胸部CTにおける蜂巣肺の定義

・はじめに
 胸部CT、特に高分解能CT(HRCT)でUIP(usual interstitial pneumonia)を示唆する線維化の終末像を蜂巣肺・蜂窩肺(honeycomb lung・honeycombing)といいます。蜂巣肺はUIPに特徴的とされており、感度90%・特異度86%との報告があります。しかし、サルコイドーシスや慢性過敏性肺炎など慢性間質性肺疾患でもhoneycomb lungは観察されます。
Flaherty KR, et al. Clinical significance of histological classification of idiopathic interstitial pneumonia. Eur Respir J. 2002 Feb;19(2):275-83.
 しかしながら、胸部CT写真を目の前にして呼吸器科医や放射線科医の間でも「これは蜂巣肺だ」「いやこれは蜂巣肺でない」と意見がわかれることが多々あります。病理学的な蜂巣肺と放射線学的蜂巣肺がしばしば混用されていることもありますが、呼吸器科医がよく使用する蜂巣肺という言葉は主に後者であるため、本項では後者を主体に記載させていただきます(病理学的に観察される蜂巣肺は胸部CT上ではスリガラス影をきたすこともよくあります)。

 放射線学的な蜂巣肺の定義とは、現在どのように認識されているのでしょうか。

・蜂巣肺の定義の歴史
 英語の文献をさかのぼると、1949年OswaldとParkinsonによってhoneycomb lungという言葉が造られました。これは肺切片の肉眼的所見を記述したものであり、最大1cmのサイズまでの大小様々な薄壁嚢胞がみられるものと記載されました。そのため、当時は現在のように肺の線維化の終末像だけでなく、リンパ脈管筋腫症や気管支拡張症などによる病変もhoneycomb lungに含まれました。
Oswald N, et al. Honeycomb lungs. Q J Med. 1949 Jan;18(69):1-20.
 放射線学的な用語としては、1968年に“胸部レントゲンで2~10mmの多発性の透過性亢進が観察されること”と記述されました。CT検査がなかった時代にすでに認識されていた用語であることに驚きます。
Johnson TH Jr. Radiology and honeycomb lung disease. Am J Roentgenol Radium Ther Nucl Med. 1968 Dec;104(4):810-21.
 1970年代には有名な放射線科医であるFelsonにより、その疾患多様性から慢性間質性の肺線維症を主体に組み込むべきで、気管支拡張症や気腫性疾患は除外すべきと述べられました。この頃から、honeycomb lungという言葉は間質性肺疾患の終末像としての線維化を表す言葉へ変遷を始めます。そして科学の発展によってHRCTが登場してから、肺の構造が肺の肉眼的所見に迫ることができるくらいにCTで詳しく観察できるようになりました。1984年にFleischner Societyは、honeycombingについて以下のように言及しました。すなわち“径5~10mmの密集した嚢胞状の気腔で、壁の厚さは2~3mmであり、これは肺の終末像を示唆するものである”と。
Tuddenham WJ. Glossary of terms for thoracic radiology: recommendations of the Nomenclature Committee of the Fleischner Society. AJR Am J Roentgenol. 1984 Sep;143(3):509-17.
 Fleischner Societyはさらに1996年、honeycombingについて以下のように再度発表しました。“径3~10mmの密集した嚢胞状の気腔(時に2.5cmの大きさの嚢胞になりうる)で、明瞭な厚い壁で囲まれる。これは、びまん性肺線維症の胸部CT所見の特徴である。”
Austin JH, et al. Glossary of terms for CT of the lungs: recommendations of the Nomenclature Committee of the Fleischner Society. Radiology. 1996 Aug;200(2):327-31.
 そして最も新しいFleischner Societyの定義では、“径3~10mmの密集した嚢胞状の気腔(時に2.5cmの大きさの嚢胞になりうる)で、通常胸膜直下に厚さ1~3㎜の明瞭な壁が観察されるもの”と記載されています。この定義では、以前言及されていなかった壁の厚さについて記載されています。また、この論文で重要な記載があります。それは、honeycombingと記載することで、イコール肺の線維化の終末像を示唆することになってしまうため、定義に引きずられて患者さんの治療方針やケアが変わってしまう可能性があるので、この言葉を用いる際には慎重を期するということです。
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▲典型的蜂巣肺
Hansell DM, et al. Fleischner Society: glossary of terms for thoracic imaging. Radiology. 2008 Mar;246(3):697-722. より引用
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▲▲典型的蜂巣肺(自験例)

 2011年のアメリカ胸部疾患学会・ヨーロッパ呼吸器学会・日本呼吸器学会・ラテンアメリカ胸部学会の合同ステートメントでもこの2008年のFleischner Societyの定義が採用されており、国際的にコンセンサスがあるhoneycombingの定義は2013年1月の現時点ではこの定義になります。
Raghu G, et al. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):788-824.
 しかし、論文の著者によってhoneycombingの径や壁の厚さが様々なので注意が必要です。ただ共通のコンセンサスとしてhoneycombingは、個々が壁を互いに共有するという点が挙げられます。主に呼吸細気管支と肺胞道が周囲組織の線維化により牽引され拡張したものであり、単に嚢胞性気腔や嚢胞と呼ばれる薄い壁に境界された空間とは区別されるべきです。そのため、牽引性気管支拡張症はhoneycombingとは呼びません。
Webb WR, et al. Standardized terms for high-resolution computed tomography of the lung: a proposed glossary. J Thorac Imaging. 1993 Summer;8(3):167-75.
 また、牽引性でなくとも気管支拡張症自体が物理的に個々に近接するとhoneycomb lungのようにみえることもありますので注意が必要です。
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▲右下葉気管支拡張症
Arakawa H, et al. Honeycomb lung: history and current concepts. AJR Am J Roentgenol. 2011 Apr;196(4):773-82.より引用

 日本では、嚢胞の大きさがそろっていることや、胸膜直下に二層(複数列)以上並ぶことも重視する立場があります。ただしかしながら、HRCTの性能によって見えるhoneycombingの大きさはまちまちであり、またその切片の薄さによっては大小不同になることは容易に想像できます。また、線維化が進行すると大小不同のhoneycombingを呈することは呼吸器科医の多くが経験していることでしょう。またスライス厚によってもその評価には差が出ます。たとえば0.5㎜スライスと2.5㎜スライスを比較すると、画像上同定できるhoneycombingには幾分か差異が見受けられます。
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Nishimoto Y, et al. Detectability of various sizes of honeycombing cysts in an inflated and fixed lung specimen: the effect of CT section thickness. Korean J Radiol. 2005 Jan-Mar;6(1):17-21. より改変引用

・定義上、蜂巣肺とオーバーラップする症例
 いくら定義を決めても、放射線科医の間でもhoneycombingかどうか一致しないという結果が報告されています。これは、教科書的なhoneycomb lungが日常臨床でそれほど多くないこと、喫煙歴や肺の合併症を有しているとその所見が修飾されてしまうことが大きな要因であろうと考えられます。
Watadani T, et al. Interobserver Variability in the CT Assessment of Honeycombing in the Lungs. Radiology. 2012 Dec 6. [Epub ahead of print]
 たとえば気腫性病変を有している患者さんの下葉に網状影が増加してきた場合、間質性肺炎の初期であってもhoneycomnb lungのように見えることがあります。また、重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)に感染を併発するとコンソリデーションがhoneycombingのように観察されることはよく経験します。他にも、HIVに合併したニューモシスティス肺炎や、胸膜直下に病変が多いLangerhans細胞組織球症など、呼吸器科医を長くやっていると日常臨床でhoneycomb lungによく似たCT像によく遭遇します。
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▲10年来在宅酸素療法を続けていた重度のCOPDに肺炎球菌性肺炎を合併した症例(自験例)。combined pulmonary fibrosis and emphysema(CPFE)と認識できる像もあるが、今までの臨床経過から気腫性変化が主体と考えられた。
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▲HIVを合併したニューモシスティス肺炎の症例(自験例)。胸膜直下に複数列の壁のやや厚い嚢胞性病変が観察されるが、嚢胞のサイズが極めて不均一で大きい。

・まとめ
 現時点で世界的にコンセンサスのある蜂巣肺の定義は2008年のFleischner Societyによるもので、「径3~10mmの密集した嚢胞状の気腔(時に2.5cmの大きさの嚢胞になりうる)で、通常胸膜直下に厚さ1~3㎜の明瞭な壁が観察されるもの」です。
 honeycombingは、UIP パターンとpossible UIP パターンの鑑別のための重要な所見で、外科的肺生検の適応を決定する上でも重要です。どの程度の胸部CTの特徴をもってhoneycombingと定義するかは、特に臨床試験に登録するような患者さんの場合には臨床上きわめて重要であることには違いありません。ただ、実臨床において患者さんの画像を目の前にして「これは蜂巣肺か否か」という議論を行うことは実はあまり大きな意味を持たないように思います。蜂巣肺の存在が、ある疾患に極めて特異的であり患者アウトカムや治療方針に劇的な変遷をもたらすものであれば、その議論には多大な意味を孕みます。しかしながら、最も臨床試験が進んでいる特発性肺線維症ですらまだ劇的にアウトカムを変える治療薬が登場していない現在では、その定義に関する議論を細やかに詰めることにこだわる必要はないと私は考えます。もう少し治療分野が発展してから詳細に議論されるべき分野ではないかとも感じます。
 もっとも重要なのは、目の前の患者さんのHRCT所見が蜂巣肺か否かという議論ではなく、その患者さんの線維化が進んでいる原因を何だと考えており、どういった治療方針を主治医が想定しているかという点だろうと思います。

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    文責:近畿中央胸部疾患センター  倉原 優 



by otowelt | 2012-12-21 12:07 | レクチャー

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