院内の抄読会を継続させるにはどうしたらよいか?その1

院内の抄読会を継続させるにはどうしたらよいか?その1_e0156318_19254136.jpgはじめに
 「継続は力なり」という言葉があります。大正・昭和に住岡夜晃という宗教家が残した言葉であることはあまり知られていません。「英語文献の抄読会を開催しよう!」と意気揚々と抄読会を立ち上げても、いつの間にか立ち消えになってしまった経験のある医師は少なくないはずです。そもそも、忙しい仕事の合間を縫って抄読会を継続すること自体のハードルが高いのです。
 
 ―――抄読会(しょうどくかい)という言葉は、医療従事者でなければ耳にすることはないと思います。というのも、一般的に認知されている言葉ではないからです(ほとんどの辞書にも掲載されていないようです)。現代語に訳せば「難しい内容の言葉を読み合う会」という意味になります。英語論文を印刷して和訳を述べるスタイルが最もスタンダードなものでしょう。私が初期研修をしていた病院でも、多くの診療科がこれでした。

 当院にもいくつか抄読会があります。家庭の事情もあり、全てに参加できているわけではありませんが、できるだけ参加しようと努力しています。私が今の病院に赴任してまず驚いたのが、朝の抄読会が当時では奇抜なスタイルだったことです。今はその方法がベストだと思っています。当院の実際の抄読会スタイルについてはまた次回に詳しくご紹介します(たいした内容ではないので、決して勿体ぶっているわけではありません)。


・そもそも何のために抄読会をするのか
 おそらく抄読会によって得られる一番のメリットは「最新の医学論文情報を得ること」にあります。一つ論文を読んだからといって、その疾患のすべてを知ったと思うのは傲慢ですが、その論文に記載されている疾患背景や治療概要などを再確認するだけでなく、新しい治療として今どういったものがトピックであるかを知ることができる点は大きなメリットです。

 次のメリットは「医学英語が身に付く」ということです。私は毎日のように英語の医学論文を楽しみに読んでいますが、英字新聞はほとんど読めません。これは、医学論文の言い回しが独特であることと、私の医学英語の語彙力だけが高いためです。残念ながら、私は社会・経済・芸能・スポーツ関連の英語の単語はほとんどわかりません。まあ、医学論文を読めば読むほど医学英語だけが身に付くのは自明の理です。
 
 他の利点は、「英語論文を興味を持って読むことができるようになること」です。私みたいに医学論文雑誌を娯楽雑誌のように読んでいる医師は別として、全ての医師が医学論文を楽しく読めるわけではありません。10ページもある医学論文を読んでも、脳内に快楽物質など微塵も出ない人の方が多いでしょう。しかし英語論文を読むことに慣れれば、何に注意して読めばいいのか、どこに重要なことが書いてあるのか、いつの間にか分かるようになります。要領さえ得られるようになれば、読むことに興味を覚えるようになるはずです。さらに慣れれば、批判的吟味ができるようになります。私はこの批判的吟味が非常に苦手なので偉そうなことは書きませんが、その医学論文が実臨床にインパクトを与えるような内容かどうか、吟味ができるようになります。院内の抄読会を継続させるにはどうしたらよいか?その1_e0156318_19504422.jpg

 毎日医学論文を読んでいる人に抄読会は不要なのか、と問われればそういうわけではありません。たとえば、私は毎週木曜日の朝に当院で開催される肺癌の抄読会に参加していますが、第3相試験などの重要な試験については何度も反芻して損はないと思っています。最近AVAPERL試験という有名な臨床試験の結果がJournal of Clinical Oncologyという雑誌に発表されました(J Clin Oncol. 2013 Aug 20;31(24):3004-3011.)。これは、2013年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されたものです。春にASCOの速報を見て、初夏に自分で論文を読んで、最近の抄読会で同僚が論文を紹介してくれました。さすがに私のような物覚えの悪い人間でも、3回繰り返せば頭に刻み込むことができます。


なぜ抄読会が続かないのか?
 抄読会は病院によって参加人数もまちまちだと思いますが、抄読会がなかなか続かない理由として「惰性化」、「義務化」が挙げられます。ここでの惰性化は、だらだら続けるという慣用的な意味合いで解釈して下さい。

 ―――惰性化は抄読会においてやむを得ない側面でもあります。同じような会を毎回開催するため緩急がつかず、どうしても面白みが減退してしまうのです。また、抄読会の担当は当番制になっている病院がほとんどでしょう。そのため、義務化されてしまった会は、さらに面白さを無くしてしまいます。これらのデメリットは相加相乗的に作用し、抄読会は過去の遺産に変貌を遂げます。残念無念。

 個人的な意見としては、抄読会を続かせるには惰性化をいかに減らすかがポイントだと思っています。医学論文を印刷して何となく読み合う抄読会は、存続はできるかもしれませんが惰性的な側面がどうしても強くなってしまいます。では、惰性化を防ぐにはどうすればいいか。簡単です、発表を面白くすればいいのです。これについては次回に述べます。



by otowelt | 2013-09-27 00:13 | その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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