呼吸数は数えるべきか?

e0156318_10415347.jpg・はじめに
 私は呼吸器内科医ですから、毎日のように肺炎の患者さんを診察します。身体所見を疎かにしていると怒られるかもしれませんが、最近はバイタルサインのうち呼吸数をあまり数えていない自分がいます。さすがに呼吸が促迫している場合や呼吸様式の異常を診た場合には、呼吸の観察のときに呼吸数をカウントすることもあります。しかし元気な肺炎患者さんを診たとき、呼吸数を疎かにしてしまう場面は少なくありません。呼吸器内科医としてあるまじきことなのかと思いきや、意外にも呼吸数を測定していないスタッフは多いことを最近知りました。

 正確な呼吸数を把握するには、十分な時間(1分間等)をかけて呼吸数を確認しなければなりません(Ann Emerg Med. 2005 Jan;45(1):68-76.)。というのも×4、×2で倍々に数値を出すと誤差が大きくなるためです。しかし、実臨床上はこういった簡便な手法の方が主流だと思います。

 しかしながら、呼吸数が18回であっても22回であっても、39度の発熱がある市中肺炎の患者さんに対するアセスメントは大きく変わりません。もちろん前者が鼻カニューレを要して、後者がリザーバー付きマスクを要する低酸素状態であれば全く話は変わりますし、ショックの合併の場合は呼吸数の早期把握が重要になります。

・MDQAで質問
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 MDQA(http://www.mdqa.jp/)において、現場で働く医師に対して質問させていただいたところ、以下のような回答が得られました。内容は、一部編集・省略しています。

-大学病院でコンサルテーションをしている時やHIV外来をしている時に積極的に自分で測定することはほとんどありません。外勤で老人ホームのかかりつけ医として仕事をする時の方が役に立つ印象を受けます。特に肺炎の発症が疑われる状況でホームで治療するか、搬送を指示するかの際には酸素飽和度と同じくらい呼吸数を参考にしています。ホームの看護師にも協力してもらって、報告に呼吸数を入れるようにしてもらっています。身体所見全般に言えることかもしれませんが、リソースが足りないところでの判断で威力を発揮するかもしれません。呼吸数は低酸素、高CO2両方を反映するので、結果として呼吸器以外の広範な臓器障害を反映します。腹痛の患者さんが、腹部所見はぱっとしないのに妙に呼吸数が早いのでおかしいと思って搬送したら重篤な病態だった、という経験もあります。

‐数えるべきか数えなくてもよいかと言われると、「数えるべき」というのが教科書的に正しい答えになるでしょうが、自分自身も全員自分で数えているかと言われると全員ではありません。数え方も標準化されていないと思いますし(15秒数えて4倍するか、20秒数えて3倍するか、30秒数えて2倍するか、1分数えるか)。医師または看護師の「見た目で大丈夫そう」という判断と、実際数えてみた呼吸数に解離があるようなら「数えるべき」ということになるでしょうし、あまり解離がないのなら「全例数える必要はない」ということになるでしょう。

‐シチュエーションにもよります。外来患者か入院患者にもよります。毎日のように入院患者さんの呼吸数を数えることは基本的にありません。基本は外来患者さん、特にCOPDの患者さんは意識して測ります。具体的には、この患者さんはいつもと違ってつらそうだな(COPDで増悪しているかも?)というシチュエーションや、肺炎で入院するかもしれないというときには必ず数えます。基本は15秒で4倍法(勝手に命名)で測定しています。ただこの方針で、入院を決め手になっているかどうか、行動変容があるかは確かに分からないです。呼吸数が変動している場合、他の検査所見で何らかの理由で入院になっていることがありそうで、それが決め手となっているかは確か難しいですね。

‐初診であれば主訴により、慢性疾患であれば疾患により必要性の差はあると思います。一般に発熱や上気道炎症状の場合は、呼吸数を状態把握のためにバイタルサインとして診療録に記載します。慢性疾患として高血圧で診ている方のバイタルサインは心拍数、血圧が中心になりますが、慢性心不全の方では呼吸数把握が必要です。特に安静時と診察室に入ってきた直後の呼吸数の差は、病態把握に役立ちます(科学的ではありません、印象です)。血圧、心拍数は個人差が大きいのですが、呼吸数はあまり変動がないので、一般内科診療では促迫していると感じた時にしっかりと測定するようにしています。ベテランの先生方のように呼吸数の変動を肌で感じ取ることができればよいですが、研修中は呼吸数と疾患の重症度や変化との関係を学ぶために、できるだけ省略をしないほうが良いと思います。

‐全ての患者さんで必要ではないと思います。慢性の呼吸器疾患、循環器疾患が背景にある方は呼吸数の変化が臨床的イベントの気づきのヒントになるので数えるのがよいと思います。発熱と呼吸数の関係も救急系の雑誌でたまに論文があり臨床研究的には面白い領域だと思います。また、敗血症で最初に動くバイタルサインは呼吸数の上昇と言われているので救急室や病棟当直で呼吸数を把握する事は役にたつ場面が多いかと思います。



by otowelt | 2013-11-08 10:37 | 呼吸器その他

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