胸部レントゲン写真読影の理想と現実

e0156318_131549.jpg●はじめに
 私は個人的に「胸部レントゲン」と呼んでいますが、「胸部X線」、もっと詳しく書くと「胸部単純X線」という言葉が正しい医学用語だと思います。別にヴィルヘルム・レントゲンをリスペクトして「胸部レントゲン」と呼んでいるわけではありませんが、呼吸器科医の多くがそう呼んでいるのが現状です。10年後くらいには死語になっているかもしれませんが……。

 ―――「胸部レントゲン写真が読影できる」というのは、簡単な言葉ですが奥が深い言葉です。哲学と言っても過言ではありません。ちなみに「胸部レントゲン写真が読影できる」と「胸部レントゲン写真を読影して正しい診断ができる」は全く別次元の話です。どれだけ胸部レントゲン写真の読影に長けた人間が見ても、診断が不可能な陰影なんてそれこそ山のようにあります。慢性好酸球性肺炎だと思っていたら特発性器質化肺炎だった、市中肺炎だと思っていたら肺結核だった、などなど。胸部CTよりもはるかに情報量は少ないのです。


●読影方法の理想と現実
 胸部レントゲン写真の読影について色々な書籍を眺めていると、「まずは撮影条件をチェックする」、「読影に値するかどうか評価をする」、「骨と軟部組織に異常がないかどうかチェクをする」・・・などと書かれており、さらに詳しい本になると「傍気管線の肥厚がないかどうかチェックをする」、「気管の角度が開大していないかをチェックする」といったアドバンスな内容も書かれています。

 そのため、研修医の方に読影をお願いすると、明らかに肺野に腫瘤影があってもその言及に至るまで10分以上かかることもあります。胸部レントゲンの教育上はそれでよいと思うのです。間違いではありません。しかし、現実的ではありません。

 私は“簡易読影”と“綿密読影”の2種類を使い分けるべきだと思います。


●胸部レントゲン写真の簡易読影
 簡易読影の場合、撮影条件や読影に値するかどうかは後回しで、まず結論(病変の場所、性状、鑑別診断)を述べてもらいます。下の私の胸部レントゲン写真の場合、「左下肺野にコンソリデーションがありますので、細菌性肺炎や肺結核などの呼吸器感染症を第一に考えます」と最初に言ってもらう方法です。これは私の主観ですが、簡易読影をして結論を先に言ってもらった方がスマートです。くだけた言い方をすれば、カッコイイ。
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(胸部レントゲン写真:私の胸部レントゲン写真です)

 そのため、まずは10秒以内に主要な異常を指摘するよう教えています(さすがに当該患者さんの名前と合致しているかどうかは事前に確認させるべきですが)。結論から先に言ってしまって、もし後で撮影コントラストが低すぎる・高すぎる、鎖骨がかなりズレた位置にある、というイチャモンをつければよいわけです。特に救急医や呼吸器内科医はこの簡易読影の方が「当たり前」になっていると思いますし、実臨床上はそちらの方にメリットが大きいです。

 実は、外堀を埋めてじわじわ結論に迫る読影方法が是とされる根拠はあまりありません。そんな研究を立案したとしても、じゃあアウトカムはどうするの、という話になりますし。

 しかし、上の胸部レントゲン写真をよく見ると両肺尖部に胸膜肥厚があります。実は私は大学生の頃から肺尖部の胸膜が肥厚しており(apical capなどと呼びます)、健康診断のときにしばしば指摘を受けます。簡易読影に偏りすぎると、こういった微細な所見を見逃すことにつながりますので、注意が必要です。


●胸部レントゲン写真の綿密読影
 いわゆる、教育的読影はこちらです。まさに理想的読影法と言えるでしょう。研修医に教える方法は主にこの読影法ですが、あまり現実的ではありません。

 個人的には、これはアルバイトや読影業務に携わるとき、あるいは診断が不明であったり、症状はあるのに胸部レントゲン写真で主要所見がはっきりしなかったりする場合に用いるべき読影法だと思います。もちろん、時間があるならばすべての胸部レントゲン写真で綿密読影を行うべきだと思います。

 極端な話をすると、急性疾患を疑っている場合に「えーと撮影条件は、鎖骨が第2肋間の~」などと読影していると、指導医から叱咤されるかもしれませんから。


●おわりに
 胸部CTが主流になってきたためか、胸部レントゲン写真を綿密に読影する医師は激減しました。斯く言う私もその例外ではありません。しかし、簡便ですぐに結果が得られる胸部レントゲン写真は現場に欠かすことはできません。その読影においては、患者さんに不利益を与えないことを大前提として、医師個々に合った読影スタイルを身に付けることが肝要だと思います。


by otowelt | 2013-10-25 00:21 | 呼吸器その他

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