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あくびは身体からの危険信号?

e0156318_1659683.jpgあくびの意義
 漢字テストでよく登場する「欠伸」。「あくび」と読みますね。「呿呻」、「呿」とも書き ます。私は医学部に入るまで「欠神」だと思っていて、いつの間にか「失神」とごっちゃになってしまったことがあります。

 たとえ医療従事者でも、あくびの病態生理って意外に勉強したことがない人が多いですよね。呼吸器内科医を長くやっていますが、私もほとんど勉強したことがありません。調べてみると、予想通りあくび中枢は視床下部にあると言われています。自発呼吸をしているラットの視床下部室傍核にグルタミン酸などを微量注入したときに、あくび反応を誘発することができるそうで、室傍核こそがあくびの中枢なんだそうで1), 2)


あくびの役割は「覚醒」と「警鐘」
 週刊日本医事新報から鈴木先生の興味深い意見を引用します3)

 「あくびは不随意的に生じることが多いが、故意に起こす場合もある。将棋の升田名人は大事な一手を打つ前にあくびをすることで有名であった。高浜虚子も一句を詠む前にあくびをしたと言われている。ヒトに限らず、猛獣は獲物に飛びかかる前にあくびをする。このように、ヒトはあくびが脳を覚醒化することを経験的に知っているようである。

 つまり、覚醒して何かにとりかかろうというときにあくびで目を覚ますということですね。眠たいときにあくびが出るのは、覚醒しろ覚醒しろと身体がムチ打ってくれているのかもしれません。

 その反面、あくびがストレスと大きく関連していることも知られています4), 5)。ヒトも野生本能をどこかに持っています。眠ったら食われるぞ!というサバンナの野生動物よろしく、あくびによって身体に対して「眠ったらヤバイぞ!」という警告を送っているワケです。生物学的に眠気は危ないのです。現代社会で寝ているスキに襲われる可能性があるのは、スリが多発する駅の構内とか誰も通らないような路地裏とかでしょうが、そんな現代でもあくびという警告手段はしっかりと残っているのです。

 ちなみにわたしの大学時代の親友は、毎日授業の前に大きなあくびをした後に夢の世界で遊んでいたので、とてもじゃないですが彼にとってあくびが危険信号とは思えません。(笑)


薬剤性あくび
 医療従事者の方々は薬剤性肝障害、薬剤性腎障害、薬剤性肺障害、なんて言葉を耳にしたことがあると思いますが、薬剤性あくび、というものもあります。中枢に作用する薬剤、たとえばオピオイド、ベンゾジアゼピン、抗うつ薬などが薬剤性あくびと関連しているとされています6)。私は個人的に見たことはありませんが、ネタとして知っておいてもよいかもしれませんね。


(参考文献)
1) Sato-Suzuki I, et al. Stereotyped yawning responses induced by electrical and chemical stimulation of paraventricular nucleus of the rat. J Neurophysiol. 1998 Nov;80(5):2765-75.
2) Melis MR, et al. Yawning: role of hypothalamic paraventricular nitric oxide. Zhongguo Yao Li Xue Bao. 1999 Sep;20(9):778-88.
3) 鈴木郁子ら. あくびの生物学的意義と伝染機序. 第4724号(2014年 11月 8日)P56「質疑応答」
4) Thompson SB. Yawning, fatigue, and cortisol: expanding the Thompson Cortisol Hypothesis. Med Hypotheses. 2014 Oct;83(4):494-6.
5) Kubota N, et al. Emotional stress evoked by classical fear conditioning induces yawning behavior in rats. Neurosci Lett. 2014 Apr 30;566:182-7.
6) Patatanian E, et al. Drug-induced yawning--a review. Ann Pharmacother. 2011 Oct;45(10):1297-301.


by otowelt | 2015-08-27 00:53 | レクチャー

運動誘発性喘息、運動誘発性気管支攣縮、アスリート喘息について

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・運動すると喘息になる?
 運動誘発性喘息(exercise induced asthma:EIA)と運動誘発性気管支攣縮(exercise induced bronchoconstriction:EIB)という2つの用語があります。日本のガイドライン1)では、病名として前者が採用されています。じゃあEIBなんて言葉、イラナイじゃん。いえいえ、そんなことはないのです。

 実は運動時にEIAを起こす喘息患者さんは結構多いのですが、健常な人であってもEIBになることはしばしばあります。実は私も子どもの頃にEIBだったと思うエピソードがあるのです。雨の降る体育の日だったでしょうか、小学校の運動会があったんです。10月の肌寒い日の雨天決行というなかなかアグレッシブな小学校でした。全力疾走で50m走を完走した後、ヒューヒューと息が苦しくなったんです。過換気症候群ではなく、明らかに気管支が攣縮するような感じだったのを覚えています。それ以降、過度な運動をするとEIBを起こすことがありましたが、今はもう大丈夫です。

 EIAという用語は、病態としてはasthma(喘息)ではない、bronchostriction(気管支攣縮)であるという意見は海外でよく聞かれます。好酸球性気道炎症じゃない、ということですね。喘息の既往がある人で運動時に喘息症状が出ることをEIA、既往の有無を問わず運動時に喘息症状が出ることをEIBと呼びます。アメリカでは広い概念としてEIBという用語が用いられています。単純にEIBと定義すると、私の子どもの頃のように結構な頻度で一般人口に存在することが分かっています。その頻度は20%とも言われています1)

 アスリート喘息とは競技者に起こるEIBのことですが、アスリート喘息を疾患概念として独立させる必要性はなさそうです。


・EIBとアスリート喘息の診断
 EIBの診断は、運動後に1秒量が10%以上低下することを定義としています。ただ、日本の場合運動負荷しながら呼吸機能検査を行うというのはあまり現実的ではないため、ピークフロー値で代用されていることが多いように思います。ただ、アスリート喘息は別です。日本アンチドーピング機構によれば、アスリート喘息については診断基準に基づいた診断書の提出が必要になりますので注意して下さい。メサコリン吸入試験はまだ日本では普及していませんが、PC20値4mg/mLで1秒量20%以上の低下が必須です。運動誘発試験はATSと同じように1秒量が10%以上低下することと定義されています。

・EIBへの対策・治療
 アスリートの場合、EIBは症状の有無を問わず30~70%に起こると言われています。絶対数が多いということで、2013年にATSからEIBのガイドラインが出ています2)

 EIBは気道に冷たく乾燥した空気が流入することで発作が起きやすくなります。そのため、気温や湿度が低いところでの運動やトレーニングを避けること、またマスクを装着することも予防に有用です。食事療法としては、塩分の少ない食事、リコピンの摂取、アスコルビン酸の摂取などが推奨されています。

 薬物的な予防法としては、運動5~20分前のSABAの頓用が第一選択として挙げられています。SABAがイマイチだなぁとか効きにくいなぁというときには、インタール®やSAMAの使用が推奨されています。EIBのエビデンスとして豊富なのはインタール®ですが、個人的にはあまり使っていません。

 SABAを毎日のように使用しても症状が続く場合には、ICSやLABAを加えるべきとされています。ただ。確実にEIBであれば問題ないかもしれませんが、普通の喘息の場合LABA単剤治療というのは医学的にも法的にもNGかもしれません。そのため、現実的にICSかICS/LABAを加えることになります。個人的にはまずICSを選択しています。ICSを使いながら、運動前にSABAという処方例が最も多いです。以下を図示します。
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 上述のように、気温や湿度が低いところでトレーニングを避けたり、マスクを装着することが有用ですが、もっとも有効な予防法は「ウォーミングアップ」です。運動前にある程度の強度の運動でウォーミングアップアを行うと、EIBが起こりにくくなるとされています。そのため、5~10分程度のウォーミングアップを行うことで、ウォーミングアップの後1~4時間くらいはEIBが起こりにくくなるとされています(refractory period)
2), 3)

・TUE申請
 国際競技連盟から指定されているアスリートの場合は、同連盟に治療目的使用に係る除外措置(Therapeutic Use Exemptions:TUE)の申請が必要です。日本のガイドラインには、アスリートに使用が認められている薬剤が掲載されています。その表を引用します。
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(参考文献)
1) 日本アレルギー学会. 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画.
2) Parsons JP, et al. An official American Thoracic Society clinical practice guideline: exercise-induced bronchoconstriction. Am J Respir Crit Care Med. 2013 May 1;187(9):1016-27.
3) Tan RA, et al. Exercise-induced asthma: diagnosis and management. Ann Allergy Asthma Immunol. 2002 Sep;89(3):226-35; quiz 235-7, 297.
4) 日本アンチ・ドーピング機構. 医師のためのTUE申請ガイドブック2015


by otowelt | 2015-08-21 00:36 | レクチャー

気道可逆性試験について

 気道可逆性試験について記載します。(読者の方からの指摘があり、一部変更しました)

 ベネトリン®でもメプチン®でもサルタノール®でもよいので、短時間作用性β2刺激薬(SABA)を準備してください。まず、ベースラインで1秒量を測ってください。その後、SABAを吸入します。ベネトリン®ネブライザーなら0.2~0.4mL、メプチン®やサルタノール®なら2~4吸入です。このとき、加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)の吸入デバイスを用いるときは、息止めがしっかりできているか確認してください。気道可逆性試験を受ける患者さんの何人かは息止めができておらず、「可逆性なし」と診断されていることがあるためです。そのため、施設内でしっかりと吸入手技の情報を共有するよう心がけて下さい。可能ならpMDI使用時には、スペーサー(メプチン®:メプチン専用スペーサーなど、サルタノール®:エアロチャンバープラス®など)を併用する方がよいでしょう。

 SABAを吸入して、20分経過したらもう一度1秒量を測定します。ベースラインから1秒量が12%以上かつ絶対値200mL以上の改善があれば、「気道可逆性あり」と診断されます。すなわち、喘息が強く疑われます。ただし、これでCOPDが否定されるワケではありません。疑いが強くなる検査だということです。ちなみに、咳喘息の場合は気道可逆性があっても5~10%になることが多いです。

 すでに気管支喘息やCOPDの治療を導入されている患者さんの場合、気道可逆性検査の前に中止しておくべき薬剤がガイドラインで規定されています(表)。なお、気道可逆性試験は「喘息が疑われ1秒量が低下している場合に行う検査」であることが本来の位置づけです。
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(参考文献)
1) 日本アレルギー学会. 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画.


by otowelt | 2015-08-11 00:00 | レクチャー

胸膜癒着術

※2015年6月27日改訂

●はじめに
 胸膜癒着術は、気胸や癌性胸膜炎に適用されます。ただし、その方法についてはコンセンサスがなく、エビデンスも多くありません。この処置は、胸膜を癒着させ胸腔を閉鎖すれば気胸の再発を予防できるのではという発想のもと1930年代に自然気胸に用いられました。当時、既にタルクや自己血を胸腔内に注入しており、古い歴史を持ちます。
Bethune, N. Pleural poudrage: new technique for the deliberate production of pleural adhesion as preliminary to lobectomy. J Thorac Surg 1935; 4:251.

 癌性胸膜炎に一般的に使用されているピシバニール®(OK432)は1980年代から使用され始めました。自然気胸に対する5年再発率を16%減少することができたという報告があります(25% vs 41%)。タルクによる胸膜癒着術では、自然気胸がほとんど再発しなかったという報告があるため、欧米では自然気胸に対する胸膜癒着術はタルクが主流です。
Gyorik S et al; Long-term follow-up of thoracoscopic talc pleurodesis for primary spontaneous pneumothorax. Eur Respir J. 2007 Apr;29(4):757-60.

 胸膜癒着術の全例が成功するわけではありません。当然ながら肺の拡張が得られないようなケースではそもそも意味がありません。壁側胸膜と臓側胸膜の2つの胸膜が離れた状態では、それらがくっつく“糊”を入れても空振りに終わります。また胸膜播種が重度の場合、何度やっても癒着できないケースもあります。その他、胸膜癒着術が成功しにくい要因があります。例えば胸水中pHが7.28以下のような例だと、失敗率は増加します(オッズ比4.46, 95%信頼区間2.69-7.45, p<0.0001)。他にも胸水中%LDHの上昇が146%を上回るもの(オッズ比4.11,95%信頼区間1.81-9.64)、胸水糖の低下(72mg/dL以下)(オッズ比3.02,95%信頼区間1.77-5.21)は胸膜癒着術失敗のリスク因子とされています。
Heffner JE et al. Pleural fluid pH as a predictor of pleurodesis failure: analysis of primary data. Chest 2000 Jan;117(1):87-95.


●癒着剤
 癒着剤として何を投与するかですが、大きく分けると2種類あります。
・胸膜を化学的に刺激し、胸膜炎を惹起する薬剤:
  タルク(ユニタルク®)、テトラサイクリン系、ピシバニール®(OK432)、抗癌剤、ポビドンヨード、50%ブドウ糖
・それ自体に接着作用がある薬剤:
  フィブリン糊、自己血、50%ブドウ糖


(1)タルク(ユニタルク®)・・・癌性胸膜炎、気胸に使用されている
 2013年12月9日、悪性胸水の治療薬であるユニタルク®胸膜腔内注入用懸濁剤4gが発売されました。タルクは、滑石という鉱石を微粉砕した無機粉末です。癌性胸膜炎による悪性胸水に対する胸膜癒着術の第一選択とされています。メタアナリシスでは、タルクは最も胸膜癒着術の成績がよい薬剤とされており、最低でも78%の成功率が維持できるというすぐれものです。また、胸腔鏡下にタルクを散布する方法もかなり有効とされています。ただし日本では胸腔鏡下でのタルク散布は保険適用外です。
・Dresler CM et al. Phase III intergroup study of talc poudrage vs talc slurry sclerosis for malignant pleural effusion. Chest 2005 Mar;127(3):909-15.
・Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.


 ユニタルク®は1回4gを生食50mLとともに胸腔内に注入します。10gを超える使用では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重篤な副作用も報告されています。また、タルク粒子の構成半分が10µmを下回るような微小粒子末は、早期の死亡リスクを上昇させます。
Arellano-Orden E, et al. Small Particle-Size Talc Is Associated with Poor Outcome and Increased Inflammation in Thoracoscopic Pleurodesis. Respiration. 2013;86(3):201-9.

 ユニタルクは生理食塩水で懸濁して使用します。放っておくと沈殿してしまうため、溶液内にタルクをまんべんなく行き渡らせて注入するよう心掛けましょう。ピシバニールと比較して発熱が軽度で済むのではないかと考えられていますが、実臨床ではそこまでの差は感じていません。

 参考記事:日本人の悪性胸水に対するタルクの胸膜癒着術は有効


(2)ピシバニール®(OK432)…癌性胸膜炎に使用されている、時に気胸に使用されている
 もともと抗癌剤というカテゴリーに入る薬剤で、注射用製剤で0.2・0.5・1・5KE/バイアルがあります。1KEはStreptococcus pyogenes (A群3型)Su株ペニシリン処理凍結乾燥粉末2.8mg乾燥菌体として0.1mgに相当し、KEとはドイツ語でKlinische einheit(臨床単位)のことを指します。ベンジルペニシリンカリウムを含有していますので、ペニシリンアレルギー患者には禁忌です。また、心臓疾患、腎臓疾患患者には慎重投与となっています。1回あたり5~10KEを胸腔内に注入します。1KEと比較して10KEを30分かけて1日目と3日目で投与したほうがドレナージ期間の短縮(4.0±1.3日 vs 7.0±1.6日, p=0.028)および総排液量の減少(675±215mL vs 1356±277mL, p<0.001)に有利であったという報告があります。
Kasahara K, et al. Randomized phase II trial of OK-432 in patients with malignant pleural effusion due to non-small cell lung cancer. Anticancer Res. 2006 Mar-Apr;26(2B):1495-9.

 またピシバニール®はシスプラチンやブレオマイシンの胸腔内投与よりも、私たち呼吸器内科医にとって使いやすいという側面もあります。白金製剤の胸腔内投与は激烈な症状が出ることがあり、安全性やエビデンスが蓄積されているピシバニール®の方がまだ安心できます。
Shimizu T, et al. Comparison of intrapleural OK-432 and cisplatin for malignant pleural effusion in lung cancer patients. Gan To Kagaku Ryoho 2005 Aug;32(8):1139-43.

 シスプラチン単独、ピシバニール®(OK432)単独、両者を併用する3群において、180日後の再発率が64.7%、52.9%、13.3%だったという報告があり、併用療法の有用性も指摘されています(ただしこの場合ドレーン留置期間は8.4日、5.5日、12.9日)。
Ishida A, et al. Intrapleural cisplatin and OK432 therapy for malignant pleural effusion caused by non-small cell lung cancer. Respirology. 2006 Jan;11(1):90-7.

 日本で行われたJCOG9515試験で、4週間の間の胸水無増悪生存率は、ピシバニール®(OK432)で75.8%、ブレオマイシン68.6%、シスプラチン+エトポシド70.6%で有意差はなかったものの、ピシバニール®(OK432)が良好な成績であったことから日本ではピシバニール®を含むメニューがよく使用されます。
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図:Yoshida K, et al. Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515. Lung Cancer. 2007 Dec;58(3):362-8.より引用


(3)自己血・・・気胸で使用されている
 癌性胸膜炎に対する自己血による胸膜癒着術の有効性も報告されていますが(テトラサイクリンとの比較)、日本では主に気胸に対して自己血を用います。
Keeratichananont W, et al.Efficacy and safety profile of autologous blood versus tetracycline pleurodesis for malignant pleural effusion. Ther Adv Respir Dis. 2015 Apr;9(2):42-8.

 特にエアリークがとまりにくい遷延性の気胸に対して有効です。自己血による胸膜癒着術の原理は非常に簡単で、傷口がふさがらない肺に“かさぶた”をつくって治療するというものです。自己血のよいところは、注入しても副作用がほとんどないことです。自身の血液を採取して、それを胸腔内に注入するため、最も安全です。間質性肺炎においても安全です。
Aihara K, et al. Efficacy of Blood-Patch Pleurodesis for Secondary Spontaneous Pneumothorax in Interstitial Lung Disease. Intern Med 50: 1157-1162, 2011.

 自然気胸に対して自己血を注入した32人の検討では、半数は12時間以内に効果がみられました。また、72時間以内に27人(84%)が72時間以内に効果がみられました。
Cagirici U, et al. Autologous blood patch pleurodesis in spontaneous pneumothorax with persistent air leak.Scand Cardiovasc J 1998;32(2):75-8.

 その他にも、14人の自然気胸の検討で、50mlの自己血を注入した報告では奏効率は92%で、53%は12時間以内に、23%が24時間以内、15%は48時間以内、15%が72時間以内にエアリークがなくなったとされています。
Blanco Blanco I, et al. Pleurodesis with the patient's own blood: the initial results in 14 cases. Arch Bronconeumol 1996 May;32(5):230-6.

 自己血の注入量は50mlとする報告が多いです。25人の遷延性気胸における血液量を比べた報告がありますが、0ml、50ml、100mlで、エアリークが止まるまでの日数が6.3±3.7日、2.3±0.6日、1.5±0.6日でした。有意に100mlのほうがエアリークが止まるまでの日数が短かったとされています。そのため、100ml程度の注入が望ましい。
Andreetti C, et al. Pleurodesis with an autologous blood patch to prevent persistent air leaks after lobectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2007 Mar;133(3):759-62.


(4)ブレオマイシン・・・癌性胸膜炎に使用されている
 言わずと知れた抗癌剤です。1mg/kg、多いときで50~60mg/kgを注入します。日本では抗癌剤による胸膜癒着術としてはシスプラチンがよく使われていますが、骨髄抑制や腎障害などの副作用が50~80%見られ、他の抗癌剤に比べて強い傾向にあります。ピシバニール®(OK432)の項にも記載しますが、統計学的には4週間の胸水無増悪生存率は、ピシバニール®(OK432)やシスプラチン+エトポシドと同等の成績です。
Yoshida K, et al. Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515. Lung Cancer. 2007 Dec;58(3):362-8.


(5)テトラサイクリン系抗菌薬・・・癌性胸膜炎、気胸に使用されている
 海外の文献ではタルクに劣る報告がいくつかあるため、アメリカではあまり使用されません。
・Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.
・Heffner JE et al ;Clinical efficacy of doxycycline for pleurodesis. Chest 1994 Jun;105(6):1743-7.


 日本ではまだ胸膜癒着剤の主役になっている施設もあります。ドキシサイクリン500mg,、ミノサイクリン300mg程度の量を50mlの生食に溶解して注入する方法が主流です。とても胸膜痛が強くでる薬剤ですので、キシロカインの注入を事前におこなっておくなど工夫が必要です。癌性胸膜炎に対する成功率はおよそ80%とされています。
・Bielsa S, et al. Tumor type influences the effectiveness of pleurodesis in malignant effusions. Lung 2011; 189:151.
・Porcel JM, et al. Rapid pleurodesis with doxycycline through a small-bore catheter for the treatment of metastatic malignant effusions. Support Care Cancer 2006; 14:475.


 自然気胸に対して胸腔ドレナージ単独よりもミノサイクリンによる胸膜癒着術を併用したほうが再発抑制効果が高かったという報告もあります(1年後の再発率:ミノサイクリン群29.2%、胸腔ドレナージ単独群49.1%、p=0.003)。
Chen JS, et al. Simple aspiration and drainage and intrapleural minocycline pleurodesis versus simple aspiration and drainage for the initial treatment of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, parallel-group, prospective, randomised, controlled trial. Lancet. 2013 Apr 13;381(9874):1277-82.


(6)フィブリン糊・・・癌性胸膜炎、気胸で使用されている
 A液=フィブリノゲンをアプロチニンで溶解、B液=トロンビンを塩化カルシウムで溶解、この2種類を直前に混和して注入します。フィブリン生成過程を利用して組織の接着・閉鎖を行います。アプロチニンは牛肺を原料とするのでアレルギーに注意しなければなりません。最近はあまり臨床では目にしませんが、自己血パッチで成功しなかった気胸に効果があったという報告もあります。
Iyama S, et al. Successful treatment by fibrin glue sealant for pneumothorax with chronic GVHD resistant to autologous blood patch pleurodesis. Intern Med. 2012;51(15):2011-4.


(7)その他
 その他、ポビドンヨードによる癌性胸膜炎や気胸の再発予防の報告もあります。タルクに遜色ないという結果も報告されており、今後期待されます。
・Agarwal R, et al. Indian J Med Res. 2012 Mar;135:297-304.
・Ibrahim IM, et al. J Cardiothorac Surg. 2015 May 1;10:64.


 また、50%ブドウ糖を注入することで気胸の効果的であったという報告もあります(200mL注入)。薬効成分が入っていないので、副作用は少ないですが、注入後の胸膜痛が多いように感じます。
・Tsukioka T, et a. Pleurodesis with a 50% Glucose Solution in Patients with Spontaneous Pneumothorax in Whom an Operation is Contraindicated. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2013;19(5):358-63.
・Tsukioka T, et al. Intraoperative mechanical and chemical pleurodesis with 50 % glucose solution for secondary spontaneous pneumothorax in patients with pulmonary emphysema. Surg Today. 2013 Aug;43(8):889-93.


 50%ブドウ糖は癌性胸膜炎に対しても有効です。ただし、胸水中の糖が高いと胸膜癒着術が失敗することが多いようです。一般的には胸水糖が低すぎる胸水例では成功率が低いと言われていますが、50%ブドウ糖の場合は高すぎることが失敗のリスクを高めます。
Pantazopoulos I, et al. Pleural fluid glucose: A predictor of unsuccessful pleurodesis in a preselected cohort of patients with malignant pleural effusion. J BUON. 2014 Oct-Dec;19(4):1018-23.



●実際の手順
 実際の手順についてです。使用する胸腔ドレーンですが、必ずしも20Fr以上の太い胸腔ドレーンを使用する必要はありません。疼痛の観点からも細径のドレーン(10~14Fr程度)でよいとされています。ただ、私は20Fr以上の胸腔ドレーンを使うことがほとんどです。
・Roberts ME, et al. Management of a malignant pleural effusion: British Thoracic Society Pleural Disease Guideline 2010. Thorax. 2010 Aug;65 Suppl 2:ii32-40.
・Light RW. Pleural controversy: optimal chest tube size for drainage. Respirology. 2011 Feb;16(2):244-8.



・癌性胸膜炎に対する胸膜癒着術(ユニタルク®、ピシバニール®など)
 肺の拡張が完全に得られていることが前提です。排液量が150mL/日くらいを下回れば、問題なく癒着術ができます。

1.全身ステロイドは事前にできるだけ減らしておくことが推奨されています。
Kennedy L et al. Pleurodesis using talc slurry. Chest 1994 Aug;106(2):342-6.

2.薬剤を胸腔に注入する前に1%キシロカインを20ml程胸腔内注入したり、解熱鎮痛薬を事前に内服してもらったりしてから治療を行います。胸膜痛を軽減することができるとされていますが、効果は定かではありません。

3.薬剤を入れて、胸腔ドレーンをクランプします。
 ・ピシバニール®5~10KE+生理食塩水50~100mL
 ・ユニタルク®4g+生理食塩水50mL (さらに生理食塩水50mL追加)
 ・ミノマイシン®200~300mg+生理食塩水50~100mL

4.クランプ中、肺尖部分を中心に癒着剤が胸腔に広がるように体位変換することが重要とされています。
 例)仰臥位10~20分・右側臥位10~20分・左側臥位10~20分・腹臥位10~20分・坐位10~20分
 ※ただし、体位変換そのものや変換時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。むしろ、体位変換自体あまり意味がないのではないかともされています。
・Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.
・Dryzer SR, et al. A comparison of rotation and nonrotation in tetracycline pleurodesis. Chest. 1993 Dec;104(6):1763-6.

 ※胸腔ドレーン側は下にすると痛いので、その手順だけスキップします。

5.臓側胸膜と壁側胸膜を癒着する必要があるので、クランプ開放後は陰圧(たとえば-15~20cmH2Oなど)で持続吸引するのが望ましいという意見が多いです。
 ※陰圧やクランプ時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。クランプ開放は2時間後というエキスパートオピニオンもあれば、5~6時間は必要という意見もあります。

6.1日150ml以下の胸水排液で胸腔ドレーンを抜去しても問題ありません。それ以上の胸水排液が24時間以上続く場合は、再度胸膜癒着術を考慮します。3回目以降についてはエビデンスはありません。


・気胸に対する自己血による胸膜癒着術
1.患者さんから採血した自己血をそのまま胸腔ドレーンに注入し、クランプします。
Lang-Lazdunski L, Coonar AS. A prospective study of autologous 'blood patch' pleurodesis for persistent air leak after pulmonary resection. Eur J Cardiothorac Surg 2004 Nov;26(5):897-900.
 ※陰圧をかけずに60cmの高さにチューブを持ち上げて、血液の逆流を防ぐなど工夫をする(ドレーンバッグを台の上に乗せる)という手法もある。
 ※個人的には、ドレーンが閉塞しないように適宜ごく少量のエアを注入して適宜開通を確認することもあります。
Dumire R, et al. Autologous "blood patch" pleurodesis for persistent pulmonary air leak. Chest 1992 Jan;101(1):64-6.

2.リーク部分を中心に自己血が胸腔に広がるように体位変換することが重要と考えられます。
 ※前述のように体位変換時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。
 ※血液注入後は、ドレーン内血液の凝固に注意。気胸の悪化を招きます。

3.臓側胸膜と壁側胸膜を癒着する必要があるので、クランプ開放後は陰圧(たとえば-15~20cmH2Oなど)で持続吸引するのが望ましいという意見が多いです。
 ※陰圧やクランプ時間のエビデンスは現時点ではありません。クランプ開放は2時間後というエキスパートオピニオンもあれば、5~6時間は必要という意見もあります。

4.エアリークが消失している場合、おそらく胸腔ドレーンが閉塞した気胸の傷口がふさがっているかのどちらかです。バイタルサインに問題がなければ翌日の胸部レントゲン写真で肺が全拡張しているかどうか確認します。
 肺が虚脱してエアリークがない場合は、血液によるドレーン閉塞が考えられます。翌日にこれを発見するのは嫌なので、個人的には陰圧をかけている間にドレーンが開通しているかどうか少量のエアを注入して確認します。適切な操作をおこなえば、ドレーン側管だけでなく本管からもエア注入が可能です(ただし推奨される医療行為ではない)。
 肺が全拡張してエアリークが消失していれば胸腔ドレーンは抜去可能と思われます。エアリークが続く場合は、再度胸膜癒着術を考慮してもよいです。3回目以降についてはエビデンスはありません。


●副作用
 胸膜癒着術の副作用としてよくみられるのは、発熱、疼痛、消化器症状です。特に発熱と疼痛は自己血以外ではほぼ必発です。重篤な副作用として呼吸不全、全身性炎症反応症候群、膿胸などがあります。
Shaw P et al;Pleurodesis for malignant pleural effusions. Cochrane Database Syst Rev 2004;(1):CD002916.

 副作用ではありませんが、自己血の場合は胸腔ドレーン閉塞と気胸治癒の判断が難しいことがあるため、翌日の胸部レントゲン撮影は必須です。



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by otowelt | 2015-06-27 08:15 | レクチャー

COPDに対するワクチン

e0156318_23175684.jpg・インフルエンザワクチン
 COPDの患者さんに限らず、多くの日本人がインフルエンザワクチンを毎年摂取している最近。そりゃあインフルエンザにかからない方が安全だというのは分かりますが、インフルエンザワクチンを接種することでとういった効果が得られるでしょうか。

 最も重要なのは、やはり気道症状の軽減がはかれる点です1)。COPDの患者さんがインフルエンザに罹患すると、聴診すればヒューヒュー、ごはんは食べていない、ぐったりしてタイヘン!ということはよくあるのです。ワクチンそのものの有害事象で悪化しないの?と聞かれることがありますが、享受する利益の方が圧倒的に大きいのでCOPDの患者さんは全例インフルエンザワクチンを接種してよいと考えられます2)

 ちなみにメタアナリシスではインフルエンザワクチンを接種すると、COPD急性増悪の回数が有意に減ることがわかっています(加重平均差-0.37、95%信頼区間-0.64~-0.11、p=0.006)3)。ただこのメタアナリシス、組み込まれた研究の数が少ない。

 COPDに限らず、65歳以上の高齢者における研究ではインフルエンザワクチン接種によって肺炎またはインフルエンザによる入院のリスクが27%減少し(補正オッズ比 0.73、95%信頼区間0.68~0.77)、死亡リスクは48%減少しました(補正オッズ比 0.52、95%信頼区間0.50~0.55)と報告されています4)。日本のCOPDは高齢者が多いので、ワクチン接種による利益がある群としては一致した集団でしょうか。


・肺炎球菌ワクチン
 COPDの患者さんに限らず、成人に使用できる肺炎球菌ワクチンはニューモバックスNP®(23価肺炎球菌多糖体ワクチン:PPSV23)の一択だったのですが、現在はこれに加えてプレベナー13 ®(13価肺炎球菌結合型ワクチン:PCV13)が使用できます。これが非常にヤヤコシイ。

 日本は言わずと知れた先進国ですが、PPSV23の接種率はアメリカの3分の1くらいとものすごく低かったのです。在宅呼吸ケア白書というアンケート調査では、在宅酸素療法を要する慢性呼吸不全の患者さんに対してすら6割程度の接種率でした5)。「これはイカン、先進国の水準どころではないぞ」ということでワクチンの接種率向上を目指し 2014年10月より定期接種化された経緯があります。PCV13が成人の肺炎球菌ワクチンの世界に乗り込んできたのと時期を同じくしているため、何が助成で何が助成でないのかよくわからない医師も少なくありません。繰り返しますが、執筆時点では助成がおりるのはPPSV23のみです。PCV13は助成がおりません。この点は覚えておく必要があります。

 さて、ニューモバックスNP®の方から説明します。PPSV23は侵襲性肺炎球菌感染症を減らす可能性はありますが、COPD急性増悪や肺炎そのものを予防できるだけの威力があるかどうかは報告によってまちまちです6), 7)。「重篤な感染症を予防できるけど、肺炎そのものを予防できるワケではないんだよ」と指導医に教えてもらった人も多いでしょう。ただ、施設入所中の高齢者、といったベースラインの全身状態があまりよくない患者さんでは有効かもしれません8)。COPDの患者さんも高齢者が多いですから、一定の効果はあると私は思っています。

 一方、プレベナー13®はどうでしょうか。PCV13については小児ではまとまった報告はあるものの、特に高齢者ではエビデンスが少なかった。そこで、高齢者に対する臨床試験として2015年に発表されたCAPiTA試験に注目が集まりました9)。この試験によれば、高齢者に対するプレベナーはワクチン血清型の侵襲性肺炎球菌感染症、菌血症を伴わない細菌性肺炎をそれぞれ75%、45%予防可能という結果でした。しかし、市中肺炎全体の予防効果はみられませんでした。ワクチン血清型に限ったものとはいえ肺炎を予防できる可能性が示唆されました。

 以上をふまえ、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2014年に以下の内容を推奨しています10)

•肺炎球菌ワクチンの接種歴が無い、または接種歴が不明の65歳以上の成人は、PCV13をまず先に接種し、次いでPPSV23を接種。
•PCV13の接種歴が無く、かつPPSV23を1回以上接種したことがある65歳以上の成人は、PCV13を接種。
•65歳以上の成人に対するPCV13の推奨※については、2018年に再評価を行い必要に応じて内容を改定する。(※ACIPおよびCDC 所長が今回の推奨改定を承認した場合)


 では高齢者がその大部分を占めるCOPD患者さんのワクチン接種はどうすればいいのでしょう。片方接種?両方接種?

 アメリカの場合、典型的な高齢COPD患者さんは推奨に準じてPCV13+PPSV23を接種することになります。一方、イギリスやカナダなどの他の先進国では免疫不全のある患者さんに対してPCV13が推奨されていますが、一般的な高齢COPD患者さんに対してはPPSV23単独となります。日本はどうかといいますと、日本呼吸器学会と日本感染症学会が合同で「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(平成27~30年度の接種)」を発表しており、アメリカに準じてPCV13+PPSV23の両方接種を推奨しています。ただし、PCV13は助成がおりませんのでご注意を。

 なお、PCV13+PPSV23を接種する場合、ACIPはPCV13を先に接種した後にPPSV23を接種することを推奨しています。また、65歳未満であれば両者を8週間以上空け、65歳以上では1年以上空けます。過去にPPSV23を接種している患者さんに対しては、1年以上空けてPCV13を接種することを推奨しています。

 PPSV23に対する日本の助成は5歳ごとに定められており、しかも5の倍数の年齢のときだけという分かりにくい仕組みになっていますので、「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(平成27~30年度の接種)」から図を引用しますので参考にしてください。
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(引用URL[日本感染症学会内]:http://www.kansensho.or.jp/guidelines/1501_teigen.html)

 なお、当院のある大阪府堺市は、
・予防接種法に基づく定期接種
・市独自の助成による任意接種 (満65歳以上で定期接種の対象者に該当しない方)
の2種類の助成があります。

(参考文献)
1) Wongsurakiat P, et al. Acute respiratory illness in patients with COPD and the effectiveness of influenza vaccination: a randomized controlled study. Chest. 2004 Jun;125(6):2011-20.
2) Tata LJ, et al. Does influenza vaccination increase consultations, corticosteroid prescriptions, or exacerbations in subjects with asthma or chronic obstructive pulmonary disease? Thorax. 2003 Oct;58(10):835-9.
3) Poole PJ, et al. Influenza vaccine for patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jan 25;(1):CD002733.
4) Nichol KL, et al. Effectiveness of influenza vaccine in the community-dwelling elderly. N Engl J Med. 2007 Oct 4;357(14):1373-81.
5)在宅呼吸ケア白書2010. 日本呼吸器学会肺生理専門委員会 在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ.
6) Walters JA, et al. Injectable vaccines for preventing pneumococcal infection in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Nov 10;(11):CD001390.
7) Huss A, et al. Efficacy of pneumococcal vaccination in adults: a meta-analysis. CMAJ. 2009 Jan 6;180(1):48-58.
8) Maruyama T, et al. Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomised and placebo controlled trial. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.
9) Bonten MJ, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med. 2015 Mar 19;372(12):1114-25.
10) Tomczyk S, et al. Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine among adults aged ≥65 years: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2014 Sep 19;63(37):822-5.

by otowelt | 2015-06-25 00:16 | レクチャー

医学論文嫌いを治そう その2

・多くの医師は凡人
 私は凡人です。ブログを毎日のように更新して、本も執筆して、凡人ということはないだろうとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、おそらく呼吸器内科的な知識は中の中あたり、とかく文才があるわけでも教えることが上手というわけでもありません。本当にごくごく普通の呼吸器内科医なのです。

 英語論文は毎日1つ読んでいますが、「面白い話はないかなあ」とくだらない動機で論文を探しているだけで、別に1つの論文を奥深く読み込んでいるわけではないのです。そのため、私のような凡人でも毎日医学論文を読むことが可能であることをまず声を大にして言いたいと思います。


・「鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい」
 今回出版した書籍「呼吸器科の薬の考え方、使い方」という本では、「鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい」というとんでもない内容の医学論文をコラムとしてご紹介しました。


Ozturk AB, et al.
Does nasal hair (vibrissae) density affect the risk of developing asthma in patients with seasonal rhinitis?
Int Arch Allergy Immunol. 2011;156(1):75-80.

 これは私が喘息のリスクについて調べている過程で見つけた医学論文です。たとえばPubMedで結論だけ読んでみましょう。


CONCLUSION:
 Our findings suggest that the amount of nasal hair providing a nose filtration function has a protective effect on the risk of developing asthma in seasonal rhinitis patients.

(鼻腔のフィルターとしての機能を果たす鼻毛の密度は、季節性アレルギー性鼻炎の患者において気管支喘息のリスクに対して保護的にはたらく。)

 こんな結論の医学論文を見たら、この研究グループは一体どんな臨床試験を行ったんだ!?とあなたは気にならないでしょうか。私ならワクワクしてAbstractのMethodsとResultsを読んでしまうでしょう。

 ―――私が医学論文を読む動機というのは、こういうことなんです。

 興味がある内容のものをつまみ食いして読んでいけばいい。逆を言えば、興味のないものは読まなくてよいと思います。時間の無駄です。世の中には私のように医学論文を和訳してオンラインにアップロードしている奇特な人間もいるわけで、そういった情報を参考にすればいいのです。個人が医学論文を読む場合、興味のある論文だけ読んでいけばいいと思っています。


・継続するためには最新号だけを読む
 私は基本的に月初めに掲載される医学雑誌の最新の論文を読んでいます。これは少年ジャンプの最新号を読むのと同じです。ただ、『ONE PIECE』を毎週読んでいないと、おそらく最新号を読んでもストーリーがわからないでしょう。そのため、最新号の論文を読んでも「最近のトレンド」が分かっていないとその論文が何を言わんとしているか、つかめないことがしばしばあります。たとえば一昨年~去年はスタチンやビタミンDが呼吸器系にどういった影響をもたらすかといった研究がブームでした。そういったベースを知らなければ、なぜその論文が書かれたのかという背景がいまいちつかめないでしょう。

 毎回最新号を読んでいると、いずれわかります。何がトレンドで何がブームなのか。そのうち、「ああこれは1年前のあの試験を別の観点から検証したものだな」とわかってくるようになります。

 たとえが少年ジャンプばかりで申し訳ないのですが(別に好きというわけではありません)、『ONE PIECE』だけでなくその他のジャンプマンガも読んでいる人もいるでしょう。ものすごく読みたいワケじゃないけど、惰性で読んでいるマンガもあるはずです。それは、医学論文も同じです。私は肺高血圧症の論文はどちらかというと避けています。循環器の知識が必要ですし、6分間歩行距離が完全にプライマリアウトカムを支配している世界だからなんとなく気に入らないのです。でも、最新号を読むときは結論だけはチェックしています。それは少年ジャンプをパラパラと流し読みするのと似ています。

 指導医に「学会発表のためにしっかり調べておきなさい」と言われ、しぶしぶ昔の医学論文を検索して読むことがあると思いますが、これでは医学論文を読むことを継続できません。継続したいのであれば、最新号を読むべし。


・医学論文嫌いを治したい人は
 医学論文嫌いを克服したいと思っているものの、長年なおざりになっている人は、月初めに医学論文の最新号のAbstractの結論だけを読んでください。呼吸器内科医であれば、そうですね・・・European Respiratory Journal(ERJ)が読みやすいでしょう。American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(AJRCCM)やCHESTは難しい内容もあり、どちらかというととっつきにくいので、シンプルなERJの方が読みやすいでしょう。
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 「Current Issue」というところをクリックしてください。すると、ズラリと雑誌のラインナップが表示されます。「Editorials」というのが最初にあると思いますが、これは編集部の意見や補足であって厳密には医学論文ではないので無視して下さい。「Original articles」と書かれたところから下がこの号のメインの論文です。
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 画像は4月号のものを表示していますが、最初に私の琴線に触れたのは「meat consumption(牛肉消費)」という単語です。牛肉の消費と呼吸機能の関係って一体どういうこと!?と、たったこれだけで論文を読みたい衝動に駆られてしまうのが今の私なのです。


・おわりに
 「医学論文嫌いを治そう」とコラムに銘打っておいてナンですが、「マンガ嫌いを治そう」としても、面白くないと思ってる人にマンガを強制したところで好きになるはずがありません。医学論文の世界を知ってもなお嫌いであれば、それはもう治しようのない領域でしょうから。

 よしんば医学論文を好きになったとしても、娯楽雑誌として読むことに異論を持つ上級医の方々もいらっしゃると思います。ただ、医学論文離れは若手医師やベテラン医師を問わず深刻です。まずは指導医が楽しんで医学論文を読むスタンスを持つことで、若手医師もそれに追従してくるかもしれません。

 ―――それでもなお医学論文が嫌いな医師は、別に読む必要はないと思います。医学の勉強は、医学論文が全てではありませんから。


by otowelt | 2014-05-06 09:59 | レクチャー

医学論文嫌いを治そう その1

・はじめに
 若手医師、特に研修医にとって医学論文が恐怖そのものだと言う人は少なくありません。これは抄読会という魔の行事の順番が研修医に当てられるためです。上級医からは「医学論文を読め」と言わ続け、しぶしぶ読んでいくうちに医学論文が大嫌いになってしまった人は数知れず。今でも、数ページにわたる英語の羅列を目の当たりにすると、めまいが・・・なんて人もいるでしょう。


・医学雑誌は娯楽雑誌の1つである
 以前にもどこかのコラムで書いたと思いますが、医学論文を掲載している医学雑誌は娯楽雑誌です。マンガが好きな人が読む週刊少年ジャンプ、ファッションが好きな人が読むCanCamと基本的には同じです。
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 そう、医学を趣味とする人が読む、ただの雑誌であるはずなのです。そのため、決して強制されて読むものではないと私は考えています。

 研修医を抄読会に参加させることで医学論文の価値を教育するということは重要かもしれませんが、医学論文を読みたくないと思っている研修医を強制的に抄読会に参加させることは、医学論文を読む原動力の萌出を踏みにじることになりかねません。そのため、医学論文に興味のない研修医に対しては医学論文がいかに面白いかを教育する方がまだマシです。

 基礎研究に興味のない人間にいきなり電気泳動の実験を強制しても余計に基礎研究が嫌いになるだけです。


・他の娯楽雑誌との違い
 医学雑誌が他の娯楽雑誌と異なる点は、「頭を使う」という点に尽きると思います。まず英語で書かれているので、英語を理解できるだけのインテリジェンスが必要になります。そして、書かれている内容を理解するだけの最低限の医学的知識が必要になります。ファッション雑誌であるCanCamも最低限の日本語知識とファッション知識が必要になりますが、書かれている内容はあくまで読者を楽しませるためのアトラクティブな内容であり、医学雑誌のように医学的知見を淡々と掲載するものとは性質を異にします。私も、少年ジャンプとNew England Journal of Medicineの雑誌が2つ目の前に置いてあったら、迷わず少年ジャンプを手に取って、『ONE PIECE』を読み始めるでしょう。気楽に読めるという点ではやはりアトラクティブに構成した娯楽色の濃い雑誌の方がよいわけです。

 ただ、医学雑誌を読む人間というのは医学に興味があって医師を志した人間がほとんどですので、医学論文を娯楽雑誌たらしめるだけの素地はあるのです。

 ではどのように医学論文を娯楽雑誌のように感じることができるのでしょうか。次回お話してみたいと思います。


by otowelt | 2014-05-04 00:44 | レクチャー

衣類に付着したイソジンの色を消すには

e0156318_21122584.jpg イソジンが服につくとなかなかとれません。昔病棟にあったイソジンを買ったばかりの白衣にぶちまけてしまい、半泣きになったことがあります。アルコール綿でも水で洗ってもとれない!と水道でジャバジャバやっていると、どこからともなくやってきた優しいベテラン看護師さんが魔法の薬を白衣にかけてくれました。

 なんとその魔法の薬は、イソジンの色を見事に消し去ったのです。

 とまあ、おとぎ話調になってしまいましたが、医療従事者であればご存知の人も多いはず。実は、イソジンのあの色はハイポアルコール(チオ硫酸ナトリウム水和物)液で脱色することができます。布の素材によっては完全に脱色!とまではいかないこともありますが、ハイポアルコールくらいしか選択肢がないのが現状です。漂白剤でも取れることはありますね。

 そもそもヨウ素を水に溶かすためには、ヨウ化カリウムなどの溶解補助剤を加える必要があります。イソジンには赤褐色の三ヨウ化物イオンが含まれており、褐色の色がついています。

 理系の人であれば必ず勉強したことがあると思いますが、ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムという2つのキーワードで思い出すことがあるはずです。酸化還元滴定のヨウ素滴定で出てきましたね。ハイポアルコールは以下の化学反応により遊離ヨウ素を還元してヨウ素イオンにします。

Na2S2O3 + 4I2 + 5H2O → 2Na+ + 2H2SO4 + 6H+ + 8I-

 ちなみに医療従事者でない場合、ハイポアルコールは熱帯魚を打っている店やペットショップで手に入れることができるそうです。


by otowelt | 2013-12-14 00:33 | レクチャー

PubMedを適度に使う方法

e0156318_8501792.jpg●はじめに
 文献検索をする際、「パブメド(PubMed)」は最も使いやすい検索ツールの1つです。私も1日1回は必ずアクセスしています。PubMedは世界約70か国、5000誌の文献を検索することが可能な医学文献データベースとして有名です。1950年以降の文献が収載されており、MEDLINEと基本的には同じデータベースです。

 しかし、「PubMed」と聞けばアレルギーを起こす若手医師もいるでしょう。その理由は、「医学論文の文献検索が難しく感じるから」です。これは、若い頃に文献検索のノウハウをいきなりアドバンスな各論から教えられ、意味不明のまま研修医時代を過ごしてしまったからだと思います。私も研修医の頃、そんな難しいカスタマイズはいらないから、とりあえず最低限のことだけ教えて欲しいと思っていました。MeSHだかNASHだかよくわからない専門用語も出てきて、匙を投げてしまったこともあります。

 私は、ブログを書いているうちにPubMedを使うことができるようになりました。そう、実はPubMedって簡単なんです。蓋を開けてみても、全く難しくない。


●適度な使い方
 最低限のPubMedの使い方は、Googleと同じです。検索ワードをタイプして検索するだけです。たったそれだけです。繰り返しますが、PubMedはただの検索ツールです。もちろん自分仕様にカスタマイズしてもいいですが、ややこしいと思うならまずは検索ワードを打ち込んでどんどん検索することです。

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(PubMedの検索画面)

 さて「time machine」と打ち込んでみると、ズラっと論文が出てきます。「time machine」の前後に「“”」が入っていますが、これはtimeとmachineをつなげて検索するときに使う工夫です。Googleでもこのテクニックは使えます。たとえば、「タイムマシンの定義」と検索した場合と「“タイムマシンの定義”」とくくりを入れて検索したとしましょう。前者では「タイムマシン」「の」「定義」を全て分けて検索してしまうというデメリットがありますが、後者は「タイムマシンの定義」という単語のみを検索できます。

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(検索ヒット画面)

 PubMedで検索したとき、ヒット数に注目して下さい。40~60個くらいならその中から有用な論文くらい探せるでしょうが、この時点で1000や2000といった膨大な論文数がヒットしてしまえば、その検索ワードはちょっと大雑把すぎるということを意味します。1000も2000なんて、タイトルを読むだけで日が暮れてしまいます。そこで、新しい検索ワードをスペースの後に追加します。「"time machine" "neuron"」これで、2つの単語を満たす論文を検索できるようになりました。すると、先ほどのヒット件数が4件にまで絞れました。これを「手動絞り込み」と勝手に命名します。この手動絞り込みができるだけで、PubMedの90%は使いこなせてると言って過言ではありません(たぶん)。

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(手動絞り込み)

 検索したあと、「Free PMC Article」、「Free Article」と記載してある論文は無料で閲覧できます。当然ですが、有名ジャーナルは契約していないとそもそも全文読めないので、アブストラクトで我慢するしかありません。アブストラクトすらないものもあるので注意して下さい。

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(無料で閲覧できる論文)


●おわりに
 英語が苦手で、日本語じゃないとダメ!という人にはm3.comにあるPubMedβhttp://www.m3.com/pubmed/promotion.jsp)を使いましょう。その時「和訳付き」を選んでください。そうすると、自動翻訳の和訳がついてきます(予想より質の高い自動翻訳です)。

 Googleの検索方法と難易度的には同じくらいですし、難しくないでしょう。PubMedには他にも色々機能があるので、慣れたらカスタマイズを自分なりにしてみましょう。それはまた別の話です。



by otowelt | 2013-10-10 00:33 | レクチャー

イソニアジドによる神経障害

e0156318_18272741.jpg イソニアジドの有名な副作用と言えば神経障害ですが、「ピリドキシンを飲ませておけばいい」程度の知識として扱われていることも多く、まとまった記事も多くありません。イソニアジドによる神経障害について現在わかっている知見をまとめて、個人的にレビューしてみました。


・はじめに
 イソニコチン酸ヒドラジド、通称イソニアジドはリファンピシンとともに結核治療のキードラッグの1つです。ご存知の通り、世界的に広く使用されている抗結核薬です。神経障害が起こるリスクを考慮し、多くの結核治療医はその予防にビタミンB6の補充をおこなっています。しかしながら、イソニアジドの神経障害に関するエビデンスはあまり多くありません。
 最もまとまったレビューは、以下の論文だと思います。
van der Watt JJ, et al. Polyneuropathy, anti-tuberculosis treatment and the role of pyridoxine in the HIV/AIDS era: a systematic review. Int J Tuberc Lung Dis. 2011 Jun;15(6):722-8.


・イソニアジドによる神経障害の機序
 イソニアジドがピリドキシンと結合することで、尿中にピリドキシンが過剰に排泄量されます。
Preziosi P. Isoniazid: metabolic aspects and toxicological correlates. Curr Drug Metab 2007; 8: 839–851.
 またイソニアジドは、ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害します。ピリドキシンは大脳における神経伝達物質であるGABAの生成、またシナプスの刺激伝達に重要な、各種アミンの生成にも不可欠であるため、ビタミンB6の阻害により、末梢神経障害、運動失調、高次脳機能障害などが起こることがあります。これがイソニアジドによる神経障害です。
 病理学的にワーラー変性による軸索変性が起こっているものと考えられています。
Oestreicher R, et al. Peripheral neuritisin tuberculous patients treated with isoniazid. Am Rev Tuberc1954; 70: 504–508.


・イソニアジドによる神経障害の疫学
 イソニアジドによる神経障害はリスクファクターがない限りはまず起こり得ないとされています。イソニアジドにおける神経障害は用量依存性であり、MMWRによれば頻度は0.2%以下と極めてまれなものとされています。
・American Thoracic Society; CDC; Infectious Diseases Society of America. Treatment of tuberculosis. MMWR Recomm Rep. 2003 Jun 20;52(RR-11):1-77.
・Combs DL, et al. USPHS Tuberculosis Short-Course Chemotherapy Trial 21: effectiveness, toxicity and acceptability. Report of the final results. Ann Intern Med 1990;112:397–406.
・Hong Kong Chest Service, Tuberculosis Research Centre MBMRC.A double-blind placebo-controlled clinical trial of three antituberculosis chemoprophylaxis regimens in patients with silicosis in HongKong. Am Rev Respir Dis 1992;145:36–41.
・Ormerod LP, et al. Frequency and type of reactions to antituberculosis drugs: observations in routine treatment. Tuber Lung Dis1996;77:37–42.

 論文によっては神経障害の頻度をもっと多く報告しているものもありますが、イソニアジドによる神経障害を論じた報告のほとんどがHIV共感染のあるものです。実は、HIV共感染がある場合には神経障害は4倍にものぼるとされています。そのため、実際私たちが出合うイソニアジドによる神経障害というものの頻度はあまり詳しくわかっていません。
 MMWRの0.2%という記載は少し過少に見積もっている可能性も否定できません。たとえばThoraxの報告ではHIV共感染のない患者156人のうち2%に末梢神経障害がみられたと報告されていますし、ロンドン大学の報告でも1.9%という報告があります。ただし、これはレトロスペクティブ試験であるため信頼性に乏しいとする意見もあります。私はまだ5年あまりしか結核診療に携わっていませんが、イソニアジドによる神経障害には一度も出合ったことがなく(運がいいだけでしょうか?)、2%は多いのではないかとも感じています。
・Breen RA, et al. Adverse events and treatment interruption in tuberculosis patients with and without HIV co-infection. Thorax. 2006 Sep;61(9):791-4.
・Marks DJ, et al. Adverse events to antituberculosis therapy: influence of HIV and antiretroviral drugs. Int J STD AIDS 2009; 20: 339–345.
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イソニアジドは肝臓でアセチル化を経て代謝されます。アセチル化にかかわる酵素には2つの形質があり、民族によって大きな違いがあります。したがって、半減期は二峰性の確率分布をとります。神経障害やイソニアジドの効果もこの代謝によって差があるため、神経障害の頻度は民族差を考慮しなければならないかもしれません。そうなると神経障害の頻度を述べるには潜在的な交絡因子が多すぎるのかもしれません。
Krishnamurthy DV, et al. Effect of pyridoxine on vitamin B6 concentrations and glutamicoxaloacetic transaminase activity in whole blood of tuberculous patients receiving high-dosage isoniazid. Bull World Health Organ 1967; 36: 853–870.
 神経障害が起こる時期は、通常のイソニアジド内服量であれば16週程度かかるとされています。よほど過量のイソニアジドを内服したとしても、1か月くらいはかかるそうです。そのため、内服し始めて数日で「しびれる」と訴えるのはイソニアジドとはあまり関連性のないものだと考えられます。
Biehl JP, et al. Effect of isoniazid on vitamin B6 metabolism;its possible signifi cance in producing isoniazid neuritis. Proc Soc Exp Biol Med 1954; 85: 389–392.


・イソニアジドによる神経障害の予防
 イソニアジドによる神経障害を予防する上で、リスクのある患者においてはピリドキシンの予防投与が推奨されています。特に、高齢者、栄養失調、慢性肝疾患 妊娠中や授乳中の女性、アルコール嗜飲者、小児、糖尿病、HIV患者、腎不全の患者では予防投与が強く推奨されています。
Snider DE Jr. Pyridoxine supplementation during isoniazid therapy. Tubercle. 1980 Dec;61(4):191-6.

 ピリドキシンの予防投与量は国やそのガイドラインによって異なります。
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▲ガイドライン別のピリドキシンの1日あたりの予防投与量(mg)
・World Health Organization. Treatment of tuberculosis: guidelines for national programmes. 3rd ed. Geneva, Switzerland:WHO, 2003.
・Centers for Disease Control and Prevention. Guidelines forprevention and treatment of opportunistic infections in HIV infected adults and adolescents. Atlanta, GA, USA: CDC, 2009.
・Chan ED, et al. Current medical treatment for tuberculosis. BMJ 2002; 325: 1282–1286.
・Chemotherapy and management of tuberculosis in the United Kingdom: recommendations 1998. Joint Tuberculosis Committeeof the British Thoracic Society. Thorax 1998; 53: 536–548.
・Nisar M, et al. Exacerbation of isoniazid induced peripheral neuropathy by pyridoxine.Thorax 1990; 45: 419–420.
・Fennerty T. Pulmonary embolism. Hospitals should developtheir own strategies for diagnosis and management. BMJ 1998;317: 91–92.
・South African Department of Health. South African national guidelines on nutrition for people living with TB, HIV/AIDSand other chronic debilitating conditions. Pretoria, South Africa:Department of Health, 2001.
・Gibbon CJ, et al. South African medicines formulary.8th ed. Cape Town, South Africa: Health and Medical Publishing Group of the South African Medical Association, 2008.
・South African Department of Health. Standardised managementof multidrug-resistant tuberculosis in South Africa. Pretoria, South Africa: Department of Health, 2004.

 特に合併症のない正常な人であれば、食事の中に十分ビタミンが入っていますので、薬剤としての補充の必要性は乏しいかもしれません。
Steichen O, et al. Isoniazid inducedneuropathy: consider prevention. Rev Mal Respir 2006;23: 157–160.
 ピリドキシンの存在によってイソニアジドの腸管の吸収がやや低下するとされていますが、臨床的に問題になるほどの吸収阻害はないのではないかという意見もあります。予防投与量程度であればそれほど気にする必要はないと思います。
Zhou Y, et al. Effects of pyridoxine on the intestinal absorption and pharmacokinetics of isoniazid in rats. Eur J Drug Metab Pharmacokinet. 2013 Mar;38(1):5-13.


・おわりに
 個人的にはリスクのある患者さん(高齢者、糖尿病、HIV共感染など)に対してはビタミンB6の補充をおこなっていますが、元気な20歳くらいの結核患者さんでモリモリご飯を食べているような場合には補充をしていません。しかしサイクロセリンを投与している多剤耐性結核の患者さんに限っては、全例ピリドキシンを補充しています。


by otowelt | 2013-07-01 00:56 | レクチャー