「ガーグルベース」か「ガーグルベースン」か

e0156318_21444052.jpg ふざけたテーマに見えるかもしれませんが、いたって本気です。
 洗面所に行けない患者さんがベッドサイドでうがいや嘔吐をした後などに受け取る簡易式の容器を、「ガーグルベース」あるいは「ガーグルベースン」といいます。果たしてどちらの言葉が正しいのでしょうか?


●ガーグル
 当院の何人かのスタッフに聞いてみたところ、「アヒルの鳴き声だと思ってた」という人が多かったですが(うがいをするときの声がアヒルの鳴きまねに似ているとか)、ガーグルはgargle、すなわち英語で「うがい」という意味です。
 ただし、海外では”うがい”の文化は根付いていません。そのため、gargleという言葉よりもmouse washなどの語句のほうがしっくりくるようです。


●ベース vs ベースン
 吐物の受け皿の大手メーカーであるアイエスケー株式会社(http://www.isk-tokyo.co.jp/index.html)では、ガーグルベース®(http://www.isk-catalog.com/35.html)という商品名でこの製品が発売されています。多くの病院ではこのタイプが使用されています。ウェブサイトによれば、特長としては、
 1.カップのふちの曲線は、頬に密着する。
 2.重ねて保管できるので場所をとらず便利(10個=17cm)。
 3.深いので吐物が飛び散る心配がなく、軽いので握力のない老人小児にも最適。
と記載されています。なぜ三日月型に彎曲しているのか疑問に思っていましたが、確かに曲線があることで頬に密着しやすいですね。材質はポリプロピレンで、重さは90gです。

 しかしよく見てみると、一般名のところに「口腔衛生汚物受小型ベースン」と記載されています。これは一体どういうことでしょうか。医療製品の販売サイトを見てみると、英語表記では「gargling basin」と記載されています。どうやら、商品名がガーグルベース®であり、一般名がガーグルベースンのようです。

 ベースン(basin)は”たらい”や”盆”という意味の言葉です。日本では古来から嘔吐物などを膿盆を使っていた歴史がありました。膿盆は今でも外科回診などで使用している病院もあるかもしれませんが、明治時代や昭和時代は膿盆はいろいろな用途で使用されていました。膿盆の多くが金属製でしたから、重さや管理に不都合が多かったようです。そのため、ポリプロピレンのような軽量化した製品が登場するようになりました。これを当初、嗽盥(うがいだらい)と呼び、英語化されてガーグルベースンという言葉が登場しました。本来の英語読みであれば、正しくは「ベイスン」と発音すべきかもしれませんね。

 日本ではベースン(basin)という言葉に馴染みがなかったため、ベースという言葉が選択されたのかもしれませんが、この商品名にいたった経緯は不明です。なお、ドイツ語の場合、basinは「Becken」「Tray」「Tub」などと呼ぶのが一般的で、ベースという言葉はドイツ語ではないそうです。

 ちなみに英語では「gargling basin」よりも「emesis basin」のほうが一般的です。その理由は、上記のように海外で「うがい」という文化が根付いていないからです。


●ガーグルベースンの臨床試験
 このブログの読者の皆様は、「じゃあガーグルベースンの臨床試験はないのか」と期待されているかもしれません。いろいろ調べてみたのですが、術後の嘔吐にはガーグルベースンがあったほうがよいだろうというワシントン大学のスタッフのご意見があっただけで、具体的な臨床試験や感染リスクなどの報告は見つけられませんでした。
Watcha MF, et al. Postoperative nausea and vomiting. Its etiology, treatment, and prevention. Anesthesiology. 1992 Jul;77(1):162-84.






by otowelt | 2013-06-19 00:09 | コントラバーシー

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