何となく研修医に伝えたいこと その14:病状説明は一方通行ではない
2017年 03月 24日
ムンテラデビュー。患者さんへの初めて病状説明をするとき、どんな医師でも緊張するはずです。初期研修医の頃、こんなことを指導医に言われました。
指導医: 「ローテート中に病状説明をやってみようか。私も同席するし、何かおかしなことがあったらサポートするから。」
私の病状説明デビューは、研修医1年目の5月でした。説明する内容は、COPDと在宅酸素療法の導入について。呼吸器内科をローテートしてまだ1ヶ月でしたから、国家試験で勉強した内容しか理解していませんでした。在宅酸素療法についても、保険適用基準くらいしか覚えていませんでした。患者さんはすでに病棟で安静時1L/分、労作時2L/分の酸素を吸っている状態でした。
私は、『イヤーノート』と『病気がみえる』でCOPDと在宅酸素療法の勉強をしました。病状説明の前日の晩、あまりに緊張してほとんど眠れませんでした。
翌朝、病状説明の部屋に酸素カニューラを鼻に通した患者さんが入ってきました。なぜか私が一番緊張しているではありませんか。ガチガチ。
私:「あのあのあの・・・!」
横に座っている指導医が「落ち着いて」とささやきました。少しリラックスした私は、COPDの一般的のことや在宅酸素療法について説明をすすめていきました。医学生時代OSCEで習ったように「何か気になることはありませんか?」などと質問をはさみつつ。
患者さん:「でよ、先生よ、その在宅酸素療法ってのをやらないとどうなるんだい?」
私:「酸素が低い状態が続くので、息もしんどいですし、身体にはよくないと思うのですが・・・・・・」
患者さん:「そうか、じゃあ先生にオレの考えを言おうか、オレは在宅酸素療法をやりたくない。まだ仕事を続けたいんだ。こんな機械をつけてみろ、職場で馬鹿にされるわ。」
私:「あのあのあの・・・!」
まさか患者さんが在宅酸素療法を拒否するとは思ってもいなかったため、私はふたたびパニックになりました。病状説明失敗だ、僕はダメな研修医なんだ・・・!頭が真っ白になった私を見て、横にいた指導医が助け船を出してくれました。
指導医:「●●さんの気持ちは十分、わかりました!私も仕事中に酸素チューブをつけるのはイヤですもん、気持ちはわかります。まだ数日検査も残っていますから、退院前にまたお話を聞かせて下さいね。」
そう言うと、患者さんは酸素ボンベの流量を1L/分から2L/分へダイヤルをまわし、スタスタと部屋へ戻っていきました。ほら、酸素を吸っているからあれだけ元気に歩けるんじゃないか。ブツブツ。意気消沈した私に向かって、指導医はこう言いました。
指導医:「教科書にはね、在宅酸素療法の見た目を気にする患者さんが多い、なんてどこにも書いていないの。」
確かに、私の持っている医学書にはどこにもそんなこと書かれていませんでした。しかし、自分がいざ導入される立場だったら、その考えに行き着いたはずだ。酸素療法って他人からどう見えるんだろう?費用はどのくらいなんだろう?という疑問が浮かんだはず。私は、所詮他人事だと思って病状説明に臨んでいたのです。
指導医:「病状説明っていうのはね、患者さんにこちらの説明を伝えることじゃないの。患者さんが自分の病気のことをどう思ってるのか、治療法についてどう思っているのか、私たち医療従事者にも説明してもらうことなの。」
ガツンと殴られたような衝撃を受けました。病状説明は、医師から患者さんへの一方向の説明と思い込んでいた。いいや違う、矢印は医師側と患者さん側から二本出ているんだ。患者さんからも、説明してもらわないといけない。
病状説明は、何度も繰り返して慣れないとコツがつかめません。こればかりは教科書に書けるものではないのです。どういう表現をすると患者さんが納得して満足してくれるか、ケースバイケースだからです。しかし、最も重要なのは、患者さんからの説明を聞く耳を持たなければいけないということです。OSCEで習った定型文をロボットのように唱えても、患者さんには何も響きません。
研修医時代にこれに気付かないと、ベテラン医師になっても1本の矢印しか出ていない病状説明になってしまうことがしばしばあります。「何か分からないことはありますか?」と聞いても、矢印が1本しかなければ患者さんは心を開いてくれません。
私は、それからというもの初期研修医の指導を受け持ったとき、必ず病状説明の経験をしてもらいます。それで何かを感じてくれたらよいなと思っていますが、私はかつての指導医ほど指導力がないので、どうやったら研修医が病状説明のことを大事に思ってくれるか、いまだに悩んでいます。
指導医も勉強の日々です。
<何となく研修医に伝えたいこと>
・その1:夕方に指示を出すべからず
・その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
・その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
・その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
・その5:ポリファーマシーのクセをつけない
・その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
・その7:クリアカットになりすぎない
・その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない
・その9:処方する前に必ず添付文書をチェックするべし
・その10:医学書は衝動買いしない
・その11:他科へのコンサルテーションは目的を明確に
・その12:指導医をバカにしない
・その13:患者さんは人生がかかっている
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指導医: 「ローテート中に病状説明をやってみようか。私も同席するし、何かおかしなことがあったらサポートするから。」
私の病状説明デビューは、研修医1年目の5月でした。説明する内容は、COPDと在宅酸素療法の導入について。呼吸器内科をローテートしてまだ1ヶ月でしたから、国家試験で勉強した内容しか理解していませんでした。在宅酸素療法についても、保険適用基準くらいしか覚えていませんでした。患者さんはすでに病棟で安静時1L/分、労作時2L/分の酸素を吸っている状態でした。
私は、『イヤーノート』と『病気がみえる』でCOPDと在宅酸素療法の勉強をしました。病状説明の前日の晩、あまりに緊張してほとんど眠れませんでした。
翌朝、病状説明の部屋に酸素カニューラを鼻に通した患者さんが入ってきました。なぜか私が一番緊張しているではありませんか。ガチガチ。
私:「あのあのあの・・・!」
横に座っている指導医が「落ち着いて」とささやきました。少しリラックスした私は、COPDの一般的のことや在宅酸素療法について説明をすすめていきました。医学生時代OSCEで習ったように「何か気になることはありませんか?」などと質問をはさみつつ。
患者さん:「でよ、先生よ、その在宅酸素療法ってのをやらないとどうなるんだい?」
私:「酸素が低い状態が続くので、息もしんどいですし、身体にはよくないと思うのですが・・・・・・」
患者さん:「そうか、じゃあ先生にオレの考えを言おうか、オレは在宅酸素療法をやりたくない。まだ仕事を続けたいんだ。こんな機械をつけてみろ、職場で馬鹿にされるわ。」
私:「あのあのあの・・・!」
まさか患者さんが在宅酸素療法を拒否するとは思ってもいなかったため、私はふたたびパニックになりました。病状説明失敗だ、僕はダメな研修医なんだ・・・!頭が真っ白になった私を見て、横にいた指導医が助け船を出してくれました。
指導医:「●●さんの気持ちは十分、わかりました!私も仕事中に酸素チューブをつけるのはイヤですもん、気持ちはわかります。まだ数日検査も残っていますから、退院前にまたお話を聞かせて下さいね。」
そう言うと、患者さんは酸素ボンベの流量を1L/分から2L/分へダイヤルをまわし、スタスタと部屋へ戻っていきました。ほら、酸素を吸っているからあれだけ元気に歩けるんじゃないか。ブツブツ。意気消沈した私に向かって、指導医はこう言いました。
指導医:「教科書にはね、在宅酸素療法の見た目を気にする患者さんが多い、なんてどこにも書いていないの。」
確かに、私の持っている医学書にはどこにもそんなこと書かれていませんでした。しかし、自分がいざ導入される立場だったら、その考えに行き着いたはずだ。酸素療法って他人からどう見えるんだろう?費用はどのくらいなんだろう?という疑問が浮かんだはず。私は、所詮他人事だと思って病状説明に臨んでいたのです。
指導医:「病状説明っていうのはね、患者さんにこちらの説明を伝えることじゃないの。患者さんが自分の病気のことをどう思ってるのか、治療法についてどう思っているのか、私たち医療従事者にも説明してもらうことなの。」
ガツンと殴られたような衝撃を受けました。病状説明は、医師から患者さんへの一方向の説明と思い込んでいた。いいや違う、矢印は医師側と患者さん側から二本出ているんだ。患者さんからも、説明してもらわないといけない。
病状説明は、何度も繰り返して慣れないとコツがつかめません。こればかりは教科書に書けるものではないのです。どういう表現をすると患者さんが納得して満足してくれるか、ケースバイケースだからです。しかし、最も重要なのは、患者さんからの説明を聞く耳を持たなければいけないということです。OSCEで習った定型文をロボットのように唱えても、患者さんには何も響きません。
研修医時代にこれに気付かないと、ベテラン医師になっても1本の矢印しか出ていない病状説明になってしまうことがしばしばあります。「何か分からないことはありますか?」と聞いても、矢印が1本しかなければ患者さんは心を開いてくれません。
私は、それからというもの初期研修医の指導を受け持ったとき、必ず病状説明の経験をしてもらいます。それで何かを感じてくれたらよいなと思っていますが、私はかつての指導医ほど指導力がないので、どうやったら研修医が病状説明のことを大事に思ってくれるか、いまだに悩んでいます。
指導医も勉強の日々です。
<何となく研修医に伝えたいこと>
・その1:夕方に指示を出すべからず
・その2:病棟ではあまりタメ口は使うべからず
・その3:患者さんの社会背景や退院後の生活を常に考えるべし
・その4:1日2回は患者さんに会いに行くべし
・その5:ポリファーマシーのクセをつけない
・その6:研修医時代は早めに出勤した方がよい
・その7:クリアカットになりすぎない
・その8:「●●も否定できない」は肯定の理由にはならない
・その9:処方する前に必ず添付文書をチェックするべし
・その10:医学書は衝動買いしない
・その11:他科へのコンサルテーションは目的を明確に
・その12:指導医をバカにしない
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by otowelt
| 2017-03-24 00:58
| コラム:研修医に伝えたいこと