2013年 09月 01日 ( 1 )

結核病棟から患者さんが無断離院したらどうしたらいいのか?

e0156318_11332977.jpg・はじめに
 現在結核病棟では、感染症法による強制力と患者の人権保障制度を伴った入院勧告が行われています。日本版DOTS(Directly Observed Therapy – Short Course)が普及し、治療を完遂する症例は増えています。それでもなお、入院勧告に従わない患者さんや無断離院する患者さんは少ないながらも存在し、その際に法的強制力は実効性を持っていません。

 ―――いつぞやアフリカで、多剤耐性結核患者49人が脱走したというニュースがありましたが、さすがに日本ではこういった集団離院(脱走)はありません(たぶん)。ただ、結核患者さんが単独で無断離院するケースは私も経験したことがあります。無断離院する患者さんの多くが、病識や認知力の乏しい元気な患者さんです。


・入院勧告拒否
 喀痰の抗酸菌検査の塗抹が陽性で、さらに結核菌のPCRが陽性の場合、まず間違いなく結核と考えられます。他者への感染性があるものとみなされ、感染症法での勧告入院の対象になります。結核病棟への勧告入院が必要になりますが、治療費の大部分に公費負担が受けられます。

 それでも入院を拒否される患者さんに対しては保健所が主体となって説得にあたりますが、最低でも抗結核薬を外来ベースでも服用していただくよう努めます。警察にお願いして強制的に入院させるだけの法的実効力はないため、この時点で内服・通院・入院のすべてを拒否された場合には、手の出しようがないのが現実です。

 なお、入院勧告を拒否する患者さんの3分の1程度が多剤耐性結核であることを付け加えておきます。


・人権問題
 現在の厚生労働省による入退院の基準では、結核患者さんを退院させることができる条件として、喀痰抗酸菌検査の塗抹または培養検査で3回の陰性確認が目安とされています。すなわち、この基準によると、菌陰性化が得られない慢性排菌者は永遠に入院していなければなりません。さすがにそんな事態はありえないだろうとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は多剤耐性結核では起こりうる事態なのです。

 国内のアンケートでは、結核病棟を有する施設のうち過半数が自宅療養や外出を認めないという方針でしたが、20.4%の施設が自宅療養を認めることがあると回答していました。このアンケート報告によれば「担当者が長期入院に伴う患者のストレス等を直接感じている中で、それぞれの患者の感染防止に関する理解度、家族への感染の可能性など個別に判断しているものと推定される」と考察されています。また、結語として「隔離による人権制限は最小限にするべきであることを考えれば、感染防止が可能な状況であれば自宅隔離も認められるべきである」と綴っています。多剤耐性結核の患者さんには一生を覚悟して入院している患者さんもいます。世俗と断絶された暮らしに対するストレスは、察するに余りあります。
伊藤邦彦. 治療に非協力的な結核患者への法的強制力. Kekkaku 2011;86(4):459-471.

 日本では欧米のように自宅隔離(home isolation)は積極的に推奨されません。退院基準を満たせない状況と実臨床上の感染リスクのバランスに、確実に不均衡があると現場の私たちは感じています。


・結核病棟からの無断離院
 もし患者さんが無断離院した場合、管轄する保健所・保健センター、関連行政機関(生活保護担当、消防、警察など)へ患者が結核病棟からいなくなったこと、同様の経緯で今後入院することが予想されることなどを連絡する必要があります。どこまでの範囲にどの程度の個人情報を提供するかについては、保健所による組織的判断が必要になると思います。

 当然ながら警察がもし見つけたとしても、連れ戻す強制力があるわけではなく、やはりここでも上記で述べた「入院勧告拒否」と同じような対応になることでしょう。



by otowelt | 2013-09-01 00:16 | コントラバーシー