前立腺肥大症のあるCOPD患者さんに吸入抗コリン薬は処方してよい?

e0156318_1225165.jpg・エビデンスはどう答える?
 抗コリン薬と前立腺肥大症の関係を知らない医療従事者はいないでしょう。抗コリン薬は前立腺肥大症状を悪化させ、ひどい場合には医原性の尿閉をきたします。エライコッチャです。吸入抗コリン薬とて例外ではなく、添付文書の禁忌の欄には閉塞隅角緑内障、前立腺肥大症という見慣れた病名が・・・。

 とはいえ、潜在的な前立腺肥大症の患者さんは多く、「ちょっと残尿感や頻尿があるからLAMAはやめておきましょう」とバッサリ切り捨てるのも考え物、ということで、多少の前立腺肥大症があっても使っていいんじゃないかという意見もあります。

 19のランダム化比較試験を組みこんだ解析では、程度については記載されていませんが吸入抗コリン薬の使用によって尿閉のリスクは上昇すると報告されています(相対リスク10.93、95%信頼区間1.26-94.88)1)。 また、ある症例対照研究では、男性のCOPD患者さんが吸入抗コリン薬を使用することで、非使用者より尿閉のリスクが上昇するという報告も(補正オッズ比1.42、95%信頼区間1.20-1.68)2)。前立腺肥大症がある男性ではさらにリスクが増すようです(補正オッズ比1.81、95%信頼区間 1.46-2.24)。 有名なUPLIFT試験ではどうだったかというと、プラセボ群よりもチオトロピウム群で尿閉が多かったものの統計学的な有意差は認められていません(率比1.65、95%信頼区間0.92-2.93)3)

 なんだやっぱ前立腺肥大症には絶対ダメじゃん、というと、ところがドッコイ。安全性には問題ないという報告もあります。前立腺肥大症のあるCOPD患者さん25人にチオトロピウムを使用したところ、急性の排尿障害を呈した例は1例もなく、国際前立腺症状スコアやQOLにも影響しなかったという日本の研究が報告されています4)。この臨床試験では、チオトロピウムは最大尿流量率と平均尿流量率にも悪影響を及ぼしませんでした。

 じゃあどっちなのよ、というとまだ結論がついていないというのが実のところです。2013年に、過去の報告をまとめたシステマティックレビューが報告されていますが、結局は“医学的利益と副作用のバランス次第”ということです5)。高齢者のCOPD患者さんの場合にはやはり注意が必要で、薬剤開始から30日以内は注意した方がよいそうです。


・実臨床では処方する?しない?
 添付文書では、LAMAは前立腺肥大症などによる排尿障害のある患者さんには禁忌で、前立腺肥大症があるだけなら慎重投与という位置づけです。そのため、もともと排尿障害が前面に出ている患者さんの場合は禁忌です。法的な観点からも、こういった患者さんのCOPD長期管理薬としてLAMAを選ぶには勇気が要るでしょう。そのため、私は明らかに前立腺肥大症の症状がコントロールできていない患者さんにはLAMAを処方しません。

 ただ、LAMAを新規に始めた患者さんをこれまでたくさん診てきましたが、排尿症状が悪化したという患者さんは現時点では1人も経験していません。他の排尿障害に注意すべき薬剤と比較しても、LAMAは吸入したところで体内で代謝される絶対量が少ないため、前立腺に与える影響はそこまで大きくないのでは・・・と考えています。

 前立腺肥大症のあるCOPD患者さんへLAMAを処方するのはためらわれますが、症状が軽度ですでに治療により排尿症状のコントロールができている患者さんであれば、注意しながら使用しても差し支えはないと思います。


(参考文献)
1) Kesten S, et al. Pooled clinical trial analysis of tiotropium safety. Chest. 2006 Dec;130(6):1695-703.
2) Stephenson A, et al. Inhaled anticholinergic drug therapy and the risk of acute urinary retention in chronic obstructive pulmonary disease: a population-based study. Arch Intern Med. 2011 May 23;171(10):914-20.
3) Tashkin DP, et al. A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1543-54.
4) Miyazaki H, et al. Tiotropium does not affect lower urinary tract functions in COPD patients with benign prostatic hyperplasia. Pulm Pharmacol Ther. 2008 Dec;21(6):879-83.
5) Loke YK, et al. Risk of acute urinary retention associated with inhaled anticholinergics in patients with chronic obstructive lung disease: systematic review. Ther Adv Drug Saf. 2013 Feb;4(1):19-26.


by otowelt | 2016-02-26 00:17 | レクチャー

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