石綿に関わる法律やその申請について

※2012年11月13日改訂しました。

 呼吸器科医をしていますと、石綿肺疑いの患者さんが来られることがあると思いますので、呼吸器科医としてある程度は理解しておくことが必要だと思います。おおまかな流れは以下の3点のみです。

①石綿手帳の交付
②労災の申請
③石綿健康被害救済制度の申請

・石綿に関連する健康管理手帳(労働安全衛生法)
 まず、呼吸器科医が出会う石綿肺の患者さんの多くは健康管理手帳を持っている患者さんだと思います。特に指定医療機関の場合には健康診断を多く診ることになるでしょう。石綿の健康管理手帳は、転職または退職して現在石綿に係る業務から離れている方が対象になります。
 事業者は、石綿等を製造し、または取り扱う業務に常時従事する労働者、または常時従事していた労働者であって、現に使用しているものについては、事業者が6か月以内ごとに1回、定期に石綿健康診断を実施する必要があります(労働安全衛生法第66条第2項)。また過去に石綿等を製造し、または取り扱う業務に従事し、健康診断で一定の所見(胸部レントゲン上の異常)がある場合や当該業務に一定の従事期間がある場合は、離職の際に、事業場所在地(離職後は申請者住所地)の都道府県労働局に石綿に係る健康管理手帳(石綿健康管理手帳)の交付の申請をすることにより、石綿健康管理手帳が交付されます(労働安全衛生法第67条)。石綿健康管理手帳が交付された場合、無料で6か月ごとに1回、定期健康診断を受けることができます。
 石綿健康管理手帳は、事業場が倒産等によって現在存在していなくても、申請することが可能です。
 ちなみに、じん肺の健康管理手帳の場合、6ヶ月ではなく1年ごとに1回の定期健康診断となります。
 必要な書類は以下の通りです。
e0156318_1130912.jpg
※粉じん業務の場合は、(3)の書類は必要なく、(1)及び(2)の書類に加えて、じん肺管理区分決定通知書(管理2または管理3)の写し
※石綿業務の胸部所見の要件による申請の場合は、(1)(2)および(3)の書類に加えて、次の1または2のどちらかが必要です。
 1.胸部エックス線直接撮影または特殊なエックス線撮影による写真及び不整形陰影または胸膜肥厚の陰影がある旨の記述等のある医師による診断書(同様の記載のある石綿健康診断個人票またはじん肺健康診断結果証明書の写しでも可)
 2.じん肺管理区分が管理2以上のじん肺管理区分決定通知書の写しおよび当該決定の際に都道府県労働局長に提出されたじん肺健康診断結果証明書の写し


申請用紙は、各地の労働基準監督署で入手できますが、申請先は地方労働局です。地方労働局の安全衛生課(安全課と労働衛生課に分かれている局においては労働衛生課)が事務を担当しています。

・労働災害(労働者災害補償保険法)
 労働災害(労災)によって療養補修給付が認定されれば、医療費が無料になります。そのため、健康管理手帳は実質的に無意味になりますので、注意が必要です。 健康管理手帳交付と労災申請のいずれを行うべきかは医療従事者が判断しなければならないこともあります。患者さん本人や医療事務の仕事だと割り切ってしまわれる呼吸器科医の先生も多いと思いますが、これは患者さんの健康被害に対する正当な制度で、医学的にも難しい内容ですので主治医が積極的に協力する必要があります。
 まず、じん肺の管理区分は、管理1、管理2、管理3イ、管理3ロ、管理4の5段階に分かれています。数字が大きくなるに従いじん肺の病態は重度になっていきます。じん肺法によって、管理区分の規定がこのじん肺の胸部X線所見に基づいて分類されています。
e0156318_1132960.jpg
※著しい肺機能の障害とは、以下のいずれかを満たすものである。
 (ア)パーセント肺活量(%VC)が60%未満である場合
 (イ)パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、次の①または②に該当する場合
  ①1秒率が70%未満であり、かつ、パーセント1秒量が50%未満である場合
  ②動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下である場合または肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)が年齢別の限界値を超える場合(だいたい32~35Torrあたりです)
e0156318_11322889.jpg
 石綿肺の場合、じん肺管理区分2または3のみでは健康管理手帳の要件を満たすだけですが、一定の合併症が伴えば労災認定の要件も充足することになりますので、医師はこの労災認定の要件についても知っておく必要があります。おおまかには、石綿肺であれば管理区分2または3で合併症(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸)にかかっているとき、管理区分4の場合に労災申請が可能です。肺がんや中皮腫の場合、管理区分申請がなくとも労災認定を申請することが可能です。呼吸器科医であれば特に中皮腫の患者さんから相談を受けることが多いと思いますが、基本的に悪性中皮腫の病理学的診断が明確で、1年以上の石綿曝露があれば認定されます。どういうわけか、胸膜肥厚斑や石綿小体がないので申請できないと思い込んでおられる医療従事医者は多いです(肺がんの申請と混同されているようです)。中皮腫の場合、これらの所見がなくとも協議の上認定されることも多々あります。ただし、悪性胸膜中皮腫の病理診断と臨床診断が合致していないと認定されないこともありますので注意が必要です。ただ、いくら規定を作ってもそれに該当されない方や境界線上のような方もたくさんいらっしゃいます。複雑な場合はとりあえず労働基準監督署に相談するようおすすめする方がよいと思います。
以下にそれぞれの疾患について詳しく記載します。

1.石綿肺
 石綿ばく露労働者に発生した疾病で、じん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺は業務上の疾病として取り扱います。(じん肺管理区分が管理2以上の石綿肺に合併した次の疾病は業務上の疾病として取り扱います。肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸がこれに含まれます。

2.肺がん (中皮腫の認定より厳しめです)
石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、以下のa.またはb.に該当する場合には、業務上の疾病として取り扱います。
 a.じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること。
 b.次のi.又はii.に掲げる医学的所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。
   i.胸部エックス線検査、胸部CT検査、胸腔鏡検査、開胸手術又は剖検により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること。
   ii.肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること。
なお、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくても、
・5000本以上の石綿小体(乾燥肺重量1g当たり)
・5μm超の場合で200万本以上の石綿繊維(乾燥肺重量1g当たり)
・2μm超の場合で500万本以上の石綿繊維(乾燥肺重量1g当たり)
・5本以上の石綿小体(気管支肺胞洗浄液1ml中)
のいずれかが肺内に認められた場合には、その原発性肺がんは業務上の疾病として取り扱うことができます。そのほか石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たないものの、上記i.やii.に該当する医学的所見が得られているという場合には、労働基準監督署長は本省に協議して判断することになります。

3.中皮腫
 石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって、次のa.またはb.に該当する場合には、業務上の疾病として取り扱います。
 a.じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること。
 b.石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。
労働基準監督署長が中皮腫の業務上外の判断を行う場合、病理組織検査記録等を収集し、確定診断がなされているかを確認します。病理組織検査が行われていない事案については、臨床所見、臨床経過、臨床検査結果、他疾患との鑑別の根拠等を確認することになります。

4.良性石綿胸水
 石綿ばく露労働者に発症した良性石綿胸水については、石綿ばく露作業の内容及び従事歴、医学的所見、療養の内容等を調査の上、協議することになります。

5.びまん性胸膜肥厚
 石綿ばく露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって、次のa.またはb.のいずれの要件にも該当する場合は、業務上の疾病として取り扱います。
 a.胸部エックス線写真で、肥厚の厚さについては、最も厚いところが5mm以上あり、広がりについては、片側にのみ肥厚がある場合は側胸壁の二分の一以上、両側に肥厚がある場合は側胸壁の四分の一以上あるものであって、著しい肺機能障害を伴うこと。
 b.石綿ばく露作業への従事期間が3年以上あること。
なお、上記a.に該当するもののb.には該当しないびまん性胸膜肥厚の事案は、協議することになります。

 なお、労災には、療養補償給付(病院でかかる医療費)、休業補償給付(労災によって賃金が得られないための補償)、傷病補償年金(療養1年半後も傷病が治らないとき)、遺族補償給付などがあります。下図は、呼吸器科医も書類に記載することが多い療養補償給付と休業補償給付の流れです。
e0156318_11342275.jpg

・石綿(アスベスト)新法:石綿による健康被害の救済に関する法律
 この法律は労災が認められない「隙間」に落ち込んでしまった患者さんや家族に対して迅速な対応を目的に制定された法律です。 2006年2月10日に公布されました。同年3月20日から申請受付となっています。その後、「石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律」が2008年7月1日に本法施行令が改正され、指定疾病に「著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺」及び「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」が追加されることとなりました。労働者がアスベストによって病気になった場合は、労災補償の対象となりますが、労働者の家族やアスベスト工場の周辺住民は、労災保険給付が受けらません。石綿新法は、このような労災補償の枠外に置かれたアスベスト被害者の救済を目的としています。また、死亡後5年以上が経過し、労災保険給付請求権に時効にかかってしまった遺族に対する救済措置も定めています。
新法で救済の対象となる指定疾病は、以下の4種類です。
(1)中皮腫
(2)肺がん
(3)著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
(4)著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
e0156318_11353515.jpg
 また、特別遺族給付金についてこの法律が関与しております。特別遺族給付金には、特別遺族年金と特別遺族一時金があります。特別遺族年金は原則年額240万円、特別遺族一時金は1,200万円ですが、平成34年3月27日までが請求期限です。
 いずれの申請についても、環境再生保全機構に申請することになります。
e0156318_11374077.jpg

e0156318_11385513.jpg



by otowelt | 2012-11-13 11:48 | レクチャー

<< オセルタミビルとザナミビルの長... 実臨床におけるオマリズマブ(ゾ... >>