特発性間質性肺炎の生命予後

e0156318_16214955.jpg・はじめに
 呼吸器内科医にとって、特発性間質性肺炎(IIPs)のうち特発性肺線維症(IPF)や特発性非特異性間質性肺炎(INSIP)の生命予後はどのくらいなのかはっきりと言及できない現状があります。それはこれらの間質性肺疾患の分類学が混沌としているというこれまでの歴史に加えて、実臨床でこれらを簡単に分類できないという難しさに由来します。

 ここに記載する内容はあくまで過去の研究に基づいたデータであり、目の前の患者さんの生命予後をあらわすものではないことをご理解下さい。また、個人的見解も含まれておりますのでご了承下さい。


・IPFの生存予後
 まず最初に述べておきたいのは、IPFの診断は学問的に非常に難しいということです。IPFと他院で診断されて当院に紹介になったケースでも、その後IPFでないと分かった患者さんもいます。また、どう考えても典型的なIPFだろうという患者さんでも、その後まったく進行しなかった例もあります。そのため「医師からIPFと言われた=予後不良」というのは早計だと私は考えます

 一般的にIPFは予後不良と言われています。多くの癌よりも不良であるとするVancheriらの衝撃的な報告もあります。
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Vancheri C, et al. Idiopathic pulmonary fibrosis: a disease with similarities and links to cancer biology. Eur Respir J. 2010 Mar;35(3):496-504.

 IPFの診断から生存期間の中央値はおよそ2~3年であり、5年以上生存している患者は全体の20~30%に過ぎないとされています。この数値はVancheriらの報告のグラフにも示されている通りです。ゆえに、多くの呼吸器内科医の頭の中には、「生存期間の中央値は2~3年」、「5年生存率は20~30%」という認識があります。
・Ley B, et al. Clinical course and prediction of survival in idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Feb 15;183(4):431-40.
・Schwartz DA, et al. Determinants of survival in idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med. 1994 Feb;149(2 Pt 1):450-4.
・Dayton CS, et al. Outcome of subjects with idiopathic pulmonary fibrosis who fail corticosteroid therapy. Implications for further studies. Chest. 1993 Jan;103(1):69-73.


 診断からの生存期間中央値が2~3年であるという数値が知られるようになったのは1998年のBjorakerらの報告の影響が大きいでしょう。
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Bjoraker JA, et al. Prognostic significance of histopathologic subsets in idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jan;157(1):199-203.

 ただ先述したとおり、多くの研究で扱う“IPF”というのは“研究に組み込むための適格基準を満たしたIPF=現在のコンセンサスに基づいたIPF”という意味であり、目の前にいる患者さんに100%あてがうことはできません。がんのように悪性細胞が検出されるという特異度が極めて高い検査が存在しないため、安易な生命予後への言及は避けなければなりません。年齢や診断時の臨床所見によってもバラつきがあることも報告されていますので、やはり目の前の患者さんにこういったデータを安易に適用できないと個人的に考えます。
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King TE Jr, et al. Predicting survival in idiopathic pulmonary fibrosis: scoring system and survival model. Am J Respir Crit Care Med. 2001 Oct 1;164(7):1171-81.
Raghu G, et al. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):788-824.

 明らかに典型的なIPFで予後不良因子を有する患者さんへ病状説明を行う必要がる場合(予後についてのデータを希望する場合)は、十分な精神的サポートが不可欠です。また、医師からみてもデータはバラつきが大きいため、あくまで参考程度であることを告げ、経験上IPFと診断された患者さんでも長生きしている方がいるといった安心材料を提示すべきだと思います。


・IPF以外のIIPsの生命予後
 IPF以外のIIPsのうち、最も予後が悪いものは急性間質性肺炎(AIP)ですが、AIPはここで扱うような悠長な説明の猶予がなく集中治療を要することが多いため、割愛します。そのため、慢性に進行するIIPsでIPF以外の予後不良疾患はfNSIP(fibrosing NSIP, fibrotic NSIP)です。fNSIPはステロイドの効きやすいcNSIP(cellular NSIP)とIPFの間のような位置付けにあり、IPFとまではいきませんが予後不良であることが知られています。cNSIPは「5年生存率は90%以上」、fNSIPは「5年生存率は50~80%」と考える医師が多いと思います


・cNSIP
 ステロイドが効果を発揮すると期待するIIPs、特にcNSIPの場合は疾患増悪によって死亡する可能性はかなり低いと考えられていますので、「ステロイドでコントロール」できる疾患であることを強調してよいと思います。ただし、NSIPと膠原病の関係は切っても切れないもので、いくら特発性NSIPという分類学上の大義名分があったとしても、膠原病の存在は常に考慮しなければなりません。そのため、INSIPで安易にステロイドを導入してよいのかどうかは世界中の呼吸器内科医の興味のあるポイントです。
Travis WD, et al. Idiopathic nonspecific interstitial pneumonia: prognostic significance of cellular and fibrosing patterns: survival comparison with usual interstitial pneumonia and desquamative interstitial pneumonia. Am J Surg Pathol. 2000 Jan;24(1):19-33.


・fNSIP
 個人的に最もfNSIPの生存期間で注目しているデータは、UIPとfNSIPと比較した論文です。この論文の特筆すべき点は、cNSIPが除外されており、fNSIPだけを43人登録しているということです。これによれば、fNSIPは32ヶ月(3年弱)で58%が死亡したと報告されています。
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Latsi PI, et al. Fibrotic idiopathic interstitial pneumonia: the prognostic value of longitudinal functional trends. Am J Respir Crit Care Med. 2003 Sep 1;168(5):531-7.

 他にも、fNSIPの患者さんの5年生存率は70~80%とする報告もあります。
Park IN, et al. Clinical course and lung function change of idiopathic nonspecific interstitial pneumonia. Eur Respir J. 2009 Jan;33(1):68-76.
Shin KM, et al. Prognostic determinants among clinical, thin-section CT, and histopathologic findings for fibrotic idiopathic interstitial pneumonias: tertiary hospital study. Radiology. 2008 Oct;249(1):328-37.

 TravisらによるNSIPの生存期間を報告した論文では、fNSIPは5年生存率は100%であるものの10年生存率は35%であると論じています。この論文ではcNSIPは5年生存率100%、10年生存率90%と報告されています。この論文はよく成書でも引用されているのですが、NSIP全体で29人しかいない点がlimitationです。
Travis WD, et al. Idiopathic nonspecific interstitial pneumonia: prognostic significance of cellular and fibrosing patterns: survival comparison with usual interstitial pneumonia and desquamative interstitial pneumonia. Am J Surg Pathol. 2000 Jan;24(1):19-33.

 研究ごとにデータにバラつきがあるため、fNSIPの予後は現時点ではIPFとcNSIPの間に位置するとしか言えません。そもそもfNSIPという概念が実臨床において必要なのかという疑問も出てくるかもしれません。そんなジレンマを象徴するかのような、IIPsに対して外科的肺生検を2回おこなった報告があります。その中には、fNSIPがUIPに変化したと考えられる症例もあり、NSIPは永続的にNSIPではない可能性も示唆されています。Schneiderらはこの論文の中でfNSIPはUIPの前病変ではないかと論じています(ただし生検部位の問題など、議論の余地はあるようです)。もちろん、下葉からしっかり該当部位を生検すればUIPが最初から出るのではないかという意見もありますので、この議論にはまだ答えはありません。個人的にはfNSIPの患者さんは肺のどこかにUIPを持っていてもよいだろうと思っています。
Schneider F, et al. Nonspecific interstitial pneumonia: a study of 6 patients with progressive disease. Am J Surg Pathol. 2012 Jan;36(1):89-93.


・おわりに
 間質性肺疾患について、あなたはIPF、あなたはNSIPと100%振り分けられないケースもたくさん存在します。簡単にIPFだと言えない状況を作り出してしまったのは、臨床試験において間質性肺疾患を学問的に細分化することがそのまま臨床適用された弊害ではないかとも考えています。

 患者さんは、そういった複雑な事情を知る由もありません。「間質性肺炎だと思いますが、線維化が主体なので慢性過敏性肺炎や特発性肺線維症が鑑別に挙がります。ただ、薬剤性や肺病変先行型の膠原病も否定できないので特発性かどうかはまだ断言ができません。」などと並べ立てたところで頭上にハテナマークが出るのは目に見えています。


by otowelt | 2014-08-24 00:24 | びまん性肺疾患

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