Pancoast腫瘍の提唱者:Henry Pancoast

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 Henry Khunrath Pancoastは1875年2月26日にフィラデルフィアで生まれました。父親が内科医師をしており、幼い頃から医師に対して憧れのようなものを感じていたといいます。1982年にFriends Central 高校を卒業しました。しかし同時期に両親を両方とも亡くし、銀行窓口業務を2年間行い大学資金を作ることになりました。そして、やや周りから遅れて1894年にペンシルヴァニア州立大学医学部に入学しました。1898年に同大学を優秀な成績で卒業しています。

 彼はペンシルヴァニア州立大学病院に勤務し、外科講座で1900年から主に外科手術について学び始めました。しかしながら、院内ではほぼ麻酔科医としての勤務で外勤もかなり限られた診療ばかりをしていたといいます。そんな矢先、1902年に病院にいたレントゲン医師であるLeonardが退職しました。当時外科部門の中に放射線科が存在していたため、誰かがこの業務を引き継ぐ必要がありました。外科部長の命により、結果的にPancoastはこの任に就くことになります。しかしそれは同時に彼にとっては何かを変えるチャンスでもありました。

 彼の活躍により放射線科は一躍有名となりました。当時、放射線科というのは診療科単一として認識されているものではなく、あくまで診断に必要な検査としての付加的な位置付けだったのです。「この病院は当科がないと成り立ちません、他の診療科と同じように必須の診療科です」と彼はのちに述べています。彼は、放射線科の診療科としての確立に奮闘しました。1903年には患者数も伸び、1904年にようやくペンシルヴァニア州立大学で診療科として独立することができました。劣悪であった職場環境が一気に改善することになりました。彼は、主に放射線治療分野での研究を重ね、1911年にペンシルヴァニア州立大学放射線科教授になりました。こうしてPancoastは、アメリカ合衆国で最初の放射線科教授として名を馳せたのです。

 1932年に肺尖部の肺癌を報告しました。これが今にPancoast腫瘍として名を残す論文です。そして、7年後の1939年5月20日にペンシルヴァニア州メリオンにて逝去しました。
Pancoast HK. Superior pulmonary sulcus tumour: tumour characterized by pain, Horner’s syndrome, destruction of bone and atrophy of hand muscles. JAMA 1932;99:1391-6.

 Pancoast腫瘍は、肺尖部に発生して胸壁へ浸潤する腫瘍を総称するものですが、広義解釈として、Pancoast症候群は、腫瘍によって尺骨神経支配の上肢の疼痛や同側のHorner症候群をきたすものと理解されています。
 Detterbeckらにより、厳密なPancoast腫瘍の定義がなされています。「Pancoast腫瘍は肺尖部に発生した肺癌で、肺尖胸壁の構造に浸潤するものである。胸壁に浸潤するのは第二肋骨レベルでありそれ以下のものは肺尖部の浸潤という基準をみたすものではない。胸壁浸潤は、臓側胸膜への浸潤に限定してもよい。あるいは、骨膜や上部肋骨、椎骨に到達してもよい。鎖骨下の血管、腕神経叢や星状神経節に浸潤してもよい。」
Detterbeck FC. Changes in the treatment of Pancoast tumors. Ann Thorac Surg 2003;75:1990-7.

 今でも肺尖部にできた腫瘍のことを、”Pancoast型”という単語にして呼ぶことも多く、呼吸器科医の中で彼の名前は生き続けることでしょう。


<音楽と医学>
モーツァルトの死因は毒殺だったのか?
ラフマニノフはMarfan症候群ではなかったのかもしれない
ショパンの死因は結核ではなかったかもしれない
ベートーヴェンの難聴と肝硬変の原因はワインの飲みすぎによる鉛中毒
ブラームスは外科医ビルロートの親友だった

<偉人たち>
Ziehl-Neelsen染色の考案者1:Franz Ziehl
Ziehl-Neelsen染色の考案者2:Friedrich Carl Adolf Neelsen
Boerhaave症候群の提唱者:Herman Boerhaave
Pancoast腫瘍の提唱者:Henry Pancoast
Clara細胞の発見者:Max Clara
サコマノ法の考案者:Geno Saccomanno
Mendelson症候群の提唱者:Curtis Lester Mendelson
Hoover徴候の提唱者:Charles Franklin Hoover
Gram染色の発見者:Hans Christian Joachim Gram

by otowelt | 2012-10-16 17:46 | コラム:医学と偉人

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