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イソニアジドによる神経障害

e0156318_18272741.jpg イソニアジドの有名な副作用と言えば神経障害ですが、「ピリドキシンを飲ませておけばいい」程度の知識として扱われていることも多く、まとまった記事も多くありません。イソニアジドによる神経障害について現在わかっている知見をまとめて、個人的にレビューしてみました。


・はじめに
 イソニコチン酸ヒドラジド、通称イソニアジドはリファンピシンとともに結核治療のキードラッグの1つです。ご存知の通り、世界的に広く使用されている抗結核薬です。神経障害が起こるリスクを考慮し、多くの結核治療医はその予防にビタミンB6の補充をおこなっています。しかしながら、イソニアジドの神経障害に関するエビデンスはあまり多くありません。
 最もまとまったレビューは、以下の論文だと思います。
van der Watt JJ, et al. Polyneuropathy, anti-tuberculosis treatment and the role of pyridoxine in the HIV/AIDS era: a systematic review. Int J Tuberc Lung Dis. 2011 Jun;15(6):722-8.


・イソニアジドによる神経障害の機序
 イソニアジドがピリドキシンと結合することで、尿中にピリドキシンが過剰に排泄量されます。
Preziosi P. Isoniazid: metabolic aspects and toxicological correlates. Curr Drug Metab 2007; 8: 839–851.
 またイソニアジドは、ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害します。ピリドキシンは大脳における神経伝達物質であるGABAの生成、またシナプスの刺激伝達に重要な、各種アミンの生成にも不可欠であるため、ビタミンB6の阻害により、末梢神経障害、運動失調、高次脳機能障害などが起こることがあります。これがイソニアジドによる神経障害です。
 病理学的にワーラー変性による軸索変性が起こっているものと考えられています。
Oestreicher R, et al. Peripheral neuritisin tuberculous patients treated with isoniazid. Am Rev Tuberc1954; 70: 504–508.


・イソニアジドによる神経障害の疫学
 イソニアジドによる神経障害はリスクファクターがない限りはまず起こり得ないとされています。イソニアジドにおける神経障害は用量依存性であり、MMWRによれば頻度は0.2%以下と極めてまれなものとされています。
・American Thoracic Society; CDC; Infectious Diseases Society of America. Treatment of tuberculosis. MMWR Recomm Rep. 2003 Jun 20;52(RR-11):1-77.
・Combs DL, et al. USPHS Tuberculosis Short-Course Chemotherapy Trial 21: effectiveness, toxicity and acceptability. Report of the final results. Ann Intern Med 1990;112:397–406.
・Hong Kong Chest Service, Tuberculosis Research Centre MBMRC.A double-blind placebo-controlled clinical trial of three antituberculosis chemoprophylaxis regimens in patients with silicosis in HongKong. Am Rev Respir Dis 1992;145:36–41.
・Ormerod LP, et al. Frequency and type of reactions to antituberculosis drugs: observations in routine treatment. Tuber Lung Dis1996;77:37–42.

 論文によっては神経障害の頻度をもっと多く報告しているものもありますが、イソニアジドによる神経障害を論じた報告のほとんどがHIV共感染のあるものです。実は、HIV共感染がある場合には神経障害は4倍にものぼるとされています。そのため、実際私たちが出合うイソニアジドによる神経障害というものの頻度はあまり詳しくわかっていません。
 MMWRの0.2%という記載は少し過少に見積もっている可能性も否定できません。たとえばThoraxの報告ではHIV共感染のない患者156人のうち2%に末梢神経障害がみられたと報告されていますし、ロンドン大学の報告でも1.9%という報告があります。ただし、これはレトロスペクティブ試験であるため信頼性に乏しいとする意見もあります。私はまだ5年あまりしか結核診療に携わっていませんが、イソニアジドによる神経障害には一度も出合ったことがなく(運がいいだけでしょうか?)、2%は多いのではないかとも感じています。
・Breen RA, et al. Adverse events and treatment interruption in tuberculosis patients with and without HIV co-infection. Thorax. 2006 Sep;61(9):791-4.
・Marks DJ, et al. Adverse events to antituberculosis therapy: influence of HIV and antiretroviral drugs. Int J STD AIDS 2009; 20: 339–345.
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イソニアジドは肝臓でアセチル化を経て代謝されます。アセチル化にかかわる酵素には2つの形質があり、民族によって大きな違いがあります。したがって、半減期は二峰性の確率分布をとります。神経障害やイソニアジドの効果もこの代謝によって差があるため、神経障害の頻度は民族差を考慮しなければならないかもしれません。そうなると神経障害の頻度を述べるには潜在的な交絡因子が多すぎるのかもしれません。
Krishnamurthy DV, et al. Effect of pyridoxine on vitamin B6 concentrations and glutamicoxaloacetic transaminase activity in whole blood of tuberculous patients receiving high-dosage isoniazid. Bull World Health Organ 1967; 36: 853–870.
 神経障害が起こる時期は、通常のイソニアジド内服量であれば16週程度かかるとされています。よほど過量のイソニアジドを内服したとしても、1か月くらいはかかるそうです。そのため、内服し始めて数日で「しびれる」と訴えるのはイソニアジドとはあまり関連性のないものだと考えられます。
Biehl JP, et al. Effect of isoniazid on vitamin B6 metabolism;its possible signifi cance in producing isoniazid neuritis. Proc Soc Exp Biol Med 1954; 85: 389–392.


・イソニアジドによる神経障害の予防
 イソニアジドによる神経障害を予防する上で、リスクのある患者においてはピリドキシンの予防投与が推奨されています。特に、高齢者、栄養失調、慢性肝疾患 妊娠中や授乳中の女性、アルコール嗜飲者、小児、糖尿病、HIV患者、腎不全の患者では予防投与が強く推奨されています。
Snider DE Jr. Pyridoxine supplementation during isoniazid therapy. Tubercle. 1980 Dec;61(4):191-6.

 ピリドキシンの予防投与量は国やそのガイドラインによって異なります。
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▲ガイドライン別のピリドキシンの1日あたりの予防投与量(mg)
・World Health Organization. Treatment of tuberculosis: guidelines for national programmes. 3rd ed. Geneva, Switzerland:WHO, 2003.
・Centers for Disease Control and Prevention. Guidelines forprevention and treatment of opportunistic infections in HIV infected adults and adolescents. Atlanta, GA, USA: CDC, 2009.
・Chan ED, et al. Current medical treatment for tuberculosis. BMJ 2002; 325: 1282–1286.
・Chemotherapy and management of tuberculosis in the United Kingdom: recommendations 1998. Joint Tuberculosis Committeeof the British Thoracic Society. Thorax 1998; 53: 536–548.
・Nisar M, et al. Exacerbation of isoniazid induced peripheral neuropathy by pyridoxine.Thorax 1990; 45: 419–420.
・Fennerty T. Pulmonary embolism. Hospitals should developtheir own strategies for diagnosis and management. BMJ 1998;317: 91–92.
・South African Department of Health. South African national guidelines on nutrition for people living with TB, HIV/AIDSand other chronic debilitating conditions. Pretoria, South Africa:Department of Health, 2001.
・Gibbon CJ, et al. South African medicines formulary.8th ed. Cape Town, South Africa: Health and Medical Publishing Group of the South African Medical Association, 2008.
・South African Department of Health. Standardised managementof multidrug-resistant tuberculosis in South Africa. Pretoria, South Africa: Department of Health, 2004.

 特に合併症のない正常な人であれば、食事の中に十分ビタミンが入っていますので、薬剤としての補充の必要性は乏しいかもしれません。
Steichen O, et al. Isoniazid inducedneuropathy: consider prevention. Rev Mal Respir 2006;23: 157–160.
 ピリドキシンの存在によってイソニアジドの腸管の吸収がやや低下するとされていますが、臨床的に問題になるほどの吸収阻害はないのではないかという意見もあります。予防投与量程度であればそれほど気にする必要はないと思います。
Zhou Y, et al. Effects of pyridoxine on the intestinal absorption and pharmacokinetics of isoniazid in rats. Eur J Drug Metab Pharmacokinet. 2013 Mar;38(1):5-13.


・おわりに
 個人的にはリスクのある患者さん(高齢者、糖尿病、HIV共感染など)に対してはビタミンB6の補充をおこなっていますが、元気な20歳くらいの結核患者さんでモリモリご飯を食べているような場合には補充をしていません。しかしサイクロセリンを投与している多剤耐性結核の患者さんに限っては、全例ピリドキシンを補充しています。


by otowelt | 2013-07-01 00:56 | レクチャー

医学論文の著者の順番

e0156318_8501792.jpg●はじめに
 症例報告であろうと原著論文であろうと、医師は”論文”を執筆する機会があると思います。筆頭著者(ファーストオーサー)には、共著者の順番を一体どうすればいいのかと悩んだことがある人が多いでしょう。


●共著者の順番
 物理の世界、特に素粒子系の論文では共著者数が1000人を超えることもあるため、共著者はアルファベット順に並べられるのが一般的です。驚くべきことに、2500人以上の著者が存在する論文もあるようです。
The ALEPH Collaboration, the DELPHI Collaboration, the L3 Collaboration, the OPAL Collaboration, the SLD Collaboration, the LEP Electroweak Working Group, the SLD electroweak, heavy flavour groups. Precision Electroweak Measurements on the Z Resonance. Phys.Rept.427:257-454,2006

 このような極端な例はさておき、一般的な医学論文の著者は、有名ジャーナルの場合20~30人くらいになることもありますが普通は5~10人程度です。
 投稿する医学論文や投稿コーナーによって著者の上限が決まっています。たとえば、8人を著者にしたいと考えていても、5人までという規定がある場合には残りの3人は原則的に著者に入ることができません(カバーレターに「3人を入れてください」とお願いすることで許可されることはありますが)。そのため、やむなく著者に入ることができなかった人たちはAcknowledgementの部分で”謝辞”として登場することが多いです。この謝辞に入った人は、論文情報としてはその名前は正式には登録されません。正式に登録というとなんだかおかしな言い回しの気がしますが、論文情報として登録される名前はあくまで著者のみなのです。
 論文の著者が5人だった場合を想定してみましょう。たとえば「机の引き出しにおけるタイムマシンの安全性」という論文を書いた5人の著者がいた場合、筆頭著者である野比のび太は、その研究に取り組み論文を書いた人間です。当然ながら彼が一番この論文に貢献した人間なので、一番目に登場するわけです。ここで悩ましいところは、第二著者であるドラえもん以降の扱いだと思います。
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 最近の欧米の医学論文に目を向けると、共著者は研究の貢献順に並べられていることが多いようです。そのため、論文を書いたのび太の次に貢献度が高いのは、タイムマシンを家の引き出しに設置したドラえもんということになります。しかし日本の場合は、教授やリーダーが論文の共著者の最後に存在する傾向が強く、のび太~剛田武(ジャイアン)の5人の中では、のび太の次にラストオーサーであるジャイアンの貢献度が高いという意味をなすことが多いのです。
 国ごとに著者順のルールが違う理由の1つとして、たとえば日本では旧帝大による研究業績評価法の歴史があります。この評価方法は、筆頭著者とラストオーサーに高い評価が与えられる仕組みになっています。この方式での評価が過去におこなわれていた歴史があり(現在も使用している大学はありますが)、ラストオーサーの立ち位置が非常に高いものになったのだろうと思います。そのため、現在の日本では、その研究におけるラストオーサー(ジャイアン)が一番ポストの高い人間と位置付ける暗黙の決まりがあります。
 国によってこのルールが異なるため、雑誌によってはAuthor's Contributionという、”誰が何にどう貢献したのか”という細かい記載を求めることもあります。有名雑誌ほどAuthor's Contributionを求める傾向にあります。


●Corresponding author
 ところで、医学雑誌に論文を投稿する際、匿名化した査読(peer review)を受けることになります。その際、corresponding author(連絡著者)を決めなければなりません。これは、研究に対して医学雑誌社とのやりとりを行う代表者であり、その論文について最も理解している人が果たす役割です。
 欧米の場合だと、筆頭著者であるのび太や貢献度が高いドラえもんがcorresponding authorになることが多いのですが、日本の場合だとのび太やリーダーのジャイアンがcorresponding authorを兼任します。しかし、スネ夫とジャイアン、あるいはドラえもんとジャイアンの貢献度に優劣をつけがたいとき、一方をラストオーサーに他方をcorresponding authorに指定することもあります。これは、後述するギフトオーサーシップではないかとの厳しい意見も一部ではあるようです。


●最初の3人
 文献が他雑誌で引用されるときに”最初の3人のみを記載し、その後に「et al.」をつけること”という決まりがある場合があります。3人目のしずかちゃんはデータ解析をしただけなのに、最も上司であるジャイアンの名前が掲載されないというのは、ジャイアンからしてみればあまり気持ちのいいものではない可能性もあります。ラストオーサーかつcorresponding authorであるにもかかわらず、海外では貢献度の高い共著者とは認識されないおそれがあります。
 そのため日本の暗黙のルールに従った場合、最も上司にあたるラストオーサーが最初の3人に入らないために掲載されないという不具合を生じることがあります。もちろんそんなことは別にたいしたことじゃないとおっしゃる方も多いと思いますが、重要なボスの名前が引用されないことがいささか問題になるケースもあるようです。

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 海外の場合だとcorresponding authorかつ最も貢献度が高い上司が2番目に来ることが多いので、こういった不都合はあまり見受けられません。


●オーサーシップのモラル違反
 共著者は、論文の内容についての共同責任を負います。論文の捏造などの不正行為はともかくとして、共著者全員が論文の内容全てに責任を負うのというのが国際的なルールになっています。そのため、貢献度が高くないのにもかかわらず、仕事上での義理や利害関係があるオーサーシップ(ギフトオーサーシップ)はモラル違反とされています。極端なギフトオーサーシップだと、ロシアの有機元素化合物研究所のユーリ・ストルチコフが10年間で948本の論文の共著者になっており、同施設を利用する見返りとして施設職員を共著者に入れるのが常習化していたことによるものでした。
 オーサーシップを扱った論文のシステマティックレビューでは、29%にオーサーシップの非適正使用が報告されています。
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Marusić A, et al. A systematic review of research on the meaning, ethics and practices of authorship across scholarly disciplines. PLoS One. 2011;6(9):e23477. doi: 10.1371/journal.pone.0023477.


●まとめ
 以上をまとめると、5人の位置づけとしては日本の場合だと以下のケースが最も多いパターンだと考えられます。

筆頭著者(ファーストオーサー):草稿を書いた人、一番貢献度が高い人
第二著者:筆頭著者を補佐してくれた直属の上司あるいは部下、二番目に貢献度が高い人、corresponding authorになることがある
第三著者:第二著者の次に貢献度が高い人
第四著者:第三著者の次に貢献度が高い人、二番目に立場の高い人、corresponding authorになることがある
ラストーオーサー:最も立場の高い人、corresponding authorになることが多い


 海外の流れに合わせるのであれば、日本の著者順も貢献度に応じて記載すべきではないかと思います。あるいは数学論文のようにアルファベット順に記述していくスタイルでもいいのかなあとも思います。いずれにしても、国内だけでなく医局内でも暗黙のルールのようなものが存在することがあるので、少し上の先輩にまず相談するのが無難だろうと思います。


※登場する医学雑誌名、論文タイトル、著者名はすべて架空のものです。



by otowelt | 2013-03-22 12:09 | レクチャー

胸部CTにおける蜂巣肺の定義

・はじめに
 胸部CT、特に高分解能CT(HRCT)でUIP(usual interstitial pneumonia)を示唆する線維化の終末像を蜂巣肺・蜂窩肺(honeycomb lung・honeycombing)といいます。蜂巣肺はUIPに特徴的とされており、感度90%・特異度86%との報告があります。しかし、サルコイドーシスや慢性過敏性肺炎など慢性間質性肺疾患でもhoneycomb lungは観察されます。
Flaherty KR, et al. Clinical significance of histological classification of idiopathic interstitial pneumonia. Eur Respir J. 2002 Feb;19(2):275-83.
 しかしながら、胸部CT写真を目の前にして呼吸器科医や放射線科医の間でも「これは蜂巣肺だ」「いやこれは蜂巣肺でない」と意見がわかれることが多々あります。病理学的な蜂巣肺と放射線学的蜂巣肺がしばしば混用されていることもありますが、呼吸器科医がよく使用する蜂巣肺という言葉は主に後者であるため、本項では後者を主体に記載させていただきます(病理学的に観察される蜂巣肺は胸部CT上ではスリガラス影をきたすこともよくあります)。

 放射線学的な蜂巣肺の定義とは、現在どのように認識されているのでしょうか。

・蜂巣肺の定義の歴史
 英語の文献をさかのぼると、1949年OswaldとParkinsonによってhoneycomb lungという言葉が造られました。これは肺切片の肉眼的所見を記述したものであり、最大1cmのサイズまでの大小様々な薄壁嚢胞がみられるものと記載されました。そのため、当時は現在のように肺の線維化の終末像だけでなく、リンパ脈管筋腫症や気管支拡張症などによる病変もhoneycomb lungに含まれました。
Oswald N, et al. Honeycomb lungs. Q J Med. 1949 Jan;18(69):1-20.
 放射線学的な用語としては、1968年に“胸部レントゲンで2~10mmの多発性の透過性亢進が観察されること”と記述されました。CT検査がなかった時代にすでに認識されていた用語であることに驚きます。
Johnson TH Jr. Radiology and honeycomb lung disease. Am J Roentgenol Radium Ther Nucl Med. 1968 Dec;104(4):810-21.
 1970年代には有名な放射線科医であるFelsonにより、その疾患多様性から慢性間質性の肺線維症を主体に組み込むべきで、気管支拡張症や気腫性疾患は除外すべきと述べられました。この頃から、honeycomb lungという言葉は間質性肺疾患の終末像としての線維化を表す言葉へ変遷を始めます。そして科学の発展によってHRCTが登場してから、肺の構造が肺の肉眼的所見に迫ることができるくらいにCTで詳しく観察できるようになりました。1984年にFleischner Societyは、honeycombingについて以下のように言及しました。すなわち“径5~10mmの密集した嚢胞状の気腔で、壁の厚さは2~3mmであり、これは肺の終末像を示唆するものである”と。
Tuddenham WJ. Glossary of terms for thoracic radiology: recommendations of the Nomenclature Committee of the Fleischner Society. AJR Am J Roentgenol. 1984 Sep;143(3):509-17.
 Fleischner Societyはさらに1996年、honeycombingについて以下のように再度発表しました。“径3~10mmの密集した嚢胞状の気腔(時に2.5cmの大きさの嚢胞になりうる)で、明瞭な厚い壁で囲まれる。これは、びまん性肺線維症の胸部CT所見の特徴である。”
Austin JH, et al. Glossary of terms for CT of the lungs: recommendations of the Nomenclature Committee of the Fleischner Society. Radiology. 1996 Aug;200(2):327-31.
 そして最も新しいFleischner Societyの定義では、“径3~10mmの密集した嚢胞状の気腔(時に2.5cmの大きさの嚢胞になりうる)で、通常胸膜直下に厚さ1~3㎜の明瞭な壁が観察されるもの”と記載されています。この定義では、以前言及されていなかった壁の厚さについて記載されています。また、この論文で重要な記載があります。それは、honeycombingと記載することで、イコール肺の線維化の終末像を示唆することになってしまうため、定義に引きずられて患者さんの治療方針やケアが変わってしまう可能性があるので、この言葉を用いる際には慎重を期するということです。
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▲典型的蜂巣肺
Hansell DM, et al. Fleischner Society: glossary of terms for thoracic imaging. Radiology. 2008 Mar;246(3):697-722. より引用
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▲▲典型的蜂巣肺(自験例)

 2011年のアメリカ胸部疾患学会・ヨーロッパ呼吸器学会・日本呼吸器学会・ラテンアメリカ胸部学会の合同ステートメントでもこの2008年のFleischner Societyの定義が採用されており、国際的にコンセンサスがあるhoneycombingの定義は2013年1月の現時点ではこの定義になります。
Raghu G, et al. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):788-824.
 しかし、論文の著者によってhoneycombingの径や壁の厚さが様々なので注意が必要です。ただ共通のコンセンサスとしてhoneycombingは、個々が壁を互いに共有するという点が挙げられます。主に呼吸細気管支と肺胞道が周囲組織の線維化により牽引され拡張したものであり、単に嚢胞性気腔や嚢胞と呼ばれる薄い壁に境界された空間とは区別されるべきです。そのため、牽引性気管支拡張症はhoneycombingとは呼びません。
Webb WR, et al. Standardized terms for high-resolution computed tomography of the lung: a proposed glossary. J Thorac Imaging. 1993 Summer;8(3):167-75.
 また、牽引性でなくとも気管支拡張症自体が物理的に個々に近接するとhoneycomb lungのようにみえることもありますので注意が必要です。
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▲右下葉気管支拡張症
Arakawa H, et al. Honeycomb lung: history and current concepts. AJR Am J Roentgenol. 2011 Apr;196(4):773-82.より引用

 日本では、嚢胞の大きさがそろっていることや、胸膜直下に二層(複数列)以上並ぶことも重視する立場があります。ただしかしながら、HRCTの性能によって見えるhoneycombingの大きさはまちまちであり、またその切片の薄さによっては大小不同になることは容易に想像できます。また、線維化が進行すると大小不同のhoneycombingを呈することは呼吸器科医の多くが経験していることでしょう。またスライス厚によってもその評価には差が出ます。たとえば0.5㎜スライスと2.5㎜スライスを比較すると、画像上同定できるhoneycombingには幾分か差異が見受けられます。
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Nishimoto Y, et al. Detectability of various sizes of honeycombing cysts in an inflated and fixed lung specimen: the effect of CT section thickness. Korean J Radiol. 2005 Jan-Mar;6(1):17-21. より改変引用

・定義上、蜂巣肺とオーバーラップする症例
 いくら定義を決めても、放射線科医の間でもhoneycombingかどうか一致しないという結果が報告されています。これは、教科書的なhoneycomb lungが日常臨床でそれほど多くないこと、喫煙歴や肺の合併症を有しているとその所見が修飾されてしまうことが大きな要因であろうと考えられます。
Watadani T, et al. Interobserver Variability in the CT Assessment of Honeycombing in the Lungs. Radiology. 2012 Dec 6. [Epub ahead of print]
 たとえば気腫性病変を有している患者さんの下葉に網状影が増加してきた場合、間質性肺炎の初期であってもhoneycomnb lungのように見えることがあります。また、重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)に感染を併発するとコンソリデーションがhoneycombingのように観察されることはよく経験します。他にも、HIVに合併したニューモシスティス肺炎や、胸膜直下に病変が多いLangerhans細胞組織球症など、呼吸器科医を長くやっていると日常臨床でhoneycomb lungによく似たCT像によく遭遇します。
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▲10年来在宅酸素療法を続けていた重度のCOPDに肺炎球菌性肺炎を合併した症例(自験例)。combined pulmonary fibrosis and emphysema(CPFE)と認識できる像もあるが、今までの臨床経過から気腫性変化が主体と考えられた。
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▲HIVを合併したニューモシスティス肺炎の症例(自験例)。胸膜直下に複数列の壁のやや厚い嚢胞性病変が観察されるが、嚢胞のサイズが極めて不均一で大きい。

・まとめ
 現時点で世界的にコンセンサスのある蜂巣肺の定義は2008年のFleischner Societyによるもので、「径3~10mmの密集した嚢胞状の気腔(時に2.5cmの大きさの嚢胞になりうる)で、通常胸膜直下に厚さ1~3㎜の明瞭な壁が観察されるもの」です。
 honeycombingは、UIP パターンとpossible UIP パターンの鑑別のための重要な所見で、外科的肺生検の適応を決定する上でも重要です。どの程度の胸部CTの特徴をもってhoneycombingと定義するかは、特に臨床試験に登録するような患者さんの場合には臨床上きわめて重要であることには違いありません。ただ、実臨床において患者さんの画像を目の前にして「これは蜂巣肺か否か」という議論を行うことは実はあまり大きな意味を持たないように思います。蜂巣肺の存在が、ある疾患に極めて特異的であり患者アウトカムや治療方針に劇的な変遷をもたらすものであれば、その議論には多大な意味を孕みます。しかしながら、最も臨床試験が進んでいる特発性肺線維症ですらまだ劇的にアウトカムを変える治療薬が登場していない現在では、その定義に関する議論を細やかに詰めることにこだわる必要はないと私は考えます。もう少し治療分野が発展してから詳細に議論されるべき分野ではないかとも感じます。
 もっとも重要なのは、目の前の患者さんのHRCT所見が蜂巣肺か否かという議論ではなく、その患者さんの線維化が進んでいる原因を何だと考えており、どういった治療方針を主治医が想定しているかという点だろうと思います。

※無断転載・公開はご遠慮いただきますようお願いします
    文責:近畿中央胸部疾患センター  倉原 優 



by otowelt | 2012-12-21 12:07 | レクチャー

石綿に関わる法律やその申請について

※2012年11月13日改訂しました。

 呼吸器科医をしていますと、石綿肺疑いの患者さんが来られることがあると思いますので、呼吸器科医としてある程度は理解しておくことが必要だと思います。おおまかな流れは以下の3点のみです。

①石綿手帳の交付
②労災の申請
③石綿健康被害救済制度の申請

・石綿に関連する健康管理手帳(労働安全衛生法)
 まず、呼吸器科医が出会う石綿肺の患者さんの多くは健康管理手帳を持っている患者さんだと思います。特に指定医療機関の場合には健康診断を多く診ることになるでしょう。石綿の健康管理手帳は、転職または退職して現在石綿に係る業務から離れている方が対象になります。
 事業者は、石綿等を製造し、または取り扱う業務に常時従事する労働者、または常時従事していた労働者であって、現に使用しているものについては、事業者が6か月以内ごとに1回、定期に石綿健康診断を実施する必要があります(労働安全衛生法第66条第2項)。また過去に石綿等を製造し、または取り扱う業務に従事し、健康診断で一定の所見(胸部レントゲン上の異常)がある場合や当該業務に一定の従事期間がある場合は、離職の際に、事業場所在地(離職後は申請者住所地)の都道府県労働局に石綿に係る健康管理手帳(石綿健康管理手帳)の交付の申請をすることにより、石綿健康管理手帳が交付されます(労働安全衛生法第67条)。石綿健康管理手帳が交付された場合、無料で6か月ごとに1回、定期健康診断を受けることができます。
 石綿健康管理手帳は、事業場が倒産等によって現在存在していなくても、申請することが可能です。
 ちなみに、じん肺の健康管理手帳の場合、6ヶ月ではなく1年ごとに1回の定期健康診断となります。
 必要な書類は以下の通りです。
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※粉じん業務の場合は、(3)の書類は必要なく、(1)及び(2)の書類に加えて、じん肺管理区分決定通知書(管理2または管理3)の写し
※石綿業務の胸部所見の要件による申請の場合は、(1)(2)および(3)の書類に加えて、次の1または2のどちらかが必要です。
 1.胸部エックス線直接撮影または特殊なエックス線撮影による写真及び不整形陰影または胸膜肥厚の陰影がある旨の記述等のある医師による診断書(同様の記載のある石綿健康診断個人票またはじん肺健康診断結果証明書の写しでも可)
 2.じん肺管理区分が管理2以上のじん肺管理区分決定通知書の写しおよび当該決定の際に都道府県労働局長に提出されたじん肺健康診断結果証明書の写し


申請用紙は、各地の労働基準監督署で入手できますが、申請先は地方労働局です。地方労働局の安全衛生課(安全課と労働衛生課に分かれている局においては労働衛生課)が事務を担当しています。

・労働災害(労働者災害補償保険法)
 労働災害(労災)によって療養補修給付が認定されれば、医療費が無料になります。そのため、健康管理手帳は実質的に無意味になりますので、注意が必要です。 健康管理手帳交付と労災申請のいずれを行うべきかは医療従事者が判断しなければならないこともあります。患者さん本人や医療事務の仕事だと割り切ってしまわれる呼吸器科医の先生も多いと思いますが、これは患者さんの健康被害に対する正当な制度で、医学的にも難しい内容ですので主治医が積極的に協力する必要があります。
 まず、じん肺の管理区分は、管理1、管理2、管理3イ、管理3ロ、管理4の5段階に分かれています。数字が大きくなるに従いじん肺の病態は重度になっていきます。じん肺法によって、管理区分の規定がこのじん肺の胸部X線所見に基づいて分類されています。
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※著しい肺機能の障害とは、以下のいずれかを満たすものである。
 (ア)パーセント肺活量(%VC)が60%未満である場合
 (イ)パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、次の①または②に該当する場合
  ①1秒率が70%未満であり、かつ、パーセント1秒量が50%未満である場合
  ②動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下である場合または肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)が年齢別の限界値を超える場合(だいたい32~35Torrあたりです)
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 石綿肺の場合、じん肺管理区分2または3のみでは健康管理手帳の要件を満たすだけですが、一定の合併症が伴えば労災認定の要件も充足することになりますので、医師はこの労災認定の要件についても知っておく必要があります。おおまかには、石綿肺であれば管理区分2または3で合併症(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸)にかかっているとき、管理区分4の場合に労災申請が可能です。肺がんや中皮腫の場合、管理区分申請がなくとも労災認定を申請することが可能です。呼吸器科医であれば特に中皮腫の患者さんから相談を受けることが多いと思いますが、基本的に悪性中皮腫の病理学的診断が明確で、1年以上の石綿曝露があれば認定されます。どういうわけか、胸膜肥厚斑や石綿小体がないので申請できないと思い込んでおられる医療従事医者は多いです(肺がんの申請と混同されているようです)。中皮腫の場合、これらの所見がなくとも協議の上認定されることも多々あります。ただし、悪性胸膜中皮腫の病理診断と臨床診断が合致していないと認定されないこともありますので注意が必要です。ただ、いくら規定を作ってもそれに該当されない方や境界線上のような方もたくさんいらっしゃいます。複雑な場合はとりあえず労働基準監督署に相談するようおすすめする方がよいと思います。
以下にそれぞれの疾患について詳しく記載します。

1.石綿肺
 石綿ばく露労働者に発生した疾病で、じん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺は業務上の疾病として取り扱います。(じん肺管理区分が管理2以上の石綿肺に合併した次の疾病は業務上の疾病として取り扱います。肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸がこれに含まれます。

2.肺がん (中皮腫の認定より厳しめです)
石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、以下のa.またはb.に該当する場合には、業務上の疾病として取り扱います。
 a.じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること。
 b.次のi.又はii.に掲げる医学的所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あること。
   i.胸部エックス線検査、胸部CT検査、胸腔鏡検査、開胸手術又は剖検により、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認められること。
   ii.肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められること。
なお、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たなくても、
・5000本以上の石綿小体(乾燥肺重量1g当たり)
・5μm超の場合で200万本以上の石綿繊維(乾燥肺重量1g当たり)
・2μm超の場合で500万本以上の石綿繊維(乾燥肺重量1g当たり)
・5本以上の石綿小体(気管支肺胞洗浄液1ml中)
のいずれかが肺内に認められた場合には、その原発性肺がんは業務上の疾病として取り扱うことができます。そのほか石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たないものの、上記i.やii.に該当する医学的所見が得られているという場合には、労働基準監督署長は本省に協議して判断することになります。

3.中皮腫
 石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって、次のa.またはb.に該当する場合には、業務上の疾病として取り扱います。
 a.じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること。
 b.石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。
労働基準監督署長が中皮腫の業務上外の判断を行う場合、病理組織検査記録等を収集し、確定診断がなされているかを確認します。病理組織検査が行われていない事案については、臨床所見、臨床経過、臨床検査結果、他疾患との鑑別の根拠等を確認することになります。

4.良性石綿胸水
 石綿ばく露労働者に発症した良性石綿胸水については、石綿ばく露作業の内容及び従事歴、医学的所見、療養の内容等を調査の上、協議することになります。

5.びまん性胸膜肥厚
 石綿ばく露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって、次のa.またはb.のいずれの要件にも該当する場合は、業務上の疾病として取り扱います。
 a.胸部エックス線写真で、肥厚の厚さについては、最も厚いところが5mm以上あり、広がりについては、片側にのみ肥厚がある場合は側胸壁の二分の一以上、両側に肥厚がある場合は側胸壁の四分の一以上あるものであって、著しい肺機能障害を伴うこと。
 b.石綿ばく露作業への従事期間が3年以上あること。
なお、上記a.に該当するもののb.には該当しないびまん性胸膜肥厚の事案は、協議することになります。

 なお、労災には、療養補償給付(病院でかかる医療費)、休業補償給付(労災によって賃金が得られないための補償)、傷病補償年金(療養1年半後も傷病が治らないとき)、遺族補償給付などがあります。下図は、呼吸器科医も書類に記載することが多い療養補償給付と休業補償給付の流れです。
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・石綿(アスベスト)新法:石綿による健康被害の救済に関する法律
 この法律は労災が認められない「隙間」に落ち込んでしまった患者さんや家族に対して迅速な対応を目的に制定された法律です。 2006年2月10日に公布されました。同年3月20日から申請受付となっています。その後、「石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律」が2008年7月1日に本法施行令が改正され、指定疾病に「著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺」及び「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」が追加されることとなりました。労働者がアスベストによって病気になった場合は、労災補償の対象となりますが、労働者の家族やアスベスト工場の周辺住民は、労災保険給付が受けらません。石綿新法は、このような労災補償の枠外に置かれたアスベスト被害者の救済を目的としています。また、死亡後5年以上が経過し、労災保険給付請求権に時効にかかってしまった遺族に対する救済措置も定めています。
新法で救済の対象となる指定疾病は、以下の4種類です。
(1)中皮腫
(2)肺がん
(3)著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
(4)著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
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 また、特別遺族給付金についてこの法律が関与しております。特別遺族給付金には、特別遺族年金と特別遺族一時金があります。特別遺族年金は原則年額240万円、特別遺族一時金は1,200万円ですが、平成34年3月27日までが請求期限です。
 いずれの申請についても、環境再生保全機構に申請することになります。
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by otowelt | 2012-11-13 11:48 | レクチャー

結核患者さんの入院期間はなぜ”2ヶ月”なのか

e0156318_11343599.jpg 結核の患者さんは、基本的に周囲に感染性がないような場合に結核病棟から退院できます。当院の場合、基本的に「結核病棟への入院期間は2ヶ月くらいです」とお伝えすることが多いのですが、これにはいくつか理由があります(病院によっては1ヶ月あるいは3ヶ月と伝えているところもあるかもしれませんが)。最近他科の医師と話していたときに、この話題になったので少し書いてみました。

 画像は、満願寺の『地獄極楽変相之図』に書かれた、賽の河原です。親より早く死んだ子供たちが地獄の賽の河原で石を積み続けるのですが、鬼がこれを壊しにやって来ます。地蔵菩薩はそれに救いを与える存在です。この画像を使用した理由は後述致します。



●結核患者さんの退院基準の歴史
 日本はその昔喀痰培養検査で少なくとも2 回の陰性が確認できないと退院できないとしていましたが、これでは入院期間があまりに長くなってしまいます。2005年に結核病学会から、また2007年に私たちの機構から、喀痰塗抹検査が2回陰性なら退院可能とした新基準を提唱しました。これは、喀痰塗抹陰性が培養陰性と同レベルのものであることを重要視したものです。
・日本結核病学会治療・予防・社会保険合同委員会:結
核の入院と退院の基準に関する見解. 結核 80 :389-390, 2005.
・露口一成ら. 国立病院機構退院基準の実際と運用上における問題点. 第81回総会シンポジウム「肺結核患者の新退院基準」. 結核 82 :129-132, 2007.


 しかし厚生労働省は、同時期の2007年に新しい基準を打ち出したのです。これは喀痰の抗酸菌塗抹検査3回陰性という基準です。今は、その厚生労働省の基準が全国的に使用されています。この退院基準には「退院させなければならない基準」と「退院させることができる基準」の2種類あります。前者が適応されることは多くなく、ほとんどが後者の基準を用いて退院していきます。ややリスクを重視した保守的な基準でもあります。
厚生労働省健康局結核感染症課長:「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における結核患者の入退院及び就業制限の取扱いについて」の一部改正について. 健感発第1001001号(平成19年10月1日)

 ●退院させなければならない基準
  ①病原体を保有していないこと又は、
  ②当該感染症の症状が消失したこと
   ・咳、発熱、結核菌を含む痰の症状が消失した場合

 ●退院させることができる基準
  以下の全てを満たした場合
  ①2週間以上の標準的化学療法が実施され、席、発熱、痰等の臨床症状が消失している。
  ②2週間以上の標準的化学療法を実施した後の異なった日の喀痰の塗沫検査又は培養検査の結果が連続して3回陰性である。
  ③患者が治療の継続及び感染拡大の防止の重要性を理解し、かつ、退院後の治療の継続及び他者への感染の防止が可能であると確認できている。


●「早い組」と「遅い組」
 もちろん喀痰の抗酸菌塗抹検査が最初から陰性ならすぐに退院できますが、そもそもそんな患者さんは結核病棟に入院しなくても外来で治療できます。結核病棟に入院される患者さんは、ほとんど全員が抗酸菌塗抹検査が陽性です。一方、結核の場合初回から培養陰性ということはまずありません。となると、ある程度の結核治療が入らないと塗抹も培養も陰性化することはありません。

 結核病棟の患者さんが退院する時期には「早い組」と「遅い組」があります。軽い病変の場合は前者、ひどい病変や高齢者の場合は後者になることが多いです。
・藤野忠彦ら. 結核入院期間を決定する要因に関する臨床疫学的研究. 結核 83:567-572, 2008.
・森田博紀. 当院における肺結核患者の退院決定の現状. 結核 85:787-790, 2010.


 「早い組」は、喀痰の抗酸菌塗抹検査が3回連続で陰性になることで退院できるケースです。結核治療を初めて、1ヶ月くらいで塗抹が陰性化します。当初2ヶ月と言われていた入院期間が早まるため、喜ぶ患者さんも多いです。しかし、塗抹陰性でも培養陰性まで確認しないと患者さんを受け入れないという規定の入所施設もありますし、多剤耐性結核の場合には塗抹が陰性でも培養を確認しないと退院は厳しいのが現状です。そのため、一概に塗抹が陰性であっても早い組とは限りません。

 「遅い組」は、抗酸菌培養が3回連続で陰性になることで退院できるケースです。この場合塗抹はまだ陽性のままですので、結核菌は、塗抹陽性・培養陰性の死菌になります。結核治療開始1ヶ月後あたりの喀痰の培養から陰性化しますので、2ヶ月目を過ぎたあたりに退院基準を満たします。遅い組の場合、結核診療に慣れておられない先生にその後の治療をお願いする折には、死菌についてお伝えする方が望ましいです。「喀痰塗抹が陽性でした!結核再発かもしれません!」と再度紹介になることがあるからです。

 以上の経緯から、結核患者さんの入院期間を2ヶ月くらいとお伝えしているのです。じゃあ、毎日喀痰検査して少しでも退院が早まる可能性を高くしたらいいんじゃないか、というアイディアも登場しますが、残念ながらそういうわけにはいきません。あまりに繰り返すと検痰の回数過多として査定の対象となります。施設にもよりますが、週に1回程度の喀痰スケジュールが一般的です。週に2回とることもありますが、それで査定されたことは個人的にはありません。


●2回陰性のリーチ
 ちなみに、喀痰の塗抹・培養の状況は患者さんに逐一お伝えしていますが、ノリのいい患者さんの場合(こう言うと語弊がありますが)、塗抹・培養が2回連続で陰性になると、「リーチがかかった!」と意気揚々とされることがあります。その後もう一度陽性が出てしまうと結核病棟の退院基準を満たせなくなるため、その落胆は大きいものです。そのため、リーチがかかった時は敢えて知らせないこともあります。厚生労働省の基準が出るまでは、2回陰性で退院が可能であるように基準を提唱していたくらいですから、2回陰性ならば医学的にはほとんど感染性はありません。ですが、現行の基準を遵守しなければならない状況では、塗抹2回陰性化後に再陽性化の事象はよく経験することです。18%の結核患者にこの事象がみられたという報告もあります。
市木拓ら. 肺結核治療中に喀痰塗抹2 回連続陰性化後に再陽性化がみられた症例の検討. 結核 87:537-540, 2012.

 現在の厚生労働省の退院基準を遵守する場合、このようにリーチ後にダメだった患者さんは、再び一から塗抹陰性結果を3回連続で積み上げていかなければならないノルマを背負います。これはまるで賽の河原の積み石のようだな、と思ったことが何度かあります。たかだか3回、されど3回。塗抹2回陰性化後の再陽性化は、患者さんにとって徒労感がやはり大きいものです。じゃあ結核患者さんの現行の退院基準は積み石を崩す”鬼”なのか、というとそこまで針小棒大に申し上げるつもりはありません。ただこういったことが、現在の結核病棟の入院長期化の原因となっているのは明白です。もちろん、相手は結核菌ですから何でもかんでも早く退院すればいいというものではありません。ただ現行の基準にはやはりいささか問題があるのは、結核を診療している現場の医師であればよくご存知のことと思います。いつかこの基準に、地蔵菩薩の救済があればよいなぁ、と思っています。

by otowelt | 2012-10-20 11:53 | レクチャー

サルコイドーシスにおける気管支粘膜血管所見のレビュー

●サルコイドーシスにおける気管支粘膜の血管増生
サルコイドーシス疑いの患者さんに対して気管支鏡をおこなうと、気管支粘膜の血管増生を観察することがある。これはサルコイドーシスの診断基準で気管支鏡所見という項目に
 1)網目状毛細血管怒張(network formation)
 2)小結節
 3)気管支狭窄
の3つが記載されているためである。
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呼吸器内科医であれば、気管支鏡で血管増生を確認して「ああ、これはサルコイドーシスらしいね」と口にすることもあると思われるが、この発言には果たしてどの程度の意義があるのだろうか。レビューというほど大きな主題ではないのだが、個人的に以下に論じてみたい。

サルコイドーシスにおける気管支鏡所見は全例の60%に異常がみられるとされている。その多くが粘膜所見である。
Andrew F. Shorr, et al. Endobronchial Biopsy for Sarcoidosis: A Prospective Study. Chest 2001;120:109–114
CT検査ではこうした粘膜所見は65%でしか同定できないとされており、気管支鏡をのぞいて初めてわかることが多い。
F Lenique, et al. CT assessment of bronchi in sarcoidosis: endoscopic and pathologic correlations. Radiology 1995 194:2 419-423
こういった粘膜病変での気管支鏡下生検では多くの場合サルコイドーシスが病理学的に証明される。
Armstrong JR, et al. Endoscopic findings in sarcoidosis. Ann Otol 1981; 90: 339–343.

1988年の気管支学によく引用される論文が2つある。
市川洋一郎ら. サルコイドーシスの気管支内視鏡所見 : 45 例のまとめと特徴的気管支病変の呈示. 気管支学 10(4), 378-384, 1988
松岡緑郎ら. サルコイドーシスの気管支鏡所見およびその経時的変化の検討(治療過程における気管支鏡所見). 気管支学 9(4), 340-345, 1988

前者の文献では、自験例45例において網目状血管増生は34例(75%)と高率にみられた。顆粒状粘膜変化は網目状血管増生に随伴してみられることが多く、14例(31%)にみられた。小結節形成は10例(22%)にみられた。7例(15%)は正常粘膜所見であった。網目状血管増生と顆粒状粘膜変化は若年層にみられることが多く、小結節形成や正常粘膜所見は中高年層に多くみられたと報告されている。
また、後者の文献は114例のサルコイドーシス患者の気管支鏡所見を観察したものである。細血管増生所見は、レントゲン病期0期では13例中9(63%)、I期では50例中45例(90%)、II期では45例中41例(91%)、III期では6例中5例(83%)で認められた。細血管増生所見は両側肺門リンパ節腫脹とは、臨床経過は一致しなかった。ただ、気管支内の結節性病変は、リンパ節腫脹の改善に一致して消失、軽快した。

また1994年の日本の文献では、66人の自験例をもとに気管支鏡所見を5分類にわけている。1型:正常所見、2型:軟骨輪を超えた粘膜血管増生(2a型:血管増生増加のみ、2b型:不正な血管)、3型:サルコイド結節、4型:気管支粘膜プラーク、5型:気管支壁の不整。1型が16.7%、2型が63.6%、3型が28.8%、4型が10.6%、5型が10.6%であった。この報告でも63.6%と高率に血管所見がみられている。
Tsuchiya T, et al. Bronchoscopic classification in sarcoidosis Nihon Rinsho. 1994 Jun;52(6):1535-8

1981年に101人のサルコイドーシス患者に対する気管支鏡所見をまとめたものがあるが、その論文では気管狭窄がみられたのが26%、結節性病変は64%、血管増生は38%、粘膜浮腫は55%であった。この論文では血管所見の頻度はやや少ない。
Armstrong JR, et al. Endoscopic findings in sarcoidosis. Ann Otol 1981; 90: 339–343.


●なぜ血管増生が起こるのか
近年の文献に目を向けてみると、2009年のCHESTの論文が有名である。ここでは気管支粘膜における結節性病変の機序が記載されているが、血管病変についての記載は乏しい。
Vlassis S. Polychronopoulos, et al. Airway Involvement in Sarcoidosis. CHEST.2009;136(5):1371-1380
形態学的にはまず全身の炎症が気管支粘膜に波及し、発赤や肉芽腫を形成する。これが進行すると、さらに結節性の病変が明らかとなりcobblestone appearanceとなる。このCHESTの論文に言及されているのは主に粘膜のプラークや結節性病変が主体であり、血管増生についてはさほど大きく取り上げられていない。

1987年の学会発表では、サルコイドーシスにおける気管支粘膜血管異常がどのように成り立っているかを考察したものがあった。
三宅川登ら. 肺サルコイドーシスの気管支粘膜血管の異常に関する気管支鏡的検索, 特にその成り立ちについて(Bronchial vessels). 気管支学 9(増刊), 75, 1987.
自験例32例を検証した結果、単純な血管増強はまず気管支軟骨輪間の気管支粘膜の中央に軟骨輪に平行して1本の太い血管があり、それから直角に多数の細い血管が分岐し軟骨輪上の粘膜下で隣接する血管と吻合した結果網目状にみえるのではないかと考察されている。この拡張血管は本来粘膜下で構成される血管が拡張したものでありその原因はリンパ節腫脹であると考えられる。走行が不整な血管増生は、サルコイド結節を中心に広がるものがほとんどであった。
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模式図にするとこのような感じだろうか。

2種類の血管、すなわち動脈系と静脈系にわけて論じた報告もある。すなわち気管支動脈系と気管支静脈系の2種類である。
小林英夫. サルコイドーシスと気管支鏡―実地的視点から―. 気管支学.2005;27:7-11
鮮紅色血管は、周囲に放射状に拡がりネットワークを形成しながら径が縮小していくものである。網目形成は分節的で、主気管支では3~4 軟骨輪程度の範囲に及び、新たなネットワークへ移行している。サルコイドーシスにおける多くの血管はこの分布パターンであり、気道への出現様式から気管支動脈由来と推定される。紫紅色でやや太く、上皮の不透明感を伴い、かつ軽度膨隆し網目形成が顕著でない血管も少数混在し、ネットワーク形成の高度な症例で観察され、気管支静脈系と思われる。


●結論
過去の報告を見る限りは、サルコイドーシスにおける気管支粘膜の血管増生は60~80%と頻度が高いものと推察される。この血管増生は、リンパ節腫脹の軽快によっても改善しないという報告もあるため、局所的リンパ節腫脹に由来するかどうかはまだ結論が出ていない。気管支粘膜の血管増生は、健常者とサルコイドーシス患者を含めて感度・特異度を算出するような試験を組まない限り、サルコイドーシス患者において血管増生が特異的な所見かどうかは断言できない。咳嗽などによっても血管増生は偽陽性所見を呈することがあるため、サルコイドーシスの診断をおこなう上で、参考所見程度にとどめておくほうが無難かもしれない。

文責"倉原優"

by otowelt | 2012-08-05 11:50 | レクチャー

医学論文を継続的に読む方法

「どうやったら医学論文を継続して読めるのですか」と
たまに研修医の先生から相談を受けることがある。
本ブログとは趣向が異なるが、個人的な方法を記載してみたい。

・なぜ医学論文を読むのか
 医学論文を読むことは”勉強”とは異なる。
 というのも、医学的知識を効率的に集積して患者さんに還元するには
 母国語の本から学ぶ方が圧倒的に早いからである。
 そのため、医学的知識を得るために医学論文を読む必要はないし
 私はそれは時間の無駄遣いだと思っている。
 個人的には、医学雑誌の記事を読むことは週刊雑誌のそれを
 読むのと同様、娯楽の一つとしてとらえている。
 「勉強のために読む」というモチベーションで医学論文を
 継続的に読むことは至難の業と思うのであまりおすすめしない。
 そのため、論文を印刷して医師同士で抄読会を行うと、継続しにくい。
 要は、医学論文を読むことが自分にとって”合う”か”合わない”か、
 それだけだと思うので、読まない、読めないからといって
 格別悲観する必要もないと思う。


・医学論文を効率的に読む方法
 どうすれば医学論文を効率的に読むことができるかご紹介したい。
 あくまで個人的な一案であるので、参考程度にして頂きたい。
 継続的に雑誌を読むということは連載を読むということなので
 基本的に最新号を読むよう心がけた方がいい。
 (過去文献を1日1編読もうとすると、次何を読めばいいか目安がなくなる)
 ほとんどの雑誌はその月の第1週に出版されるが、
 NEJMやAJRCCMなどのように刊行頻度が月に1回ではないものもある。
 in pressも楽しみに読めるようになれば、おそらく
 「論文マラソン」ができるようになる。この「論文マラソン」を
 継続的に続けることが、医学論文を効率的に読む方法である。

 私が言う「論文マラソン」とは、定期的にお気に入りに登録してある
 医学雑誌のCurrent issues(±in press)を上から下まで
 閲覧する作業のことである。多いものでは1雑誌あたり20論文くらい
 掲載されているが、別にタイトルだけで選り好みしてもよい。 
 そもそも論文のタイトルは、興味を惹くようつけられているものだ。

 呼吸器内科医なら、AJRCCM、CHEST、ERJ、Thoraxは必須である。
 基本的にはインパクトファクターやアイゲンファクターを参考にして
 登録している。これらの数値はJCR webで検索できるのでどうぞ。
 (URL:http://admin-apps.isiknowledge.com/JCR/JCR?SID=Z2G59pa8FlD%40cIO2BcE
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 感染症領域でも上位をお気に入りに登録している。
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 こういった雑誌を自分のマラソンルートに組み込むよう決めておけばいい。
 毎回全文を定期的に読むのは不可能なので、最初はAbstractだけでいい。
 論文を読む際に、PECOなどで論文の妥当性を吟味するよう
 研修医時代にまず教えられると思うが、これは論文マラソンする上では
 非常に足かせとなるので、娯楽程度に読むのであればPECOは
 吟味する必要はない。さすがに、A: n=3, placebo: n=4で
 プラセボ対照ランダム化試験と豪語するのは
 明らかに質の悪い論文だと誰でもわかるだろうし、
 簡潔的なPECOは無意識にしているものなので意識しなくてよい。
 ただし、1つ1つの論文をしっかり読むのであればスタディの質を
 吟味すべきである。あるいは、患者さんに還元したり
 自分の知識として会得するような場合には
 それなりに信憑性を吟味する必要があるかもしれない。
 論文を読む意義としては、費やす時間と効果のバランスが重要なので
 質をとるか量をとるか、自分なりに決めておけばいい。

 (注釈)PECO
 Patient - どんな患者に/誰のために
 Exposure - 何をすると(介入・評価・測定)
 Comparison - 何と比べて
 Outcome - どのような結果を得るか


 1日1論文ペースであれば、英語辞書を開きながらであっても
 Abstractだけなら5分か10分もあれば読めるはずである。
 そして慣れてくれば、Abstractに加えてDiscussionを読むようにする。
 Discussionはそれなりに最新の知見がちりばめられているので
 勉強になる上、筆者が何を言いたいのか明確に記載されている。
 MethodsやResultsについては、Discussionに論じられている部分を
 その都度参考にすればいい。Abstract-Discussionを軸にして
 読むようこころがければ、その論文の言いたいことを知るに事足りる。
 知見をさらに深めたいときは、全文読んだり、UpToDateや成書を
 開くようにする。論文の統計学的な検定については、
 特に研修医の先生はアレルギーを持っている人も多いだろうし、
 これが原因で論文離れが進んでいるのではないかとも思っている。
 Abstract-Discussionを軸にして読む方法では、あまり検定が
 どうのこうので悩むこともないと思うので、いつかまた別の機会で
 気合いを入れて勉強すればいい。私個人も統計学には
 あまり詳しくないが、詳しくなくても今まで問題なく過ごしている。

 他にもPubMedにキーワードを入れて、新しい順にAbstractを
 読んでいくという方法もあるが、購読していない雑誌だと
 全文が読めない上に、雑誌の質が無視されてしまうので
 あまりおすすめしない。

 継続するには何かしらの形で記録をつける方法がよいと
 考えているが、私はブログという形で読んだ論文を記録している。
 さすがに何年間も継続的に英語を読んでいれば、
 私みたいな記憶力が乏しい人間であっても英単語が覚えられるし、
 英語の速読もできるようになる。
 
 以上が、私個人が行っている”論文の読み方”である。

by otowelt | 2012-05-10 06:20 | レクチャー

肺MAC症に対する化学療法

●肺MAC(Mycobacterium avium complex)症の化学療法

1.レジメン
 非結核性抗酸菌症の代表的な疾患である肺MAC症の化学療法は、リファンピシン(RFP)、エサンブトール(EB)、クラリスロマイシン(CAM)の3剤による多剤併用が基本で、必要に応じてストレプトマイシン(SM)またはカナマイシン(KM)の注射剤の併用を行うのが基本である。以下に、現時点で推奨されている化学療法レジメンの用量を提示する。
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 肺MAC症に対する単剤治療は効果が弱いうえに、特にCAM単剤では早期(2ヶ月~5ヶ月)にCAM耐性菌が誘発されるとされており、禁忌である。
An official ATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med. 2007 ; 175 : 367-416.
 リファブチン(RBT)はMACに対する抗菌力はRFPよりやや強力と考えられているため、RFPが投与できない時またはRFPの効果が不十分な場合に投与を考慮してもよい(RBT300mg=RFP600mg相当)。
Efficacy and safety of rifabutin in the treatment of patients with newly diagnosed pulmonary tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med. 1996 ; 154 : 1462-1467.
 化学療法が無効な症例で空洞や気管支拡張が限局しており、肺機能や全身状態が手術に耐えられる場合は、積極的に外科療法を考慮すべきである。特に、空洞・破壊型の肺MAC症がよい適応である。 しかし結節・気管支拡張型の肺MAC症の場合、気管支拡張病変が初期から左右にみられるため、また高齢者も多いため、手術の適応となる症例は限られている。

2.副作用
 化学療法をおこなう際、味覚障害や胃腸障害の副作用が多いとされているが、これは特に高齢者で起こりやすいため、高齢者(70歳以上など)の場合では、1週間に1薬剤ずつ追加するなどの工夫をおこなう(EB→CAM→RFPなど)ことが望ましく、内服3 剤を一挙に開始することは避けた方がよい。また、RFPはまれに白血球や血小板減少を呈することがある。白血球2000または顆粒球1000以下、血小板10万以下となれば薬剤中止を考慮する。RFPとEBではしばしば皮疹を経験するが、皮疹については体表のおよそ1/3を超える範囲に薬疹がでるか、水泡や壊死を伴う重症皮疹の場合には薬剤中止を考慮する。RFPの減感作が可能である(下図)。
e0156318_12433220.jpg
 EBの投与期間が結核よりも長期間となるため、視力障害の発生には充分注意する必要がある。EBによる視神経症は、投与一日量で25mg/kg/day以上、総投与量100~400gで発症しやすく、一日量15mg/kg/day以下では安全とされる。投薬後3ヶ月から起こり得るが、半年~1年以内(平均7ヶ月)が多い。両眼の視力低下、中心暗点、色覚障害(赤・緑)を呈する。従ってEB服用患者は、全例1~2ヶ月に1回の定期的に視機能検査を行う必要がある。スクリーニング検査には視力と河本式中心暗点計を使う。中心フリッカー値も感度は高いが、測定ごとのばらつきが大きく、両眼性なので左右差で検討するのが難しい。異常が疑われたらハンフリー視野計などの静的視野検査を行うが、中心暗点だけでなく両耳側半盲のパターンを呈することも少なくない。
 RBTの副作用としてぶどう膜炎が有名であり、充血、疼痛、飛蚊症、霧視、視力低下などが起こり得る。RBT投与開始2~5ヶ月で発症するとされており、発症は体重あたりの投与量に依存すると考えられている。
Determination of rifabutin-associated uveitis in patients treated with rifabutin clarithromycin and ethambutol for Mycobacterium avium complex bacteremia: a multivariate analysis. Canadian HIV Trial Network Protocol 010 Study Group. J Infect Dis. 1998 ; 177 : 252_255.
 RBT はCAMと併用したときに、その血中濃度が1.5倍以上に上昇することが知られており、ぶどう膜炎発症には細心の注意をはらうべきである。RBT450mgの単独投与の場合、ぶどう膜炎発生が1.8%であったが、
同量にCAM1000mgを併用すると、8.5%にぶどう膜炎を発症した。
Clarithromycin or rifabutin alone or in combination for primary prophylaxis of Mycobacterium avium complex disease in patients with AIDS: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. The AIDS Clinical Trials Group 196/Terry Beirn Community Programs for Clinical Research on AIDS 009 Protocol Team. J Infect Dis. 2000 ; 181 : 1289_1297.
 CAM併用時のRBT初期投与量は150mg⁄日にすべきであり、長期の経過で副作用がない場合には300 mg⁄日まで増量を考慮してもよいと考えられる。

3.感受性検査
 肺MAC症の治療効果を推測できる薬剤感受性検査については、CAM以外では確立していないのが現状である。
An official ATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med. 2007 ; 175 : 367-416.
 その他の薬剤はCAMと異なり、併用効果は期待できるものの、そもそも単剤での臨床効果はきわめて乏しいため、薬剤感受性検査を確立しにくい理由がある。CAM耐性は初回治療例ではほとんど存在しないとされており、再治療例や化学療法後経過の悪い例のみ薬剤感受性検査を実施するのが望ましい。液体培地でMICが4μg/ml以下を感受性、32μg/ml以上を耐性と判定し、8μg/ml および16μg/mlは判定保留とするのが現在のコンセンサスである。CAM耐性の場合、CAMは無効なので中止とすべきである。判定保留の場合は、CAMを継続して定期的に感受性検査を繰り返すべきである。このCAM耐性は、前述のごとくCAM単剤使用をおこなった場合や、CAMとフルオロキノロンの併用例に多いとされている。
Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 ; 174 : 928-934.

4.投与期間
 日常臨床において菌陰性化後約1 年の治療をおこなうよう推奨されているが、エビデンスはない。イギリス胸部学会ガイドラインは薬剤投与期間を2年としており、一概にATSガイドラインや結核病学会の推奨に準じておれば安心というわけではない。


文責"倉原優"

by otowelt | 2012-04-24 13:05 | レクチャー

オピオイドによる嘔気・嘔吐に対する薬剤

e0156318_14351123.jpg”オピオイドによる嘔気”と診断する前に、
高カルシウム血症やその他の薬剤の関与など
色々鑑別を挙げなければならないのは確かであるが
癌臨床において、オピオイドによる嘔気は多い。

オピオイドによる嘔気は、主に4つの部位への
作用で起こるとされている。すなわち、


1.トリガーゾーン化学受容体(CTZ)への直接的効果
2.前庭感受性の増加
3.消化管運動の低下
4.大脳皮質への作用
    の4つである。
Herndon CM, Jackson KC, 2nd, Hallin PA. Management of opioid-induced gastrointestinal effects in patients receiving palliative care. Pharmacotherapy 2002;22:240–50.

少量でも起こることはあるが、用量依存性に発症しやすいとされている。
Roberts GW, et al. Postoperative nauseaand vomiting is strongly influenced by postoperative opioid usein a dose related manner. Anesth Analg 2005;101:1343– 8.

オピオイドによる嘔気であると診断された場合、
オピオイドローテーションを考慮する必要があるが、
制吐剤の投与によってコントロールできることもあるため
一概に全例オピオイドローテーションをおこなうわけではない。
・Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004(3): CD004847
・Mercadante S, Bruera E. Opioid switching: a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006; 32: 304-15


薬剤そのものを変更しなくても、投与経路を内服から皮下注や静注に
変更することで嘔気を制御できることもある。
Enting RH, et al. A prospective study evaluating the response of patients with unrelieved cancer pain to parenteral opioids. Cancer 2002; 94: 3049-56

一般的に、オピオイドによる嘔気に対してプロクロルペラジン(ノバミン)
を使用される医師が多いと思う。オピオイドによる嘔気に対して薬剤を
使用する場合、プロクロルペラジン(ノバミン)やハロペリドール(セレネース)
などのドパミン受容体拮抗薬、メトクロプラミド(プリンペラン)や
ドンペリドン(ナウゼリン)などの消化管に作用する薬剤、
オンダンセトロン(ゾフラン)のようなセロトニン受容体拮抗薬、
ヒスタミン受容体拮抗薬あたりが使用される。

しかしながら、多くのスタディが20人以下の患者を扱ったものであったり
質が高くないという原因のため、信頼性のあるデータが乏しいのが現状である。
McNicol E, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain: A systematic review. J Pain 2003;4:231–56.

そのためガイドライン上は、オピオイドによる制吐薬としては、
”使用経験が豊富である”という理由のもと、ドパミン受容体拮抗薬、
消化管蠕動亢進薬、抗ヒスタミン薬が第一選択となっている。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)

(1)ドパミン受容体拮抗薬(プロクロルペラジン、ハロペリドール)
 ハロペリドールは、モルヒネの硬膜外投与や原因不明の癌患者の嘔気に
 対して有効であるとされている。
Critchley P, et al. Efficacy of haloperidol in the treatment of nausea and vomiting in the palliative patient: a systematic review. J Pain Symptom Manage 2001; 22: 631-4
 しかしながら、そのほかのドパミン受容体拮抗薬において大規模な
 スタディはなく、有効性についてはあまり信憑性がないのが現実である。

(2)消化管蠕動亢進薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)
 オピオイド関連のスタディは少ないが、癌に関連した嘔気については
 メトクロプラミド40mg12時間ごとプラセボを比較した試験がある。
 VAS100mmスケールにおいて、それぞれ17±12mm vs 12±10mmの
 低下を示し、メトクロプラミドの有効性が示された。
Bruera E, et al. A double-blind, crossover study of controlled-release metoclopramide and placebo for the chronic nausea and dyspepsia of advanced cancer. J Pain Symptom Manage 2000; 19: 427-35

(3) 抗ヒスタミン薬
 オピオイドによる嘔気での報告はほとんどない。

(4) セロトニン5HT3受容体阻害剤(オンダンセトロン)
 海外ではよく使用されているが、日本ではあまり使用されない。
 ちなみにUpToDateはオピオイドによる嘔気に対して
 オンダンセトロンを主に記載している。このオンダンセトロンの効果に
 ついてはいくつか有名な論文がある。たとえば、
 プラセボ(n = 94), オンダンセトロン8 mg (n = 215),
 オンダンセトロン16 mg (n = 211)の3群に割りつけた場合、
 嘔吐をコントロールできたのは、オンダンセトロン8mgで62.3%、16mgで
 68.7%、プラセボで45.7%であり、有意にオンダンセトロンの効果があった。
Sussman G, et al. Intravenous ondansetron for the control of opioid-induced nausea and vomiting. International S3AA3013 Study Group. Clin Ther 1999; 21:1216.
 また1999年のスタディでは、オンダンセトロン8mgおよび16mg は
 メトクロプラミドよりも有意に制吐作用が良好という報告もある(p<0.05)。
Chung F, et al. Ondansetron is more effective than metoclopramide for the treatment of opioid-induced emesis in post-surgical adult patients. Ondansetron OIE Post-Surgical Study Group. Eur J Anaesthesiol 1999; 16:669.
 一方でメトクロプラミドとの差ははっきりしなかったという報告もある。
 90人の患者をオンダンセトロン24mg1日1回、メトクロプラミド10mg1日3回、
 プラセボの3群に割りつけておこなわれたスタディがある。嘔吐がコントロール
 できたのは、プラセボ33%、オンダンセトロン48%、メトクロプラミド52%。
 嘔気がコントロールできたのは、プラセボ23%、オンダンセトロン17%、
 メトクロプラミド36%。これらはいずれも統計学的な有意差ではなかった。
Hardy J, et al. A double-blind, randomised, parallel group, multinational, multicentre study comparing a single dose of ondansetron 24 mg p.o. with placebo and metoclopramide 10 mg t.d.s. p.o. in the treatment of opioid-induced nausea and emesis in cancer patients. Support Care Cancer 2002; 10:231.

(5) 非定型抗精神病薬(オランザピン、リスペリドン)
 オピオイド使用15人の癌患者に対して、オランザピン2.5mg、5mg、10mg
 をそれぞれ2日間ずつ投与したところ、全群において投与前より
 嘔気の改善がみられたという報告がある。
Passik SD, et al. A pilot exploration of the antiemetic activity of olanzapine for the relief of nausea in patients with advanced cancer and pain. J Pain Symptom Manage 2002; 23: 526-32

文責"倉原優"

by otowelt | 2012-04-11 12:08 | レクチャー

抗酸菌検査について

e0156318_14244117.jpg●抗酸菌検査について
1.塗抹検査 :直接法、集菌法
2.培養検査 :固形培地(小川培地)、液体培地(MGIT培地等)
3.遺伝子検査 :PCR法、MTD法
4.菌種同定検査 :
 キャピリアTB(イムノクロマトグラフィ法)
 アキュプローブ(DNAプローブ法)
 DDHマイコバクテリア(ハイブリダイゼーション法)
5.感受性検査
 普通法・小川比率法
 マイクロタイター(ビットスペクトルSR)法
                /ウエルパック法
 ブロスミックMTB-1法
 MGIT抗酸菌システム
 ピラジナミダーゼ試験


1.塗抹検査
 開放性の場合の検体には、抗酸菌としてヒト型結核菌及び
 非病原性の非結核性抗酸菌が認められることがある。
 そのため、塗抹鏡検の結果で結核と断定することは慎重を要する。


2.培養検査
培地は大別して卵培地(小川培地またはLowenstein-Jense培地)、
寒天培地(Middlebrook 7H10または 7H11培地)、および液体培地がある。
e0156318_14133160.jpg
・固形培地(小川培地)
 M.tuberculosisおよびその他Mycobacterium spp.の選択分離培地で、
 発育阻害物質を含む寒天やペプトンを使用せず、全卵を用いて固める。
 喀痰を処理するNaOHの濃度に対応し、含まれるリン酸2水素カリウムの
 濃度によって3%及び1%組成がある。小川培地以外にも、ビット培地、
 Lowenstein-Jensen培地などがある。MGITなどの液体培地の発達により、
 不要かと言われればそういうわけでもない。液体培養で生育の悪い抗酸菌の
 検出、抗酸菌混合感染例の見落とし防止、液体培地雑菌汚染時のレスキュー、
 菌量の把握が出来る、安価であるなどメリットは多い。

・MGIT(Mycobacteria Growth Indicator Tube)法
          (SeptiChek AFB,MGIT,BACTEC9000MB,MB/BacT)
 液体培地を使用し、酸素蛍光センサーを備えた抗酸菌検出システム。
 日本の10施設で行われた共同評価データから、以下のような評価結果がある。
 ・喀痰などからの全抗酸菌の検出率は、小川法に比べ、4.1~11.6%高かった。
 ・MGIT法は小川法に比べ、結核菌群では約20%、NTM群では
  約30%高い検出率を示した。
 ・塗抹陰性検体での菌検出能力では、MGIT法が小川法より優れていた。
 ・MGIT法は小川法に比べ、結核菌群では5~12日、
  NTM群では10~24日早く菌を検出した。


3.遺伝子検査
 接検体から菌の遺伝子を検出する核酸増幅法検査では、
 RNA増幅法によるAmplified Mycobacterium Tuberculosis Direct Test(MTD)、
 PCR 法によるAmplicor Mycobacterium、およびLCR法による
 LCXM.ツベルクローシス・ダイナジーンが日本で保険適応になっている。
 MTDとLCXはM.tuberculosis complexを、Amplicor Mycobacteriumは
 M.tuberculosis complexのほか、M.aviumとM.intracellulareも
 検出・同定できる。これらの遺伝子増幅検査の検出感度は約70%、
 特異度は96%以上である。PCR陰性でも、培養法のほうが感度が高いので
 後から結核菌培養陽性になることがある。また、死菌でもPCR陽性になるので
 培養法で陰性になることがある。


4.菌種同定検査
 当院では、キャピリアTBでTBかどうかを判断し、その後アキュプローブで
 MAC、M.kansasii、M.gordonaeの同定をおこない、 
 同定不能の場合DDH法を用いている。

・キャピリアTB(イムノクロマトグラフィ法)
 結核菌群が産生するMPB64(菌体外に分泌されるタンパク質)を
 タ-ゲットとして検査する。非結核性抗酸菌はこのMPB64を産生しないため、
 ヒト型結核菌と他の抗酸菌との鑑別に用いられる。液体培地用に開発された。
 特別の装置を必要とせず、操作が極めて簡単であり、習熟を必要としない。
 また迅速(15分)に結果が得られる。問題は、MGIT陽性になった検体でも
 結核菌の量が少ない(MPB64の産生量が少ない)場合ラインが出来ない点である。
e0156318_1415728.jpg
・アキュプローブ(DNAプローブ法)
 特異性に優れている。結核菌、MACの同定が行える。

・DDHマイコバクテリア(DNA-DNAハイブリダイゼーション法)
 結核菌、MAC、M. kansasii、M. abscessusを含めた18菌種の同定が行える。
 日常的に診療するNTMの大部分が同定可能である。
 小川培地に発育した菌コロニーの同定検査には、これが最適かもしれない。
 メリットとしては、以下が挙げられる。
 ・1回の検査で18菌種の同定ができる。
 ・培養菌1コロニーでも同定可能である。
 ・1検体ごとの試薬キットなので、試薬消費が一番少ない


5.感受性検査
当院ではMGIT→小川比率法の流れになっている。

・普通法
 小川培地を用いた方法で、従来から広く行われてきた方法で結果の信頼性は
 高い。絶対濃度法と比率法がある。培地中の成分が薬剤感受性に影響を
 与えたり、長期の保存で培地中の抗菌薬の薬効が低下する場合がある。
 指針では小川培地を用いた比率法(proportion method)が採用されている。
 INH については試験濃度を2濃度設定しているが、通常の治療には
 0.2μg/mlを参考にし、1.0μg/mlはMDR例で使用可能な薬剤がない場合に
 参考とする。小川培地では薬剤とくにRFPが卵へ吸着し正確な試験濃度が
 得られないという欠点があるため、小川培地を用いた検査でRFP耐性で
 あった場合他の検査法で再検する必要がある。

・マイクロタイター(ビットスペクトルSR)法/ウエルパック法
 簡便だが、感受性のものを耐性と判定する場合がある。
 マイクロタイター・ビットスペクトルSRなどがある。
 検査法の問題点として、臨床検査室で使われる頻度の高い
 マイクロタイター法(ビットスペクトルSR法など)と液体培地法で、
 ときに検査結果に不一致が見られることがある。とくにEBやSMでビットで
 耐性と判定されることがある。これは、マイクロタイター法は
 培地量が少ないので、菌量が過剰であると、感受性でも菌が増殖して、
 耐性と判定されるためと考えられる。結核病床を持つ各施設で
 マイクロタイター法/ウエルパック法により耐性と判定した菌株を、
 結核研究所で普通法検査したところ、それ60%以上で感受性だった。

・ブロスミックMTB-1法
 微量液体稀釈法で、MIC値が判定可能。
 培養期間が短く、普通法とよく相関する。

・MGIT抗酸菌システム
 培養期間が1週間と短く、普通法、米国臨床検査標準委員会の標準法
 (M24-T)とよく相関するが、INH、RFP、SM、EB4剤にしかできない。
 MGITによる薬剤感受性検査でHRES感受性の場合そのまま確定する。
 もしMGITでHRESのどれかに耐性があった場合、小川培地による
 比率法で再検査し、その結果を確定とする。
 MGIT耐性はINHとSMにおいては、一概に信頼しない方が良い。
 INH耐性でも小川比率法を待つ。

・ピラジナミダーゼ試験
 PZA耐性がピラジナミダーゼ活性と相関することを利用した方法。
 ピラジナミダーゼ活性があれば耐性と判定される。
"文責"倉原優

by otowelt | 2012-03-20 22:09 | レクチャー