放射線食道炎の治療にエビデンスはあるのか?

●はじめに
 放射線食道炎は、肺癌治療のみならず頚胸部放射線治療を受けた患者さんの多くが経験する副作用であり、食事に関するQOLを著しく低下させるものです。典型的には放射線治療開始から2~3週間程度で発症します。抗癌剤を併用しているケースだと放射線食道炎のリスクは上昇すると言われており、また血球減少の時期と重なることがあるためカンジダ食道炎と鑑別が困難な場合があります。
 当然ながら食道に照射される線量がリスク因子となりますが、28Gyをカットオフ値にした場合グレード2以上の食道炎が有意に多くなると考えられています。
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Aytul Ozgen, et al. Mean esophageal radiation dose is predictive of the grade of acute esophagitis in lung cancer patients treated with concurrent radiotherapy and chemotherapy. J Radiat Res. 2012 November; 53(6): 916–922.
 また、非小細胞肺癌に対する放射線治療では、TGFβ1の一塩基多型が重篤な放射線食道炎と関連しているのではないかと示唆されています。
Guerra JL, et al. Association between single nucleotide polymorphisms of the transforming growth factor β1 gene and the risk of severe radiation esophagitis in patients with lung cancer. Radiother Oncol. 2012 Dec;105(3):299-304.


●放射線食道炎の治療
・食事の工夫
 固形物を少なくする、流動食を増やすといった工夫をおこないます。これは治療というよりも、食道炎症状を緩和する方法と考えてよいと思います。
Sasso FS, et al.Pharmacological and dietary prophylaxis and treatment of acute actinic esophagitis during mediastinal radiotherapy. Dig Dis Sci. 2001 Apr;46(4):746-9.

・アルギン酸ナトリウム
 従来より、放射線食道炎に対して粘膜保護剤であるアルギン酸ナトリウム(アルロイドG®、アルクレイン®)の効果が報告されています。
安達秀樹ら. 放射線食道炎及び直腸炎に対するアルギン酸ナトリウムの臨床効果. 日本癌治療学会誌1985; 20(3): 618-624.
 わずかながらの効果しかないだろうと考えられていますが、副作用が少ないため日本の臨床現場でも汎用されています(個人的には美味しくないと思っているのですが)。
Sur RK, et al. Oral sucralfate in acute radiation oesophagitis. Acta Oncol. 1994;33(1):61-3.
 ステロイドを混合することでより効果をもたらすという報告もあります。
鈴木道明ら. ステロイド混合薬局所投与による放射線食道炎治療の検討.日本胸部臨床1999 ;58(3): 219-222.

・グルタミン酸
 レトロスペクティブ試験ですが、グルタミン酸が口腔粘膜炎や食道炎の発症を抑制することができたという報告があります。リスク差は口腔粘膜炎が-9.0% (95%信頼区間-18.0%~ -1.0%)、食道炎が-14.0% (95%信頼区間-26.0%~ -1.0%)。また、その後の体重減少や栄養サポートの必要性を減少させることができたとされています。
Vidal-Casariego A, et al.Efficacy of glutamine in the prevention of oral mucositis and acute radiation-induced esophagitis: a retrospective study. Nutr Cancer. 2013;65(3):424-9.

・漢方薬
 どの種類の漢方薬なのかは判然としませんが、中国の漢方薬全般が西洋の薬剤に優越性であるというメタアナリシスがあります。読んでみると、いささかこの妥当性には疑問符がつきます。
Lu JZ, et al. Meta-analysis of Chinese medicines for prevention and treatment of radiation esophagitis. J Tradit Chin Med. 2012 Jun;32(2):137-42.
 中でも、芍根湯の報告が多いように思います。乳癌患者さん60人を対象にした試験では、グレード2以上の急性食道炎の発症が、漢方薬投与群ではコントロール群と比較して有意に低かったと報告されています(33.3% vs 63.3%、P<0.05)。
Zhang J, et al. Clinical observation on effect of shaogen decoction for the prevention and treatment of acute radiation esophagitis. Zhongguo Zhong Xi Yi Jie He Za Zhi. 2010 Dec;30(12):1272-4.
 白芍が放射線食道炎に対してサブスタンスPを抑制することによって疼痛を軽減させたという報告もあります。 
Wang Z, et al. Pain‑relieving effect of a compound isolated from white peony root oral liquid on acute radiation‑induced esophagitis. Mol Med Rep. 2013 Jun;7(6):1950-4.

・スクラルファート
 当初スクラルファートについてはアルギン酸よりも効果的であると考えられていました。
Sur RK, et al. Oral sucralfate in acute radiation oesophagitis. Acta Oncol. 1994;33(1):61-3.
 しかしながらその後のプラセボとの比較試験で、効果がないのでは、と指摘されています。
McGinnis WL, et al. Placebo-controlled trial of sucralfate for inhibiting radiation-induced esophagitis. J Clin Oncol. 1997 Mar;15(3):1239-43.
 腐食性の食道炎の炎症後狭窄を予防する意味合いではスクラルファートは意味があるかもしれません。
Gümürdülü Y, et al. The efficiency of sucralfate in corrosive esophagitis: a randomized, prospective study.Turk J Gastroenterol. 2010 Mar;21(1):7-11.

・プロトンポンプ阻害薬、リドカイン
 これらについては、検索した限りでは比較試験はありませんでした。レビューに記載があるのみです。
Berkey FJ, et al. Managing the adverse effects of radiation therapy. Am Fam Physician. 2010 Aug 15;82(4):381-8, 394.


●まとめ
 多くの場合、治療後3週間以内に粘膜の再生がおこなわれるため、自然軽快します。
Phillips TL, et al. Time-dose relationships in the mouse esophagus. Radiology 1974; 113:435.
 一部のケースでは、後期障害として嚥下障害や違和感を訴えることもあります。
 現状として、治療や予防についてはほとんどエビデンスがなく、前向きの臨床試験が望まれるところだと思います。



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by otowelt | 2013-06-12 00:38 | 肺癌・その他腫瘍

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