アレルギ―性気管支肺アスペルギルス症の治療と診断におけるコントラバーシー

 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の”診断と治療”について思うところが色々あり、書いてみた。
 個人的な意見として、Rosenbergの診断基準を使用すること自体が、Greenberger教授や今は亡きPatterson医師の想いを汲み取れていないのではないかと感じた。
 またABPAの治療として、学会などではステロイドより抗真菌薬が重視されている場面がしばしば見受けられるが、EBMに基づくのであればステロイドこそが治療の根幹なのだと再認識した。

●ABPAの診断においてRosenbergの診断基準は妥当なのか?
 ものの本によっては1971年が最初の報告としているものもあるが、ABPAは元来1952年Hinsonらによって提唱された疾患概念である。
Hinson KFW, et al.Bronchopulmonary aspergillosis. Thorax 1952; 7:317–333
 気管支喘息の1%程度を占めるとされている病態だが、呼吸器内科医にとっては気管支喘息患者を多数に診察するため、ABPAをcommon diseaseと感じている医師は多いだろう。Hinsonらが初期に提唱した概念は、繰り返す喘息症状および末梢血好酸球増多、移動するレントゲン陰影、真菌と好酸球を多数含む粘液栓子の喀出、という特徴である。その後、1967年にScaddingらがABPAの特徴的な気管支造影所見として中枢性気管支拡張(CB)の概念を発表し、このCBは粘液栓子が抜けたあとであろうと考えられた。CBがABPAの進行例によくみられる所見であることが注目されていた。
 これらの報告を受けて、1977年にRosenbergらがABPAの診断基準を提唱した。Rosenbergは当時のNorthwestern大学病院のアレルギー科の臨床フェローであり、corresponding authorであるPattersonはRosenbergの指導医だったのではないかと推察される。

・ABPA:Rosenbergの診断基準
一次基準
 1.発作性呼吸困難・喘息
 2.末梢血好酸球の増多 (参考:>500/mm3
 3.Aspergillus抗原に対する即時型皮膚反応陽性
 4.A. fumigatus抗原に対する沈降抗体陽性
 5.血清総IgE高値>417 IU/mL (>1000 ng/mL)
 6.移動性または固定性の肺浸潤影の既往歴
 7.胸部CTにおける中枢性気管支拡張症

二次基準
 1.繰り返し喀痰からアスペルギルスが検出される(培養または顕微鏡観察)
 2.茶褐色の粘液栓子を喀出した既往歴
 3.Aspergillus抗原に対するArthus(遅発型)皮膚反応陽性

 確実:一次基準の7項目すべてを満たすもの
 ほぼ確実:一次基準の6項目を満たすもの
 二次基準を満たせば確実性が増す
 

 RosenbergはABPA疑いの20人の患者を報告し、そこでABPAの基準を提唱している。少人数であり、当然ながら感度特異度などの解析はされていない。そのため、「Rosenbergの診断基準を満たさないからABPAではない」「Rosenbergの診断基準を満たすからABPAである」という言葉は、感度と特異度を考慮していないものであり、そもそも診断学を論じる上で内容がないと私は考えている。
Rosenberg M, et al. Clinical and immunologic criteria for the diagnosis of allergic bronchopulmonary aspergillosis. Ann Intern Med 1977;86:405-14. 
 中枢性気管支拡張症(CB)は、ABPAがある程度進行して起こる病態であると考えられ、これでは診断基準にのっとって早期治療ができない欠点があるという指摘があった。1982年にRosenbergの上司であったPattersonらが病期分類を提唱した。
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Patterson R, Greenberger PA, Radin R, et al. Allergic bronchopulmonary aspergillosis: Staging as an aid to management. Ann Int Med 1982;96:286-91. 
 そして1988年にPattersonと同じ教室の医師であったGreenbergerらにより、再度診断基準が提唱された。改定の際、好酸球の項目が削除された。これは、急性期においてのみ上昇することが多いため、診断学上は必要性が乏しいと判断されたためである。

・ABPA:GreenbergerとPattersonの診断基準
ABPA-CB(central bronchiectasis:中枢性気管支拡張症)
 1.喘息
 2.中枢性気管支拡張(胸部CTで肺野の中枢側2/3以内)
 3.Aspergillus種あるいはA. fumigatusに対する皮膚テスト即時型反応陽性
 4.血清総IgE値>417 IU/L (1000ng/ml)
 5.A. fumigatus特異的IgE and/or IgG上昇
 6.胸部画像上浸潤影(必須でなくともよい)
 7.A. fumigatusに対する沈降抗体陽性(必須でなくともよい)
ABPA-S(seropositive:血清陽性)
 1.喘息
 2.Aspergillus種あるいはA. fumigatusに対する皮膚テスト即時型反応陽性
 3.血清総IgE値>417 IU/L (1000ng/ml)
 4.A. fumigatus特異的IgE and/or IgG上昇
 5.胸部画像上浸潤影(必須でなくともよい)

Greenberger PA, Patterson R. Allergic bronchopulmonary aspergillosis and the evaluation of the patient with asthma.J Allergy Clin Immunol 1988; 81:646-650.
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 Rosenberg、Patterson、Greenberger、この3人の医師はすべてNortwestern大学のアレルギー科に所属していた。何を隠そう、これら一連の診断基準は同じグループで提唱されたものである。
 アレルギーの成書まで出版したPatterson医師は75歳ですでに逝去しているが、Greenberger医師は現在のNorthwestern Universityのアレルギー科の教授である。そして当時フェローであったRosenbergは、現在Northwestern大学の眼科の准教授として働いている。
 PattersonやGreenbergerがABPAで本当に提唱したかったのは、いわゆるRosenbergの診断基準ではなく、GreenbergerとPattersonの診断基準であることは明白であるその証拠に、2002年にGreenbergerがABPAに関する総説を書いているが、引用文献にすらRosenbergの1977年の論文は出てこない。すなわち、1977年に先駆けて教室が発表したあのRosenbergの論文は、のちに提唱される疾患概念の導入に過ぎないということである。
Paul A. Greenberger. Allergic bronchopulmonary aspergillosis. J Allergy Clin Immunol 2002;110:685-92.
 ただ、診断基準というのは診断妥当性を評価されて初めて”基準”と呼べるものだと私は思う。ゆえに、GreenbergerとPattersonの診断基準も、あくまで指標に過ぎないのではないかと考えている。


●ABPAの治療はステロイドを優先すべきか、抗真菌薬を併用すべきか?
 かつてABPAの約半数がステロイド依存性の喘息となり、非常に問題となった。そのため、ABPA-Sという概念を提唱して早期から治療を導入すべきだとのPattersonの意見が注目されたのである。このABPAの治療の最大の目標はアレルギーの軽減と肺の構造変化(線維化など)をくいとめることにある。
 現在のエビデンスとしては、病期IあるいはIIIのような急性期の病態にある場合はプレドニゾロン0.5 ~1.0 mg/kgで14日間の治療が推奨されている。病期IIあるいはVのような場合にはもはやステロイドは必要とされていない。もしステロイドの投与量が多く、副作用などが容認しがたい場合には、抗真菌薬の使用が推奨されている。注意したいのは、これはステロイド依存性のABPAにおいて有用性が認識されているということである。一般的にはイトラコナゾールかボリコナゾールを16週間使用する。再発例に関しては最初から抗真菌薬を使用してもよいという意見もある。
 抗真菌薬の位置づけはあくまでセカンドラインであり、ABPAそのものの治療というよりも、ステロイドの減量効果が主な役割と考えられている。
Stevens DA, Schwartz HJ, Lee JY, et al. A randomized trial of itraconazole in allergic bronchopulmonary aspergillosis. N Engl J Med 2000; 342:756.
 抗真菌薬にはIgE・IgGを軽減させる効果があることが報告されているのは確かであるが、ステロイド以上の効果はないだろうと考えられている。
・Wark PA, Gibson PG, Wilson AJ. Azoles for allergic bronchopulmonary aspergillosis associated with asthma. Cochrane Database Syst Rev 2004; :CD001108.
・Wark PA, Hensley MJ, Saltos N, et al. Anti-inflammatory effect of itraconazole in stable allergic bronchopulmonary aspergillosis: a randomized controlled trial. J Allergy Clin Immunol 2003; 111:952.

 ステロイドを50%減量することができてなおかつ臨床的に軽減しているものを”抗真菌薬の効果あり”と定義した論文もあるため、抗真菌薬の使用によって”患者の何に対して効果があったのか”を臨床医は知っておく必要があるだろう。


by otowelt | 2012-08-14 14:42 | コントラバーシー

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