医学論文嫌いを治そう その2

・多くの医師は凡人
 私は凡人です。ブログを毎日のように更新して、本も執筆して、凡人ということはないだろうとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、おそらく呼吸器内科的な知識は中の中あたり、とかく文才があるわけでも教えることが上手というわけでもありません。本当にごくごく普通の呼吸器内科医なのです。

 英語論文は毎日1つ読んでいますが、「面白い話はないかなあ」とくだらない動機で論文を探しているだけで、別に1つの論文を奥深く読み込んでいるわけではないのです。そのため、私のような凡人でも毎日医学論文を読むことが可能であることをまず声を大にして言いたいと思います。


・「鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい」
 今回出版した書籍「呼吸器科の薬の考え方、使い方」という本では、「鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい」というとんでもない内容の医学論文をコラムとしてご紹介しました。


Ozturk AB, et al.
Does nasal hair (vibrissae) density affect the risk of developing asthma in patients with seasonal rhinitis?
Int Arch Allergy Immunol. 2011;156(1):75-80.

 これは私が喘息のリスクについて調べている過程で見つけた医学論文です。たとえばPubMedで結論だけ読んでみましょう。


CONCLUSION:
 Our findings suggest that the amount of nasal hair providing a nose filtration function has a protective effect on the risk of developing asthma in seasonal rhinitis patients.

(鼻腔のフィルターとしての機能を果たす鼻毛の密度は、季節性アレルギー性鼻炎の患者において気管支喘息のリスクに対して保護的にはたらく。)

 こんな結論の医学論文を見たら、この研究グループは一体どんな臨床試験を行ったんだ!?とあなたは気にならないでしょうか。私ならワクワクしてAbstractのMethodsとResultsを読んでしまうでしょう。

 ―――私が医学論文を読む動機というのは、こういうことなんです。

 興味がある内容のものをつまみ食いして読んでいけばいい。逆を言えば、興味のないものは読まなくてよいと思います。時間の無駄です。世の中には私のように医学論文を和訳してオンラインにアップロードしている奇特な人間もいるわけで、そういった情報を参考にすればいいのです。個人が医学論文を読む場合、興味のある論文だけ読んでいけばいいと思っています。


・継続するためには最新号だけを読む
 私は基本的に月初めに掲載される医学雑誌の最新の論文を読んでいます。これは少年ジャンプの最新号を読むのと同じです。ただ、『ONE PIECE』を毎週読んでいないと、おそらく最新号を読んでもストーリーがわからないでしょう。そのため、最新号の論文を読んでも「最近のトレンド」が分かっていないとその論文が何を言わんとしているか、つかめないことがしばしばあります。たとえば一昨年~去年はスタチンやビタミンDが呼吸器系にどういった影響をもたらすかといった研究がブームでした。そういったベースを知らなければ、なぜその論文が書かれたのかという背景がいまいちつかめないでしょう。

 毎回最新号を読んでいると、いずれわかります。何がトレンドで何がブームなのか。そのうち、「ああこれは1年前のあの試験を別の観点から検証したものだな」とわかってくるようになります。

 たとえが少年ジャンプばかりで申し訳ないのですが(別に好きというわけではありません)、『ONE PIECE』だけでなくその他のジャンプマンガも読んでいる人もいるでしょう。ものすごく読みたいワケじゃないけど、惰性で読んでいるマンガもあるはずです。それは、医学論文も同じです。私は肺高血圧症の論文はどちらかというと避けています。循環器の知識が必要ですし、6分間歩行距離が完全にプライマリアウトカムを支配している世界だからなんとなく気に入らないのです。でも、最新号を読むときは結論だけはチェックしています。それは少年ジャンプをパラパラと流し読みするのと似ています。

 指導医に「学会発表のためにしっかり調べておきなさい」と言われ、しぶしぶ昔の医学論文を検索して読むことがあると思いますが、これでは医学論文を読むことを継続できません。継続したいのであれば、最新号を読むべし。


・医学論文嫌いを治したい人は
 医学論文嫌いを克服したいと思っているものの、長年なおざりになっている人は、月初めに医学論文の最新号のAbstractの結論だけを読んでください。呼吸器内科医であれば、そうですね・・・European Respiratory Journal(ERJ)が読みやすいでしょう。American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(AJRCCM)やCHESTは難しい内容もあり、どちらかというととっつきにくいので、シンプルなERJの方が読みやすいでしょう。
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 「Current Issue」というところをクリックしてください。すると、ズラリと雑誌のラインナップが表示されます。「Editorials」というのが最初にあると思いますが、これは編集部の意見や補足であって厳密には医学論文ではないので無視して下さい。「Original articles」と書かれたところから下がこの号のメインの論文です。
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 画像は4月号のものを表示していますが、最初に私の琴線に触れたのは「meat consumption(牛肉消費)」という単語です。牛肉の消費と呼吸機能の関係って一体どういうこと!?と、たったこれだけで論文を読みたい衝動に駆られてしまうのが今の私なのです。


・おわりに
 「医学論文嫌いを治そう」とコラムに銘打っておいてナンですが、「マンガ嫌いを治そう」としても、面白くないと思ってる人にマンガを強制したところで好きになるはずがありません。医学論文の世界を知ってもなお嫌いであれば、それはもう治しようのない領域でしょうから。

 よしんば医学論文を好きになったとしても、娯楽雑誌として読むことに異論を持つ上級医の方々もいらっしゃると思います。ただ、医学論文離れは若手医師やベテラン医師を問わず深刻です。まずは指導医が楽しんで医学論文を読むスタンスを持つことで、若手医師もそれに追従してくるかもしれません。

 ―――それでもなお医学論文が嫌いな医師は、別に読む必要はないと思います。医学の勉強は、医学論文が全てではありませんから。


by otowelt | 2014-05-06 09:59 | レクチャー

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