1本のマイナス鎖RNAで、ウイルス粒子は直径が150~300nmである。
・比較的不安定であり、凍結融解、熱(55℃)、界面活性剤、
 クロロフォルム、エーテルなどで速やかに不活化する。
・エンベロープには中和に関係するfusion protein(F 蛋白)と
 large glycoprotein(G 蛋白)が存在する。
・ウイルス名の由来は、呼吸器(Respiratory)感染患者から分離され、
 感染細胞が多核巨細胞(合胞体(Syncytium))を形成するという
 特徴から。
・Mononegavirales門パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)の
 Pneumovirus属に分類される。
・パラミクソウイルス科に属するウイルスには、パラインフルエンザウイルス、
 麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど。
・RSウイルスにはAとBの血清型があり(A型のほうが重症)、
 さらに各血清型に多くの遺伝子型が知られている。

●RSウイルス感染症の疫学
・年間RSウイルスで5~8万人が入院し、うち14000人以上が死亡。
 インフルエンザ入院の10倍多い。死亡率は1~3%。
植村幹二郎, 西尾久英:冬季シーズンでの乳幼児 RSV 下気道感染症による入院症例の検討. 日本小児救急医学会雑誌 2(2): 7-10, 2003
・RSVは乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%
 を占めると報告されており、より年長の小児においても気管支炎
 の10~30%に関与していると考えられている。
・最初の一年間で50~70%以上の新生児が罹患し、3歳までに
 すべての小児が抗体を獲得する。肺炎や細気管支炎などのRSV
 による下気道症状はほとんどは3歳以下で、入院例のピークは
 生後2~5カ月にあるが、最初の生後3~4週では比較的少ない。
・生後90日以内のRSウイルス感染症患者の
 5.5%に尿路感染症を伴っていたという報告はあるが、
 肺炎球菌性肺炎などの呼吸器合併症は証明されなかった。
Levine, DA, et al.Risk of serious bacterial infection in young febrile infants with respiratory syncytial virus infections. Pediatrics 2004; 113:1728.

●RSウイルス感染症の症状
・RSウイルスは接触や飛沫を介して気道感染し、
 4~6日の潜伏期の後、発熱、鼻水、咳で発症する。
・2歳以下の乳幼児ではしばしば上気道炎から下気道炎
 に進展して細気管支炎、肺炎を発症し、特に6ヶ月以下
 の乳児では入院加療を必要とすることが多い。
 3ヶ月齢未満では、典型的呼吸器症状がないこともある。
・連続性ラ音(rhonchi / wheezing)がみられる頻度
 RSウイルス感染 入院乳児 75%
 RSウイルス感染 外来乳児 34%
 RSウイルス感染 高齢者 35%
Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 5th ed, Feigin, RD, Cherry, JD, Demmler, GJ, Kaplan, SL (Eds), Saunders, Philadelphia 2004. p.2315.
・罹病期間は通常7~12日であり、入院例では3~4日で改善する。
 症状が改善した後もRS virusの排泄は続くため、
 ガス交換能の異常も数週間続くと考えられる。
・毎年6~83%の小児が再感染を経験している
・成人感染では一般に軽症だが、医療従事者で曝露量が多いと
 症状は重症化すると考えられる。
・新生児RSV下気道感染症の入院患者の20%に
 無呼吸が起こると言われている。
 これがSIDSの原因となることもある。
 無呼吸は未熟児に多い傾向がある。
Rayyan, M, et al.Characteristics of respiratory syncytial virus-related apnoea in three infants. Acta Paediatr 2004; 93:847.

●RSウイルス感染症の胸部レントゲン
・胸部レントゲン上では種々のパターンが見られる。
 もっとも典型的なのは間質性肺炎像と過膨張である。
 air-trappingが唯一の有意な所見であることもある。
 肺胞性陰影はRSVによる下気道疾患の1/4にみられるが、
 特に6カ月以下の乳児に多いとされている。

●RSウイルス感染症の診断
(1)酵素免疫測定法(EIA)
 検査材料は鼻腔洗浄液・吸引液・綿棒採取による鼻腔分泌物で、
 これらの検体に反応試薬を滴下して、出現する(+)/(−)を
 判定する。検体採取後 20 分間で結果が得られる。
 検出感度・特異度がいずれも 95%前後である。
堤裕幸: RS ウイルス. 小児科 45(4)3 月増刊号, 感染症−最新の話題− 648-651, 2004.
(2)免疫クロマトグラフ法(ICA)
 検出抗原は RSV の F 蛋白である。検体中にRSVが含まれるとき、
 標識抗体とウイルス抗原が複合体を形成して「T」の部分に
 赤紫色のラインがみられる。検査所要時間は、15分程度である。

・BD RSV エグザマン
 日本BD(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)
承認年月日 :2005(平成17)年 5月13日
医薬品承認番号 :21700AMY00185000
検査項目 :感染症血清反応RSウイルス抗原精密測定
保険点数 :150点(3歳未満の入院患者にのみ適用)
判定時間 :15分
有効期間 :9ヶ月(キットとして)
キット構成 :テストプレート(10個)、抽出試薬(4.0mlx1本)、 チューブおよびチップ(各10個、予備つき)、 サンプルボトル(10個)、250μLピペット(10個)[別売り]コントロールセット(陽性コントロール及び陰性コントロール)

●RSウイルス感染症の治療
・β刺激薬
 乳幼児症例の50%では吸入β刺激剤に反応して
 症状が改善するとされているが、メタアナリシスでは
 気管支拡張剤の効果には、むしろ否定的な結果であった。
 近年の2005年の論文では気道RSウイルス感染症に対して
 有効とされているものもある。
Langley, JM, et al. Racemic epinephrine compared to salbutamol in hospitalized young children with bronchiolitis; a randomized controlled clinical trial. BMC Pediatr 2005; 5:7.

・ロイコトリエン拮抗薬
 LT 受容体拮抗剤がRSV 細気管支炎の回復期における
 症状の軽快に有効で、咳嗽や喘鳴の遷延を防ぐとの報告がある。
 
・リバビリン
 微小粒子のエアロゾルとして吸入で用いられる。多くの
 プラセボ対照研究において、重症度の軽減とSpO2の改善が
 みられているが、アメリカ小児科学会では、ハイリスクの
 患者においてのみ使用されるべきであるとしている。
 最近は使用されなくなっている。
Ventre, K, et al.Ribavirin for respiratory syncytial virus infection of the lower respiratory tract in infants and young children. Cochrane Database Syst Rev 2004; :CD000181.
 リバビリンと免疫グロブリンの併用で生存率は上昇する。
Flynn, JD,et al. Treatment of respiratory syncytial virus pneumonia in a lung transplant recipient: case report and review of the literature. Pharmacotherapy 2004; 24:932.

・パリビズマブ
 2001年、RSウイルス表面Fタンパク質を特異的に認識する
 モノクローナル抗体製剤であるパリビズマブ(Palivizumab)
 (商品名シナジス)が承認された。(月1回15mg/kgの筋注)
 約1500人の乳幼児によるIMpact-RSV試験で
 RSウイルス感染による入院が軽減できた。
The IMpact-RSV Study Group. ; Palivizumab, a humanized respiratory syncytial virus monoclonal antibody, reduces hospitalization from respiratory syncytial virus infection in high-risk infants. ; Pediatrics, September 1998;102:p.531-7.

・ステロイド
 大規模メタアナリシスでは、RSV感染症で
 喘息などの閉塞性肺疾患を合併しない限りは、有用でないとされている。
Patel, H, et al. Glucocorticoids for acute viral bronchiolitis in infants and young children. Cochrane Database Syst Rev 2004; 3:CD004878.

by otowelt | 2012-01-03 06:09 | レクチャー

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