特発性肺線維症(IPF)が孕む医師患者間のギャップ その1

e0156318_9301181.jpg●「結局、この病気は難しくて分からなかった」
 私はその昔、特発性間質性肺炎のアルファベットだらけの疾患群に興味津々でした。IPF、NSIP、COP、DIP、RB-ILD・・・。難しい病気を相手に勉強しているんだという自負もあってか、患者さんがその病気についてどう理解しているかという点をないがしろにしていた気がします。

 その昔、臨床所見、放射線学的所見の結果から特発性肺線維症(IPF)と診断した患者さんがいました。病理学的には線維化を伴う非特異性間質性肺炎(NSIP)パターンが混在しており、典型的な通常型間質性肺炎(UIP)パターンではありませんでした。そのため、患者さんには「特発性肺線維症の可能性はありますが、特発性間質性肺炎のうち線維化が主体の非特異性間質性肺炎かもしれません。」といった感じの内容をできるだけ分かりやすい言葉で説明していましたが、どれだけ分かりやすい言葉を使っても理解してもらえませんでした。

 私は今でもこの患者さんに本当に寄り添えていたのか、後悔しています。その患者さんは亡くなる前に「結局この肺がカタくなる病気って、難しくて分かりませんでした・・・」と私に言いました。ピルフェニドン(ピレスパ®)が使われ始めたばかりの時代でしたが、すでに呼吸不全に陥っていたその患者さんは積極的な治療を受けることなく死亡しました。どの薬剤にも予後を劇的に改善する効果がないのであれば、あなたの病名はIPFだとはっきり言ってあげればよかった。

 間質性肺疾患は、呼吸器疾患の中で群を抜いて疾患の分類が細分化されており、アカデミックに議論されることが多い疾患です。とりわけ若い医師の方々はその未知の病態にえもいわれぬ憧れを抱くことが多いと思いますが、重要なのは目の前にいる患者さんがその病気を理解しているかどうかです。医学生ですら理解しがたいこの病気を患者さんが理解するのは至難の業でしょう。

 少しでもIPFについて患者さんに理解してもらえる病状説明とは何なのか、自分なりに記載してみたいと思います。


●なぜ患者さんが理解しにくいのか
 IPFは、中高年以上の患者さんに発症する特発性間質性肺炎の1種です。身体所見でfine cracklesが聴診され、胸部高分解能CT(HRCT)で両側下葉に蜂巣肺がみられる疾患です。しかしながら、多くのIPFの患者さんが自身の疾患について「理解が難しい」と感じており、説明する側も苦慮することがしばしば。

 患者さんがIPFを難しく感じる理由はいくつかあります。まず、医師ですら目の前の患者さんが本当にIPFなのかどうか断言することができない場合がある。これはどういうことかといいますと、IPFには鑑別疾患がたくさんあります。それぞれの特徴に差異はありますが、慢性過敏性肺炎(CHP)、サルコイドーシスなどの線維性間質性肺疾患はIPFと鑑別が困難なことがあります。そして、膠原病を後から発症する肺病変先行型の間質性肺疾患もあります。また、COPDを合併している患者さんがこういった線維化をきたす肺疾患を罹患した場合、さらに鑑別診断が複雑化します。どれほど読影に長けている放射線科医であったとしてもその患者さんがIPFであるとは断言しません。あくまで胸部HRCT上UIPパターンである、と言及するはずです。また、NSIPのうち、線維化がみられる病型をfNSIP(fibrosing NSIP, fibrotic NSIP)と呼称することもあり、確実にこの患者さんはIPFだと断言できる症例は限られているのが現状です。外科的肺生検がなくとも、臨床所見、放射線学的所見と合わせてIPFと診断することが可能ですが、現時点ではIPFという病名をつけるのは慣習的にハードルの高い基準にあり、呼吸器科領域では「安易にIPFと言うべきではない」という考えもあります。

 私は、診断基準で規定されているIPFという病名は、特に臨床試験において当該疾患を組み入れるための基準であるという側面が強いと考えています。臨床応用すべきではないとまで思いませんが、幾許か診断基準というものに引っ張られ過ぎている部分があるのではないか、と。間質性肺疾患についても、あなたはIPF、あなたはNSIPと100%振り分けられないケースがたくさん存在します。簡単にIPFだと言えない状況を作り出してしまったのは、臨床試験において間質性肺疾患を学問的に細分化することがそのまま臨床適用された弊害ではないかとも考えています(これはあくまで個人的意見です)。

 私たち医療従事者側の複雑な事情を患者さんは知る由もありません。「慢性過敏性肺炎や特発性肺線維症が鑑別に挙がります。ただ、薬剤性や膠原病も否定できないので特発性かどうかは断言ができません。」という内容を患者さんが理解するのはおそらく不可能でしょう。

(つづく)

by otowelt | 2015-09-17 00:44 | びまん性肺疾患

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