酸素療法を恥ずかしいと思う患者さん

●酸素療法に対する羞恥心
 わたしたち呼吸器内科医は、仕事上、鼻カニューラによる酸素療法をすすめることが多い。しかし、いざ自分が鼻カニューラをつけて外を歩いているところを想像してほしい。周りからの目が気にならないだろうか?息が楽だからといって酸素ボンベを持ってデパートに行けるだろうか?
 酸素療法をすすめられた患者さんの鼻カニューラに対する外見的な羞恥心は計り知れない。酸素療法を受けているような疾患にかかっていることを知られたくない人だっておそらく大勢いるだろう。そのため酸素療法の適応は厳密であるべきだと思う一方、寛容でもあるべきだと私は思っている。目の前の患者さんに果たして本当に酸素療法を行う妥当性があるのか臨床医は常に悩み続けるべきである、と以前述べた。

(参照):労作時のみSpO2が90%を下回る患者さんに携帯型酸素ボンベは必要か


●酸素メガネ
 写真のように遠目には酸素を吸っているかどうかわからない酸素メガネというものがある。オキシアーム(oxyarm)も同様に鼻に対する違和感や外見的な問題を解決する器具ではあるが、この酸素メガネは外見的な問題を優先的に考えたデバイスである。
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 この酸素メガネは、従来の鼻カニューラと同様に供給源から酸素が送られる。メガネのフレームは中が空洞になっており、ここを最大で毎分5Lの酸素が流れる。オキシ・ビューメガネのブリッジ部分から小さな鼻カニューラが出ており、ここから酸素が鼻の中に送られる。よく見ると違和感があるが、周囲の人には目立つほどのものではない。


●経気管酸素投与(transtracheal oxygen therapy:TTOT)
 TTOTは、細く柔らかいプラスチック製カテーテルから気管に直接酸素を送り込む方法である。そのため、首のあたりに外科的に小さな穴をあける必要がある。このTTOTはあくまで長期間酸素療法を要する患者のみに適応されるものであり、外見的な問題の解決においては酸素メガネ以上の効果があるとされている。
Christopher KL, et al. Transtracheal oxygen therapy.Chest. 2011 Feb;139(2):435-40.
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 また直接気管に酸素投与を行うため、酸素化効率がよい。平均的なTTOT患者では、安静時で50~60%、労作時で30%の酸素流量を減らすことができる。専門家の間ではこのTTOTに使用するカテーテルをSCOOPカテーテルと呼ぶ。これはSpofford Christopher Oxygen Optimizing Programの略であり、単に処置やカテーテルの名前ではなく、当初は患者さんに最善の結果を出すためのチームアプローチを必要とする治療プログラムの名称であった。1980年代にデンバーの医師2名によって立ち上げられたプログラムである。
 TTOTにおけるSCOOPカテーテルは、酸素カニューラをつけることを外見的問題から拒否的である患者さんにおいて羞恥心改善のために効果的であるだけでなく、ADLやその呼吸困難の症状まで劇的に改善させ、酸素流量を減らすことができるメリットがある。


●酸素療法をすすめる医師が常に肝に銘じておくこと
 「酸素を吸うのは絶対イヤだ」という患者さんを前にして、私たち呼吸器内科医は「なぜ吸いたくないのか」を傾聴すべきであり、「酸素を吸わなければあなたは健康を害する」などと決して口にしてはならない。リンパ脈管筋腫症(LAM)などの若年女性の呼吸不全患者さんは、鼻にカニューラを通して外を歩くのはかなりの精神的苦痛である。化粧もしにくいし、恋愛だってままならない。もちろん何でもかんでも外見的な側面のみを語るのは短絡的であろうし、酸素メガネやSCOOPカテーテルのような特殊デバイスが最優先されるわけではない。ただ、酸素療法を処方するということはその人の日常生活の多くの時間を変えてしまう、場合によっては人生を変えてしまうほどの決断であることを私たちは肝に銘じておかねばならない。
 

by otowelt | 2012-06-14 21:56 | コントラバーシー

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