COPDに対するワクチン

e0156318_23175684.jpg・インフルエンザワクチン
 COPDの患者さんに限らず、多くの日本人がインフルエンザワクチンを毎年摂取している最近。そりゃあインフルエンザにかからない方が安全だというのは分かりますが、インフルエンザワクチンを接種することでとういった効果が得られるでしょうか。

 最も重要なのは、やはり気道症状の軽減がはかれる点です1)。COPDの患者さんがインフルエンザに罹患すると、聴診すればヒューヒュー、ごはんは食べていない、ぐったりしてタイヘン!ということはよくあるのです。ワクチンそのものの有害事象で悪化しないの?と聞かれることがありますが、享受する利益の方が圧倒的に大きいのでCOPDの患者さんは全例インフルエンザワクチンを接種してよいと考えられます2)

 ちなみにメタアナリシスではインフルエンザワクチンを接種すると、COPD急性増悪の回数が有意に減ることがわかっています(加重平均差-0.37、95%信頼区間-0.64~-0.11、p=0.006)3)。ただこのメタアナリシス、組み込まれた研究の数が少ない。

 COPDに限らず、65歳以上の高齢者における研究ではインフルエンザワクチン接種によって肺炎またはインフルエンザによる入院のリスクが27%減少し(補正オッズ比 0.73、95%信頼区間0.68~0.77)、死亡リスクは48%減少しました(補正オッズ比 0.52、95%信頼区間0.50~0.55)と報告されています4)。日本のCOPDは高齢者が多いので、ワクチン接種による利益がある群としては一致した集団でしょうか。


・肺炎球菌ワクチン
 COPDの患者さんに限らず、成人に使用できる肺炎球菌ワクチンはニューモバックスNP®(23価肺炎球菌多糖体ワクチン:PPSV23)の一択だったのですが、現在はこれに加えてプレベナー13 ®(13価肺炎球菌結合型ワクチン:PCV13)が使用できます。これが非常にヤヤコシイ。

 日本は言わずと知れた先進国ですが、PPSV23の接種率はアメリカの3分の1くらいとものすごく低かったのです。在宅呼吸ケア白書というアンケート調査では、在宅酸素療法を要する慢性呼吸不全の患者さんに対してすら6割程度の接種率でした5)。「これはイカン、先進国の水準どころではないぞ」ということでワクチンの接種率向上を目指し 2014年10月より定期接種化された経緯があります。PCV13が成人の肺炎球菌ワクチンの世界に乗り込んできたのと時期を同じくしているため、何が助成で何が助成でないのかよくわからない医師も少なくありません。繰り返しますが、執筆時点では助成がおりるのはPPSV23のみです。PCV13は助成がおりません。この点は覚えておく必要があります。

 さて、ニューモバックスNP®の方から説明します。PPSV23は侵襲性肺炎球菌感染症を減らす可能性はありますが、COPD急性増悪や肺炎そのものを予防できるだけの威力があるかどうかは報告によってまちまちです6), 7)。「重篤な感染症を予防できるけど、肺炎そのものを予防できるワケではないんだよ」と指導医に教えてもらった人も多いでしょう。ただ、施設入所中の高齢者、といったベースラインの全身状態があまりよくない患者さんでは有効かもしれません8)。COPDの患者さんも高齢者が多いですから、一定の効果はあると私は思っています。

 一方、プレベナー13®はどうでしょうか。PCV13については小児ではまとまった報告はあるものの、特に高齢者ではエビデンスが少なかった。そこで、高齢者に対する臨床試験として2015年に発表されたCAPiTA試験に注目が集まりました9)。この試験によれば、高齢者に対するプレベナーはワクチン血清型の侵襲性肺炎球菌感染症、菌血症を伴わない細菌性肺炎をそれぞれ75%、45%予防可能という結果でした。しかし、市中肺炎全体の予防効果はみられませんでした。ワクチン血清型に限ったものとはいえ肺炎を予防できる可能性が示唆されました。

 以上をふまえ、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2014年に以下の内容を推奨しています10)

•肺炎球菌ワクチンの接種歴が無い、または接種歴が不明の65歳以上の成人は、PCV13をまず先に接種し、次いでPPSV23を接種。
•PCV13の接種歴が無く、かつPPSV23を1回以上接種したことがある65歳以上の成人は、PCV13を接種。
•65歳以上の成人に対するPCV13の推奨※については、2018年に再評価を行い必要に応じて内容を改定する。(※ACIPおよびCDC 所長が今回の推奨改定を承認した場合)


 では高齢者がその大部分を占めるCOPD患者さんのワクチン接種はどうすればいいのでしょう。片方接種?両方接種?

 アメリカの場合、典型的な高齢COPD患者さんは推奨に準じてPCV13+PPSV23を接種することになります。一方、イギリスやカナダなどの他の先進国では免疫不全のある患者さんに対してPCV13が推奨されていますが、一般的な高齢COPD患者さんに対してはPPSV23単独となります。日本はどうかといいますと、日本呼吸器学会と日本感染症学会が合同で「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(平成27~30年度の接種)」を発表しており、アメリカに準じてPCV13+PPSV23の両方接種を推奨しています。ただし、PCV13は助成がおりませんのでご注意を。

 なお、PCV13+PPSV23を接種する場合、ACIPはPCV13を先に接種した後にPPSV23を接種することを推奨しています。また、65歳未満であれば両者を8週間以上空け、65歳以上では1年以上空けます。過去にPPSV23を接種している患者さんに対しては、1年以上空けてPCV13を接種することを推奨しています。

 PPSV23に対する日本の助成は5歳ごとに定められており、しかも5の倍数の年齢のときだけという分かりにくい仕組みになっていますので、「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(平成27~30年度の接種)」から図を引用しますので参考にしてください。
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(引用URL[日本感染症学会内]:http://www.kansensho.or.jp/guidelines/1501_teigen.html)

 なお、当院のある大阪府堺市は、
・予防接種法に基づく定期接種
・市独自の助成による任意接種 (満65歳以上で定期接種の対象者に該当しない方)
の2種類の助成があります。

(参考文献)
1) Wongsurakiat P, et al. Acute respiratory illness in patients with COPD and the effectiveness of influenza vaccination: a randomized controlled study. Chest. 2004 Jun;125(6):2011-20.
2) Tata LJ, et al. Does influenza vaccination increase consultations, corticosteroid prescriptions, or exacerbations in subjects with asthma or chronic obstructive pulmonary disease? Thorax. 2003 Oct;58(10):835-9.
3) Poole PJ, et al. Influenza vaccine for patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jan 25;(1):CD002733.
4) Nichol KL, et al. Effectiveness of influenza vaccine in the community-dwelling elderly. N Engl J Med. 2007 Oct 4;357(14):1373-81.
5)在宅呼吸ケア白書2010. 日本呼吸器学会肺生理専門委員会 在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ.
6) Walters JA, et al. Injectable vaccines for preventing pneumococcal infection in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Nov 10;(11):CD001390.
7) Huss A, et al. Efficacy of pneumococcal vaccination in adults: a meta-analysis. CMAJ. 2009 Jan 6;180(1):48-58.
8) Maruyama T, et al. Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomised and placebo controlled trial. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.
9) Bonten MJ, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med. 2015 Mar 19;372(12):1114-25.
10) Tomczyk S, et al. Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine among adults aged ≥65 years: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2014 Sep 19;63(37):822-5.

by otowelt | 2015-06-25 00:16 | レクチャー

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