急性好酸球性肺炎の臨床的特徴と2週間のステロイド治療の妥当性

 真の急性好酸球性肺炎は7年間で1人しか見たことがないのでかなり稀な疾患だとは思うが、呼吸器内科医にとって知っておかねばならない疾患の1つである。
 ERJからのこの論文は、呼吸器内科医にとっては必読である。

Chin Kook Rhee, et al.
Clinical Characteristics and Corticosteroid Treatment of Acute Eosinophilic Pneumonia
ERJ May 17, 2012 Published online before print


背景:
 急性好酸球性肺炎(AEP)の臨床的特徴と適切なステロイド治療の期間はよくわかっていない。AEPの報告は100例未満であり、最も大きいものでも33人のスタディしかない(Crit Care Med 2009; 37: 1470-1474.、Chest 2008; 133: 1174-1180.)。

方法:
 韓国Armed Forces Capital Hospitalにおいて2007年5月から2010年10月までおこなわれた試験である。これは標準プロトコルと考えられるステロイド治療が行われたAEP患者を前向きに集め、臨床的特徴や2週間と4週間のいずれのステロイド治療が妥当かを検証したものである。
 AEPの診断は、Philitらによる基準に基づいた(Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 1235-1239.)
 1)発熱性の呼吸器症状を1ヶ月以内の急性発症できたす
 2)両側の浸潤影が胸部レントゲンでみられる
 3) BALにおいて>25%の好酸球が確認できる、あるいは肺生検において好酸球性肺炎が証明される
 4)薬剤、毒物、感染などの肺好酸球症の原因がはっきりしないもの


結果:
 160人の患者が登録されたが、BAL中の好酸球数が25%に到達していない症例やH1N1インフルエンザ合併例などを除外し、137人を登録した。

 年齢中央値は20歳(IQR 19 – 21)であった。135人(99%)が現喫煙者であり、ほとんどの患者がAEP発症よりも中央値で17日前に喫煙の習慣を開始していた(IQR 13 – 26日)。内訳は、71人が新規の喫煙者、41人が少なくとも1年以上禁煙した後の再喫煙者、13人は徐々に喫煙量を増やしていった患者であった。16人(12%)がアレルギー性疾患の既往があった。症状は、咳(95%), 呼吸困難(92%), 発熱(88%)がよくみられた。92人(67%)において吸気時のcracklesが聴取された。

 80人(58%)の患者が急性呼吸不全症状を呈しており(PF ratio < 300)、3人(2%)のみが人工呼吸器を必要とした。白血球上昇(>10,000/μL)は97人(71%)でみられ、末梢血中の好酸球増多(>500/μL)は44人(32%)でみられ、その中央値は719 (593 – 997) /μLであった。すべての患者でBALが施行され、そのBAL中好酸球の中央値(%)は40% (35 – 53)であった。BAL中リンパ球も中央値(%)で19% (12 – 28)と上昇していた。

 HRCT所見は、スリガラス陰影が133人(97%)でみられ、それに続いて胸水121人(88%)、小葉間隔壁肥厚93人(68%)、小葉中心性結節影71人(52%)(しかしながら辺縁不整)といった所見がみられた。コンソリデーションは51人 (37%)でみられ、気管支血管束の肥厚が24人(18%)でみられた。しかしながら、コンソリデーションは呼吸不全を呈した患者の方がよくみられた(47% vs. 19%, p = 0.002)。

 127人(92%)がステロイドによる治療をおこなわれ、42人が4週間、85人が2週間の治療をおこなわれた。残りの患者は、無治療で自然軽快した。主な症状は3日目に軽快し、呼吸不全の重症度は臨床アウトカムと逆相関していた。ベースラインの患者特徴による補正ののち、呼吸困難の改善とすべての症状の消失に対する調整平均差(95% CI) はそれぞれ0.57 (-0.71 – 1.86)日、-0.04 (-1.91 – 1.83)日であった。放射線学的異常の軽快の調整割合差は6.92% (-8.19 – 22.02)であった。

ディスカッション:
 AEPに対するステロイド治療の標準レジメンは確立されていない。よくおこなわれているのは、メチルプレドニゾロン60 –125mgを6時間ごとに投与し、経口プレドニゾロン40 – 60 mg/日を2-6週間かけて漸減するというものである(Am J Respir Crit Care Med 1999; 160: 1079-1100.)。このスタディにおいては、2週間レジメンと4週間レジメンを比べ、効果については同等であると考えられた。

急性好酸球性肺炎(AEP)における2週間ステロイドレジメン:
・呼吸不全がある場合(PF ratio < 300)
 1日目-3日目 点滴メチルプレドニゾロン60mg6時間ごと
 4日目-7日目 経口プレドニゾロン30mg1日2回
 8日目-10日目 経口プレドニゾロン20mg1日2回
 11日目-12日目 経口プレドニゾロン20mg1日1回
 13日目-14日目 経口プレドニゾロン10mg1日1回
・呼吸不全がない場合(PF ratio ≧ 300)
 1日目-7日目 経口プレドニゾロン30mg1日2回
 8日目-10日目 経口プレドニゾロン20mg1日2回
 11日目-12日目 経口プレドニゾロン20mg1日1回
 13日目-14日目 経口プレドニゾロン10mg1日1回

結論:
 AEPによる呼吸不全を呈した患者に対しては2週間の短期的ステロイド治療でよいと考えられる。
by otowelt | 2012-05-18 06:46 | びまん性肺疾患

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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