Mendelson症候群の提唱者:Curtis Lester Mendelson

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 誤嚥性肺炎は呼吸器科医が出会うことが多い肺炎の1つです。そのうち、胃内容物の誤嚥によって起こる重篤な誤嚥性肺炎をMendelson症候群と呼ぶことは呼吸器科医であればご存知でしょう。この症候群は、もともとはアメリカの産婦人科医であるCurtis Lester Mendelsonが全身麻酔による無痛分娩後に生じた重篤な誤嚥性肺炎を報告したことに由来します。そのため、狭義のMendelson症候群は産婦人科領域のものを指します。
Mendelson C.L. The aspiration of stomach contents into the lungs during obstetric anesthesia. Am J Obstet Gynecol 1946;52:191-205.

 1930年代の後半には妊婦における誤嚥性肺炎が致死的になることが認識されており、すでに1937年の文献にその記載があります。また、Mendelsonよりも前に1940年にHallによる妊婦の誤嚥性肺炎による死亡例が15例報告されており、Mendelson症候群という名称は変えるべきではないかという意見もあります。
・Apfelbach CW, et al. Alterations in the respiratory tractfrom aspirated vomitus. JAMA. 1937;108:503.
・Hall CC. Aspiration pneumonitis. JAMA. 1940;114:728-33.
・Ravalia A. Should Mendelson's syndrome be renamed? Anaesthesia. 2000 Oct;55(10):1040.


 Mendelsonは、1913年9月4日にニューヨークで生まれました。彼は、イサカ市のコーネル大学で医学を学び1938年に医学部を卒業しました。彼はその後コーネル大学と提携していたニューヨーク病院で臨床教育を受け、すぐに彼の将来の専門分野となる産婦人科に没頭しました。彼は1959年まで21年間ニューヨーク病院で働きました。1932年から1945年の間にニューヨーク病院の産科手術後に起こった重篤な誤嚥性肺炎66例を報告しました。40000例以上の患者さんから66例を抽出しており、当時非常にセンセーショナルな報告になりました。そしてこの症候群は、のちにMendelson症候群と呼ばれるようになりました。
Mendelson C.L. The aspiration of stomach contents into the lungs during obstetric anesthesia. Am J Obstet Gynecol 1946;52:191-205.

 1941年にMendelsonは栄養士のMarie Krauseと結婚しました。1959年に、パイロットの免許を取得したMendelsonは、夫婦そろって西インド諸島を旅しました。Mendelsonは非常にこれらの島々を気に入り、バハマのグリーンタートルケイで医師として働くことになりました。妻もそれに賛同し、今までの生活とは一変した離島診療に携わることになりました。
 Mendelsonは1960年に『妊娠と心臓疾患』を出版し、同じ年に妻も『栄養と健康』を出版しました。面白いことに、同時期に出版された妻の本の方の売れ行きがよく、Mendelsonの本は初版で終わった一方で妻の本は少なくとも9版出版されたといいます。これは文才の差なのでしょうか。
 1961年にニューヨーク病院の産婦人科教授のポストをMendelsonは辞退し、彼は1990年までの間、島の診療を続けました。晩年はフロリダ州ウェストパームビーチに引っ越したそうです。没年は不明です。



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by otowelt | 2012-12-14 21:31 | コラム:医学と偉人

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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