ベートーヴェンの難聴と肝硬変の原因はワインの飲みすぎによる鉛中毒

e0156318_174044.jpg・はじめに
 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)(1770年~1827)は、古典派からロマン派にかけての作曲家で、いかなる楽器を手にしても必ず演奏することになる作曲家と言われているほど多様な曲をかいています。

 ベートーヴェンの真髄は交響曲にあると私は思っていますが、個人的にピアノを嗜んでいることもあって、後期のピアノソナタが非常に気に入っています。大学生の頃は熱情ソナタ(op. 57)にあこがれを持っていたものです。

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ピアノソナタ第23番第3楽章Presto(op. 57)

 ベートーヴェンは、20歳代後半から持病の難聴が悪化し、30歳になる頃にはほとんど耳が聞こえなくなってしまいました。補聴器なんてなかった時代です。彼がピアノに耳を当てて作曲をしていたという逸話は、誰しも聞いたことがあるでしょう。そして、とうとう40歳には全聾になりました。

 
・難聴の原因は鉛中毒が有力
 ベートーヴェンの毛髪から通常の100倍近い鉛が検出されて注目を集めました。この原因として、ワインの甘味料として用いられた酢酸鉛とする説が有力です。
Stevens MH, et al. Lead and the deafness of Ludwig van Beethoven. Laryngoscope. 2013 May 17. doi: 10.1002/lary.24120. [Epub ahead of print]

 アルコール依存症に近いくらいにワインを愛していた彼は、腹部症状を長期にわたり訴え、最終的には肝硬変によって死亡します。鉛中毒も肝硬変も、当時のワインをがぶ飲みしていた彼にとっては矛盾のないものであり、鉛中毒による難聴を否定する論調は今のところ出ていません。それにしても、本人はワインが原因だとは思わなかったのでしょうか?
Mai FM. Beethoven's terminal illness and death. J R Coll Physicians Edinb. 2006 Oct;36(3):258-63.

 ちなみに酢酸鉛が甘味料として使われるワインは、当時のヨーロッパでは特に安物の大量発注ワインに多く使われていました。ワインの醸造過程で甘味料として鉛化合物類が頻繁に加えられていたそうです。
Prechtl W. Cheap wine as the cause of death. Beethoven didn't need to die this way. MMW Fortschr Med. 2007 Feb 22;149(8):8.

 鉛中毒が難聴を引き起こすメカニズムについては不明ですが、鉛は不妊や白内障など様々な蓄積症状を呈することが知られており、難聴の頻度についてははっきりとわかりませんでした(逆になぜ難聴で鉛中毒を疑ったのかも疑問)。その他の原因として、先天性梅毒や耳硬化症だったという説もありますが、そういった鑑別診断を正しいとする論調は現時点ではマイノリティです。


・おわりに
 鉛中毒の説もあくまで仮説に過ぎず、彼の本当の疾患については解明されていません。もしベートーヴェンがワイン好きでなければ、未完の10番目の交響曲をかき上げることができたのかは誰にもわかりません。


<音楽と医学>
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<偉人たち>
Ziehl-Neelsen染色の考案者1:Franz Ziehl
Ziehl-Neelsen染色の考案者2:Friedrich Carl Adolf Neelsen
Boerhaave症候群の提唱者:Herman Boerhaave
Pancoast腫瘍の提唱者:Henry Pancoast
Clara細胞の発見者:Max Clara
サコマノ法の考案者:Geno Saccomanno
Mendelson症候群の提唱者:Curtis Lester Mendelson
Hoover徴候の提唱者:Charles Franklin Hoover
Gram染色の発見者:Hans Christian Joachim Gram




by otowelt | 2013-09-14 12:15 | コラム:医学と偉人

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