おさえておきたい最近の呼吸器系薬剤その2

ニンテダニブ(オフェブ®)
 ニンテダニブは血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)の受容体を標的とする低分子チロシンキナーゼ阻害薬です。オフェブ®という商品名で2015年8月に販売されました。オフェブ®の使用は、IPFの治療に精通している医師のもとで行うことが添付文書に明記されています。現在、オフェブ納入に必要な条件として、以下を満たす必要があります。

<施設要件>
・全例調査に協力し、調査に関する契約締結が可能な施設
・日本呼吸器学会専門医が在籍する施設
・高分解能CT(HRCT)検査が実施可能な施設
<使用医師条件>
・IPFの治療に精通している医師
・適正使用を理解し、全例調査に協力可能な医師
・調査期間中、原則として少なくとも2週間に1回、施設担当MRと面談可能な医師
・重篤な有害事象発現時に報告可能な医師


 ニンテダニブの臨床試験として知っておきたい試験は、TOMORROW試験とINPULSIS試験です。

 まずTOMORROW試験について。これは、432人の患者をニンテダニブ50mg1日1回、50mg1日2回、100mg1日2回、150mg1日2回、プラセボにランダムに割り付けた比較試験です。ニンテダニブ150 mg 1日2回投与群においてプラセボ投与群と比較してFVC低下を抑制する傾向があることがわかりました。また、IPFの急性増悪もプラセボと比較して抑制することができました(100患者年あたり2.4 vs. 15.7、p = 0.02)。
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図. IPFに対するニンテダニブの有効性(Richeldi L, et al. Efficacy of a tyrosine kinase inhibitor in idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2011 Sep 22;365(12):1079-87.

 INUPULSIS試験には同様の試験デザインであるINPULSIS-1試験およびINPULSIS-2試験の2試験が報告されています。 INPULSIS-1試験では513人、INPULSIS-2試験では548人のIPF患者さんが登録されました。プライマリエンドポイントである1年の努力性肺活量変化はニンテダニブ群で有意な抑制効果がみられたました。具体的にはINPULSIS-1試験で-114.7 vs. -239.9 mL/年(95%信頼区間77.7-172.8)、INPULSIS-2試験で-113.6 vs. -207.3 mL/年(95%信頼区間44.8-142.7)でした。
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図. INPULSIS試験(Richeldi L, et al. Efficacy and safety of nintedanib in idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2014 May 29;370(22):2071-82.

 副作用として下痢が60%程度にみられるとされており、ロペラミド(ロペミン®)を使用しないとコントロールできないこともあるようです。

 ニンテダニブはその特性から抗がん剤としての効果も期待されており、2013年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)でもLUME-Lung 2試験の結果が報告されています。これは、進行再発非小細胞肺がんに対する二次治療として、ペメトレキセドにニンテダニブを併用することで、無増悪生存期間が有意に延長したという結果でした(ハザード比0.83、95%信頼区間0.7-0.99、p = 0.04)。ただこの効果はわずかであると考えられるため、今後の検証が待たれるところです。
Hanna NH, et al. LUME- Lung 2 : a Multicenter, Randomized, Double-blind, Phase III Study of Nintedanib plus Pemetrexed versus Placebo plus Pemetrexed in Patients with Advanced Non-squamous Non-small Cell Lung Cancer after Failure of First-line Chemotherapy. [ASCO 2013, Abstract: 8034.]

 ピレスパ®とオフェブ®のどちらを選べばよいのか?という命題にはエビデンスは答えを提示してくれていません。呼吸機能の低下を抑制する作用はいずれにもみられますが、副作用にはそれぞれ差異があるので(前者は皮膚症状が多い、後者は下痢が多い)、患者さんの使い勝手で選ぶというのが現時点でのストラテジーかと思われます。


シロリムス(ラパリムス®)
 ラパリムス®は免疫抑制剤の一つです。シロリムスは、呼吸器科領域ではリンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)に対して使用されます。ラパマイシン誘導体としてテムシロリムス(トーリセル®)があり、これは例えば腎細胞がんに対して使用されます。これは、ラパマイシンがPI3K/Akt/mTOR(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質:mammalian target of rapamycin)経路を阻害するためです。また、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を抑制するため、血管内皮細胞の増殖や管腔形成を抑えることができます。LAMに対して有効であるのは、主に平滑筋増殖抑制効果に由来します。
Goncharova EA, et al. Tuberin regulates p70 S6 kinase activation and ribosomal protein S6 phosphorylation. A role for the TSC2 tumor suppressor gene in pulmonary lymphangioleiomyomatosis (LAM). J Biol Chem. 2002 Aug 23;277(34):30958-67.

 LAMに対するシロリムスの有効性を示した試験は、MILES試験です。これは、12か月のランダム化プラセボ対照比較試験をおこない、さらに引き続き12か月の観察期間でシロリムスの有効性を検証した二段階試験です。プライマリエンドポイントは1秒量の変化に設定されました。その結果、1か月あたりの変化量はプラセボ群で−12±2 mL、シロリムス群で1±2 mLと、有意にシロリムス群で1秒量の低下が抑制されました。(p < 0.001)。当初懸念されたシロリムスによる薬剤性肺障害は観察されませんでした。
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図. LAMに対するシロリムスの有効性(McCormack FX, et al. Efficacy and safety of sirolimus in lymphangioleiomyomatosis. N Engl J Med. 2011 Apr 28;364(17):1595-606.

 LAMに対するシロリムス長期的な有効性については、5年におよぶその効果が2014年に報告されています。
Yao J, et al. Sustained effects of sirolimus on lung function and cystic lung lesions in lymphangioleiomyomatosis. Am J Respir Crit Care Med. 2014 Dec 1;190(11):1273-82.


リオシグアト(アデムパス®)
 アデムパス®は可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬で、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療薬として有効とされている薬剤です。原発性肺動脈性肺高血圧症はなかなか実臨床では目にしませんが、CTEPHはよく診ますよね。
Hoeper MM. Pharmacological therapy for patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Eur Respir Rev. 2015 Jun;24(136):272-82.

 CTEPHではWHO機能分類2度以上の場合、血栓の近位端が主肺動脈~区域動脈近位部にあって高肺血管抵抗を示す患者さんに対して外科治療が推奨されています。ただ、手術適応外のケースでは、カテーテル治療や肺血管拡張薬が用いられます。リオシグアトに対する肺高血圧症のエビデンスとしては、CHEST試験、PATENT試験が有名です。特に前者はCTEPHの内科的治療のターニングポイントとなりうる臨床試験です。
 
 CHEST-1試験は、手術不能のCTEPHまたは肺動脈内膜摘除術後に肺高血圧症の持続や再発がみられる患者さん261人を、プラセボ投与とリオシグアト投与にランダムに割り付けた第3相試験です。治療開始16週目までに、6分間歩行距離はリオシグアト群で平均39m増加したのに対して、プラセボ群では平均 6m減少しました(最小二乗平均差46m、95%信頼区間25-67、P<0.001)。またリオシグアトはNT-proBNP濃度(P<0.001)およびWHO機能分類(P=0.003)も有意に改善しました。
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図. CTEPHに対するリオシグアトの有効性(Ghofrani HA, et al. Riociguat for the treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. N Engl J Med. 2013 Jul 25;369(4):319-29.

 同じ号の雑誌に掲載されたPAHに対するPATENT-1試験についても知っておきたいところです。これは、PAHの患者さん443人を、プラセボ群、リオシグアト2.5mg1日3 回を最大として個別調節投与する群(最大2.5mg群)、リオシグアト1.5mg1日3回を最大として個別調節投与する群(最大1.5mg群)にランダムに割り付けた試験です。治療開始12週目までに、6分間歩行距離は最大2.5mg群では平均30m増加し、プラセボ群では平均6m減少しました(最小二乗平均の差36m、95%信頼区間 20-52、P<0.001)。肺血管抵抗(P<0.001)、NT-proBNP 濃度(P<0.001)、WHO機能分類(P=0.003)、臨床的なPAH増悪までの期間(P=0.005)、Borg呼吸困難感スコア(P=0.002)についても有意に改善させました。
Ghofrani HA, et al. Riociguat for the treatment of pulmonary arterial hypertension. N Engl J Med. 2013 Jul 25;369(4):330-40.

 つまりCTEPHとPAHの両方においてその効果が確認されたということです。日本では現時点ではCTEPHに対して用いられていることが多いようです。1年以上の長期的なリオシグアトに使用についても、CTEPHではその後のCHEST-2試験で効果と安全性が確認されています。
Simonneau G, et al. Riociguat for the treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension: a long-term extension study (CHEST-2). Eur Respir J. 2015 May;45(5):1293-302.

 右室肥大に対するリオシグアトの有効性も示されています。
Marra AM, et al. Change of right heart size and function by long-term therapy with riociguat in patients with pulmonary arterial hypertension and chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Int J Cardiol. 2015 Sep 15;195:19-26.


デラマニド(デルティバ®)
 デルティバ®は、ミコール酸合成を阻害する新しいタイプの抗結核薬であり、多剤耐性結核(MDRTB)に対して強い活性があります。デルティバ(DELTYBA)は、一般名であるDelamanid の“DEL”とtuberculosis (結核)を語源とする“TYBA”のフレーズを組み合わせ命名されたそうです。デラマニドは2014年に登場しました。不適切な使用によって耐性結核が増えてしまってはダメ。ということで、デルティバを使用できる医療機関としての条件が別途定められています。基本的に結核病棟があり結核治療に慣れた病院でしか使いませんので、それ以外の方は「最近はこういう薬も登場しているんだ」くらいに理解しておけばよいと思います。

 MDRTBに対して、WHOで推奨されている治療にデラマニドあるいはプラセボを加えたランダム化比較試験が有名です。治療開始2か月時点でデラマニド群の方が液体培養陰性化率がプラセボより有意に高いことが示されました(45.4% vs. 29.6%、p = 0.008)。固形培地でも同様の結果でした。デラマニドにおいて、プラセボ群よりも有意にQT延長が多く観察されています(100mg1日2回群で9.9%、プラセボ群では3.8%)。
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図. 多剤耐性結核に対するデラマニドの有効性(Gler MT, et al. Delamanid for multidrug-resistant pulmonary tuberculosis. N Engl J Med. 2012 Jun 7;366(23):2151-60.

 2か月より短い内服期間と、6か月より長い内服期間を比較した研究では、デラマニドを長期に内服した方が、死亡率を含むアウトカムを改善することができるとされています。
Skripconoka V, et al. Delamanid improves outcomes and reduces mortality in multidrug-resistant tuberculosis. Eur Respir J. 2013 Jun;41(6):1393-400.

 世界的にも、デラマニド、ベダキリンはMDRTBに対する強力な治療選択肢として位置付けられています。MDRTBの武器が増えることはよいことなのです。
WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee. The Use of Delamanid in the Treatment of Multidrug-Resistant Tuberculosis: Interim Policy Guidance. SourceGeneva: World Health Organization; 2014.

<補足:ベダキリン>
 ベダキリンは抗酸菌ATP合成酵素阻害というこれも新しい機序を有するジアリルキノリンという種類のMDRTB治療薬です。ジアリルキノリンとフルオロキノロンを交互に言うと、早口言葉みたいになってしまいますね。MDRTBと診断された喀痰塗抹陽性患者をベダキリン群とプラセボ群にランダムに割り付けた試験があります。これによればベダキリンの使用によって喀痰培養陰性化までの期間の中央値は、プラセボの中央値125日と比較して83日と短く(ベダキリン群のハザード比2.44、95%信頼区間1.57-3.80、P<0.001)、24週時点での喀痰培養陰性化率(79% vs. 58%、P=0.008)、120週時点での喀痰培養陰性化率(62% vs. 44%、P=0.04)もプラセボを上回ったとされています。
Diacon AH, et al. Multidrug-resistant tuberculosis and culture conversion with bedaquiline. N Engl J Med. 2014 Aug 21;371(8):723-32.


by otowelt | 2015-09-21 09:31 | 呼吸器その他

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