特発性肺線維症(IPF)が孕む医師患者間のギャップ その2

e0156318_9301181.jpg●IPFの説明から逃げない
 特発性肺線維症(IPF)という疾患は、難治性です。根治することはありません。しかし、ピレスパ®やオフェブ®といった治療法の登場により、医療従事者と患者さん双方に希望の光が照らされているのは事実です。それでもなお、IPFはゆるやかに進行します。
 IPFの診療において最も重要なのは、「患者さんへの説明から逃げないこと」だと思います。もちろん、逃げている医師なんて世の中にいないと信じていますが、とかくこのIPFという疾患はその学問的難易度の高さから、病状説明をないがしろにしがちな側面もあります。それが患者さん側にとっては、“逃げ”であると捉えられることがあるようです(実際のIPF患者さんから指摘されたことがあります)。
 それを前提に以下の文章を書いてみました。


●患者さんに説明する前に医療従事者が知っておくべき内容
・特発性肺線維症(IPF)が特発性間質性肺炎(IIPs)の病型の1つであることを理解するのは極めて難しいため、混同する場合には特発性肺線維症の病名のみを用いた方がよい。ただし漢字でも7文字あるので、患者さんによってはIPFというアルファベット表記の方が覚えやすいこともある。
・肺に異常=肺がん、と考えてしまい、どのような陰影であっても悪性疾患の可能性を不安に思っている患者さんは多い。
・患者さんが最も知りたい情報は、IPFの治療法と予後である。特に、この先どのくらいのスピードでどうなっていくのか不安に思う患者さんがほとんどである。
・IPFは言うまでもなく予後不良の疾患であり、その疾患概要や予後説明を詳細に行うのであれば、それはがんの告知と同等と考えるべきである。(さまざまなサポートを要する)


●患者さんへの実際の説明例(検査前)
1.両方の肺にご覧のようにカゲが出ています。正常の写真と比べると、白っぽくなっているのが分かりますよね。
2.おそらく現在出ている息切れの症状は、この肺に見えてるモヤモヤとしたカゲが原因ではないかと思います。
3.このカゲの正体が何なのかこれから当院で調べていく必要がありますが、その前にどういった病気を考えているのかお伝えしたいと思います。
4.まず、可能性として肺がんなどの悪性腫瘍は考えにくいと思います。医療に絶対という言葉はありませんので、まれながんでこういったカゲになることもありますが、可能性としてはかなり低いと私は思います。
5.私が考えているのは、肺がカタくなって膨らみにくくなる病気です(後述<Memo>参照)。この肺がカタくなる病気というのは複数あるので、全部お伝えすると混乱してしまうかもしれません。診断がある程度しぼれてからご説明した方がよいでしょうか?(ある程度話の内容を理解できそうであれば、病名を紙に書きだしてもよい)
6.いずれにしても慢性的な病気だと考えていますので、一刻も早く診断をしなければならない事態というわけではないので、その点は心配なさらないで下さい。
7.考えている一部の病気には治療法があるものもありますが、現時点ですべての治療法を説明するとやはり混乱されると思うので、詳しい検査結果が分かってからお伝えした方がよいと思います。
※数字のセクションごとに理解できているか質問の時間や間をとることをオススメします。
※あくまで1つの例であり、ベストな説明方法ではありませんのでご了承ください。


<Memo>「肺がカタくなる」を説明する
 台所のスポンジをイメージして下さい。これは非常に細かい繊維できているので、握るとやわらかく弾力があります。これが正常の肺です。カタくなった肺と言うのは、ハチの巣をイメージして下さい。テレビで見たことがあるかもしれませんが、スポンジと違って外面はカチカチにカタくなっています。これは、スポンジと比べて繊維が非常に分厚くカタいためです。IPFという病気は肺がハチの巣のようにカタくなってしまうため、息を吸ってもうまく肺が膨らまないのです。このIPFの肺のことを私たちは文字通り「蜂巣肺」と呼んでいます。


●患者さんへの実際の説明例(検査後)
1.検査の結果、特発性肺線維症が最も考えられる診断だと思います。私たちは英語3文字で、アイピーエフ(IPF)と呼ぶことが多いです。なんだか難しそうな病名に聞こえますが、今からゆっくり説明します。
2.特発性(とくはつせい)という言葉は聞き慣れないと思いますが、急に起こるという意味の突発性(とっぱつせい)とは違います。特発性というのは特段発症する原因がないこと、すなわち原因が不明ということを意味しています。そして以前ご説明申し上げた通り、線維症と言うのは肺のスポンジがカタくなる病態です。言い換えると、特発性肺線維症とは「原因不明の肺がカタくなる病気」という意味です。
3.肺のスポンジは拡大するとブドウの房のように見えます。このブドウの房で私たちは呼吸をしていますが、ハチの巣のようにカタくなってしまった壁が邪魔で、うまく呼吸ができなくなります。IPFは時間とともに肺胞が次第にカタくなっていき、ゆるやかではありますが進行していくことが知られています。
3.残念ながら“根治”させる治療法は現在のところありません。ただ、進行を遅らせることができる薬(ピレスパ®、オフェブ®)があります。炎症を抑えるステロイドという薬や免疫を抑える薬によって治療されてきた歴史がありますが、現在はこういった治療は効果が十分ではないと考えられています。
4.進行は個人差が大きいですが、数年の経過で呼吸がしんどくなることが多いとされています。呼吸がしんどくなった場合には在宅酸素療法を受けた方が症状がラクになるかもしれません。
5.風邪などがきっかけになってこの病気(IPF)が急速に悪化することがあるので、定期的に通院していただく必要があります。
6.IPFは厚生労働省の難病に指定されており、一定の基準を満たせば医療費などの補助を受けることができます。
※一度に説明を行うと混乱することが多いので、複数回の診察に分けてゆっくり説明する方がよいと思います。
※数字のセクションごとに理解できているか質問の時間や間をとることをオススメします
※あくまで1つの例であり、ベストな説明方法ではありませんのでご了承ください。




by otowelt | 2015-09-18 00:51 | びまん性肺疾患

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