何となく研修医に伝えたいこと その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし

e0156318_100789.jpg 研修医の方々は、ローテートしている診療科でガイドラインや治療法のコツのようなものが分かってくると、自信に満ち溢れる顔をしていることがあります。病気と戦う“武器”を手に入れた戦士のような顔です。指導医としても、これは非常に嬉しいことでもあります。

 しかし疾患の診断や治療の側面ばかり見てしまう研修医は多く、患者さんの社会背景や退院後の生活について配慮できる人は、実はそこまで多くありません。これは医療従事者としての経験不足に起因します。

 これはどういうことかと言いますと、たとえば例を挙げてみましょう。

 ―――84歳の認知症のある男性が、右肺炎で入院してきました。肺炎の部位やエピソードから誤嚥性肺炎を第一に疑いました。嚥下造影検査でも軽度の誤嚥が疑われました。抗菌薬はアンピシリン/スルバクタムを選択し、誤嚥に対しては食事形態を工夫する栄養指導が必要と考えました。また入院直前はほとんど全介助に近い状態であったため、入院中は積極的にリハビリテーションを行いました。入院して1週間程度の治療が過ぎた頃、患者さんは次第に元気になっていきました。研修医は「元気になったら早めに退院できますね」と嬉しそうな顔をしていました。

 しかし、私をはじめ、ある程度医療従事者として長く働いている人間の場合、この事例の研修医とはいささか考えるポイントが異なります。この事例では、「この患者さんは元通り家に帰ることができるだろうか?」という問題が最も大きなハードルになります。治療が終わって「はい退院です」と家族に説明したところで、本当に皆が納得できる状況なのでしょうか。

 この事例の場合、妻は消化器系の疾患で入退院を繰り返しており、夫が認知症を発症してからというもの介護に疲弊しきった状態でした。近所に住んでいる長男は会社の管理職についており夜の22時頃まで家にいません、長男の妻は2人のやんちゃ盛りの子供を育てており、義母のサポートを頑張ってはいるものの義父の介護にまではなかなか手が回りません。要は、介護に疲弊しきった状態で誤嚥性肺炎によって入院したわけです。

 そのため研修医にとって重要なのは、誤嚥性肺炎の診断や治療だけでなく、患者さんが今置かれている社会的現状を理解することなのです。

 とかく研修医の頃は、疾患の診断や治療に目が行きがちで「エビデンス」という言葉にえも言われぬ憧れを抱くものです。しかし、実際の現場では「ナラティブ」の側面も同時に理解しなければなりません。入院患者さんの社会歴や家族歴を問診する意味というのは、まさにそこにあるわけです。

  ※ナラティブという言葉の意味は、ここではエビデンスの対比として記載しています。

 研修医の方々は、教科書に書いてあることだけでなく、常に「患者さんの退院後の生活が可能かどうか」を考えてみて下さい。困ったら、私たち医師よりも多くの情報を持っている病棟の看護師さんに相談することをおすすめします。

 こんなことを書いている私も、「先生、あの患者さん自宅が遠すぎて通院無理ですよ」なんて退院間近に指摘されることがあるわけですが・・・。


<何となく研修医に伝えたいこと>
その1:夕方に指示を出すべからず
その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
その5:ポリファーマシーのクセをつけない
その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
その7:クリアカットになりすぎない
その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない



by otowelt | 2014-06-28 00:51 | コラム:研修医に伝えたいこと

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