pneumonia(肺炎)とpneumonitis(肺臓炎)の違いとは?

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・はじめに
 一般的な肺炎のことをpneumoniaと英語表記することはご存知と思いますが、pneumonitis(肺臓炎)という類似の病態があります。代表的なものが過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonitis)です。昔は過敏性肺臓炎と呼ばれていましたが、現在では”臓”という文字を省略し、過敏性肺炎と呼びます。日本呼吸器学会もこの呼び名を使用しています(http://www.jrs.or.jp/home/modules/citizen/index.php?content_id=16)。そのほかにも放射線肺臓炎は放射線肺炎、薬剤性肺臓炎は薬剤性肺障害と呼ばれるようになりました。

 日本では、基本的にはpneumoniaもpneumonitisも”肺炎”と表記するようになりました。しかし、これら2つの用語の違いは、私たち呼吸器科医にとっても”呼吸器内科7不思議”の1つといっても過言ではありません。果たしてこれらの違いとは一体何なのでしょうか?


・語源の違い
 そもそもpneumoniaの「-ia」は「制限される」という意味が語源になっています。マラリア(Malaria)、貧血(anemia)なども同じ語源です。そのため、肺(pneumo-)が何らかの原因で制限されている病態を漠然とあらわした言葉であり、元来肺炎を意味する言葉ではありません。一方pneumonitisの「-itis」は「炎症」を表す言葉であることはご存知のことと思います。語源としては後者の方がより具体的ではあります。

 pneumoniaは病理学的な情報を含んでいないというエキスパートオピニオンがあります。一方で、pneumonitisは”肺(実質間質を問わず)に炎症が起こっていること”を表す単語に過ぎず、それは病理学的な意味合いも包括すると考えられることがあります。もう少し噛み砕くと、「細菌感染が肺に起こっている、治療が必要な状態である」というものを典型的なpneumonia、「原因はともかくとして、肺に炎症が起こっている」というものを典型的なpneumonitisと呼ぶのが最初の起源だったようです。
Coope R. Pneumonitis. Thorax 1946;1:26-29.

 極端な場合、炎症が起こっていないpneumoniaというのもありえた時代があったのかもしれません。現在では上記の起源は薄まり、pneumoniaは「感染」を意味し、pneumonitisは「炎症」を意味するように変遷を遂げました。これについては後で述べます。


・病変の場所が違う
 欧米の医師がpneumoniaとpneumonitisを使い分けているポイントは、2つあります。その1つが病変の場所が違うという点です。基本的に細菌性肺炎などのように肺胞性の炎症が起こる場合をpneumoniaと表記し、肺胞以外の間質などに炎症を起こす場合をpneumonitisと使い分けています。

 過敏性肺炎は、吸入抗原によって起こる病態ですから、肺胞腔内に器質化所見がみられ細気管支炎の像も観察されます。典型例だとリンパ球性胞隔炎がみられ、今述べたようなpneumonitisという表記で矛盾のない病態でもあります。慢性化すると細気管支中心性の間質性肺炎像がみられ、小葉中心性の線維化が進行するため、pneumonitisの表記にふさわしい疾患に変貌を遂げます。

 しかしながら、間質性肺炎の場合「interstitial pneumonia」と記載します。間質に病変の主座を置くこの疾患が、なぜpneumonitisではなくpneumoniaなのでしょうか?これは、間質性肺炎が認知され始めた初期に、病変の主座がわからず胸部レントゲンで認識される原因不明のスリガラス影として捉えられていた歴史があるためと考えられています。そのため、医学が進歩して間質の炎症であることがわかった後、pneumoniaという表記は間違いではないかという論争もありました。
Spencer H. Interstitial Pneumonia. Annual Review of Medicine 1967; 18:423-440.

 しかし近年では、すでにpneumonitisという単語が”外因性”という特性を色濃く持つようになったことから、特発性間質性肺炎はpneumonitisにはなりえませんでした。
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・原因が違う
 もう1つのポイントは、原因が異なることです。基本的にはpneumoniaは前述のごとく感染症によるもので、pneumonitisはそれ以外を指します。特に化学性のものは後者に位置付けられるべきという国際的コンセンサスがあるため、放射線肺炎や大量誤嚥によるMendelson症候群はpneumonitisと表記するようになっています。

 誤嚥性肺炎では原因や発症機序によってその用語を使い分ける必要がありますので、誤嚥性肺炎と言っても「aspiration pneumonia」と「aspiration pneumonitis」のどちらを指しているのか、欧米では明確に区別しているようです。純粋に感染症を示唆する場合には前者、化学性肺炎や間質性肺炎に至るケースは後者と考えています。
Marik PE. Aspiration pneumonitis and aspiration pneumonia. N Engl J Med. 2001 Mar 1;344(9):665-71.

 そのため、「pneumonitis」という言葉を聞いたとき、その接頭語として「chemical(化学性)」や「extrinsic(外因性)」という言葉を想起することが一般的になりました。


・おわりに
 肺臓炎という言葉が肺炎に統合されることが多くなり、日本ではpneumoniaとpneumonitisの区別があまりされなくなりつつあります。しかしながら一言で”肺炎”といっても、肺胞がおかされているのか、間質がおかされているのか、はたまた細気管支がおかされているのか、といったディスカッションは呼吸器科医として極めて重要な診療スタイルだと思っています。


by otowelt | 2013-07-26 00:57 | コントラバーシー

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