オンラインメガジャーナルの革命児:PLoS ONE

 2006年発刊の医学雑誌PLoS ONEは更新される論文数が膨大であるため、実は今まで積極的に読むのを避けてきた。しかし、最近はメジャーな試験結果ですらPLoS ONEに掲載されるようになってきたため、自分の論文マラソンのコースに入れざるを得なくなった。Web上のどこにいってもPLoS ONEを目にするようになった。その躍進はすさまじく、医学論文の世界が変わろうとしている。
 ―――学術雑誌の概念を変えようとしている革命児、PLoS ONE。いつもと趣向はやや異なるが、PLos ONEの紹介をしたいと思う。
e0156318_1738578.jpg

 public library of scienceは、2000年10月に設立し、2003年から出版活動を開始した。オープンアクセスの雑誌7誌刊行している。その一つがPLoS ONEである。このPLoS ONEは、あまり知られていないかもしれないが、著者が掲載料(1350ドル)を支払う代わりに読者は無料で閲覧できる、"掲載料著者負担型"のオープンアクセス医学雑誌である。

 PLoS ONEは、その論文が掲載されたあとの影響力の大きさや、どの程度科学の進歩につながるか、その研究の重要性などは一切問わない。研究手法や解釈が科学的に妥当性のあるものであれば論文の質は問わず採択するという方針のため、その採択率は高く2011年では50%を超えている(25863本の投稿中、13784本が出版)。Natureは、当初紙面上「PLoS ONEは、しょせん論文のゴミ箱になるだろう」と非難していたが、その目論見は大きく外れた。PLoS ONEの自誌引用率が10%未満であるにもかかわらず、驚くべきことにインパクトファクターはあっという間に4を超えた(ちなみにPLoS はインパクトファクターシステムに否定的で、反対運動も展開している。アイゲンファクターについてはコメントはしていない)。その頃から”メガジャーナル”という言葉が生まれた。

 ―――こういった新しいモデルの学術雑誌を”メガジャーナル”と呼ぶ。これは近年メジャーになった呼び方であるが、その名の通り、規模そのものがあまりにも大きいことに由来する。あらゆる科学領域をカバーしているため、著者も分野別に雑誌を選ぶ必要性すらなく、全てPLoSコミュニティで対応が可能となる。出版社にとっても、雑誌ごとの手順を統合でき、マーケティングプラン、blog、Twitter発信を一本化できる。PLoSは、出版前に論文を編集者によって取捨選択することは、低リソースモデルに基づく前時代的な学術雑誌体系であると考えている。そもそもこういった閉鎖的な学術雑誌体系は、理想とするオープンアクセス配信モデルにはそぐわないと考え、これの実現のためにはメガジャーナル化・オープンアクセス化・著者掲載料自己負担というモデルが都合がよかった。世界一の学術雑誌であるNatureも、さすがにこの成功には目を背けることはできず、オープンアクセス配信モデルのメリットに追従しScientific Reportsを発刊した。これも、PLoS ONEと同じモデルの学術雑誌である。

 PLoSは「Article Level Metrics」という、論文1本ごとにこれまでのアクセス数や被引用数、ブログからのトラックバック数などを表示できる機能がついている。緑のマークが評価項目にあるが、Amazonと同じ仕組みでありログインユーザーであれば誰でも論文の評価ができる(現実的にはあまり機能していない様子だが)。
e0156318_18175393.jpg
e0156318_18325719.jpg
 爆発的に掲載されているPLoS ONEの論文は、近々全世界の学術論文のうちの3%を超える掲載数になるとされている。下手すれば1雑誌というよりも1つの学術コミュニティのような形になる可能性がある。インパクトファクターそのものの概念だけでなく、学術雑誌の概念や定義すらゆるぎかねない存在になりつつある。そのため、どのようにして論文の質を評価すべきかという議論が世界中でおこなわれている。将来的には、膨大なクラウドの中に様々な質の論文がストックされ、それらを私たちは取捨選択していかねばならない時代が来るかもしれない。2017年までに全論文の50%、2020年までに全論文の90%がオープンアクセスメガジャーナルで出るようになるかもしれないという専門家の意見もある。

 PLoSの活動については賛否両論があるかもしれないが、長期的にも成功をおさめるという確信がある様子だ。PLoSは近年実際に黒字に転じ始めており、Natureなどのメジャー雑誌がオープンアクセスメガジャーナルに参入してきた理由は、言わずもがなであろう。一部の科学者からの批判は大きいが、この流れはおそらく止められない。

 ちなみに、Case Reportは投稿できない規定になっているが、negative study(予想していた結果が出ず、インパクトが薄れてしまった臨床試験)のように闇に葬り去られるはずであった臨床試験はどんどん投稿されている。これは著者にとっては自分の研究成果を形にできるため、PLoS ONEは非常にありがたい存在なのかもしれない。
 

by otowelt | 2012-08-18 18:43 | その他

<< メポリズマブは好酸球性気管支喘... テラバンシンの効果と安全性:シ... >>