胸膜癒着術

当ブログで最多アクセスの記事なので、最新の知見をふまえて2014年1月22日に3回目の改訂をおこないました。

●はじめに
 胸膜癒着術は、呼吸器科医であればおもに気胸と癌性胸膜炎による胸水におこなうことがほとんどでしょう。ただし、その方法については画一的なものはなく、エビデンスもまだ集積されていない領域です。胸膜癒着術は、当初自然気胸の再発に対して、胸膜を癒着させ胸腔を閉鎖すれば気胸の発症は防止できるのではないかという発想のもと1930年代に始まりました。1930年代にはすでにタルクや自己血を注入していたとされており、歴史的にはかなり早熟した治療だと思います。
Bethune, N. Pleural poudrage: new technique for the deliberate production of pleural adhesion as preliminary to lobectomy. J Thorac Surg 1935; 4:251.

 癌性胸膜炎に一般的に使用されているピシバニール(OK432)は1980年代に入って使用され始めました。現時点で気胸や癌性胸膜炎にどういった効果があるかというと、まず自然気胸に対する5年再発率を16%減少することができたという報告があります(25% vs 41%)。さらに、タルクによる胸膜癒着術では、自然気胸は95%再発しなかったという良好な成績があるため、欧米では自然気胸に対する胸膜癒着術はタルクが主流です。
Gyorik S et al; Long-term follow-up of thoracoscopic talc pleurodesis for primary spontaneous pneumothorax. Eur Respir J. 2007 Apr;29(4):757-60.

 全例が成功するわけではなく、当然ながら肺の拡張が得られないようなケースではそもそもあまり意味がありません。また胸膜播種が重度の場合、何度やっても癒着できないようなケースもあります。他にも、胸膜癒着術が成功しにくい要因があります。

 例えば胸水中pHが7.28以下のように低い例ですと、その失敗は極端に増加します(オッズ比4.46, 95%信頼区間 2.69 - 7.45, p < 0.0001)。他にも胸水中%LDHの上昇が146%を上回るもの(オッズ比4.11,95%信頼区間 1.81 - 9.64)、胸水糖の低下(72mg/dL以下)(オッズ比3.02,95%信頼区間 1.77 - 5.21)は胸膜癒着術失敗のリスク因子とされています。
Heffner JE et al. Pleural fluid pH as a predictor of pleurodesis failure: analysis of primary data. Chest 2000 Jan;117(1):87-95.


●癒着剤
 癒着剤として何を投与するかですが、大きく分けると2種類あります。
・胸膜を化学的に刺激し、胸膜炎を惹起する薬剤:
  タルク(ユニタルク®)、テトラサイクリン系、ピシバニール(OK432)、抗癌剤
・それ自体に接着作用がある薬剤:
  フィブリン糊、自己血

(1)タルク(ユニタルク)…癌性胸膜炎、気胸に使用されている
 2013年12月9日、悪性胸水の治療薬であるユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤4g(一般名:タルク)が発売されました。タルクは、滑石という鉱石を微粉砕した無機粉末です。化学式はMg3Si4O10 (OH)2です。癌性胸膜炎による悪性胸水に対する胸膜癒着術の第一選択とされています。メタアナリシスでは、タルクは最も胸膜癒着術の成績がよい薬剤とされており、胸膜癒着術のあと最低でも78%の成功率が維持できるというすぐれものです。また、胸腔鏡下にタルクを散布する方法もかなり有効とされています。ただし日本では胸腔鏡下でのタルク散布は保険適応外です。
・Dresler CM et al. Phase III intergroup study of talc poudrage vs talc slurry sclerosis for malignant pleural effusion. Chest 2005 Mar;127(3):909-15.
・Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.


 ユニタルクは1回4gを胸腔内に注入します。10gを超えるようなケースでは急性呼吸促迫症候群(ARDS)などの重篤な副作用も報告されています。また、タルク粒子の構成半分が10 µmを下回るような微小粒子タルク末は、早期の死亡リスクである可能性が示唆されていますので注意が必要です。
Arellano-Orden E, et al. Small Particle-Size Talc Is Associated with Poor Outcome and Increased Inflammation in Thoracoscopic Pleurodesis. Respiration. 2013;86(3):201-9.

 ユニタルクは生理食塩水で懸濁して使用しますが、放っておくと沈殿してしまうため、溶液内にタルクをまんべんなく行き渡らせて使用するよう心掛けましょう。ピシバニールと比較して発熱が軽度で済むのではないかと考えられています。

 参考記事:日本人の悪性胸水に対するタルクの胸膜癒着術は有効


(2)ブレオマイシン…癌性胸膜炎に使用されている
 言わずと知れた抗癌剤です。1mg/kg、多いときで50~60mg/kgを注入します。日本では抗癌剤による胸膜癒着術としてはシスプラチンがよく使われていますが、骨髄抑制や腎障害などの副作用が50~80%見られ、他の抗癌剤に比べて強い傾向にあります。ピシバニール(OK432)の項にも記載しますが、統計学的には4週間の胸水無増悪生存率は、ピシバニール(OK432)やシスプラチン+エトポシドと同等の成績とされています。
Yoshida K, et al. Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515. Lung Cancer. 2007 Dec;58(3):362-8.


(3)テトラサイクリン系抗菌薬…癌性胸膜炎、気胸に使用されている
 海外の文献ではタルクに劣る報告がいくつかあるため、アメリカではあまり使用されることは少なくなってしまいました。
・Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.
・Heffner JE et al ;Clinical efficacy of doxycycline for pleurodesis. Chest 1994 Jun;105(6):1743-7.


 ただ、日本ではまだ胸膜癒着剤の主役ですし、使われる頻度も多いと思います。用量としては、ドキシサイクリン 500mg,、ミノサイクリン300mg程度の量を50mlの生食に溶解して注入する方法が主流です。とても胸膜痛が強くでる薬剤ですので、キシロカインの注入を事前におこなっておくなど工夫が必要です。癌性胸膜炎に対する成功率はおよそ80%とされています。
・Bielsa S, et al. Tumor type influences the effectiveness of pleurodesis in malignant effusions. Lung 2011; 189:151.
・Porcel JM, et al. Rapid pleurodesis with doxycycline through a small-bore catheter for the treatment of metastatic malignant effusions. Support Care Cancer 2006; 14:475.


 自然気胸に対して胸腔ドレナージ単独よりもミノサイクリンによる胸膜癒着術を併用したほうが再発抑制効果が高かったという報告もあります(1年後の再発率:ミノサイクリン群29.2%、胸腔ドレナージ単独群49.1%、p=0.003)。
Chen JS, et al. Simple aspiration and drainage and intrapleural minocycline pleurodesis versus simple aspiration and drainage for the initial treatment of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, parallel-group, prospective, randomised, controlled trial. Lancet. 2013 Apr 13;381(9874):1277-82.


(4)ピシバニール(OK432)…癌性胸膜炎に使用されている、時に気胸に使用されている
 もともと抗癌剤というカテゴリーに入る薬剤なのですが、注射用製剤で0.2・0.5・1・5KE/バイアルがあります。1KEはStreptococcus pyogenes (A群3型)Su株ペニシリン処理凍結乾燥粉末2.8mg乾燥菌体として0.1mgに相当し、KEとはドイツ語でKlinische einheit(臨床単位)のことを指します。ベンジルペニシリンカリウムを含有していますので、ペニシリンアレルギー患者には禁忌になっているので注意してください。また、心臓疾患、腎臓疾患患者には慎重投与となっています。1回あたり5-10KEを胸腔内に注入します。1KEと比較して10KEを30分かけて1日目と3日目で投与したほうがドレナージ期間の短縮(4.0±1.3日 vs 7.0±1.6日, p=0.028)および総排液量の減少(675±215mL vs 1356±277mL, p<0.001)に有利であったという報告があるため、ある程度の量は必要のようです。
Kasahara K, et al. Randomized phase II trial of OK-432 in patients with malignant pleural effusion due to non-small cell lung cancer. Anticancer Res. 2006 Mar-Apr;26(2B):1495-9.

 またピシバニールはシスプラチン胸腔内投与よりも副作用が少ないとされているため、いわゆる“抗癌剤”よりは使いやすいという側面もあります。
Shimizu T, et al. Comparison of intrapleural OK-432 and cisplatin for malignant pleural effusion in lung cancer patients. Gan To Kagaku Ryoho 2005 Aug;32(8):1139-43.

 シスプラチン単独、ピシバニール(OK432)単独、両者を併用する3群において、180日後の再発率が64.7%、52.9%、13.3%だったという報告があり、近年併用療法の有用性も指摘されています(ただし、上記の場合ドレーン留置期間は8.4日、5.5日、12.9日)。
Ishida A, et al. Intrapleural cisplatin and OK432 therapy for malignant pleural effusion caused by non-small cell lung cancer. Respirology. 2006 Jan;11(1):90-7.

 日本で行われた試験(JCOG9515)で、4週間の間の胸水無増悪生存率は、ピシバニール(OK432)で75.8%、ブレオマイシン68.6%、シスプラチン+エトポシド70.6%で有意差はなかったものの、ピシバニール(OK432)が良好な成績であったことから日本ではピシバニールを含むメニューが最も使用されています。
Yoshida K, et al. Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515. Lung Cancer. 2007 Dec;58(3):362-8.より引用


(5)フィブリン糊…癌性胸膜炎、気胸で使用されている
 A液=フィブリノゲンをアプロチニンで溶解、B液=トロンビンを塩化カルシウムで溶解、この2種類を直前に混和して使用します。フィブリン生成過程を利用して組織の接着・閉鎖を行います。アプロチニンは牛肺を原料とするのでアレルギーに注意しなければなりません。最近はあまり臨床では目にしませんが、自己血パッチで成功しなかった気胸に効果があったという報告もあります。
Iyama S, et al. Successful treatment by fibrin glue sealant for pneumothorax with chronic GVHD resistant to autologous blood patch pleurodesis. Intern Med. 2012;51(15):2011-4.


(6)自己血…気胸で使用されている
 自己血のよいところは、副作用がほとんどないことです。自身の血液を採取して、それを胸腔内に注入するため、最も安全です。間質性肺炎においても安全性があるという報告もあります。
Kensaku Aihara, et al. Efficacy of Blood-Patch Pleurodesis for Secondary Spontaneous Pneumothorax in Interstitial Lung Disease. Intern Med 50: 1157-1162, 2011.

 自然気胸に対して自己血パッチをおこなった32人の検討では、半数は12時間以内に効果がみられました。また、72時間以内に27人(84%)が72時間以内に効果がみられました。
Cagirici U, et al. Autologous blood patch pleurodesis in spontaneous pneumothorax with persistent air leak.Scand Cardiovasc J 1998;32(2):75-8.

 その他にも、14人の自然気胸の検討で、50mlの自己血を注入した報告では奏効率は92%で、53%は12時間以内に、23%が24時間以内、15%は48時間以内、15%が72時間以内にリークがなくなったとされています。
Blanco Blanco I, et al. Pleurodesis with the patient's own blood: the initial results in 14 cases. Arch Bronconeumol 1996 May;32(5):230-6.

 注入量についてですが、自己血の量は50mlとする報告が多いように思います。25人の遷延性気胸における血液量を比べた報告がありますが、0ml、50ml、100mlで、リークが止まるまでの日数が6.3±3.7日、2.3±0.6日、1.5±0.6日でした。この報告では、有意に100mlのほうがリークが止まるまでの日数が短かったとされています。そのため、100ml程度の注入は行った方がよいかもしれません。
Andreetti C, et al. Pleurodesis with an autologous blood patch to prevent persistent air leaks after lobectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2007 Mar;133(3):759-62.


(7)その他
 その他、ポビドンヨードによる癌性胸膜炎や気胸の再発予防の報告もあります。
Efficacy & safety of iodopovidone pleurodesis: a systematic review & meta-analysis. Agarwal R, Khan A, Aggarwal AN, Gupta D. Indian J Med Res. 2012 Mar;135:297-304.

 50%ブドウ糖を注入することで気胸の効果的であったという報告もあります。薬効成分が入っていないので、副作用は少ないと考えられます。
・Tsukioka T, et a. Pleurodesis with a 50% Glucose Solution in Patients with Spontaneous Pneumothorax in Whom an Operation is Contraindicated. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2013;19(5):358-63.
・Tsukioka T, et al. Intraoperative mechanical and chemical pleurodesis with 50 % glucose solution for secondary spontaneous pneumothorax in patients with pulmonary emphysema. Surg Today. 2013 Aug;43(8):889-93.



●実際の手順
 続いて、実際の手順についてです。使用する胸腔ドレーンですが、必ずしも20Frや24Frのような太い胸腔ドレーンを使用する必要はありません。疼痛の観点からも細径のドレーン(10~14Fr程度)でよいとされています。
・Roberts ME, et al. Management of a malignant pleural effusion: British Thoracic Society Pleural Disease Guideline 2010. Thorax. 2010 Aug;65 Suppl 2:ii32-40.
・Light RW. Pleural controversy: optimal chest tube size for drainage. Respirology. 2011 Feb;16(2):244-8.


・癌性胸膜炎に対する胸膜癒着術
 肺の拡張が完全に得られていることが前提です。排液量が150ml/日程度であれば、問題なく癒着術ができると思われます。
1.薬剤を胸腔に注入する前に1%キシロカインを20ml程胸腔内注入したり、解熱鎮痛薬を事前に内服してもらったりしてから治療を行います。
2.全身ステロイドは事前にできるだけ減らしておくことが推奨されています。
Kennedy L et al. Pleurodesis using talc slurry. Chest 1994 Aug;106(2):342-6.
3.薬剤を入れて、胸腔ドレーンをクランプします。一般には肺尖部分を中心に癒着剤が胸腔に広がるように体位変換することが重要とされています。
 例)仰臥位10分・右側臥位10分・左側臥位10分・腹臥位10分・坐位10分
 ※ただし、体位変換そのものや変換時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。むしろ、体位変換自体あまり意味がないのではないかともされています。
・Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.
・Dryzer SR, et al. A comparison of rotation and nonrotation in tetracycline pleurodesis. Chest. 1993 Dec;104(6):1763-6.

4.臓側胸膜と壁側胸膜を癒着する必要があるので、クランプ開放後は陰圧(たとえば-20cmH2Oなど)で持続吸引するのが望ましいという意見が多いように思います。
 ※陰圧やクランプ時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。クランプ開放は2時間後というエキスパートオピニオンもあれば、5~6時間は必要という意見もあります。
5.ドレーン抜去は1日150ml以下の胸水排液で問題ありませんが、それ以上の胸水排液が24時間以上続く場合は、再度胸膜癒着術を考慮してもよいと思います。

・自己血パッチ
1.患者さんから採血した自己血をそのまま胸ドレーンに腔注入し、30分クランプして水封とします。
Lang-Lazdunski L, Coonar AS. A prospective study of autologous 'blood patch' pleurodesis for persistent air leak after pulmonary resection. Eur J Cardiothorac Surg 2004 Nov;26(5):897-900.
2.2時間は陰圧をかけずに60cmの高さにチューブを持ち上げて、血液の逆流を防ぐようにします。(ドレーンバッグを台の上に乗せる、など)
Dumire R, et al. Autologous "blood patch" pleurodesis for persistent pulmonary air leak. Chest 1992 Jan;101(1):64-6.
3.リーク部分を中心に自己血が胸腔に広がるように体位変換することが重要と考えられます。
 ※前述のように体位変換時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。
 ※血液注入後は、ドレーン内血液の凝固に注意しないといけません、気胸の悪化を招きます。

胸膜癒着術の副作用としてよくみられるのは、発熱、疼痛、消化器症状です。まれですが、重要な副作用として呼吸不全、全身性炎症反応症候群、膿胸などもあります。
Shaw P et al;Pleurodesis for malignant pleural effusions. Cochrane Database Syst Rev 2004;(1):CD002916.

『肺癌内科診療マニュアル』にも具体的な方法が記載されています。


by otowelt | 2014-01-22 13:15 | レクチャー

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