死亡確認の方法について

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・はじめに
 多くの医師は、患者さんの死と向き合わなければなりません。特に癌を診療している医師は、患者さんの生と死と長期間にわたって向き合う必要があります。肺癌や間質性肺炎の診療している呼吸器内科医は、平均的に1ヶ月に1~2人の患者さんの死亡確認をしていると思います。
 はたして、医師はどのようにして死亡確認をおこなっているのでしょうか。これについて教科書にもウェブサイト上にもあまり記載がなく、個人的に書いてみようと思いました。


・医師が死亡確認について教わるとき
 死亡確認をどのようにして行うのか、医師が最初に教わるのは初期研修医の頃です。多くは、指導医の医師から教わるでしょう。そのため、閉鎖的な文化で受け継がれていく傾向があります。医師はお互いに死亡確認をしている現場を目にすることはまずありませんので、互いの方法について情報交換をすることもあまりありません。


・死亡確認の手順
 果たして死亡確認はどのような方法で行うのが正しいのでしょうか。多くの場合、睫毛反射・対光反射(直接反射、間接反射)の消失、胸部聴診(心音・呼吸音の確認)、橈骨動脈・頸動脈の触診をおこない、心電図モニターで脈拍がゼロで平坦であるのを確認し、家族に向かって死亡宣告をおこなう、といった方法がとられていると思います。これらの確認は救急救命士にも必要な作業ですが、死亡かどうかをめぐってトラブルになることが昨今ニュースに取り沙汰されていますので、明らかな社会死状態でなければ、救急搬送をおこなうことが通例です。特に、施設入所中の高齢者では死亡の判断自体が困難なこともあります。
Bern-Klug M. Calling the question of "possible dying" among nursing home residents: triggers, barriers, and facilitators. J Soc Work End Life Palliat Care. 2006;2(3):61-85.
 確認作業をもう少し簡略化して、対光反射の消失、胸部聴診、心電図モニターの確認の3点のみで死亡宣告を行う医師もいると思います。この理由は、「死」が医学的に心臓・肺・脳の全ての不可逆的な機能停止と定義されており、それらをすべて満たす他覚的所見が上記の手法であるためです。脳死のように、死亡確認に厳密な基準や指針が策定されているわけではありません。
 ただ死亡の徴候を全てを満たしたとしても、死亡確認を早急におこなうと、心電図波形が微弱に復古することもあるため、ある程度の時間を待ってから死亡確認を行うことが重要です。ほぼ完全に死の徴候を満たした状態であっても、心拍数だけが心電図モニター上弱く脈打っていることがあります。極端な場合、QRS幅の広い脈拍数20/分くらいの微弱な脈が30分くらい続くこともあります。個人的には心電図波形が平坦になるのを待って死亡確認していますが、無脈性電気活動(PEA)と判断して死亡確認をする医師も目にしたことがあります。


・死亡宣告
 死亡確認をおこなった主治医は、家族の前で死亡宣告することが多いです。その際、色々な言い方があると思いますが、医師の方々はどのような言葉を使用しているでしょうか。

「○月×日△時□分、死亡を確認しました」
「○月×日△時□分、御臨終です」
「○月×日△時□分、お亡くなりになりました」

 私個人としては「死亡を確認しました」という言葉を使っています。本来「御臨終」は「終わりに臨んでいる」と言う意味で、死亡した直後に用いる言葉としては本来不適切なものです。しかし、日本人は「死」と言う言葉を忌み嫌う傾向があるため、臨終という言葉を便宜的によく使用するようです。
 ケースバイケースですが、そういった言葉の後に、「よく頑張られましたね」「生前家族様にこんなことをおっしゃっていましたよ」といった家族の皆さんが死を受容しやすくするよう声掛けをおこなうことが多いと思います。
 アメリカの場合、"His/Her heart stopped." "He/She passed away."などと言うのが一般的で、その後に"I am sorry ~."とお悔やみの言葉を述べることが多いです。日本と同じ理由で、died, deathという直接的な言葉はあまり使用しません。


・死亡時刻の確認
 死亡時刻は死亡診断書に記載する必要がありますので、病院での自然病死だと分単位まで記録することが多いです。しかし、そもそも死亡時刻を正確に死亡確認の場で家族に告げる必要があるかどうか、という議論もあります。この死亡時刻を宣告する行為は儀式的なもので、特にマスメディア(特にテレビドラマ)の影響が大きいように思われます。必ずしも家族に告げる必要はありません。
 院内感染対策の観点から腕時計をしていない医師も多く、だからといってPHSや携帯電話で時刻を確認することは、遺族の方々に失礼にあたる可能性が高いです。現代では携帯電話の液晶画面の時計の方が、針時計よりも正確かもしれませんが、死亡確認の際に携帯電話を取り出されるとやはり違和感を感じてしまいます。病室に時計があればよいと思いますが、そうでなければ腕時計をその時だけ持参するか、看護師さんに借りるといった工夫が必要になります。あるいは死亡確認の作業に入る前に、部屋の隅で現在の時刻を確認しておくという方法もあるでしょう。


・さいごに
 どのような死亡確認の方法であったとしても、それが臨床的に妥当性のあるものであれば問題ありません。しかし、死にゆく人に一人の人間として畏敬の念をもって接することが最も大事だろうと思います。


by otowelt | 2013-02-11 16:45 | 内科一般

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