オピオイドによる嘔気・嘔吐に対する薬剤

e0156318_14351123.jpg”オピオイドによる嘔気”と診断する前に、
高カルシウム血症やその他の薬剤の関与など
色々鑑別を挙げなければならないのは確かであるが
癌臨床において、オピオイドによる嘔気は多い。

オピオイドによる嘔気は、主に4つの部位への
作用で起こるとされている。すなわち、


1.トリガーゾーン化学受容体(CTZ)への直接的効果
2.前庭感受性の増加
3.消化管運動の低下
4.大脳皮質への作用
    の4つである。
Herndon CM, Jackson KC, 2nd, Hallin PA. Management of opioid-induced gastrointestinal effects in patients receiving palliative care. Pharmacotherapy 2002;22:240–50.

少量でも起こることはあるが、用量依存性に発症しやすいとされている。
Roberts GW, et al. Postoperative nauseaand vomiting is strongly influenced by postoperative opioid usein a dose related manner. Anesth Analg 2005;101:1343– 8.

オピオイドによる嘔気であると診断された場合、
オピオイドローテーションを考慮する必要があるが、
制吐剤の投与によってコントロールできることもあるため
一概に全例オピオイドローテーションをおこなうわけではない。
・Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004(3): CD004847
・Mercadante S, Bruera E. Opioid switching: a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006; 32: 304-15


薬剤そのものを変更しなくても、投与経路を内服から皮下注や静注に
変更することで嘔気を制御できることもある。
Enting RH, et al. A prospective study evaluating the response of patients with unrelieved cancer pain to parenteral opioids. Cancer 2002; 94: 3049-56

一般的に、オピオイドによる嘔気に対してプロクロルペラジン(ノバミン)
を使用される医師が多いと思う。オピオイドによる嘔気に対して薬剤を
使用する場合、プロクロルペラジン(ノバミン)やハロペリドール(セレネース)
などのドパミン受容体拮抗薬、メトクロプラミド(プリンペラン)や
ドンペリドン(ナウゼリン)などの消化管に作用する薬剤、
オンダンセトロン(ゾフラン)のようなセロトニン受容体拮抗薬、
ヒスタミン受容体拮抗薬あたりが使用される。

しかしながら、多くのスタディが20人以下の患者を扱ったものであったり
質が高くないという原因のため、信頼性のあるデータが乏しいのが現状である。
McNicol E, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain: A systematic review. J Pain 2003;4:231–56.

そのためガイドライン上は、オピオイドによる制吐薬としては、
”使用経験が豊富である”という理由のもと、ドパミン受容体拮抗薬、
消化管蠕動亢進薬、抗ヒスタミン薬が第一選択となっている。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

(1)ドパミン受容体拮抗薬(プロクロルペラジン、ハロペリドール)
 ハロペリドールは、モルヒネの硬膜外投与や原因不明の癌患者の嘔気に
 対して有効であるとされている。
Critchley P, et al. Efficacy of haloperidol in the treatment of nausea and vomiting in the palliative patient: a systematic review. J Pain Symptom Manage 2001; 22: 631-4
 しかしながら、そのほかのドパミン受容体拮抗薬において大規模な
 スタディはなく、有効性についてはあまり信憑性がないのが現実である。

(2)消化管蠕動亢進薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)
 オピオイド関連のスタディは少ないが、癌に関連した嘔気については
 メトクロプラミド40mg12時間ごとプラセボを比較した試験がある。
 VAS100mmスケールにおいて、それぞれ17±12mm vs 12±10mmの
 低下を示し、メトクロプラミドの有効性が示された。
Bruera E, et al. A double-blind, crossover study of controlled-release metoclopramide and placebo for the chronic nausea and dyspepsia of advanced cancer. J Pain Symptom Manage 2000; 19: 427-35

(3) 抗ヒスタミン薬
 オピオイドによる嘔気での報告はほとんどない。

(4) セロトニン5HT3受容体阻害剤(オンダンセトロン)
 海外ではよく使用されているが、日本ではあまり使用されない。
 ちなみにUpToDateはオピオイドによる嘔気に対して
 オンダンセトロンを主に記載している。このオンダンセトロンの効果に
 ついてはいくつか有名な論文がある。たとえば、
 プラセボ(n = 94), オンダンセトロン8 mg (n = 215),
 オンダンセトロン16 mg (n = 211)の3群に割りつけた場合、
 嘔吐をコントロールできたのは、オンダンセトロン8mgで62.3%、16mgで
 68.7%、プラセボで45.7%であり、有意にオンダンセトロンの効果があった。
Sussman G, et al. Intravenous ondansetron for the control of opioid-induced nausea and vomiting. International S3AA3013 Study Group. Clin Ther 1999; 21:1216.
 また1999年のスタディでは、オンダンセトロン8mgおよび16mg は
 メトクロプラミドよりも有意に制吐作用が良好という報告もある(p<0.05)。
Chung F, et al. Ondansetron is more effective than metoclopramide for the treatment of opioid-induced emesis in post-surgical adult patients. Ondansetron OIE Post-Surgical Study Group. Eur J Anaesthesiol 1999; 16:669.
 一方でメトクロプラミドとの差ははっきりしなかったという報告もある。
 90人の患者をオンダンセトロン24mg1日1回、メトクロプラミド10mg1日3回、
 プラセボの3群に割りつけておこなわれたスタディがある。嘔吐がコントロール
 できたのは、プラセボ33%、オンダンセトロン48%、メトクロプラミド52%。
 嘔気がコントロールできたのは、プラセボ23%、オンダンセトロン17%、
 メトクロプラミド36%。これらはいずれも統計学的な有意差ではなかった。
Hardy J, et al. A double-blind, randomised, parallel group, multinational, multicentre study comparing a single dose of ondansetron 24 mg p.o. with placebo and metoclopramide 10 mg t.d.s. p.o. in the treatment of opioid-induced nausea and emesis in cancer patients. Support Care Cancer 2002; 10:231.

(5) 非定型抗精神病薬(オランザピン、リスペリドン)
 オピオイド使用15人の癌患者に対して、オランザピン2.5mg、5mg、10mg
 をそれぞれ2日間ずつ投与したところ、全群において投与前より
 嘔気の改善がみられたという報告がある。
Passik SD, et al. A pilot exploration of the antiemetic activity of olanzapine for the relief of nausea in patients with advanced cancer and pain. J Pain Symptom Manage 2002; 23: 526-32

文責"倉原優"

by otowelt | 2012-04-11 12:08 | レクチャー

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