COPDに対する吸入β刺激薬は主要心血管イベントリスクを上昇させる

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COPD+慢性心不全の患者さんにβ遮断薬を使用することに関しては、使用したほうが色々とリスクが下がるだろうという概ねのコンセンサスは得られています。

たとえば急性心筋梗塞後に退院したCOPD患者さんを観察した研究では、β遮断薬の使用は、COPDの重症度や増悪歴とは無関係に、少なくとも1年間COPDの増悪のリスク低下と関連していたとされています(Thorax 2020; 75:928.)。COPD増悪による死亡リスクを低下させたという報告もあります(Arch Intern Med 2010; 170:880.、Thorax 2008; 63:301.)。

さて、問題は吸入LABA・吸入SABA・吸入ICS/LABAです。いずれもトラフ1秒量を増加させる効果が示されていますが、COPDの要素を含むβ刺激薬はMACEリスクの上昇と関連するというコホート内症例対照研究がIJCOPDに報告されました。吸入β刺激薬はβ2メインですが、選択的と言えるほどではなく、必然的なoff-target効果が起こるようで。

吸入β刺激薬のMACEについては、イベント発生率が少なく95%信頼区間が広くなり、個々の臨床試験でも脱落率が高いため、これまで検討が難しかったです。

安定期COPD患者さんにLABAを使用した場合、統計学的にはボーダーラインに近いプラセボよりも心不全リスクが高いことを示したRCTのメタアナリシスがあります(J Cardiovasc Pharmacol. 2019;74(3):255–265.、Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2019;14:799–808.)。LAMAを併用するとさらにリスクが上振れするという報告もありますが、逆に有害事象が減るというレビューもあり(Cochrane Database Syst Rev 2017; 2:CD012066.)、このあたりは「投与期間」が背後で交絡しているのかもしれません。

実際、過去にβ刺激薬の使用歴があると、COPDにおける心血管イベントリスクが9%減少することが分かっており、長期に使用することで結果的にリスクがトレードオフされる可能性を示唆しています(JAMA Intern Med 2018; 178:229.)。


Amegadzie JE, et al. Association between Inhaled β 2-agonists Initiation and Risk of Major Adverse Cardiovascular Events: A Population-based Nested Case-Control Study. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2022 May 20;17:1205-1217.

  • 概要
■喘息およびCOPDにおけるβ2刺激薬の有効性を裏付ける十分なエビデンスがあるにもかかわらず、心臓にβ1-およびβ2-アドレナリン受容体が存在することから、β2刺激薬には心臓に悪影響を及ぼす可能性があると示唆されている。われわれは、LABAまたはSABA、またはICS/LABAの新規使用者と主要心血管イベント(MACE)の関連性を調査した。

■1998年1月1日~2018年7月31日にLABA、SABA、ICS/LABA、ICS、LAMAまたはSAMAの初期治療を受けた喘息,COPD、ACO患者について、イギリス臨床実践研究データリンクを用いてコホート内症例対照研究を実施した。主要アウトカムは、脳卒中、心不全、心筋梗塞、不整脈、心血管死の初発と定義されるMACEであった。各症例は、年齢、性別、コホート参加日、追跡期間について最大10人の対照者とマッチングされた。潜在的な交絡因子をコントロールした後、条件付きロジスティック回帰を用いてβ2刺激薬に関連するMACEリスクを推定した。

■コホートには、β2刺激薬、ICS、SAMAまたはLAMAの新規使用者18万567人が含まれた。喘息患者において,β2刺激薬はMACEリスクと関連しなかった(SABA vs ICS:ハザード比1.29[95%信頼区間0.96-1.73],ICS/LABA vs ICS:ハザード比0.75[95%信頼区間0.33-1.73] )。一方、COPD患者では、LABA(ハザード比2.38[95%信頼区間1.04-5.47])、SABA(ハザード比2.02[95%信頼区間1.13-3.59])、ICS/LABA(ハザード比2.08[95%信頼区間1.04-4.16])使用者はSAMA使用者と比較してMACEリスクが増加した。喘息とCOPDが重複している患者では、SABA(ハザード比2.57[95%信頼区間1.26-5.24])はICSと比較してMACEリスクの上昇と関連していた。






by otowelt | 2022-06-21 00:21 | 気管支喘息・COPD

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


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