終末期患者において人工呼吸器を取り外せるか

e0156318_10544093.jpg 私の同僚が主治医であった患者さんで、終末期癌患者さんでご本人の強い意思で延命を望まない65歳の男性がおられた。ある日、自宅で心肺停止状態で倒れているところを近所の人に発見された。心肺蘇生については本人は拒否されていたが、それを証明できる書面がなく、また家族が不在であったことから心肺蘇生が行われた。そしてかかりつけではない救急病院に搬送され、人工呼吸器を装着された。当然ながら回復の見込みはほぼ無かった。そのため人工呼吸器を外すことを、家族、主治医は希望していた。おそらく患者本人もそれを希望していただろう。しかしながら法に抵触するおそれがあるという病院全体の判断のもと、その終末期癌患者さんは人工呼吸器につながれたまま2ヶ月後に亡くなった。非常につらい2ヶ月であったと伝え聞いた。

 先日のニュースで以下のようなものがあった。

 日本救急医学会が策定した「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」に基づき、回復の見込みがなく死期が迫った救急患者の延命治療を中止したり差し控えたりしたケースが、2012年春までの2年間に学会に17件報告されたことが、学会への取材で2012年7月14日判明した。実はこの中には、脳死状態での人工呼吸器の取り外しが1件含まれている。こういったガイドラインは救急現場だけでなく、国内ではほかに厚生労働省からの「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が存在する。―――ただし、ガイドラインは法律ではない。そこが私たち医療者にとってはネックとなっていた。

 私個人としては、終末期の癌患者さんなどで”延命不開始”をおこなうこと(胃瘻をつくらない、人工呼吸器をつけない等)はあるが、一度ついてしまった人工呼吸器を延命中止のために取り外したことは一度もない。ガイドライン策定の流れと私個人の考えもあって、「一度つけた呼吸器は亡くなるまで外せません」とは最近は説明しなくなったが、法に抵触する可能性がまだ残っている以上、人工呼吸器を外そうとは思わない。

 2012年6月6日、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」の第2案が提出された。第2案では延命措置の差し控えに加えて、すでに行われている延命措置の中止も実施可能とされている(ただし、延命措置の差し控えや中止が行えるのは、患者がその意思を事前に書面で表明し、2人以上の医師の判断で終末期と判定された場合に限るとされている)。

 法制化が進めば、解決する問題も増える一方で新たな問題も生じるのは必須である。これから数年で終末期医療が急速に変化する可能性があるため、患者の死にかかわるすべての医療従事者はこれらの動向を見守る必要があるだろう。

by otowelt | 2012-07-27 05:42 | 呼吸器その他

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