甲状腺クリーゼ

●甲状腺クリーゼ概論
・甲状腺クリーゼとは、少なくとも1つの臓器不全を伴った
 甲状腺による代謝亢進状態である。
S.T. Tietgens and M.C. Leinung, Thyroid storm, Med Clin North Am 79 (1995), pp. 169-184.
・甲状腺機能亢進症患者の1~2%がクリーゼになる 
・治療しなければ致死率は50~90%といわれている
Fisher, J. N. Management of thyrotoxicosis. South Med J, 2002: 95(5); 493.
・早期治療しても致死率は20~30%といわれている
Singhal, A., & Campbell, D. "Thyroid storm." 2003.

●甲状腺クリーゼの症状 (from UpToDate)
 不安いらいら
 脱力 (上肢と大腿)
 手指振戦
 発汗異常、耐暑障害
 頻脈
 倦怠感
 食欲低下がないのに体重減少
 下痢・蠕動運動亢進
※意識障害+高体温+発汗・頻脈・下痢で鑑別に入れる必要がある。
※加えて、女性の中には月経不順・停止が起こりうる。
 これにより不妊になることがある。男性の場合、勃起不全などが起こる。

・高齢者は、高熱、多動などの典型的クリーゼ症状を呈さない場合があり
 (apathetic thyroid storm)、診断の際注意する。
・未治療あるいは治療が不適切な甲状腺機能亢進症が原因となる。
 感染、外傷、甲状腺切除術およびその他の手術的処置、
 塞栓症、糖尿病性アシドーシス、放射線ヨード治療、抗甲状腺剤中止、
 ストレス、脳血管障害、妊娠中毒、または分娩などが誘因となる 。
・約1/3の例では誘因が不明だが、甲状腺クリーゼの誘因として
 感染症の頻度が最も高いと思われる。

●甲状腺クリーゼの診断
1.診断基準 2008年
・必須項目
 甲状腺中毒症の存在(遊離T3 および遊離T4の少なくともいずれか一方が高値)
・症状
1. 中枢神経症状
  不穏、せん妄、精神異常、傾眠、けいれん、昏睡。Japan Coma Scale (JCS)
  1以上またはGlasgow Coma Scale (GCS)14 以下
2. 発熱(38 度以上)
3. 頻脈(130 回/分以上)
4. 心不全症状
  肺水腫、肺野の50%以上の湿性ラ音、心原性ショックなど重度な症状
  NYHA分類4 度またはKillip 分類 III 度以上
5. 消化器症状
  嘔気・嘔吐、下痢、黄疸を伴う肝障害
・確実例
必須項目および以下を満たす
a.中枢神経症状+他の症状項目1つ以上、または、
b.中枢神経症状以外の症状項目3 つ以上
・疑い例
a.必須項目+中枢神経症状以外の症状項目2つ、または
b.必須項目を確認できないが、甲状腺疾患の既往・眼球突出・甲状腺腫の存在
  があって、確実例条件のa またはb を満たす場合


2.
甲状腺クリーゼ_e0156318_9383665.jpg

・甲状腺クリーゼの治療
1.甲状腺ホルモン合成阻害
 メルカゾール(メチルメルカプトイミダゾール)1錠5mg 
 1回10~20mgを6時間ごとに経口摂取もしくは胃管投与 
 ※末梢でのT4からT3への変換抑制作用を期待して、
  プロパジール(プロピルチオウラシル)
  100~400mgを6時間ごとに投与することもある(300-400mg8時間ごととも)

2.血中の甲状腺ホルモンを下げる
  ルゴール  1回10滴 6時間ごとに経口 7日間
 (strong iodine solution; iodine 50mg/ml, KI 100mg/ml)
  内服用ルゴール液には1滴あがり6.3mgのヨードが含まれており、
  ルゴール液1滴には4mgのヨードが含まれている。
  甲状腺ホルモン分泌抑制のためには10mg/日の
  ヨードで十分であるが甲状腺クリーゼの場合には、
  下痢による吸収不全のため100mg以上の大量ヨードが必要
  またはヨウ化カリウム(38.2mg)1日1錠
 ※ヨードのかわりに市販の造影剤(100ml/日)を用いることもある
 ※ヨードアレルギーの場合
  リーマス(炭酸リチウム) 1回300mg 1日4回 6時間ごと
  炭酸リチウムは甲状腺ホルモン分泌抑制作用をもつ。血中濃度を1mEq/lに保つ。

3.循環不全にたいして
 インデラル(プロプラノロール) 1A2mg
 1mg/分で10mgまで 10分かけて静注、その後20mgを6時間ごと経口投与
 あるいはヘルベッサー90~180mgを分3で。
 心不全へのジギタリスは2倍量。

4.甲状腺ホルモンのT4からT3への変換を抑制する
 ソルコーテフ(ヒドロコルチゾン)
 1回100mg 6時間ごとに静注

5.発熱にアスピリンは使わない(アセトアミノフェンはOK)
  代謝亢進作用、甲状腺ホルモン結合蛋白から
  甲状腺ホルモンを置換する作用があるため原則として用いない。

6.FT4を3-7日ごとに測定する。正常化すればヨード剤中止可。
  中止後1-2週間は増悪の可能性も考えておく。
  FT4正常化もしくは2-3週間たってから抗甲状腺薬減量を考える。


by otowelt | 2012-03-03 05:51 | 救急

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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