癌以外の呼吸困難にモルヒネを使用してよいか?

e0156318_1139191.jpg 腫瘍内科の世界では癌患者の49%が呼吸困難を有するといわれているほど、癌を診療している医師にとってはよく経験する症状である。
Dudgeon DJ, et al.Dyspnea in cancer patients: prevalence and associated factors. J Pain Symptom Manage 21 (2): 95-102, 2001

 また、肺癌ともなれば実に60%の患者に呼吸困難の症状が起こる。
Muers MF, Round CE. Palliation of symptoms in non-small cell lung cancer: a study by the Yorkshire Regional Cancer Organisation Thoracic Group. Thorax 48 (4): 339-43, 1993

 肺癌だけでなくあらゆる疾患において、呼吸困難という主訴は、全ての呼吸器内科医にとって重要な命題であり悩み続ける問題である。呼吸困難に対して、呼吸リハビリテーションや抗不安薬などさまざまな対処法があるが、モルヒネを安全かつ効果的に使用できることが呼吸器内科医にとって重要なスキルであると私は思っている。

 オピオイドが呼吸困難を解除する機序については完全には明らかになっていない。考えられている機序として、中枢神経系における呼吸困難の知覚抑制、呼吸数低下による呼吸仕事量の軽減、不安の軽減、肺血管抵抗低下による心負荷の軽減などがよく教科書的には記載されている。

 では、果たして非癌疾患にオピオイドを使用してよいのだろうか?実はこれについては明確な答えはまだない。間質性肺疾患などのびまん性肺疾患、COPD、塵肺などの肺の疾患に対してオピオイドを使用することは議論の余地があるところである。癌患者に対するオピオイドには寛容であっても、非癌患者にはすべできないと強くおっしゃっている医師も多い。理由の多くは、古典的なオピオイドによる副作用を懸念してのことである。

 実は、COPD患者にとっても癌患者にとってもオピオイドの使用が呼吸困難感を軽減させることはメタアナリシスで報告されている。
Jennings AL,et al.A systematic review of the opioids in the management of dyspnea.Thorax 57:939~44,2002.
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 また、小さなスタディではあるが、特発性肺線維症患者においてダイアモルフィン2.5mgのワンショットの皮下注射が呼吸困難を軽減させた(VASスケール:P=0.0001)という報告もある。
S.Allen,et al. Low dose diamorphine reduces breathlessness without causing a fall in oxygen saturation in elderly patients with end-stage idiopathic pulmonary fibrosis, Palliative Medicine; 2005;19:128-130

 治療量では呼吸抑制やEtCO2の増加はきたさないが、せん妄リスクには注意しなければならない。ただ実臨床において、副作用で困るという事態にはさほど陥らない。

 個人的には、癌に限らなくても良性疾患における呼吸困難感の改善にオピオイドを使用しても大きく問題はないと考えられる。むしろ患者さんにとっては極めて有益かもしれない。もちろん呼吸困難を改善する方法としてオピオイドがすべてで最優先とは考えてはいないし、何よりも呼吸困難が原疾患のみで起こっているのかどうか、アセスメントありきだと私は考えている。CO2ナルコーシスが起こりやすいと考えている状況での使用も安易に行うべきではないし、呼吸困難の重症度によっても使い分けを考える必要もあるだろう。

 ちなみに当院では緩和ケアチームと合同で、良性疾患患者に対してもオピオイドを使用することがある。その多くは呼吸困難でADLがダウンした重症患者さんである。呼吸器内科であるため、原疾患は特発性肺線維症、重度の塵肺、慢性過敏性肺炎などが主である。ASCOはオピオイド未使用例では、2~5mg/回を1日4~5回内服する方法を推奨しているが、特発性肺線維症や塵肺がひどい状態だと、内服すらできない患者さんが多い。そういったときは、塩酸モルヒネ1%と生理食塩水を1:1に混合したものを0.05ml/時間 で持続皮下注していることが多い(24時間で6㎎)。これくらいの量であっても、結構効果を実感することが多い。持続皮下注と持続静注の大きな違いは、前者のほうが安全かつQOLを損ないにくいだけでなく夜間のルートキープは必要なくなるという大きな利点がある。そのため当院では癌性疼痛、呼吸困難時のモルヒネの持続投与は、ほぼ全例皮下注でおこなっている(もちろん内服できる患者さんは内服を主体としている)。看護師さんにとって、ベースアップやレスキューがおこないやすいように、独自の指示票を用いて管理をおこなっている。
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▲コンパクトな持続皮下注用シリンジポンプ。ポケットサイズなので外泊も可能。

 日本のオピオイド使用の閾値はまだまだ極端に高いのが現状である。日本人は”モルヒネ=依存、中毒”という幼少期からの情報に曝露され、医療従事者でさえもオピオイドは怖いと思っている人が多い。疼痛や呼吸困難に対してより広くオピオイドの安全かつ効果的な使用が浸透することを願ってやまない。そのための臨床試験の集積を待ち望んでいる。

by otowelt | 2012-06-22 11:47 | びまん性肺疾患

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