サルコイドーシスにおける気管支粘膜血管所見のレビュー

●サルコイドーシスにおける気管支粘膜の血管増生
サルコイドーシス疑いの患者さんに対して気管支鏡をおこなうと、気管支粘膜の血管増生を観察することがある。これはサルコイドーシスの診断基準で気管支鏡所見という項目に
 1)網目状毛細血管怒張(network formation)
 2)小結節
 3)気管支狭窄
の3つが記載されているためである。
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呼吸器内科医であれば、気管支鏡で血管増生を確認して「ああ、これはサルコイドーシスらしいね」と口にすることもあると思われるが、この発言には果たしてどの程度の意義があるのだろうか。レビューというほど大きな主題ではないのだが、個人的に以下に論じてみたい。

サルコイドーシスにおける気管支鏡所見は全例の60%に異常がみられるとされている。その多くが粘膜所見である。
Andrew F. Shorr, et al. Endobronchial Biopsy for Sarcoidosis: A Prospective Study. Chest 2001;120:109–114
CT検査ではこうした粘膜所見は65%でしか同定できないとされており、気管支鏡をのぞいて初めてわかることが多い。
F Lenique, et al. CT assessment of bronchi in sarcoidosis: endoscopic and pathologic correlations. Radiology 1995 194:2 419-423
こういった粘膜病変での気管支鏡下生検では多くの場合サルコイドーシスが病理学的に証明される。
Armstrong JR, et al. Endoscopic findings in sarcoidosis. Ann Otol 1981; 90: 339–343.

1988年の気管支学によく引用される論文が2つある。
市川洋一郎ら. サルコイドーシスの気管支内視鏡所見 : 45 例のまとめと特徴的気管支病変の呈示. 気管支学 10(4), 378-384, 1988
松岡緑郎ら. サルコイドーシスの気管支鏡所見およびその経時的変化の検討(治療過程における気管支鏡所見). 気管支学 9(4), 340-345, 1988

前者の文献では、自験例45例において網目状血管増生は34例(75%)と高率にみられた。顆粒状粘膜変化は網目状血管増生に随伴してみられることが多く、14例(31%)にみられた。小結節形成は10例(22%)にみられた。7例(15%)は正常粘膜所見であった。網目状血管増生と顆粒状粘膜変化は若年層にみられることが多く、小結節形成や正常粘膜所見は中高年層に多くみられたと報告されている。
また、後者の文献は114例のサルコイドーシス患者の気管支鏡所見を観察したものである。細血管増生所見は、レントゲン病期0期では13例中9(63%)、I期では50例中45例(90%)、II期では45例中41例(91%)、III期では6例中5例(83%)で認められた。細血管増生所見は両側肺門リンパ節腫脹とは、臨床経過は一致しなかった。ただ、気管支内の結節性病変は、リンパ節腫脹の改善に一致して消失、軽快した。

また1994年の日本の文献では、66人の自験例をもとに気管支鏡所見を5分類にわけている。1型:正常所見、2型:軟骨輪を超えた粘膜血管増生(2a型:血管増生増加のみ、2b型:不正な血管)、3型:サルコイド結節、4型:気管支粘膜プラーク、5型:気管支壁の不整。1型が16.7%、2型が63.6%、3型が28.8%、4型が10.6%、5型が10.6%であった。この報告でも63.6%と高率に血管所見がみられている。
Tsuchiya T, et al. Bronchoscopic classification in sarcoidosis Nihon Rinsho. 1994 Jun;52(6):1535-8

1981年に101人のサルコイドーシス患者に対する気管支鏡所見をまとめたものがあるが、その論文では気管狭窄がみられたのが26%、結節性病変は64%、血管増生は38%、粘膜浮腫は55%であった。この論文では血管所見の頻度はやや少ない。
Armstrong JR, et al. Endoscopic findings in sarcoidosis. Ann Otol 1981; 90: 339–343.


●なぜ血管増生が起こるのか
近年の文献に目を向けてみると、2009年のCHESTの論文が有名である。ここでは気管支粘膜における結節性病変の機序が記載されているが、血管病変についての記載は乏しい。
Vlassis S. Polychronopoulos, et al. Airway Involvement in Sarcoidosis. CHEST.2009;136(5):1371-1380
形態学的にはまず全身の炎症が気管支粘膜に波及し、発赤や肉芽腫を形成する。これが進行すると、さらに結節性の病変が明らかとなりcobblestone appearanceとなる。このCHESTの論文に言及されているのは主に粘膜のプラークや結節性病変が主体であり、血管増生についてはさほど大きく取り上げられていない。

1987年の学会発表では、サルコイドーシスにおける気管支粘膜血管異常がどのように成り立っているかを考察したものがあった。
三宅川登ら. 肺サルコイドーシスの気管支粘膜血管の異常に関する気管支鏡的検索, 特にその成り立ちについて(Bronchial vessels). 気管支学 9(増刊), 75, 1987.
自験例32例を検証した結果、単純な血管増強はまず気管支軟骨輪間の気管支粘膜の中央に軟骨輪に平行して1本の太い血管があり、それから直角に多数の細い血管が分岐し軟骨輪上の粘膜下で隣接する血管と吻合した結果網目状にみえるのではないかと考察されている。この拡張血管は本来粘膜下で構成される血管が拡張したものでありその原因はリンパ節腫脹であると考えられる。走行が不整な血管増生は、サルコイド結節を中心に広がるものがほとんどであった。
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模式図にするとこのような感じだろうか。

2種類の血管、すなわち動脈系と静脈系にわけて論じた報告もある。すなわち気管支動脈系と気管支静脈系の2種類である。
小林英夫. サルコイドーシスと気管支鏡―実地的視点から―. 気管支学.2005;27:7-11
鮮紅色血管は、周囲に放射状に拡がりネットワークを形成しながら径が縮小していくものである。網目形成は分節的で、主気管支では3~4 軟骨輪程度の範囲に及び、新たなネットワークへ移行している。サルコイドーシスにおける多くの血管はこの分布パターンであり、気道への出現様式から気管支動脈由来と推定される。紫紅色でやや太く、上皮の不透明感を伴い、かつ軽度膨隆し網目形成が顕著でない血管も少数混在し、ネットワーク形成の高度な症例で観察され、気管支静脈系と思われる。


●結論
過去の報告を見る限りは、サルコイドーシスにおける気管支粘膜の血管増生は60~80%と頻度が高いものと推察される。この血管増生は、リンパ節腫脹の軽快によっても改善しないという報告もあるため、局所的リンパ節腫脹に由来するかどうかはまだ結論が出ていない。気管支粘膜の血管増生は、健常者とサルコイドーシス患者を含めて感度・特異度を算出するような試験を組まない限り、サルコイドーシス患者において血管増生が特異的な所見かどうかは断言できない。咳嗽などによっても血管増生は偽陽性所見を呈することがあるため、サルコイドーシスの診断をおこなう上で、参考所見程度にとどめておくほうが無難かもしれない。

文責"倉原優"

by otowelt | 2012-08-05 11:50 | レクチャー

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