2013年 09月 28日 ( 1 )

院内の抄読会を継続させるにはどうしたらよいか?その2

e0156318_19254136.jpg当院の抄読会
 前回(院内の抄読会を継続させるにはどうしたらよいか?その1)の続きです。

 今回は当院で実際に行っている抄読会を紹介します。当院の抄読会には、実はいくつかルールがあります。別に明示しているわけではないのですが、発案した先生のセンスが光るルールだと思います。以下にそれらを列挙します。


●日本語は一切禁止
●演者は1つの論文をパワーポイントに英語でまとめて15~20分程度で発表すること
●演者は聴衆に向かって立ってしゃべること
●発表の後、質疑応答の時間を5~10分設けること
●演者は質疑応答も含めすべて英語で話すこと
●1つの発表ごとに1人の座長を設定すること
●座長は、開会と閉会の挨拶から演者の紹介や質疑応答・ディスカッションまですべてを英語で進行すること
●フロアから質問がない場合、座長が英語で演者に質問すること


 いや、ムリだろ!とお思いかもしれませんが、私たちの病院は実はこのスタイルの抄読会を何年も続けています。ネイティブスピーカーなんてほとんどいません。びまん性肺疾患・感染症の抄読会が隔週月曜日の朝、肺癌の抄読会が毎週木曜日の朝にあります。

 赴任した当初、この抄読会を目にしたとき私は非常に驚きました。何せ、参加者の全員が英語で話しているんですから。英語が得意な人から苦手な人まで、どれだけ時間がかかっても英語だけを使うスタンスを貫いていました。あまりのもどかしさに日本語でしゃべろうものなら上級医から「In English, please.」の叱咤が飛びます。

 かのウィッキーさんは言いました。「日本人は文法が合っているかどうか気にし過ぎですよ」と。私もその通りだと思います。国際学会では、英語の文法がメチャクチャでも堂々と質問する医師は少なくありません。日本人と違って、別に“文法作法”が多少間違っていても恥ずかしいと思わないからです。といっても私も日本人ですので、文法が合っていないとやはり恥ずかしいのですが。

 さて、この抄読会のスタイルにはメリットとデメリットがあります。


日本語禁止・パワーポイント形式の抄読会のメリット
 このスタイルの抄読会のメリットは、挙げればキリがありません。ひとつ挙げるとするならば、前回述べた「惰性化」を防げることにあります。たとえば、パワーポイントのスライドに旅行の写真を添付してみるのはどうでしょう。家族の写真を載せるのはどうでしょう。惰性化していた抄読会が一気に面白くなるはずです。最近の学会では、自分の趣味やプロフィールなどを最初に掲載するような演者も増えています(現実的には招聘講演に限られますが)。パワーポイントの作り方ひとつで、簡単に惰性化を防ぐことができます。

 そういえば、私が研修医だった頃の総合診療科のレクチャーはどちらかと言えばこんな雰囲気でした。研修医が退屈しないよう、指導医が創意工夫したパワーポイト。それと同じような発想です。
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(レクチャー用パワーポイントの例)

 以下に抄読会で使用するパワーポイントの例を提示します。ドラえもんやガンダムなどのキャラクターを使用したかったのですが、著作権上使用できないのでフリーで使用できる京都の写真を選びました。というわけで、あまり面白い印象は無いのであしからず。
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(抄読会パワーポイントの例)

 次のメリットとして、学会発表が怖くなくなります。母国語ではない英語を使って発表するわけですから、日本語でも人前で発表する緊張感がウソのようになくなります(少なくとも私はそうです)。この英語抄読会は、お察しの通り国際学会と発表スタイルが似ています。そのため、国際学会の発表もお茶の子さいさいになります、……たぶん。
 
 また、パワーポイントを使用するので、皆一様に流れについてくることができます。英語論文を印刷して口頭で全訳で読み進めていく抄読会の場合、途中で「今どこを読んでいるのかもう分からない」、「面白くない」と匙を投げてしまう聴衆は多いです。パワーポイントの発表形式は、それを防ぐことが可能です。少なくとも、どこを読んでいるのかが分かる。

 最後のメリットは座長の存在です。皆さんも一度、頭の中で英語の座長をしてみてください。「Good morning, everyone.」。次、何と言いましょうか。どうやって演者を紹介しましょうか。この座長が意外にもよい経験になるのです。英語で演者と座長を両方経験すると、思ったよりも英会話力が身に付くのが実感できます。私は留学経験も何もないので英会話力なんてたかだか知れていますが、日本語禁止の勉強会を始めてさすがに5年も経つと、外国人に話しかけられても怯えることはなくなりました。もちろん、ちゃんと返事を返せるかどうかは別です。とにかく、いっちょまえに度胸がつくのです。座長の経験はオマケのようなもので、別に座長を設定しなくてもよいかもしれませんが。


日本語禁止・パワーポイント形式の抄読会のデメリット
 デメリットは抄読会の準備が大変なことです。ただ、基本的にどのタイプの抄読会でも発表者が論文を読み込まないといけないのは確かです。それは発表者の宿命です。ドラえもんのひみつ道具でもない限り、誰ひとりとして論文を読み込まずに内容を全員シェアできる夢のツールはありません。ただ、パワーポイントを英語で作成するということは、ある程度論文のPDFファイルから借用することが可能なのです(二次配布は禁じられていますので注意)。つまり、日本語訳しなくてよいという点では発表者の仕事量はむしろ減るかもしれません。
 
 また座長もある程度論文を読み込んで、質疑応答の時にフロアのマネジメントをしなければなりません。沈黙が続いたときには、自分から英語でコメントを発しなければなりません。「Thank you for your presentation, I have one question.」

 そのため、参加者の精神的負担はそれなりに大きいです。しかし、そのデメリットを凌駕するだけの余りあるメリットがあるため、もし抄読会のスタイルをどういった形にすれば長続きするのかと悩んでいる施設があれば、是非このスタイルを試してみて下さい。みんな最初は恥ずかしいでしょうが、慣れればたいしたことありません。ただし、1~2ヶ月に1回当番が回ってくるようでは疲弊してしまう可能性があるので、個人的には2.5~3ヶ月に1回くらいの頻度が妥当なラインではないかと思っています。人数が少ない場合は、隔週にする、あるいは通常の抄読会とパワーポイント発表抄読会のハイブリッドにするなどの工夫が必要です。パワーポイント発表のみの抄読会の場合、単純計算でも抄読会メンバーは最低10人は必要になるため、診療科内だけの抄読会というよりも若手医師を一同に集めるような会にしなければ実現は難しいかもしれません。


さいごに
 抄読会は“開催しなければならないもの”ではありません。診療科内で、最新の医学論文をいかに効率よくシェアするかという一つの手段にすぎません。そのため、ここで紹介した方法はベストではないかもしれませんし、これ以外の方法でシェアできるのであれば、私はそれでいいと思っています。

 オンラインで色々な情報が手に入るようになり(このブログも然り)、特に若手医師の論文離れが進んでいます。私は、それは悪いことだとは思っていません。難しい教科書より、わかりやすい教科書を選べばいい。難しい英語論文より、和訳した論文を読めばいい。最近は国際学会ですら、各国のオンラインで速報を流し、ソーシャルネットワークやブログで詳細が報告される時代です。効率的に情報を得るなら、抄読会よりもオンラインで検索した方がはやいでしょう。

 抄読会を開催する場合、特に若手医師に対して「なぜ抄読会が必要なのか」を指導医の立場から説明できないとダメです。それについては個々の医師によって価値観も違いますし、ここでは割愛させていただきますが。



by otowelt | 2013-09-28 00:00 | その他