癌患者さんの気道狭窄に気管ステントはいつ入れるべきか

 私たち呼吸器内科医が見ていて辛いと思う病態の1つに、気道狭窄があります。特に癌の患者さんでは、癌が中枢気道を狭窄することで容易に窒息をきたします。狭窄による呼吸困難感は、患者さんにとって信じられないくらい苦しい症状です。

 「一体いつ気道ステントを挿入するのが妥当なのか?」という疑問を抱いた医療従事者の方は多いと思います。私も何度その疑問を抱いたか知れません。

 気道狭窄があるにも関わらずほとんど無症状の癌患者さんの場合、「無症状だし気道の異物感も大きいんだから、入れる必要は無い」と判断されることがあります。一方、パフォーマンス・ステータスが3や4の癌の終末期の患者さんが気道狭窄で苦しんでいる場合ですと、おそらくステント挿入手技自体が危険と判断されます。じゃあ、そもそも気道ステントを入れるタイミングが無いじゃないか、というジレンマが発生します。

 1990年にDumonがDumonステントを開発してからというもの、様々な気管支ステントが利用されています(Chest 97:328-332、1990.)。しかしながらいまだに気道ステントのガイドラインはなく、一体どのような患者さんに挿入するのがよいか、臨床医によって患者さんの病状によって意見がバラバラなのが現状です。
呼吸器インターベンションのERS/ATS共同ステートメントはありますが、気道ステントの項目は1ページも満たしません。
ERS/ATS statement on interventional pulmonology. European Respiratory Society/American Thoracic Society. Eur Respir J 2002; 19:356.

 ACCPからも呼吸器インターベンションのガイドラインがありますが、気道ステントの項目の記載は極めて少量です。
American College of Chest Physicians. Interventional pulmonary procedures: Guidelines from the American College of Chest Physicians. Chest 2003; 123:1693.

 ガイドラインではありませんが、気管支内視鏡学会雑誌である『気管支学』に興味深い論文があります。岡山赤十字病院呼吸器内科の松尾圭祐先生らが2007年に書かれた論文ですが、非常に共感のできる内容です(気管支学 29:26-29, 2007)。すなわち、以下の症例が気道ステントの適応になるのではないかという提唱がなされています。

1.中枢気道の高度の狭窄があり呼吸困難などの症状を有するか肺機能検査にて気流制限を呈する症例
2.ステント留置により予後の改善が得られる症例
3.狭窄より末梢側の気道や肺が保たれている症例


 この論文によれば、パフォーマンス・ステータス1あるいは2の患者さん、気道ステント挿入後に後治療をおこなった患者さんは、気道ステント挿入後の予後良好因子であるとされています。また気道ステントの種類についても、将来的に抜去の可能性を視野に入れるのであればシリコンステントが良いだろうと述べられています。シリコンスントの場合、全身麻酔が必要であることがほとんどですので、少々侵襲性が大きすぎるのが難点です。そのため、姑息的に金属ステントが選択されることも現場では少なくないと思います。

 あの時、患者さんに気道ステントを入れてあげたらもう少し長生きできたのだろうか、と思うことは呼吸器内科医であれば何度も経験したことがあるでしょう。いや、緩和的鎮静の選択肢でよかったのだと自分に言い聞かせることもあるでしょう。たとえ医師同士のカンファレンスにおいて満場一致の結論であったとしても、その患者さんと最も多くの時間を分かち合った主治医が、患者さんや家族ととことん話し合って悔いの残らないような選択肢を選べたらと常々思っています。

by otowelt | 2012-10-16 00:53 | コントラバーシー

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