マグネシウムは気管支喘息発作に本当に効果があるのか?

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・はじめに
 気管支喘息発作に対する治療として、マグネシウムを用いることがあります。個人的に嘔気を誘発したケースが少なくないので、あまり発作時にはマグネシウムを使わないのですが、研修医向けに気管支喘息発作の講義をすると、必ずと言っていいほど「マグネシウムって気管支喘息発作に効果があるんですか?」という質問が出ます。


・なぜマグネシウムが気管支喘息に効果的なのか
 気道平滑筋の収縮を抑えることで発作が緩和されるのは容易に想像ができると思いますが、マグネシウムはカルシウムが平滑筋に流入するのを阻害する役割があるとされています。そのため、気道平滑筋が相対的に弛緩されることで発作が軽減するそうです。


・マグネシウム静注の臨床試験
 1989年のJAMAのスタディでは、プラセボである生理食塩水と1.2gの硫酸マグネシウムにランダムに割り付けた試験が報告されています。38人の中等症以上の気管支喘息発作の患者さんのうち、マグネシウム群に割り付けられた19人で平均ピークフローが225L/minから297L/minに改善しました。また、マグネシウム群の方が入院率も退院率も良好な成績であったそうです。この研究におけるマグネシウムの使用量は1.2gでした。
Skobeloff EM, et al. Intravenous magnesium sulfate for the treatment of acute asthma in the emergency department.JAMA. 1989 Sep 1;262(9):1210-3.

 しかし、否定的な研究もいくつかあります。たとえばアルブテロールの投与で改善しなかった気管支喘息患者を120人登録した研究ではマグネシウムの投与によって治療アウトカムに変化をもたらさなかったと報告されています。この研究におけるマグネシウムの使用量は2gでした。
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(文献より引用)
Green SM, et al. Intravenous magnesium for acute asthma: failure to decrease emergency treatment duration or need for hospitalization. Ann Emerg Med. 1992 Mar;21(3):260-5.

 結局マグネシウムに効果があるのかどうかわからない、ということでメタアナリシスやシステマティックレビューが報告されました。結論として、マグネシウムについて重症例には効果をもたらす可能性はあるもののその臨床的重要性については不透明であると結論づけられています。
・Rowe BH, et al.Intravenous magnesium sulfate treatment for acute asthma in the emergency department: a systematic review of the literature.Ann Emerg Med. 2000 Sep;36(3):181-90.
・Alter HJ, et al. Intravenous magnesium as an adjuvant in acute bronchospasm: a meta-analysis. Ann Emerg Med. 2000 Sep;36(3):191-7.


 近年の臨床試験ではどうなのかといいますと、Lancet Respiratory Medicineの3Mg試験が有名です。これはネブライザー吸入のマグネシウム、静注マグネシウム、プラセボの効果を比較したものですが、静注マグネシウムの効果はプラセボと比較して入院のオッズ比0.73 (95%信頼区間0.51~1.04;p=0.083)、呼吸困難感のスケール(VAS)を2.6mm改善(95%信頼区間-1.6mm~6.8mm、p=0.231)とプラセボと差がないことを報告しています。静注マグネシウム群が早期の退院にいくばくか寄与している可能性が示唆されていますが統計学的に有意と呼べるものではないようです。
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(文献より引用)
Goodacre S, et al. Intravenous or nebulised magnesium sulphate versus standard therapy for severe acute asthma (3Mg trial): a double-blind, randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2013 Jun;1(4):293-300.

 2014年のコクランレビューでは、成人の気管支喘息に対する静注マグネシウムの投与は入院の頻度を減らすとされています。100人の気管支喘息発作にマグネシウムを投与することでおよそ7人の入院を減らすことができるのではないかと考えられています。
Kew KM, et al. Intravenous magnesium sulfate for treating adults with acute asthma in the emergency department. Cochrane Database Syst Rev. 2014 May 28;5:CD010909.

 世界中の呼吸器科医が参考にしているGINAではどう記載されているかというと、やはりルーチンの使用は推奨しておらず、通常の治療に反応しない重症例やベースラインの1秒量が低い例に用いるべきであると記載されています。また、GINAではマグネシウム+サルブタモールをネブライザーで投与する方法が生理食塩水吸入よりも効果的である点を紹介しています。


・マグネシウム吸入の臨床試験
 小児に対するマグネシウムの吸入については懐疑的な報告が多く、超重症例でない限りは使用しない方がよいのではないかとMAGNETIC試験で結論づけられています。
Powell C, et al. Magnesium sulphate in acute severe asthma in children (MAGNETIC): a randomised, placebo-controlled trial. Lancet Respir Med. 2013 Jun;1(4):301-8.

 ネブライザー吸入については成人ではほとんど効果がないという専門家の意見が多く、私も現時点では微々たる効果しかないだろうと考えています。

 コクランレビューでも気管支喘息発作に対する吸入マグネシウムの効果についてはエビデンスとしては有効とは言えないと結論づけています。ちなみに、このコクランレビューの筆頭著者はMAGNETIC試験の筆頭著者でもあるPowell医師です。
Powell C, et al.Inhaled magnesium sulfate in the treatment of acute asthma.Cochrane Database Syst Rev. 2012 Dec 12;12:CD003898.
 
 ただし、2014年5月時点で最新の研究を多く含んだRespiratory Medicineのメタアナリシスにおいてはネブライザーによるマグネシウム吸入は特に成人に対して有効であるという結果も報告されています。
Shan Z, et al. Intravenous and nebulized magnesium sulfate for treating acute asthma in adults and children: a systematic review and meta-analysis. Respir Med. 2013 Mar;107(3):321-30.


・まとめ
 現時点では気管支喘息発作に対するマグネシウムは他の薬剤と比較して効果が弱いと考えられます。呼吸機能を改善させる効果はあるが臨床アウトカムを劇的に改善させるほどのパワーを持たないというのが気管支喘息発作におけるマグネシウム投与の真実だろうと私は考えます。ただし、救急部での使用によって入院を回避できる可能性があるので、初期治療に不応性の気管支喘息発作に対しては投与してもよいかもしれません。
 ただ、重症気管支喘息発作に対しては複数の治療を同時に行うことが多いため、マグネシウムが効いたのかどうかわからないことが多いため、評価は難しいと思います。
 投与法は、硫酸マグネシウムを20分かけて2g静脈内に投与する方法が一般的です。ただし、通常の気管支喘息治療を行って1時間以上効果がない場合にのみ使用すべきです。また、腎不全患者や高マグネシウム血症の患者さんには投与すべきではありません。


by otowelt | 2014-06-07 00:55 | 気管支喘息・COPD

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