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Cope針を用いた胸膜生検

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・手順

①局所麻酔後、シャフト(外筒)+インナーシャフト(内筒)+トロッカーを組み合わせた状態で胸腔を穿刺する。胸腔に到達したかどうかは、トロッカーを抜いて胸水の流出を確認することで行う。ただし、シャフト(外筒)だけでシリンジにつないでも通常の胸腔穿刺と同様に胸水が返ってくるので、トロッカー自体にはあまり存在意義はない。

②胸水の流出を確認したら、シャフト(外筒)からインナーシャフト(内筒)も抜き、外気胸にならないよう手で穴を抑えながら、スネア外筒+スネア内筒を挿入する。生検は、スネア外筒を用いて行う。

スネア外筒からスネア内筒を1~2cm程度抜いた状態でないと、スネア外筒の生検鉤が露出しないので(写真1)、生検はスネア内筒をわずかに引いた状態でおこなうことを覚えておく(写真2)。
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シャフト(外筒)の先端が壁側胸膜ギリギリの胸腔にあるのが望ましいが、盲目的にこの位置を探すのは難しいため、スネア外筒の生検鉤が胸膜に引っかかるかどうか何度もスネア外筒を抜き差しする作業が必要である(写真3)。このとき、角度をつけて胸膜をスネア外筒に噛ませることを意識しなければならない(胸壁と垂直だとスネア外筒が胸膜を噛まないため)。シャフト(外筒)をゆっくり体外側へ移動させながら、角度をつけてスネア外筒を引く作業を繰り返す。このとき、あらかじめ1~2cm引いておいたスネア(内筒)が術野外に落ちてしまわないよう注意する(極めて滑らかに落ちる)。
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スネア外筒の生検鉤が胸膜に引っかかると、患者は胸膜痛を訴えることが多い。疼痛が強ければ、局所麻酔を追加してもよい。このままシャフトを胸腔に進める形でスネア外筒に胸膜を収納するのが一般的だが、スネア外筒を回転させたりそのまま手前に引っ張たりすることで組織を採取してもよい。

⑥皮下に胸水が漏出することが多いので、処置後は深めに垂直マットレス縫合をおこない創を閉鎖する。


・注意すべき合併症:外気胸

デバイスの出し入れが多い処置であるため、外気胸のリスクが多い。可能であれば、外気と交通する瞬間にはすべて息を止めてもらうのが望ましい。とはいえ、少量の外気胸であっても、経過観察のみで軽快することが多い。


(参考文献)
・籠手田恒敏, 他. 胸膜炎に対する体壁胸膜針生検. 日胸疾会誌1981;19(8):567-74.


by otowelt | 2017-09-22 00:50 | レクチャー

deflation cough

 肺活量を測定する際、肺を最大限に空っぽにする際生じる咳嗽のことをdeflation coughと呼びます。「deflation」というのは、空気を抜く、空っぽにする、という意味の単語です。これは努力性肺活量の測定時ではなく、通常の肺活量(VC)の測定時の後半に観察される咳嗽です。1720人の連続測定のうち、43人に認められるまれな現象です1)
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. deflation coughのフローボリューム曲線1)(文献より引用)

 このdeflation coughはGERとの関連性が指摘されています1)。ただ、さほど稀な病態をは言えない酸逆流の存在診断において、deflation coughの陽性適中率は37.5%しかありません2)。しかしながら、陰性適中率は96.2%とされており、慢性咳嗽患者さんでdeflation coughがなかったらGERDは否定的と言ってもよいかもしれませんね。


(参考文献)
1) Lavorini F, et al. Respiratory expulsive efforts evoked by maximal lung emptying. Chest. 2011 Sep;140(3):690-6.
2) Lavorini F, et al. The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms. Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.



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by otowelt | 2017-01-31 00:25 | レクチャー

心臓喘息ではピークフロー値は低下しにくい?

 心臓喘息、すなわち心不全が背景にある喘息様の症状では、ピークフロー値は喘息発作やCOPD急性増悪ほど低下しません。急性呼吸不全で受診した患者のピークフロー値を測定した小規模な前向き観察研究では、心不全の方がCOPD急性増悪より有意にピークフロー値が高いことが報告されています(224±82L/分 vs 108±49L/分, p<0.001)(1)。もちろん健常者からみれば224L/分というのは結構低いですが・・・。
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. COPD急性増悪と心不全のピークフロー値(文献1)より引用)

 ピークフロー値の絶対値ではなく予測値からの乖離をみたほうがよいとする意見もあります2)。高齢者ではピークフロー値の予測値が低いためです。


(参考文献)
1) McNamara RM, et al. Utility of the peak expiratory flow rate in the differentiation of acute dyspnea. Cardiac vs pulmonary origin. Chest. 1992 Jan;101(1):129-32.
2) Pollack CV Jr. Utilization of the peak expiratory flow rate in evaluation of acute dyspnea of cardiac or pulmonary origin. Chest. 1993 Apr;103(4):1306-7.



by otowelt | 2017-01-27 00:42 | レクチャー

ネーザルハイフローのレビュー

2016年10月20日更新

●はじめに
 ネーザルハイフローを使用しているICU・呼吸器科が増えてきましたた。ここではFisher & Paykel社のネーザルハイフローTMではなく、一般名としてネーザルハイフロー(NHF)という用語を使用させていただきます。


●NHFとは
 NHFとは、その名の通り、鼻カニューラから最大30L~50L/分くらいまでの流量を流すことができる高流量システムです。加湿を強くかけており、鼻が痛くなる心配はほとんどありません。加温加湿器、酸素ブレンダー、それらをつなぐ回路がセットになっており、ハイフローで送気して気道の死腔をウォッシュアウトできるだけでなく、わずかな陽圧をかけることもできるとされています。
 日本では、Fisher & Paykel Healthcare社の製品であるネーザルハイフローTM(写真)や、パシフィックメディコ社のハイフローセラピーシステムTMなどが用いられています。Fisher & Paykelのネーザルハイフロー™システムでは、加湿器のMR850、カニューラのOptiflow™を使用しています。
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●NHFの利点
1.QOL
 食事ができる、会話ができる、口腔ケアが可能、夜眠りやすいなど様々な利点があります。「たったそれだけか」と思うかもしれませんが、これらができることは入院患者さんにとって大きな利点です。NPPVも当初はそういった謳い文句がありましたが、NHFの方がNPPVよりもQOLを向上させるのは明白です。
 ちなみに、私自身、NHF30L/分を流した状態で水が飲めるか試してみましたが、問題なく飲水することができました。

2.精度の高いFiO2
 呼吸生理学的には、通常の鼻カニューラやオキシマイザーTMカニューラに比べて死腔ウォッシュアウトが可能となり、正確なFiO2を実現できるのが大きな利点です。ウォッシュアウトによってCO2再吸収を極限に減らすことが可能とされています。
Dysart K, et al. Research in high flow therapy: mechanisms of action. Respir Med 2009;103(10):1400-5.
 ただし、多くのランダム化比較試験ではII型呼吸不全はその適応から除外されており、II型呼吸不全に安全に用いることができるのかは不明です。

3.軽度のpositive airway pressure
 ニュージーランドの研究では、口を閉じた状態で、平均±SDの気道内圧を流量30, 40, 50 L/分で検証したところ、それぞれ1.93 ± 1.25 cm H2O, 2.58 ± 1.54 cm H2O, 3.31 ± 1.05 cm H2Oでした。流量に応じて圧が上昇していますね。
Parke RL, et al. The effects of flow on airway pressure during nasal high-flow oxygen therapy.Respir Care. 2011 Aug;56(8):1151-5. Epub 2011 Apr 15.
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 50L/分で平均気道内圧が7.1cmH2O程度という報告もあるので、流量以外の因子も気道内圧に影響しているのかもしれません。
Ritchie JE, et al. Evaluation of a high-flow nasal oxygen delivery system using oxygraphy, capnography and measurement of upper airway pressures. Anaesth Intensive Care. 2011 Nov;39(6):1103-10.
 小児モデルを使用した実験ではNHF20L/分の流量で最大4cmH2Oであり、安全に使用できるだろうという報告もあります。
・Urbano J, et al.High-flow oxygen therapy: pressure analysis in a pediatric airway model.Respir Care. 2012 May;57(5):721-6.
・Volsko TA, et al. High flow through a nasal cannula and CPAP effect in a simulated infant model.Respir Care. 2011 Dec;56(12):1893-900.


4.粘膜線毛クリアランスの適正化
 Fisher & Paykel社のウェブサイトでは、4つ目の利点としてこのクリアランスが掲げられています。これについては臨床試験や動物実験などで検証はされていないようです。

5.外見上の問題
 特に癌の終末期などでは、低酸素血症に陥りリザーバーマスクを装着すると“いかにも病人”といった状態に見えることがあります。NHFはもしかすると終末期の癌患者さんにおいてもQOLや外見上の問題をある程度緩和してくれるツールになるのかもしれません。


●NHFのエビデンス
 NHFが用いられる場面は、①一般的な急性呼吸不全(ICU・救急外来)、②術後呼吸不全(心臓外科手術・肺手術)、③抜管後呼吸不全、④早産時に対する呼吸補助、の4つであり、現時点で発表されているランダム化比較試験の多くはこの①~④のいずれかの病態に当てはまります。
 ④については議論の余地があり、最近CPAP療法との比較試験においてプライマイラウトカムであるランダム化後72時間以内の治療失敗がNHF群で有意に多かったことから、ここでは小児領域の記載を割愛したいと思います。
Roberts CT, et al. Nasal High-Flow Therapy for Primary Respiratory Support in Preterm Infants. N Engl J Med: 22 Sep 2016; 375:1142-51

・ICU
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表. ICUにおける主なNHFの臨床試験

1) Roca O, Riera J, Torres F, et al. High-flow oxygen therapy in acute respiratory failure. Respir Care. 2010;55(4):408-13.
2) Sztrymf B, Messika J, Bertrand F,, et al. Beneficial effects of humidified high flow nasal oxygen in critical care patients: a prospective pilot study. Intensive Care Med. 2011;37(11):1780-6.
3) Parke RL, McGuinness SP, Eccleston ML. A preliminary randomized controlled trial to assess effectiveness of nasal high-flow oxygen in intensive care patients. Respir Care. 2011;56(3):265-70.
4) Epstein AS, Hartridge-Lambert SK, Ramaker JS, et al. Humidified high-flow nasal oxygen utilization in patients with cancer at Memorial Sloan-Kettering Cancer Center. J Palliat Med. 2011;14(7):835-9.
5) Peters SG, Holets SR, Gay PC. High-flow nasal cannula therapy in do-not-intubate patients with hypoxemic respiratory distress. Respir Care. 2013;58(4):597-600.
6) Schwabbauer N, Berg B, Blumenstock G, et al. Nasal high-flow oxygen therapy in patients with hypoxic respiratory failure: effect on functional and subjective respiratory parameters compared to conventional oxygen therapy and non-invasive ventilation (NIV). BMC Anesthesiol. 2014;14:66.
7) Lemiale V, Mokart D, Mayaux J, et al. The effects of a 2-h trial of high-flow oxygen by nasal cannula versus Venturi mask in immunocompromised patients with hypoxemic acute respiratory failure: a multicenter randomized trial. Crit Care. 2015;19:380.
8) Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015;372(23):2185-96.


 ICUの急性呼吸不全に対するNHFは、NHF、通常酸素療法(フェイスマスク)、NPPVの3群を比べたランダム化比較試験(FLORALI試験)が大規模な報告です。これによれば、ICUのI型呼吸不全患者において、NHFはNPPVや通常酸素療法と挿管率に差はなかったものの(p=0.18)、90日死亡率を低下させました(ハイフロー療法と比較した90日死亡のハザード比は、通常の酸素療法群で2.01[95%信頼区間1.01-3.99、P = 0.046]、NPPV群で2.50[95%信頼区間1.31-4.78、P = 0.006])。
Frat JP, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015 Jun 4;372(23):2185-96.
 Lemialeらの報告でも挿管率を低下させる効果はないと報告されており、挿管を回避するほどのインパクトはないと言えます。
Lemiale V, et al. The effects of a 2-h trial of high-flow oxygen by nasal cannula versus Venturi mask in immunocompromised patients with hypoxemic acute respiratory failure: a multicenter randomized trial. Crit Care. 2015 Nov 2;19:380.
 現時点では呼吸不全によるICU入室例において必ず選択しなければならないというコンセンサスはなさそうです。
 

・抜管後
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表. 抜管後における主なNHFの臨床試験

1) Maggiore SM, Idone FA, Vaschetto R, et al. Nasal high-flow versus Venturi mask oxygen therapy after extubation. Effects on oxygenation, comfort, and clinical outcome. Am J Respir Crit Care Med. 2014;190(3):282-8.
2) Hernández G, Vaquero C, González P, et al. Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Conventional Oxygen Therapy on Reintubation in Low-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016;315(13):1354-61.
3) Hernández G, et al.Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Noninvasive Ventilation on Reintubation and Postextubation Respiratory Failure in High-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Oct 18;316(15):1565-1574.



 抜管後の呼吸不全や再挿管に対するNHFの効果はどうでしょうか。過去のメタアナリシスでは、抜管後呼吸不全の危険因子がある患者において予防的NPPVが再挿管率とICU死亡率を減少させると報告されています。そのため、抜管後にNPPVを使用している施設も多いでしょう。
Agarwal R, et al. Role of noninvasive ventilation in acute lung injury/acute respiratory distress syndrome: a proportion meta-analysis. Respir Care. 2010 Dec;55(12):1653-60.
 さて、2014年にはベンチュリーマスクとNHFのランダム化比較試験の結果が発表されており、NHFの方がP/F比を高く維持することができ、再挿管率も低かったとされています。
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Maggiore SM, et al. Nasal high-flow versus Venturi mask oxygen therapy after extubation. Effects on oxygenation, comfort, and clinical outcome. Am J Respir Crit Care Med. 2014 Aug 1;190(3):282-8.
 この効果は、再挿管のリスクが低い患者でも同様であるとHernándezらが報告しており、抜管後に関しては現時点ではNHFが再挿管予防にかなり有効と考えられます。
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Hernández G, et al. Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Conventional Oxygen Therapy on Reintubation in Low-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Apr 5;315(13):1354-61.
 2016年10月には同じくHernándezらによりハイリスク例に対するNHFとNPPVのランダム化比較試験の結果が報告されています。抜管後24時間の使用により、72時間後の再挿管や呼吸不全を予防できるかどうかみたものです。その結果、NHFはNPPVに非劣性という結果でした。
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Hernández G, et al. Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Noninvasive Ventilation on Reintubation and Postextubation Respiratory Failure in High-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Oct 18;316(15):1565-1574.
 コストの点から全例にNHFを用いるのは現実的ではありません。そのため、やはりリスクの高い症例にしぼって使用することになるというプラクティスが大きく変わることはないと考えられます。


・術後
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表. 術後における主なNHFの臨床試験

1) Parke R, McGuinness S, Dixon R, et al. Open-label, phase II study of routine high-flow nasal oxygen therapy in cardiac surgical patients. Br J Anaesth. 2013 ;111(6):925-31.
2) Stéphan F, Barrucand B, Petit P, et al. High-Flow Nasal Oxygen vs Noninvasive Positive Airway Pressure in Hypoxemic Patients After Cardiothoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015;313(23):2331-9.
3) Corley A, et al. Direct extubation onto high-flow nasal cannulae post-cardiac surgery versus standard treatment in patients with a BMI ≥30: a randomised controlled trial. Intensive Care Med. 2015 May;41(5):887-94.
4) Ansari BM, Hogan MP, Collier TJ, et al. A Randomized Controlled Trial of High-Flow Nasal Oxygen (Optiflow) as Part of an Enhanced Recovery Program After Lung Resection Surgery. Ann Thorac Surg. 2016 ;101(2):459-64.


 術後についてはどうでしょうか。Stéphanらはランダム化比較試験において、心臓外科手術後の患者の呼吸不全発生率はNPPVと比較してNHFが非劣性を示したと報告しています。
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Stéphan F, et al. High-Flow Nasal Oxygen vs Noninvasive Positive Airway Pressure in Hypoxemic Patients After Cardiothoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015 Jun 16;313(23):2331-9.
 ただし肥満患者に対しては、無気肺を改善させたり呼吸数を改善させる効果はなく、むしろNHF群で呼吸困難スコアが不良であったという報告もあります。
Corley A, et al. Direct extubation onto high-flow nasal cannulae post-cardiac surgery versus standard treatment in patients with a BMI ≥30: a randomised controlled trial. Intensive Care Med. 2015 May;41(5):887-94.
 肺切除後のケースでは、通常の酸素療法と比べてNHF群で入院期間が減少したことが示されています。本研究ではプライマリアウトカムである術前後の6分間歩行距離には有意差はみられませんでした。
Ansari BM, et al. A Randomized Controlled Trial of High-Flow Nasal Oxygen (Optiflow) as Part of an Enhanced Recovery Program After Lung Resection Surgery. Ann Thorac Surg. 2016 Feb;101(2):459-64.
 個人的にはNHFのみではNPPVほど陽圧がかけられないため、特に術後の呼吸不全に対して無気肺を解除したりする物理的な効果は乏しいと感じています。術後は機能的残気量が減るため、陽圧換気や体位変換によって無気肺を予防する方がメリットは大きいかもしれません。


・救急外来
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表. 救急外来における主なNHFの臨床試験

1) Lenglet H, Sztrymf B, Leroy C, et al. Humidified high flow nasal oxygen during respiratory failure in the emergency department: feasibility and efficacy. Respir Care. 2012;57(11):1873-8.
2) Rittayamai N, Tscheikuna J, Praphruetkit N, et al. Use of High-Flow Nasal Cannula for Acute Dyspnea and Hypoxemia in the Emergency Department. Respir Care. 2015 Oct;60(10):1377-82.
3) Bell N, Hutchinson CL, Green TC, et al. Randomised control trial of humidified high flow nasal cannulae versus standard oxygen in the emergency department. Emerg Med Australas. 2015 Sep 29. doi: 10.1111/1742-6723.12490. [Epub ahead of print]
4) Jones PG, Kamona S, Doran O, et al. Randomized Controlled Trial of Humidified High-Flow Nasal Oxygen for Acute Respiratory Distress in the Emergency Department: The HOT-ER Study. Respir Care. 2016;61(3):291-9.


 17人と少数ですが、救急外来を受診したI型呼吸不全の患者に対して通常マスクからNHFへのスイッチがどのような効果をもたらすか検証した観察研究があります。これによれば、NHF群で呼吸困難スケールの改善、呼吸数減少、SpO2上昇の効果がみられました。
Lenglet H, et al. Humidified high flow nasal oxygen during respiratory failure in the emergency department: feasibility and efficacy. Respir Care. 2012 Nov;57(11):1873-8.
 また、救急外来を受診した急性の呼吸困難あるいは低酸素血症を呈した患者における、通常酸素療法とNHFのランダム化比較試験でも、呼吸困難や快適性の面でNHF群が優れていました。
Rittayamai N, et al. Use of High-Flow Nasal Cannula for Acute Dyspnea and Hypoxemia in the Emergency Department. Respir Care. 2015 Oct;60(10):1377-82.
 最も大規模なランダム化比較試験(HOT-ER試験)では、通常酸素療法とNHFを比較してもNHF群に有意な人工呼吸器装着回避効果はみられなかったとされています。しかし、CO2貯留による意識レベル低下はNHF群で少ないという結果でした(0% vs 2.2%)。
Jones PG, et al. Randomized Controlled Trial of Humidified High-Flow Nasal Oxygen for Acute Respiratory Distress in the Emergency Department: The HOT-ER Study. Respir Care. 2016 Mar;61(3):291-9.
 救急部におけるNHFも「悪くない」と総評できる結果ですが、積極的に用いなければならない事由はなさそうです。


 まとめると、おそらく無気肺を予防しなければならない状況下(術後)では、NHFを使う必要はなさそうです。呼吸生理学的にもNHFのみで無気肺を予防するのは難しいでしょう。一般的な呼吸不全に対しては、救急外来・ICUを問わず、現時点ではI型呼吸不全に対してはNHFを選択してもよいでしょう。ただ、強く推奨される酸素療法という位置付けになるほどのインパクトはないかもしれません。挿管にいたったケースでは、抜管後にNHFを用いることで再挿管を回避できる可能性があるため、通常の酸素療法ではなくNHFを選択してもよいかもしれません。
 なお、ランダム化比較試験のメタアナリシスが2016年9月に報告されています。通常の酸素療法(酸素マスクあるいはNPPV)とNHFを比較したランダム化比較試験のメタアナリシスが2016年9月に報告されています。これに組み込まれた試験は9試験(2507人)です。結果、NHFによる死亡率の改善効果はみられず、挿管率にも有意差はなかったと書かれています。忍容性や快適性について報告されている13研究を解析すると、NHF群の患者は酸素療法を快適に感じており呼吸困難スコアも低かったとされています。
Monro-Somerville T, et al. The Effect of High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy on Mortality and Intubation Rate in Acute Respiratory Failure: A Systematic Review and Meta-Analysis. Crit Care Med. 2016 Sep 8. [Epub ahead of print]






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by otowelt | 2016-09-30 00:22 | レクチャー

吸入薬の薬価

 COPDで使用する吸入薬、喘息で使用する吸入薬の30日あたりの薬価をまとめてみました。3割負担だと、0.3をかければ1ヶ月あたりの患者さんのだいたいの自己負担額になります。

●喘息の吸入薬
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●COPDの吸入薬
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by otowelt | 2016-03-07 00:27 | レクチャー

前立腺肥大症のあるCOPD患者さんに吸入抗コリン薬は処方してよい?

e0156318_1225165.jpg・エビデンスはどう答える?
 抗コリン薬と前立腺肥大症の関係を知らない医療従事者はいないでしょう。抗コリン薬は前立腺肥大症状を悪化させ、ひどい場合には医原性の尿閉をきたします。エライコッチャです。吸入抗コリン薬とて例外ではなく、添付文書の禁忌の欄には閉塞隅角緑内障、前立腺肥大症という見慣れた病名が・・・。

 とはいえ、潜在的な前立腺肥大症の患者さんは多く、「ちょっと残尿感や頻尿があるからLAMAはやめておきましょう」とバッサリ切り捨てるのも考え物、ということで、多少の前立腺肥大症があっても使っていいんじゃないかという意見もあります。

 19のランダム化比較試験を組みこんだ解析では、程度については記載されていませんが吸入抗コリン薬の使用によって尿閉のリスクは上昇すると報告されています(相対リスク10.93、95%信頼区間1.26-94.88)1)。 また、ある症例対照研究では、男性のCOPD患者さんが吸入抗コリン薬を使用することで、非使用者より尿閉のリスクが上昇するという報告も(補正オッズ比1.42、95%信頼区間1.20-1.68)2)。前立腺肥大症がある男性ではさらにリスクが増すようです(補正オッズ比1.81、95%信頼区間 1.46-2.24)。 有名なUPLIFT試験ではどうだったかというと、プラセボ群よりもチオトロピウム群で尿閉が多かったものの統計学的な有意差は認められていません(率比1.65、95%信頼区間0.92-2.93)3)

 なんだやっぱ前立腺肥大症には絶対ダメじゃん、というと、ところがドッコイ。安全性には問題ないという報告もあります。前立腺肥大症のあるCOPD患者さん25人にチオトロピウムを使用したところ、急性の排尿障害を呈した例は1例もなく、国際前立腺症状スコアやQOLにも影響しなかったという日本の研究が報告されています4)。この臨床試験では、チオトロピウムは最大尿流量率と平均尿流量率にも悪影響を及ぼしませんでした。

 じゃあどっちなのよ、というとまだ結論がついていないというのが実のところです。2013年に、過去の報告をまとめたシステマティックレビューが報告されていますが、結局は“医学的利益と副作用のバランス次第”ということです5)。高齢者のCOPD患者さんの場合にはやはり注意が必要で、薬剤開始から30日以内は注意した方がよいそうです。


・実臨床では処方する?しない?
 添付文書では、LAMAは前立腺肥大症などによる排尿障害のある患者さんには禁忌で、前立腺肥大症があるだけなら慎重投与という位置づけです。そのため、もともと排尿障害が前面に出ている患者さんの場合は禁忌です。法的な観点からも、こういった患者さんのCOPD長期管理薬としてLAMAを選ぶには勇気が要るでしょう。そのため、私は明らかに前立腺肥大症の症状がコントロールできていない患者さんにはLAMAを処方しません。

 ただ、LAMAを新規に始めた患者さんをこれまでたくさん診てきましたが、排尿症状が悪化したという患者さんは現時点では1人も経験していません。他の排尿障害に注意すべき薬剤と比較しても、LAMAは吸入したところで体内で代謝される絶対量が少ないため、前立腺に与える影響はそこまで大きくないのでは・・・と考えています。

 前立腺肥大症のあるCOPD患者さんへLAMAを処方するのはためらわれますが、症状が軽度ですでに治療により排尿症状のコントロールができている患者さんであれば、注意しながら使用しても差し支えはないと思います。


(参考文献)
1) Kesten S, et al. Pooled clinical trial analysis of tiotropium safety. Chest. 2006 Dec;130(6):1695-703.
2) Stephenson A, et al. Inhaled anticholinergic drug therapy and the risk of acute urinary retention in chronic obstructive pulmonary disease: a population-based study. Arch Intern Med. 2011 May 23;171(10):914-20.
3) Tashkin DP, et al. A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1543-54.
4) Miyazaki H, et al. Tiotropium does not affect lower urinary tract functions in COPD patients with benign prostatic hyperplasia. Pulm Pharmacol Ther. 2008 Dec;21(6):879-83.
5) Loke YK, et al. Risk of acute urinary retention associated with inhaled anticholinergics in patients with chronic obstructive lung disease: systematic review. Ther Adv Drug Saf. 2013 Feb;4(1):19-26.


by otowelt | 2016-02-26 00:17 | レクチャー

気管支喘息におけるAMD療法

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 AMD(Adjustable Maintenance Dosing:用量調節投与)療法という名前をご存知でしょうか。シムビコート®が発売されたときに広く知られるようになった吸入法ですが、最近は論文で取り上げられることも少なくなり、下火です。

 通常ICSやICS/LABAは1日あたり決まった量を定期的に吸入していくという方法が主流ですが、このAMD療法は長期管理薬の用法用量を患者さんの状態に合わせて調節する治療法です。たとえば、春先に必ず喘息症状が悪化する患者さんでは、冬の終わりから吸入薬の量を増やして、夏場には減らすという方法もあります。また、発作が多くなりそうな時(旅行先、風邪っぽい)に少し量を増やす、などなど。

 このAMD療法とはシムビコート®で使われる手法です。具体的にはシムビコート®を1回2吸入1日2回で使用していた場合、喘息状態が良好であれば1回1吸入1日2回にしたり、喘息状態が不良であれは1回4吸入1日2回にしたり・・・ということです。

 シムビコート®に限らず、ICSを間欠的に投与する方法は何度も検討されてきましたが、FD療法とAMD療法のいずれが優れているかという答えは出ていません1)。固定用法投与(FD)療法のアドエア®と比較した試験では、シムビコート®AMD療法よりもアドエア®FD療法の方が有意に良好な結果だったという報告もあります2)

 個人的にはAMD療法と称して患者さんにコントロールを丸投げしてしまうと、アドヒアランスの不良を招くだけでなく、受診頻度も減ってしまうのではないかと懸念しています。現時点では“FD派”です。


(参考文献)
1) Chauhan BF, et al. Intermittent versus daily inhaled corticosteroids for persistent asthma in children and adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28;2:CD009611.
2) Price DB, et al. Salmeterol/fluticasone stable-dose treatment compared with formoterol/budesonide adjustable maintenance dosing: impact on health-related quality of life. Respir Res. 2007 Jul 4;8:46.


by otowelt | 2016-01-25 00:44 | レクチャー

ICSが効きにくい気管支喘息

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 気管支喘息の患者さんの30%ほどがICSに反応しにくいとされています。これは遺伝子や環境などさまざまな原因が考えられますが、環境因子として重要なのは何でしょうか?・・・・・そう、たばこです。

 たばこを吸っている喘息患者さんはICSが効きにくいので注意して下さい。ICSを受けている喘息患者さんの朝のピークフロー値で喫煙者と非喫煙者で25L/分 (95%信頼区間4~45)の差があったという報告もあります(p = 0.019)1)。メタアナリシスでもたばこは1秒量を低下させる有害性が示唆されています2)。呼吸器内科の世界では、残念ながらたばこイコール絶対悪です。喫煙は、一部の過敏性肺炎を除いてほぼすべての疾患の症状増悪リスクを上昇させます。

 さらに知っておきたいのは、高齢者はICSに効きにくいといことです。これは確定的な知見ではありませんが、私も実臨床で非常に難渋することがあります。高齢者特有のアドヒアランスの問題が挙げられます。これは如何ともしがたい事実です。また、加齢による免疫学的な事情もあるのかもしれません。たとえば、若年者はTh2細胞が優勢でICSが効きやすいのに対して、高齢者の場合はTh2細胞の関与が乏しいのではないかとされています(Th2細胞が優勢でありながらICSが効きにくいサブグループもおり、現在議論は混沌としています3))。そのため、インターロイキンなどのサイトカインに対する治療が高齢者には有効なんじゃないかと考える研究グループもいます。

 ICSが効きにくい喘息として、気管支喘息とCOPDの合併であるACOSも忘れないで下さい。COPDが主体のACOSの場合、ICSが効きにくい。というか、COPDの症状は劇的に改善するものではないので、“COPD寄りのACOS”はICSではなかなか太刀打ちできないのが現状です。


(参考文献)
1) Tomlinson JE, et al. Efficacy of low and high dose inhaled corticosteroid in smokers versus non-smokers with mild asthma. Thorax. 2005 Apr;60(4):282-7.
2) Zheng X, et al. Smoking influences response to inhaled corticosteroids in patients with asthma: a meta-analysis. Curr Med Res Opin. 2012 Nov;28(11):1791-8.
3) Anderson GP. Endotyping asthma: new insightsinto key pathogenic mechanisms in a complex, heterogeneous disease. Lancet. 2008 Sep 20;372(9643):1107-19.


by otowelt | 2016-01-20 00:38 | レクチャー

妊娠喘息

e0156318_7554433.jpg※2015年12月12日改訂

・妊娠中に喘息は悪化しやすい?
喘息の既往歴の有無を問わず、妊婦さんの10人に1人くらいは妊娠喘息を発症すると言われています。これは一般人口と比較すると結構多い数字です1)

 1988年と少し古い報告ですが、妊娠によって喘息の35%が悪化し、28%が改善し、33%が不変であると言われています2)。もう少し新しい報告に目を向けると、2015年の報告では、妊娠喘息全体からみると、第1期よりも第2・3期あたりに悪化することが多いと言われています3)

 適切にコントロールされている喘息患者さんでは、おおむね同じ治療ステップのまま分娩まで到達できますが、4割くらいの患者さんがステップアップを余儀なくされるというイギリスの報告もあります(図)4)。出産直前期には喘息症状がちょっとはマシになるという意見もありますが、その真偽はまだよくわかっていません5),6)
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図.妊娠による喘息治療ステップの変化4)(文献より引用)

 現時点で言えることは、妊娠と喘息は切っても切れない関係だということです。妊婦だから特段治療を強化しなければならないというワケではありませんが、産婦人科と併設されている病院では呼吸器科と併診できればよいと思います。産婦人科の主治医が喘息コントロールしている病院もあるでしょう。妊娠後期になると複数の診療科を受診できなくなりますから、妊娠初期の時点でアドヒアランスについて口を酸っぱくして患者さんに伝えておくことが重要だと思います。そのためには、「赤ちゃんに影響が出るとよくないからお薬やめます」という事態をなくさなければなりません。これが最も妊娠喘息を悪化させるリスク因子です。


・赤ちゃんに害のあるステロイドなんてイヤ!
 吸入ステロイド薬(ICS)。・・・・・・・ステロイドという名前を出した瞬間、ステロイド=よくない薬剤=胎児にはダメ、ゼッタイ!という、等式が頭に浮かぶためでしょう、患者さんの何人かは「薬はやめたいです」と言ってきます。しかし、断言できることがあります。喘息があるならICSは絶対に使用した方がよい。使用しない方が赤ちゃんに害が出ます7)。妊娠中の喘息存在は、胎児に低酸素血症をもたらし、流産や多発育不全のリスクを上昇させます8)。それがコントロール不良の喘息であれば、なおさらリスキーです9)。そして、ICSを定期的に吸入することで、喘息発作による救急受診を減らせることがわかっています。

 胎児に危険の及ばない範囲で喘息をコントロールしてあげることが、元気な赤ちゃんを産むために必要不可欠です。それがICSであれ、その他の喘息治療薬であれ。ICS以外の薬剤に関してもまず間違いなく安全ですが、100%の安全を保障してくれるものではありません。それは妊娠中であればどの薬剤でも同じでしょう。

 繰り返しますが、喘息患者さんが妊娠したときに私が言う一言は「赤ちゃんのためにICSを使い続けてほしい」ということです。


・喘息治療薬の催奇形性について
 妊娠中に薬剤を使用すると催奇形性が高くなることはよく知られています。ご存知のとおり妊娠中の薬剤によってリスクの高低があります。まず、妊娠中に使用しても問題ない気管支喘息治療薬を以下に掲載します(表)。
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 最も使用頻度が多いICSは、ほぼ安全です10)。ただ、それでもパルミコートのエビデンスが豊富であることから11)、妊娠喘息の第一選択は世界的にパルミコートと決まっています。これは多くの呼吸器内科に有名な知見ですが、個人的にはさほどICS間で大差はないと思っています。どんぐりの背比べ。

 ICS/LABAについては口蓋裂などの催奇形リスクをやや上昇するという報告もあるため、特に妊娠初期にはICSのみでコントロールできるのであれば、無用なICS/LABAを処方しなくてもよいでしょう12)。ICS/LABAは医学的にはほとんど問題なく使用できるくらい安全性は高いのですが、わずかでもリスクの上昇があると報告されると、それが法的根拠になることがありえます。LABAに対する検討はまだすすんでおらず、現時点で積極的にLABAを選択する必要性はないと私は思います13)。重症例に対してはLABAの上乗せを選択しなければならないこともあるでしょうが。LAMAについては妊婦に対する報告が多くありません。個人的にはステップ3以上であっても使用しません。とりわけLAMAにこだわる場面はなさそうです。

 クロモグリク酸(インタール®)は、使うタイミングや妊娠時に有効なのかどうかという大規模な検討はされておらず、積極的に用いることはありません。

 妊婦に対するアドレナリンについては、とくに重積発作のときに使用するべきかどうか迷います。アナフィラキシーショックに対して投与しなかったことで過去に訴訟に発展したケースもあり、それが頭をよぎる医師も少なくないでしょう。投与する=胎児に影響を与える、投与しない=母体が致命的になるという場合、母体優先で究明すべきと思います。アドレナリンの投与によって子宮血流が低下するとされていますが、明らかな有害事象はそれほど報告されていません。

 アメリカFDA(Food and Drug Administration)は、PLLR(Pregnancy and Lactation Labeling Final Rule)ステートメントにおいてこれまで使用していたカテゴリーA、B、C、D、Xの胎児危険度分類を廃止する方針です(実務上2015年6月以降撤廃)。この分類によって混乱を招き、胎児へのリスクの差を正しく伝えられなかったとしています。とはいえ、現場ではまだこの胎児危険度分類が取り上げられることも多いでしょう。今後の動向を見守りたいと思います。GINAで安全とされているICS、β2刺激薬、テオフィリン、ロイコトリエン拮抗薬で、FDA旧カテゴリーBのものが妊娠喘息でよく使用されています。ヒトでの対照試験が実施されていないものは、FDA旧カテゴリーCになっています。オーストラリア医薬品評価委員会の分類基準も記載しておきます。
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表. 妊婦に対する喘息治療薬の薬物別推奨(旧FDA基準、オーストラリア基準)


・妊娠喘息の発作時は?
 妊娠喘息が救急搬送されてきました。さて、どうしましょう。ステロイドの点滴は憚られるし、とりあえずSABAのネブライザーで様子をみて・・・・・・。

 ちょっと待ってください。妊娠喘息が搬送されてきた場合には、通常の喘息発作と同じ治療にあたってください。催奇形性が問題ではなく、母体の喘息によって胎児に有効な血流が送られないことの方が問題なのです。優先順位を間違えてはいけません。GINAのガイドラインでも発作時には迷うことなく全身性ステロイドを用いるべきと記載しています。喘息発作で救急を受診した妊婦さんも、最近はステロイドの点滴を受ける頻度が増えてきたそうです。これにより救急部の喘息ケアが改善したことが報告されています23)。ただし、ステロイドの点滴が必要でない軽症の発作に対しては、本当に投与する必要があるのかどうか考えるべきです。全身性ステロイドのリスクはゼロというワケではないのですから。

 小ネタですが、発作時に吸入マグネシウムが妊婦に安全と言われています。妊娠喘息発作で救急外来に来た際にはマグネシウムを選択することが妥当かもしれないというコクランレビューがあります24)。ただ、日本では点滴治療が主流であり、マグネシウムをネブライザー吸入する手法は普及していません。


・授乳婦喘息の治療
 授乳婦の喘息治療については、通常の成人と同等にあつかってよいです。代謝された薬剤が母乳に漏出する可能性がありますが、その量は雀の涙ほどです。新生児・乳児に影響が出る可能性はまずないでしょう。唯一、テオフィリン徐放製剤については、大量に服用することで新生児・乳児に興奮、不眠、などの精神的症状をきたす可能性があります。


(参考文献)
1) Kelly W, et al. Asthma in pregnancy: Physiology, diagnosis, and management. Postgrad Med. 2015 May;127(4):349-58.
2) Schatz M, et al. The course of asthma during pregnancy, post partum, and with successive pregnancies: a prospective analysis. J Allergy Clin Immunol. 1988 Mar;81(3):509-17.
3) Kim S, et al. Effect of pregnancy in asthma on health care use and perinatal outcomes. J Allergy Clin Immunol. 2015 Jun 11. pii: S0091-6749(15)00650-8. doi: 10.1016/j.jaci.2015.04.043. [Epub ahead of print]
4) Charlton RA, et al. Asthma management in pregnancy. PLoS One. 2013 Apr 4;8(4):e60247.
5) Gluck JC, et al. The effect of pregnancy on the course of asthma. Immunol Allergy Clin North Am. 2006 Feb;26(1):63-80.
6) Gluck JC. The change of asthma course during pregnancy. Clin Rev Allergy Immunol. 2004 Jun;26(3):171-80.
7) Smy L, et al. Is it safe to use inhaled corticosteroids in pregnancy? Can Fam Physician. 2014 Sep;60(9):809-12, e433-5.
8) Demissie K, et al. Infant and maternal outcomes in the pregnancies of asthmatic women. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Oct;158(4):1091-5.
9) Wen SW, et al. Adverse outcomes in pregnancies of asthmatic women: results from a Canadian population. Ann Epidemiol. 2001 Jan;11(1):7-12.
10) Hodyl NA, et al. Fetal glucocorticoid-regulated pathways are not affected by inhaled corticosteroid use for asthma during pregnancy. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):716-22.
11) Norjavaara E, et al . Normal pregnancy outcomes in a population-based study including 2,968 pregnant women exposed to budesonide. J Allergy Clin Immunol. 2003 Apr;111(4):736-42.
12) Garne E, et al. Use of asthma medication during pregnancy and risk of specific congenital anomalies: A European case-malformed control study. J Allergy Clin Immunol. 2015 Jul 25. pii: S0091-6749(15)00837-4. doi: 10.1016/j.jaci.2015.05.043. [Epub ahead of print]
13) Eltonsy S, et al. Beta2-agonists use during pregnancy and perinatal outcomes: a systematic review. Respir Med. 2014 Jan;108(1):9-33.
14) National Heart, Lung, and Blood Institute, National Asthma Education and Prevention Program Asthma and Pregnancy Working Group. NAEPP expert panel report. Managing asthma during pregnancy: recommendations for pharmacologic treatment-2004 update. J Allergy Clin Immunol. 2005 Jan;115(1):34-46.
15) Stenius-Aarniala B, et al. Slow-release theophylline in pregnant asthmatics. Chest. 1995 Mar;107(3):642-7.
16) Park-Wyllie L, et al. Birth defects after maternal exposure to corticosteroids: prospective cohort study and meta-analysis of epidemiological studies. Teratology. 2000 Dec;62(6):385-92.
17) Gur C, et al. Pregnancy outcome after first trimester exposure to corticosteroids: a prospective controlled study. Reprod Toxicol. 2004 Jan-Feb;18(1):93-101.
18) Schatz M, et al. The relationship of asthma medication use to perinatal outcomes. J Allergy Clin Immunol. 2004 Jun;113(6):1040-5.
19) Bakhireva LN, et al. Safety of leukotriene receptor antagonists in pregnancy. J Allergy Clin Immunol. 2007 Mar;119(3):618-25.
20) Chaudhuri K, et al. Anaphylactic shock in pregnancy: a case study and review of the literature. Int J Obstet Anesth. 2008 Oct;17(4):350-7.
21) Kupryś-Lipińska I, et al. Omalizumab in pregnant women treated due to severe asthma: two case reports of good outcomes of pregnancies. Postepy Dermatol Alergol. 2014 May;31(2):104-7.
22) Global Strategy for Asthma Management and Prevention. available from: http://www.ginasthma.org/local/uploads/files/GINA_Report_2015_May19.pdf
23) Hasegawa K, et al. Improved management of acute asthma among pregnant women presenting to the ED. Chest. 2015 Feb;147(2):406-14.
24) Bain E, et al. Interventions for managing asthma in pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Oct 21;10:CD010660.


by otowelt | 2015-12-12 09:40 | レクチャー

肥満喘息

e0156318_135030100.jpg・肥満は喘息の大敵
 肥満の人は男女を問わず喘息のリスク因子であることが知られています1)-5)。単独で肥満による喘息が取り上げられることはあまりなく、あくまでリスク因子どまりで議論されることが多いのですが、私は“肥満喘息”として個別に扱い強調すべきと考えています。
 この肥満喘息は女性に多いとされており、私もそう実感しています5)。そのため、アトピー素因のある20~30代女性の喘息患者さんでBMIが25を超えている場合には体重変化に注意した方がよいです。ステップ4ということで経口ステロイドが導入されると、一気に体重が増える患者さんもいます。
 特に非アレルギー性の喘息では肥満の存在はリスクの上昇に大きく寄与します。さらに、子どもの頃から肥満だと、将来の喘息のリスクが高いとされています6)。飽食の時代、親は要注意です。
 肥満の患者さんでは物理的に上気道が閉塞しやすいため、下気道が閉塞しやすい喘息の症状をさらに悪化させます。また、閉塞性睡眠時無呼吸も併発することがあり、その身体的ストレスから喘息発作の閾値が下がると考えられています。
 そのため喘息という疾患に対して肥満は何ひとつメリットがないのです。


・肥満喘息の治療
 肥満喘息の治療は、まず減量です。吸入薬も同時に処方しますが、BMIが30を超えているようなケースでは何とかして減量に取り組んでもらうことをオススメします。減量なくして肥満喘息の改善は絶対にありません。減量することによって、喘息重症度を軽減し、気道過敏性、喘息コントロール、呼吸機能、QOLも改善させることがわかっています7)
 その他の治療は、通常の喘息と同じでよいです。あまりにも肥満が重度の場合には、心不全がないことを確認した上でLABAを上乗せした方がよいかもしれません。
 肥満喘息の患者さんはテオフィリンの血中濃度が上がりやすいことが知られているため、通常量で徐放製剤を処方する場合、テオフィリンの血中濃度を必ず測定するようにして下さい。個人的には、高齢者や肥満の患者さんであれば必ずテオフィリンの血中濃度を測定するようにしています。


(参考文献)
1) Camargo CA Jr, et al. Prospective study of body mass index, weight change, and risk of adult-onset asthma in women. Arch Intern Med. 1999 Nov 22;159(21):2582-8.
2) Young SY, et al. Body mass index and asthma in the military population of the northwestern United States. Arch Intern Med. 2001 Jul 9;161(13):1605-11.
3) Stenius-Aarniala B, et al. Immediate and long term effects of weight reduction in obese people with asthma: randomised controlled study. BMJ. 2000 Mar 25;320(7238):827-32.
4) Beuther DA , et al. Overweight, obesity, and incident asthma: a meta-analysis of prospective epidemiologic studies. Am J Respir Crit Care Med. 2007 Apr 1;175(7):661-6.
5) Wang L, et al. Sex difference in the association between obesity and asthma in U.S. adults: Findings from a national study. Respir Med. 2015 Aug;109(8):955-62.
6) Egan KB, et al. Childhood body mass index and subsequent physician-diagnosed asthma: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. BMC Pediatr. 2013 Aug 13;13:121.
7) Pakhale S, et al. Effects of weight loss on airway responsiveness in obese adults with asthma: does weight loss lead to reversibility of asthma? Chest. 2015 Jun 1;147(6):1582-90.


by otowelt | 2015-11-30 00:47 | レクチャー