血中fibulin-3濃度によって、アスベストに曝露した健常者と悪性胸膜中皮腫患者を鑑別することができる

フィブリン3と訳しているサイトが多いですが、私たちの知っているフィブリン(fibrin)とは違いますので、ファイブリン3と訳すほうが妥当かもしれません。感度・特異度をみてもその有用性がわかると思いますが、臨床で困ることも多い疾患ですので、是非とも実用化が望まれます。

Harvey I. Pass, et al.
Fibulin-3 as a Blood and Effusion Biomarker for Pleural Mesothelioma
N Engl J Med 2012; 367:1417-1427


背景:
 悪性胸膜中皮腫を早期に発見して個別治療戦略を確立するためには、新規バイオマーカーが必要とされてきた。われわれは、血漿中と胸水中のfibulin-3について、信頼性の高いバイオマーカーかどうか検討すべく感度・特異度を調べた。

方法:
 血漿中(悪性胸膜中皮腫患者92人、非癌アスベスト曝露者136人、中皮腫に関連しない胸水93人、健常コントロール43人)、胸水中(悪性胸膜中皮腫患者74人、良性胸水39人、中皮腫に関連しない胸水54人)、またはその両方のfibulin-3濃度を測定した。その後、盲検によってその妥当性の検証を行った。免疫組織化学的解析によって腫瘍組織のfibulin-3を調べ、酵素免疫測定法によって血漿中・胸水中のフィブリン-3濃度が測定された。

結果:
 血漿中fibulin-3濃度には、年齢、性別、アスベスト曝露期間、X線写真上の変化の程度による差はみられず、悪性胸膜中皮腫患者(デトロイトのコホート 105±7 ng/mL、ニューヨークのコホート 113±8 ng/mL)では、悪性胸膜中皮腫のないアスベスト曝露者(それぞれ 14±1 ng/mL,24±1 ng/mL)よりも有意に高かった(P<0.001)。胸水中fibulin-3濃度は、悪性胸膜中皮腫患者(デトロイトのコホート 694±37 ng/mL、ニューヨークのコホート 636±92 ng/mL)で、悪性胸膜中皮腫に起因しない胸水を呈する患者(それぞれ 212±25 ng/mL、151±23 ng/mL)よりも有意に高いものであった(P<0.001)。
 腫瘍細胞は26検体すべてにおいて、fibulin-3選択的に染色された。悪性胸膜中皮腫がある患者とない患者の比較では、血漿中fibulin-3濃度のROC曲線は、fibulin-3 52.8 ng/mLのカットオフ値で、感度 96.7%、特異度95.5%。早期悪性胸膜中皮腫患者とアスベスト曝露者との比較では、カットオフ値をfibulin-3 46.0 ng/mL とした場合、感度100%、特異度94.1%。盲検による妥当性検証では、アスベスト曝露者96人と悪性胸膜中皮腫患者48人の比較でAUC 0.87 であった。

結論:
 血漿中fibulin-3濃度は、アスベストに曝露した健常者と悪性胸膜中皮腫患者を識別することが可能である。血漿中fibulin-3濃度に胸水中fibulin-3濃度を併用すると、悪性胸膜中皮腫による胸水とその他の悪性胸水・良性胸水とを細かく鑑別することができる。
by otowelt | 2012-10-15 00:14 | 肺癌・その他腫瘍

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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