カテゴリ:レクチャー( 84 )

肉芽腫性病変

●肉芽腫性病変について
 肉芽腫あるいは肉芽腫性病変の定義は、van Furthら(1972)が
 提唱したmononuclar phagocyte system (MPS)系細胞の
 局所的、組織化された集合あるいは類上皮細胞を含むMPS系細胞の
 局所的、組織化された集合とする定義が使用されている。結節性の
 肉腫様の構成細胞の主体が類上皮細胞である場合、その肉芽腫を
 「類上皮細胞肉芽腫」と呼ぶ。「肉芽腫」は有核細胞が不均一に存在
 するのではなく、お互いにコネクションがあるように見える。
 
 類上皮細胞は光学顕微鏡による観察で記載された細胞で、特徴としては
 (1)比較的大型の有核細胞で多辺形様あるいはやや細長い形状
 (2)核は楕円形あるいは馬蹄形で淡明、線細な核クロマチンを持ち、
   1-2個の核小体を持つ
 (3)細胞質は豊かで好酸性
 (4)隣接する同種類の有核細胞と接着し、細胞境界が不明瞭

 類上皮細胞は現在ではマクロファージ由来と考えられるようになり、
 MPS系細胞の中に含められている。免疫染色では肺胞マクロファージと
 同様にCD68陽性となる。

 肉芽腫性病変の大きさは、μmオーダーから10mmを越えるものまである。
 構成細胞には類上皮細胞、多核巨細胞、リンパ球が含まれる。
 肉芽腫性病変の周囲には線維化病変、硝子様化線維化病変が形成される
 ようになり、引き続き類上皮細胞の萎縮と線維化病変による置換が起こる。
 肉芽腫性病変の確認には鍍銀染色を行い、細網線維が肉芽腫性病変を
 囲んで形成されている所見を確認する。肉芽腫性病変は既存構造を
 融解消失させる。EvG弾性線維染色で観察すると筋性動脈の弾性線維層が
 肉芽腫性病変の存在のために融解消失した所見がみられることがある。

※肉芽、肉芽組織、肉芽腫
 肉芽(granulation), 肉芽組織(granulation tissue), および
 肉芽腫(granuloma)は類似した用語だが、肉芽は肉眼所見である。
 肉芽組織と肉芽腫は顕微鏡所見。肉芽は皮膚などの創傷治癒で新生所見に
 対して用いられるものである。肉芽組織は肉芽の顕微鏡所見に相当する所見で、
 細血管増生が多い、幼若な線維化病変である。時間とともに細血管が
 目立たなくなり、成熟した線維化病変に置換される過程をあらわす言葉である。
 肉芽腫は、病変全体として結節性病変を示す有核細胞集簇で類上皮細胞、
 多核巨細胞が構成細胞となることが多い病変である。

by otowelt | 2012-03-02 05:52 | レクチャー

嚢胞性胸腺腫(cystic thymoma)

・嚢胞性胸腺腫(cystic thymoma)
 上前縦隔の嚢胞性病変では、胸腺嚢胞、心膜嚢胞、嚢胞性奇形腫などが
 鑑別疾患に入るが、嚢胞性胸腺腫(cystic thymoma)も
 呼吸器科医としては知っておきたい鑑別である。
 この疾患はしばしば増大する傾向にある。

 胸腺腫で嚢胞性変化があるものは全体の40%にみられるが、
 腫瘍全体が嚢胞状形態をきたすcysticthymomaはきわめてまれ。
 cystic thymomaの基準として、以下のものがある。
 ①嚢胞壁内に未熟小型リンパ球と網目状上皮細胞が混在増殖
  しており、嚢胞壁の肥厚がみられること
 ②小血管周囲にリンパ球を含むperivascular spaceがあり
  リンパ球成分が豊富な腫瘍内に、リンパ球がまばらで
  正常胸腺髄質に似た領域がみられる(foci of medullary
  differentiation)こと
 ③嚢胞壁に上皮形成を欠くこと
Suster S,Rosai J.Cysticthymomas.A clinicopathologic study of ten cases. Cancer 1992; 69: 92-7.

 嚢胞内容物は、ほとんど血液成分を混じた出血巣や壊死物質。
 内部に出血壊死がみられており、これが嚢胞性変化をきたして
 いるものと考えられている。
 内部には漿液性の液体がみられるという報告もあり
 症例が少ないため、現時点では内容物に関するコンセンサスは
 得られていない。
Rieker JR, et al. Cystic thymoma.Pathol Oncol Res 2005;11:57-60.

 もともと存在していた胸腺嚢胞の嚢胞壁に胸腺腫が発生した後、
 嚢胞壁をあたかも置き換えるように増殖すると、cystic thymomaのように
 急速に増大する説明になるのではないかとも考えられている。
川口庸ら. 嚢胞状形態を呈した胸腺腫(いわゆるcysticthymoma)の1切除例. 日呼外会誌, 2011; 25: 79-83.

文責"倉原優"

by otowelt | 2012-01-21 23:34 | レクチャー

RSウイルス感染症

●RSウイルスとは
・1本のマイナス鎖RNAで、ウイルス粒子は直径が150~300nmである。
・比較的不安定であり、凍結融解、熱(55℃)、界面活性剤、
 クロロフォルム、エーテルなどで速やかに不活化する。
・エンベロープには中和に関係するfusion protein(F 蛋白)と
 large glycoprotein(G 蛋白)が存在する。
・ウイルス名の由来は、呼吸器(Respiratory)感染患者から分離され、
 感染細胞が多核巨細胞(合胞体(Syncytium))を形成するという
 特徴から。
・Mononegavirales門パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)の
 Pneumovirus属に分類される。
・パラミクソウイルス科に属するウイルスには、パラインフルエンザウイルス、
 麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど。
・RSウイルスにはAとBの血清型があり(A型のほうが重症)、
 さらに各血清型に多くの遺伝子型が知られている。

●RSウイルス感染症の疫学
・年間RSウイルスで5~8万人が入院し、うち14000人以上が死亡。
 インフルエンザ入院の10倍多い。死亡率は1~3%。
植村幹二郎, 西尾久英:冬季シーズンでの乳幼児 RSV 下気道感染症による入院症例の検討. 日本小児救急医学会雑誌 2(2): 7-10, 2003
・RSVは乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%
 を占めると報告されており、より年長の小児においても気管支炎
 の10~30%に関与していると考えられている。
・最初の一年間で50~70%以上の新生児が罹患し、3歳までに
 すべての小児が抗体を獲得する。肺炎や細気管支炎などのRSV
 による下気道症状はほとんどは3歳以下で、入院例のピークは
 生後2~5カ月にあるが、最初の生後3~4週では比較的少ない。
・生後90日以内のRSウイルス感染症患者の
 5.5%に尿路感染症を伴っていたという報告はあるが、
 肺炎球菌性肺炎などの呼吸器合併症は証明されなかった。
Levine, DA, et al.Risk of serious bacterial infection in young febrile infants with respiratory syncytial virus infections. Pediatrics 2004; 113:1728.

●RSウイルス感染症の症状
・RSウイルスは接触や飛沫を介して気道感染し、
 4~6日の潜伏期の後、発熱、鼻水、咳で発症する。
・2歳以下の乳幼児ではしばしば上気道炎から下気道炎
 に進展して細気管支炎、肺炎を発症し、特に6ヶ月以下
 の乳児では入院加療を必要とすることが多い。
 3ヶ月齢未満では、典型的呼吸器症状がないこともある。
・連続性ラ音(rhonchi / wheezing)がみられる頻度
 RSウイルス感染 入院乳児 75%
 RSウイルス感染 外来乳児 34%
 RSウイルス感染 高齢者 35%
Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 5th ed, Feigin, RD, Cherry, JD, Demmler, GJ, Kaplan, SL (Eds), Saunders, Philadelphia 2004. p.2315.
・罹病期間は通常7~12日であり、入院例では3~4日で改善する。
 症状が改善した後もRS virusの排泄は続くため、
 ガス交換能の異常も数週間続くと考えられる。
・毎年6~83%の小児が再感染を経験している
・成人感染では一般に軽症だが、医療従事者で曝露量が多いと
 症状は重症化すると考えられる。
・新生児RSV下気道感染症の入院患者の20%に
 無呼吸が起こると言われている。
 これがSIDSの原因となることもある。
 無呼吸は未熟児に多い傾向がある。
Rayyan, M, et al.Characteristics of respiratory syncytial virus-related apnoea in three infants. Acta Paediatr 2004; 93:847.

●RSウイルス感染症の胸部レントゲン
・胸部レントゲン上では種々のパターンが見られる。
 もっとも典型的なのは間質性肺炎像と過膨張である。
 air-trappingが唯一の有意な所見であることもある。
 肺胞性陰影はRSVによる下気道疾患の1/4にみられるが、
 特に6カ月以下の乳児に多いとされている。

●RSウイルス感染症の診断
(1)酵素免疫測定法(EIA)
 検査材料は鼻腔洗浄液・吸引液・綿棒採取による鼻腔分泌物で、
 これらの検体に反応試薬を滴下して、出現する(+)/(−)を
 判定する。検体採取後 20 分間で結果が得られる。
 検出感度・特異度がいずれも 95%前後である。
堤裕幸: RS ウイルス. 小児科 45(4)3 月増刊号, 感染症−最新の話題− 648-651, 2004.
(2)免疫クロマトグラフ法(ICA)
 検出抗原は RSV の F 蛋白である。検体中にRSVが含まれるとき、
 標識抗体とウイルス抗原が複合体を形成して「T」の部分に
 赤紫色のラインがみられる。検査所要時間は、15分程度である。

・BD RSV エグザマン
 日本BD(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)
承認年月日 :2005(平成17)年 5月13日
医薬品承認番号 :21700AMY00185000
検査項目 :感染症血清反応RSウイルス抗原精密測定
保険点数 :150点(3歳未満の入院患者にのみ適用)
判定時間 :15分
有効期間 :9ヶ月(キットとして)
キット構成 :テストプレート(10個)、抽出試薬(4.0mlx1本)、 チューブおよびチップ(各10個、予備つき)、 サンプルボトル(10個)、250μLピペット(10個)[別売り]コントロールセット(陽性コントロール及び陰性コントロール)

●RSウイルス感染症の治療
・β刺激薬
 乳幼児症例の50%では吸入β刺激剤に反応して
 症状が改善するとされているが、メタアナリシスでは
 気管支拡張剤の効果には、むしろ否定的な結果であった。
 近年の2005年の論文では気道RSウイルス感染症に対して
 有効とされているものもある。
Langley, JM, et al. Racemic epinephrine compared to salbutamol in hospitalized young children with bronchiolitis; a randomized controlled clinical trial. BMC Pediatr 2005; 5:7.

・ロイコトリエン拮抗薬
 LT 受容体拮抗剤がRSV 細気管支炎の回復期における
 症状の軽快に有効で、咳嗽や喘鳴の遷延を防ぐとの報告がある。
 
・リバビリン
 微小粒子のエアロゾルとして吸入で用いられる。多くの
 プラセボ対照研究において、重症度の軽減とSpO2の改善が
 みられているが、アメリカ小児科学会では、ハイリスクの
 患者においてのみ使用されるべきであるとしている。
 最近は使用されなくなっている。
Ventre, K, et al.Ribavirin for respiratory syncytial virus infection of the lower respiratory tract in infants and young children. Cochrane Database Syst Rev 2004; :CD000181.
 リバビリンと免疫グロブリンの併用で生存率は上昇する。
Flynn, JD,et al. Treatment of respiratory syncytial virus pneumonia in a lung transplant recipient: case report and review of the literature. Pharmacotherapy 2004; 24:932.

・パリビズマブ
 2001年、RSウイルス表面Fタンパク質を特異的に認識する
 モノクローナル抗体製剤であるパリビズマブ(Palivizumab)
 (商品名シナジス)が承認された。(月1回15mg/kgの筋注)
 約1500人の乳幼児によるIMpact-RSV試験で
 RSウイルス感染による入院が軽減できた。
The IMpact-RSV Study Group. ; Palivizumab, a humanized respiratory syncytial virus monoclonal antibody, reduces hospitalization from respiratory syncytial virus infection in high-risk infants. ; Pediatrics, September 1998;102:p.531-7.

・ステロイド
 大規模メタアナリシスでは、RSV感染症で
 喘息などの閉塞性肺疾患を合併しない限りは、有用でないとされている。
Patel, H, et al. Glucocorticoids for acute viral bronchiolitis in infants and young children. Cochrane Database Syst Rev 2004; 3:CD004878.

by otowelt | 2012-01-03 06:09 | レクチャー

聴診とラ音

●聴診器の発明
 聴診器はRené-Théophile-Hyacinthe Laennec(1781~1826)が1816年に発明しました。子供たちが木の板をたたいて音を聞いて遊んでいるのを見て、心臓疾患の女児に木筒をつけてみると、心音や呼吸音が聞こえたことがその始まりと言われています。Laennecは当初、断続性のraleと連続性のrhonchusの2種類を命名しましたが、1970~1980年代にはこれらをもとにいくつか呼吸音が分類されることになりました。LaennecをLaënnecと誤表記している本もありますので注意してください。
Chast F. Laennec but not Laënnec founded anatomoclinical medicine. Lancet. 1998 May 23;351(9115):1592.

●呼吸音の分類
 ちなみに「ラ音」という言葉がありますが、これはそもそもどういう意味かご存知でしょうか。肺胞呼吸音由来の副雑音のことを、ドイツ語でRasselgeräuschと表記します。このため、 第二次世界大戦後の日本の昭和時代にはラッセル音という言葉が副雑音 を表す言葉になったため、その略語でラ音(囉音)という言葉が残っているのです。
 ベルクロラ音は、ベルクロ(Velcro)社製のマジックテープをはがすときの音に類似したラッセル音、という意味ですので、正しくはベルクロ・ラッセル音ということになります。ベルクロはフランス語の velour(ビロード)+ crochet(鉤)の合成語です。、ベルクロ社は1952年にスイスでVelcro S.A.として設立されました。現在はベルクロUSA社(Velcro USA Inc.)としてアメリカのニューハンプシャー州を根拠地としていますする、ベルクロUSA社(Velcro USA Inc.)です。
 厳密には胸膜摩擦音などの副雑音は、肺胞由来ではないのでラッセル音ではありません。現在は、ラ音という言葉は慣習的に呼吸音の異常全体を表す広義の意味で使用されています。いずれこのラ音という言葉はなくなるかもしれませんね。

 ラ音=pulmonary adventitious sounds

 呼吸音について精力的に活動している学会に国際肺音学会(ILSA:the International Lung Sounds Association)がありますが、それでもいまだ呼吸音に関して一定の国際的コンセンサスはありません。ILSAが推奨している三上らの案が事実上ゴールドスタンダードになっていますし、現在の呼吸音の臨床試験の参照文献には必ずといっていいほどこの三上医師の論文が登場します。
Mikami R, et al. International Symposium on Lung Sounds. Synopsis of proceedings. Chest. Aug 1987;92(2):342-5
 多くは 、ATSの推奨に従って記載していますので、coarse crackles、fine crackles、wheezes、rhonchiの4種類が頻用されています。それぞれ複数形でありすので、wheeze、rhonchusのように単数形で用いることは臨床現場では多くありません。また、rale、wheezingなど誤った言葉もまだまだ現場で多く耳にします。ちなみイギリスではcracklesのことをralesと呼ぶこともあります。問題は、これらの分類 があまりにも古い論文をもとにしており、本当に今の臨床に沿ったものなのか妥当性があまり検証されていないことです。
・Forgacs P. The functional basis of pulmonary sounds.Chest 1978;73:399-405.
・American Thoracic Society Committee on Pulmonary Nomenclature. Am Thorac Soc News 1977; 3: 6.

 以下に呼吸音の分類を提示します。
e0156318_1113413.jpg

●聴診のコツ
 コツは、体に強く押し付けることです(やんわり押し付けると、皮膚の擦れる音がラ音に聞こえるため)。チェストピースの移動は呼気の終わりに移動します。閉塞性障害を検出するためには最大呼気までの呼出を、拘束性障害を検出するためには最大呼気からの吸気を行います。肺の下縁は最大吸気と最大呼気で10cmズレます!

●聴診三次元
 聴診所見を誰かに伝える際、厳密に伝えたいのであれば、私が作成した下図に描いたのように3つのパラメータを伝えるとよいと思います。たとえばwheezesの場合、呼気時/高調性/連続性ラ音という感じです。図は私が作成したものです。わかりにくい専門用語を使わずに相手に伝えるにはこの3つのパラメータをおさえておけばよいと思います。
e0156318_1133920.jpg

 しばしば看護師さんの間では「ギュー音」などという言葉が使用されているようにますが 、fine cracklesなどの言語は医師以外には定着していません。そのため、医療スタッフ間でもっと簡単にやりとりするために、「クラックル」と「ウィーズ」など簡単な用語に絞るべきだという意見もあります。
 服を着たまま聴診を行うと、5~18 dB程度音が小さく聴こえてしまうため、やはり肌に直接聴診器を当あてて聴診を行うほう方がよいとされています。
Kraman SS. Transmission of lung sounds through light clothing. Respiration. 2008;75(1):85-8.


●補足
1.連続性ラ音
・一定時間以上持続する、管楽器のようなラ音のこと。かつては乾性ラ音と呼ばれていた。
・ATSによれば、250msec以上持続するもの。
・呼吸音分類ではストライダーstriderは定義されていないが、これも単一の連続性ラ音である。吸気時に発生する気道狭窄音で、音の高さは定義されていない。
・低音性連続性ラ音=いわゆるrhonchi(rhonchusの複数形)。ATSでは200Hz以下の低音性連続性ラ音と定義。笛声音よりは太い気道で発生するとされているが、基本的に発生機序は同じ。COPD、気管支喘息、気管支拡張症、DPBなどで聴取。
・高音性連続性ラ音=いわゆるwheezes。ATSでは400Hz以上の高音性連続性ラ音と定義。気道壁がフラッタリングすることによって発生。COPD、気管支喘息、気管支拡張症、DPBなどで聴取する。気管支喘息では笛声音は複数の音がランダムに発生し、random polyphonic wheezesと呼ぶ。
・スクウォークはキュー、クゥ~という吸気時のみに聴取される短い連続性ラ音であり、持続時間は100msec以下と短いために断続性ラ音に分類されることもある。発生機序は、吸気時に細気管支が再開放される際気道壁が共振することによる。

2.断続性ラ音
・いわゆる、クラックルと同義。個々のcrackleは10msec以下と短く、1つの衝撃に続いて起こる数周期の減衰波形から成り立つ。日本では湿性ラ音と呼ばれていたが、発生機序からは不適当であるため、その言葉はなくなった。
・粗い断続性ラ音=いわゆるcoarse crackles。fine cracklesと異なり、吸気の初期に発生するためearly inspiratory cracklesともいわれる。個々のcrackleはfine cracklesよりも長めで、10msec以上。太い気道内の分泌液の膜の前後に、吸気時の圧較差が生じ、それが破れるときに発生する。健常者に聴取されることはなく、気管支拡張症、COPD、DPB、進行した肺水腫などで聴取される。
・細かい断続性ラ音=いわゆるfine crackles。ほとんどが吸気終末に聴取されるため、late inspiratory cracklesとほぼ同一である。個々のcrackleは5msec以下のことが多く、呼気時に閉塞した末梢気道が吸気時に再開放されるときに発生する。最大呼気位で息こらえをすると、健常人でも聴取可。仰臥位の状態でチェストピースを背中の下に入れると聴取しやすい。IIPs、IPF、石綿肺、過敏性肺炎、肺水腫初期で聴取される。

3.連続性と断続性の違い
連続性:250msec以上
   wheezes:高調(400Hz以上)
   rhonchi:低調(200Hz以下)
断続性:25msec以内
   fine crackle:高調(500~1000Hz)で短い(持続5msec以下)
   corase crackle:低調(250~500Hz)で短い(持続10~25msec)



▼楽天

by otowelt | 2012-01-02 15:40 | レクチャー

百日咳

勉強しなおした。

●百日咳とは
 百日咳(pertussis, whooping cough )は、特有の痙性の
 咳発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症である。
 母親からの免疫が期待できないため、乳児期早期から罹患し、
 1歳以下の乳児、生後6 カ月以下では死に至る危険性も高い。
 百日咳ワクチンを含むDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)は
 我が国を含めて世界各国で実施されており、その普及とともに
 各国で百日咳の発生数は激減している。しかし、ワクチン接種を
 行っていない人での発病はわが国でも見られており、
 世界各国でいまだ多くの流行が発生している。

●疫学
 世界の百日咳患者数は年間2,000 ~4,000 万人で、
 その約90%は発展途上国の小児であり、
 死亡数は約20~40 万人
 1999年4月施行の感染症法の元では「百日咳」として定点
 把握疾患に分類され、全国約3,000の小児科定点から報告
 されており、2002年は1,488 例である。
 この報告数を元に算出した年間罹患数の推計値は
 2000年2.8万人、2001年1.5万人である
 厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究」

●細菌学
 グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis )の
 感染による。一部パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis )、
 Bordetella bronchisepticaも原因となる。
 感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染、
 および接触感染である。

●症状
・カタル期(約2週間持続)
 通常7~10日間程度の潜伏期を経て、普通のかぜ症状で始まり、
 次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。
 一般的に発熱はないとされている。
・痙咳期(約2~3週間持続):
 次第に特徴ある発作性の痙咳)となる。これは短い咳が連続的
 に起こり(スタッカート)、続いて、息を吸う時に笛音のような
 ヒューという音が出る(笛声:whoop)。
 この様な咳嗽発作がくり返すことをレプリーゼと呼ぶ。
 しばしば嘔吐を伴う。
・回復期(2, 3 週~)
 激しい発作は次第に減衰し、2~3週間で認められなくなるが、
 その後も時折忘れた頃に発作性の咳が出る。全経過約2~3カ月で回復する。
 成人の百日咳では咳が長期にわたって持続するが、
 典型的な発作性の咳嗽を示すことはなく、やがて回復に向かう。
 軽症で診断が見のがされやすいが、菌の排出があるため、
 ワクチン未接種の新生児・乳児に対する感染源として注意が必要である。
 これらの点から、成人における百日咳の免疫状況に今後注意していく必要がある。

●合併症
 米国での1997~2000年の28187例の報告では、6か月未満児に多く、
 入院率63.1%、肺炎11.8%、痙攣1.4% 脳症0.2%、死亡0.8%であった。
 生後2か月以内の児の合併症は、肺炎25%、痙攣3%、脳症1%と
 他の年齢群より高い。
 Pertussis--United States, 1997-2000 Morb Mortal Wkly Rep. 51(4):73-76, 2002

●咳の持続はせいぜい50日
 咳の持続は4±3.6週間
 診断までの日数は平均23日
 典型的な症状は6%
 平均白血球数8.7±2.6/mm3
 リンパ球40±12%
 Clinical manifestations of Bordetella pertussis infection in immunized children and young adults.Chest 115:1254-1258,1999

●百日咳の診断
世界的にはCDC診断基準を採用している。
・臨床基準
 A cough illness lasting at least 2 weeks with one of the following:
 paroxysms of coughing, inspiratory "whoop," or post-tussive vomiting,
 without other apparent cause
・検査基準
 Isolation of Bordetella pertussis from clinical specimen
 Positive polymerase chain reaction (PCR) for B. pertussis
 上記では抗体価の記載がなく、あくまで微生物学的な同定を必要としている。
 つまり、鼻咽頭からの百日咳菌の分離同定が必要である。
 Bordet-Gengou培地、CSMなどの特殊培地を使うが、
 運搬している最中に菌が死ぬので特異度100%、感度15%となっている。
 患者さんが受診される痙咳期に入ると、菌がもはや検出されにくい。
 そのため、実際の臨床では菌の分離同定は難しいと考えられる。

 一般臨床で利用できる抗体検査は
 1.百日咳凝集素(山口株,東浜株)
 2.抗PT抗体
 3.抗FHA抗体        の3つである。
 日常診療では百日咳菌凝集素価の測定が行われることが多いが、
 東浜株・山口株を用いて、ペア血清(2週間以上の間隔)で4倍以上の
 抗体価上昇あるいはシングル血清で40倍以上であれば診断価値は高い、
 とされている。
 DTPワクチン最終接種から2年以内の場合は
 ⅰ)凝集原を含まないワクチン接種児ではワクチン株、
   流行株いずれかが40倍以上
 ⅱ)凝集原を含むワクチン接種児では対血清でいずれかの株の4倍以上の上昇
 としている。

 ACCP (American College of Chest Physicians)の感染後咳嗽の
 ガイドラインでは、百日咳は以下のように記載されている。
 1.別の明白な原因がなく2週間以上持続する咳があり、
  発作性の咳込み、咳込み後の嘔吐、または吸気性笛声を伴う時は、
  百日咳感染症の診断を行うべきである。
 2.吸気性笛声があると疑われるすべての患者に対して、確定診断を行うため、
  百日咳菌の存在を確認する培養のための鼻咽頭吸引、咽頭スワブを行う。
  細菌の分離は診断を確定するための唯一の方法である。
 3.PCR 検査は利用可能であるが、通常の臨床検査をしては広く使用
  されたものでも検証された技術でもない。
 4.百日咳と診断が確定、または可能性が高いときはマクロライド系抗菌薬
  を投与すべきで、治療の開始から5日間は隔離するべきである。なぜなら
  発症から最初の2~3週間以内の早期治療は発作性の咳込みを減少させ、
  疾患のまん延を防ぐからである。この期間をすぎての治療は提示されうるが、
  患者の改善には寄与しない可能性が高い。

 ペア血清を測定するころには、病状がよくなっていることが多いので、
 シングル血清での診断基準作成が求められている。
 そのため、シングル血清の論文が多い。

・シングル結成抗PT抗体が94もしくは100EU/ml以上が適当とされている報告
   Clin Diagn Lab Immunol 2004 ;11 : 1045―1053.
   J Clin Microbiol2000 ; 38 : 800―806.

・「呼吸器疾患最新の治療2010~2012」では抗PT抗体125EU/ml以上
 の論文を採用している。
   J Clin Microbiol 35: 2435-2443, 1997
・沖縄医報Vol.39 No.7 2003 診療所における遷延性咳嗽の検討 では
 シングル百日咳凝集素1280倍を有意ととらえる考察がある。
 これは、以下の+3SDという海外の文献をもとに考察されたもの。
 孫引きすると、212人の患者から考察した論文で、Abstractを見ると
 PT-IgG抗体価の+3SDと書いており、凝集素価は書いていない。
   J Infect Dis 2001 May 1;183(9):1353-9.


●百日咳の治療
・発症後4週間隔離
・カタル期における抗生物質の投与は疾患の改善に有用な場合がある。
 痙咳期からは通常抗生物質の有効性はないが、拡大を防ぐため投与される。
・エリスロマイシン 40~50mg/kgを6時間毎 14日間経口投与
・通常治療開始後5-7日で百日咳菌は陰性化
 エリスロマイシン(EM) 14日間治療(長期療法)とクラリスロマイシン(CAM)
 7日間治療およびアジスロマシン(AZM) 3日間治療(短期療法)を比較。
 → 菌の消失率は、短期療法と長期療法と同等(RR :1.02)に有効
   副作用は、短期療法が少ない(RR: 0.66)
   臨床症状の改善および細菌学的再発率も長期療法と短期療法に差なし
・CDCガイドラインではマクロライド薬の選択には、有効性・安全性・服用性
 などを考慮し以下のように推奨している。
 6カ月以上の乳幼児ではAZM・CAMはEMと同等な有効性があり、
 副作用は少なく使いやすい。CAM ・EMはチトクロームp450酵素系の抑制
 作用があるため、他の薬剤との相互作用を起こしやすい。
 CAM・AZMは、EMに比較して耐酸性で組織内濃度も高く、半減期も長い。
 EMは他の2剤より安価。新生児でのAZM・CAMの有効性を実証した報告
 はないが、肥厚性幽門狭窄症を考慮してEM やCAMよりAZMを推奨している。

Antibiotics for whooping cough(pertussis). Cochrane Database Syst.Rev. no1.:CD004404. 2005

●予防
 わが国で現在使われている無細胞百日咳ワクチンを含む
 DPT 三種混合ワクチンは
 第1期:
  初回生後3 ~90カ月(標準的には生後3~12カ月)に3回
             及びその12~18カ月後に追加接種
 第2期:
  11~12 歳に、百日咳を除いたDT二種混合ワクチン

わが国の無細胞百日咳ワクチンの有効成分はPT とFHA が主

●予後不良因子
・白血球10万以上は致死的、白血球5万以上は肺炎リスクかつ死亡リスク。
Is leukocytosis a predictor of mortality in severe pertussis infection? Intensive Care Med 2000; 159: 898-900
・生後1年未満の百日咳は死亡率上昇のリスク。

●出席停止
 特有の咳が消失するまで出席停止。
 感染拡大が疑われるときはこの限りでない。

文責"倉原優"

by otowelt | 2011-05-01 06:47 | レクチャー

chronic expanding hematoma

カンファレンスで見たので、勉強せねばならないと思った。

●Chronic expanding hematomaとは
Chronic expanding hematoma は、1980年にJAMAに
初めて報告された病態であり、初回の出血から1ヶ月以上経過して
徐々に増大する血腫である。確定的な基準はないものの、
悪性所見がないことと、出血傾向がないことが絶対条件である。
Chronic expanding hematoma : A clinicopathologic entity. JAMA 1980; 244: 2441-2442
全身のいたるところに発生するが、日本では胸腔内の報告が多い。
既往歴に、結核性胸膜炎に対する手術(胸郭形成術)や人工気胸術後
がみられることが多いが、肺癌などの胸部手術例や外傷歴も報告されている。
Chronic expanding hematomaに対する5手術例の検討.胸部外科2000;53:768-73.
血腫が増大する原因として、いくつか提唱されている。
たとえば、血塊内の血球などの破壊産物が炎症によって
線維芽増生を生じたり、血塊周囲に被膜や新生血管ができ、
これが血腫となるという過程、さらには血塊から析出される
プラスミノーゲン活性化因子によって、血腫内部が空洞化され、
この空洞内に炎症により透過性の増した新生血管から血液が漏出
するため、血腫が徐々に増大するといったプロセスなどなど。
Physiopathogenesis of subdural hematomas. J Neurosurg 1976;45:382.

●Chronic expanding hematomaの症状
呼吸困難や咳などがみられることが多いが、肋骨を破壊して
皮膚ろうを作ったりすることもある。
Fibrothorax and decortication of the lung. General Thoracic Surgery2005;1:851-9.

●Chronic expanding hematomaの画像所見
CTにおいて被膜がみられ、血腫辺縁はなだらかで、内部に不均一な
腫瘤性病変
であることが一般的である。一部に石灰化を伴うことがある。
造影後は辺縁部に濃染がみられる。MRIではT1、T2像ともに
新旧の出血を反映した信号がモザイク状に観察
される。
T2像で、高信号域が辺縁より乳頭状に突出するような所見もみられる。
MR features of a case of chronic expanding hematoma. J Clin Imaging 2000; 24: 44-46

●Chronic expanding hematomaの治療
胸腔ドレナージによる保存治療では効果が不十分で、根治的には
外科的治療が必須である。ただ、病態からわかるように、
術中に大量出血をきたすことが多い。
被膜を残して血腫のみを除去した症例では再発が報告されており,
被膜を含めて完全摘出する方がよいともされている。
感染を併発していなければ、剥皮術・胸膜肺切除術など慢性膿胸に
準じた術式が選ばれることもある。
Chronic expanding hematomaに対する5手術例の検討.胸部外科2000;53:768-73.

by otowelt | 2011-04-14 05:32 | レクチャー

メモ:合併症を中心としたCTガイド下生検

患者さんに説明する際、手技を直接おこなわない
呼吸器内科医であっても数字をある程度知っておく必要がある。
そのためのメモを書き留めておく。


●CTガイド下生検の概要
気管支鏡的にTBLBができなかった場合、あるいはできないと予想される場合
経皮的肺針生検が検討される。経皮生検は従来X線透視下でおこなわれていたが、
1976年に世界初の報告がなされた。
Precise biopsy localization by computer tomography. Radiology1976;118:603-7.
CTガイド下生検の診断精度は90%近いとされている。
Accuracy of CT guided transthoracic needle biopsy oflung lesions: factors affecting diagnostic yield. Radiol Med2007;112:1142-59.
ただ、これに関しては腫瘍径も関連しており、
径1cm程度未満の病変については有意に正診率が低下するという報告もある
・Diagnostic accuracy and safety of CTguided percutaneous needle aspiration biopsy of the lung. AJR 1996; 167:105-109.
・肺末梢小型陰影に対するCT ガイド下経皮肺針生検の診断に影響する因子の検討. 日呼吸会誌40(2),2002

生検針は、主に18-21Gのsemi-auto 生検針を用いるが、施設によって
多少の差異はある。


●CTガイド下生検の合併症
合併症として、気胸、血胸、空気塞栓、肺胞出血・喀血、胸膜播種、CPA、ショック
などが報告されている。

1.気胸
気胸は最も多い合併症で、報告によって様々である。
2002年のCHESTの論文では、26.6%と報告されている。
そのうち半数がドレナージを要した。針は19Gである。
e0156318_16431270.jpg
The incidence and the risk of pneumothorax and chest tube placement after percutaneous CT-guided lung biopsy: the angle of the needle trajectory is a novel predictor. Chest 2002;121:1521-6.

下記の論文においては、気胸はおよそ15%に起こっている。
この論文における針は20Gである。
CT-Guided Transthoracic Needle Biopsy of Pulmonary Nodules Smaller than 20 mm: Results with an Automated 20-Gauge Coaxial Cutting Needle
Clinical Radiology Volume 55, Issue 4, April 2000, Pages 281-287


日本からの9783例のCTガイド下生検を集めた論文もあるが、
気胸は35%と高率である。124施設から症例を集めたものであり
針の太さはまちまちである。
CT-guided needle biopsy of lung lesions: a survey of severe complication based on 9783 biopsies in Japan. Eur J Radiol 2006;59:60-4.

当然ながらCOPDなどの気腫疾患合併例は、気胸の最たるリスクである。
Transthoracic needle aspiration biopsy: variables that affect risk of pneumothorax. Radiology 1999;212:165-8.
また、病変が胸膜から離れていることもリスクである。
Transthoracic needle biopsy: factors effecting risk of pneumothorax. Eur J Radiol 2003;48:263-7.
標的病変までのリスク距離は報告によって様々であるが、2cmを超える場合には
きわめて注意した方がよいと考えられる。距離が長くなることにより
生検針が病変に到達するプロセスで、末梢細気管支や血管を損傷する
可能性が高くなるため、これが気胸や出血のリスクを高めるのであろう。
Risk of pneumothorax in CT guided transthoracic needle aspiration biopsy of the lung. Radiology 1996;198:371-5.
ちなみに、経験不足は気胸のリスクであるという論文もある。
Risk factors of pneumothorax and bleeding:multivariate analysis of 660 CT guided coaxial cutting needle lung biopsies. Chest 2004;126:748-54.

2.喀血・肺胞出血
喀血の頻度はせいぜい5%くらいであるという報告が多い。
肺胞出血は画像上の所見であるため、それよりも多く20%程度とする
報告が多いように思う。
・CT-Guided Transthoracic Needle Biopsy of Pulmonary Nodules Smaller than 20 mm: Results with an Automated 20-Gauge Coaxial Cutting Needle
Clinical Radiology Volume 55, Issue 4, April 2000, Pages 281-287
・CT-guided needle biopsy of lung lesions: a survey of severe complication based on 9783 biopsies in Japan. Eur J Radiol 2006;59:60-4.


3.播種
悪性病変を生検する場合、播種が問題になるが、予後に関しては
有意差はないと報告されている。
Diagnostic percutaneous Transthoracic needle biopsy does not affect survival in stage I lung cancer. Am J Respir Crit Care Med 2006 ; 174 : 684―688.
頻度は空気塞栓と同じく極めて低いものである。
CT-guided needle biopsy of lung lesions: a survey of severe complication based on 9783 biopsies in Japan. Eur J Radiol 2006;59:60-4.

4.空気塞栓
空気塞栓症の頻度は0.1%未満と極めて低い。ただ、重篤な
合併症であるため、十分な事前説明と速やかな診断治療が重要となる。
・Complications of percutaneous transthoracic needle aspiration biopsy. Acta Radiol Diagn 1976;17:813-28.
・CT-guided needle biopsy of lung lesions: a survey of severe complication based on 9783 biopsies in Japan. Eur J Radiol 2006;59:60-4.

空気塞栓症の発生機序は、胸腔外から肺静脈への空気の流入の経路と
気道系と肺静脈の直接交通の経路の機序が考えられている。
・Air embolism complicating percutaneous needle biopsy of the lung. Chest 1973;63:108-10.
・Fatal systemic arterial air embolism following lung needle aspiration. Radiology 1987;165:351-3.

息止めをおこなった状態での生検は胸腔内圧が上昇するため、
穿刺時に肺血管内に空気が流入して空気塞栓をきたしやすいことが
わかっているため、穿刺時は浅い呼吸で行うべきであるとされている。
また、空気塞栓予防体位については頭低位の報告が多いが、現時点では
確実に予防できるかどうかはエビデンスとしては不足している。
また、空気塞栓症の治療としては高圧酸素療法をおこなうべきとの報告がある。
Cerebral air embolism complicating percutaneous thin-needle biopsy of the lung: Complete neurological recovery after hyperbaric oxygen therapy.J Anesth 2001;15:233-6.
日本高気圧環境医学会の高気圧酸素治療の安全基準を参照にしたい。

by otowelt | 2011-04-12 17:16 | レクチャー

鋳型気管支炎(plastic bronchitis)

●鋳型気管支炎(plastic bronchitis)
 鋳型気管支炎は、気道内の鋳型粘液栓により呼吸症状をきたす疾患。
 既存に喘息や先天性心疾患があったり、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
 が関与することがあるため全体的に小児科領域の報告が多いが、
 新型インフルエンザに罹患したとき同疾患群を呈することがあるため、
 呼吸器内科医としては知っておきたい疾患の1つである。
 また呼吸器内科医であれば、ABPAのときのmucoid impactionを思い出せば、
 この疾患の理解がしやすいと思う。
 鋳型気管支炎は、しばしば致死的な転帰をたどるとされている。
Plastic bronchitis in children: a case series and review of the medical literature. Pediatr Pulmonol. 2002;34:482-487.
 気道異物による症状との鑑別および治療のため、気管支鏡を必要とする。

●鋳型気管支炎の病態
 粘液栓の組織学的所見から二つに分類されている。
Bronchial casts in children:a proposed classification based on nine cases and a
review of the literature. Am J Respir Crit Care Med. 1997;155:364-370.

 ・I型鋳型気管支炎(cellular)
  気管支病変に由来する好酸球などの炎症細胞浸潤を主体とした粘液栓による
  鋳型気管支炎。
e0156318_18231010.jpg
 ・II型鋳型気管支炎(acellular)
  心臓手術後(Fontanなど)にリンパ流のうっ滞を起こしすために
  粘液産生が増加し、粘液栓が形成されるタイプの鋳型気管支炎。
Bronchial casts in children with cardiopathies: the role of pulmonary lymphatic abnormalities Pediatr Pulmonol 1999;28:329-336
 気管支吸引痰があたかもラーメンのようにみえるので
 食物を誤飲したことによる疾患であると当初考えられていた。
Plastic bronchitis: large branching mucoid bronchial casts in children. AJR Am J Roentgenol 1985;144:371-5.
e0156318_18351541.jpg
●鋳型気管支炎の治療
 自己排痰が可能なケースもあるが、全身麻酔下での気管支鏡による
 粘液栓の吸引が必要なことが多いとされている。
 そもそもが診断が気管支鏡に基づいてなされることが多いため、
 いずれにせよ現段階では気管支鏡がないと診断も治療もできないと
 考えたほうがよい。
Plastic bronchitis:a management challenge. Am J Med Sci 2008;335:163-9.

●鋳型気管支炎の予後
 死亡率は、炎症性疾患に伴う粘液栓は6-50%、非炎症性の場合は
 28-60%であるとされている(後者は心疾患合併例が多いため)。
文責"倉原優"

by otowelt | 2011-01-31 06:07 | レクチャー

黄色爪症候群(Yellow nail syndrome)

そこまで奥が深くないので、メモ書き程度。
呼吸器内科医にとって胸水貯留の鑑別疾患に挙げることができるかどうか。

e0156318_1122420.jpg●黄色爪症候群(Yellow nail syndrome)とは
 黄色爪症候群はSammanらによって提唱された疾患概念で、
 成長遅延黄色爪、リンパ管浮腫を特徴とするものである。
 その後成長遅延した黄色爪、リンパ管浮腫、呼吸器病変が
 本疾患の3主徴で、少なくとも2 つの症状が
 存在することが必要とされている。
 3徴候すべてが揃っている症例は40~63%にとどまる。

                Br J Dermatol 1964 ; 76 : 153―157.
                日皮会誌2002 ;112 : 261―265.
 平均年齢は61歳、男女比はほぼ同等だが、1:2という報告もある。
 女性に多いかもしれない、程度に覚えておくとよい。
                Cleve Clin J Med 1990;57:472-476
 関節リウマチ患者において、ブシラミンや金製剤の使用でも起こりうるが、
 原発性黄色爪のうち、肺病変やリンパ浮腫を伴うものをYNSと呼び、
 黄色爪のみのものや、続発性黄色爪のものはYNS に含めない。
 
●黄色爪症候群の病態
 先天性のリンパ還流異常がベースにあり、後天的に感染などを契機として
 リンパ液の還流量が増加、還流障害が助長されることによって
 リンパ管浮腫や胸水が顕在化すると考えられている。
 正常人は爪の成長が0.5~1.2mm/週であるが、本疾患では0.2mm/週以下と
 遅くなることが特徴である。YNSでは後爪郭部の炎症が起こることで
 同部のリンパ管閉塞が増悪、後爪郭部が後退する。これにより爪甲が
 肥厚し成長遅延が起こる。また、YNS では一般にリンパ球優位の滲出性胸水である。
 胸水貯留は全体の36%にみられるが、腹水や心嚢液などを貯留することもある。
                Acta Med Scand 1986;219:221-227
 胸水貯留のうち、半数が両側性であるとされている。
                Chest 1972;61:452-458

●黄色爪症候群の治療
 治療としてビタミンE の内服、ステロイド局注、クラリスロマイシン内服などが
 あるが、確立されたものはない。
                Arch Dermatol 1973 ; 108 :267―268.
                Cutis 1986 ; 37 : 371―374.
                日皮会誌2002 ;112 : 261―265.

文責"倉原優"

by otowelt | 2010-07-08 16:36 | レクチャー

zygomycosis (ムコール症;mucormycosis)

●zygomycosis
zygomycosisは真菌感染の3~4%を占め、
Mucor症は全体の約20%を占めるとされている。
           Ann Intern Med 1980;93:93―108.
zygomycetes網mucorales目によって起こることが多いため、
zygomycosis=mucormycosisと考えるケースがほとんどである。
クモノスカビ(Rhizopus)、リゾムコール(Rhizomucor)、
アブシディア(Absidia)、バシディオボールス(Basidiobolus)などの
様々な真菌種による感染症の総称と考えるべきである。
”ムコール症”と”ムーコル症”と2種類の日本語表記があるが、
Google検索でヒットが多いのは、”ムコール症”の方である。
CID2005にわかりやすいレビューがあるので、参考にしたい。
癌と血液疾患では半数が肺型であり、ものの文献では全体の半数以上に
肺zygomycosisがみられるとの報告もある。
e0156318_10243783.jpg
松島らは宿主の要因により肺ムーコル感染症を健常人に発症した一次性、
重篤な基礎疾患があり免疫抑制剤が使用されている患者に発症してくる二次性、
肺内の空洞などの病的空間に菌が付着・増殖する腐生性
の3つに分類している。しかしながら、文献が古すぎる。
           日胸疾会誌1979 ; 17 : 791―797.

●肺Mucor症の病態生理
肺Mucor症は胞子の吸入により発症する。
健常人で発症することは稀でであり、糖尿病や腎不全、白血病などの
免疫不全をきたす基礎疾患を持つ患者に発症する。
経過は急速であり、また血管侵襲性が強いため、生前診断が困難で予後不良である。
血管浸潤による血栓形成と梗塞を特徴とした、壊死性血管炎が特徴的である。
e0156318_1256759.jpg
●zygomycosisの症型・症状
・rhinocerebral zygomycosis(鼻脳型)e0156318_21564420.jpg
 鼻脳型は、もっともよくみられるパターンである。
 糖尿病のある患者において、50%のzygomycosisが
 このタイプである。脳感染症は通常重度で、高頻度に致死性。
 壊死性病変が鼻粘膜、しばしば口蓋にみられる。菌糸による
 血管侵入は、鼻中隔~副鼻腔の骨を進行性に組織壊死させる。
 症状として疼痛、発熱、眼窩蜂巣炎、眼球突出、膿性鼻汁など。
 海綿静脈洞血栓症、失語症、片麻痺などの症状を起こすことも。

・pulmonary zygomycosis(肺型)
 侵襲性アスペルギルス症に類似する症状である。
 発熱、咳嗽、血痰、胸痛、呼吸困難など。

・gastrointestinal zygomycosis(消化管型)
 腹痛、悪心、嘔吐、下痢、血便など。
 zygomycosisの表現型としては最も少ないタイプである。
              Clin Infect Dis. Sep 1 2005;41(5):634-53

・cutaneous zygomycosis(皮膚型)
 全zygomycosisの20%を占める。血液疾患に続発するケースもあるが、
 多くは皮膚になにかしらの外傷を負ったケースである。
e0156318_21555120.jpg
・disseminated zygomycosis(播種性)
 肺zygomycosisが全身に播種することが一般的で、中枢神経系や血中に
 散布される。肺zygomycosis患者が、頭痛、複視などを訴え始めた場合には
 これを考える必要がある。deferoxamine治療の患者はこのタイプの
 リスクファクターである。(鉄キレート剤)
 
●zygomycosisの診断
 β-Dグルカンは陰性である。抗原検査もない。
 なので、痰や気管支鏡で直接病原体を検出するしかないのが現状である。
 血液疾患患者において疑われた症例でも、半数以下しか診断できなかった。
          Haematologica. 2000;85(10):1068-71.
 アスペルギルスの可能性を考えた場合に、必ずcriticalな経過をたどる
 zygomycosisを頭に入れておくことが大事である。
e0156318_10414974.jpg
 HE染色とGrocott染色(肝zygomycosis)

●胸部の画像所見
 肺zygomycosisは上葉に起こることが多い。
          J Comput Assist Tomogr. 1995;19(5):733-8. 
 画像所見としてはIPAと非常に類似している。
 境界のはっきりした結節影とconsolidationが認められる。
 consolidationが66%、caviationが40%にみられる。
          Arch Intern Med. 1999;159(12):1301-9.
 本症を疑ったら、頭~副鼻腔MRIを撮影する必要がある。
e0156318_1046868.jpg
●zygomycosisの治療
血球異常や血糖異常はすぐに是正すべきである。
これにより予後は改善する。
本症の治療としては外科的治療またはAMPH-B の投与が有効とされている。
病変が限局し、全身状態が改善した例では外科治療の対象となる。
           Ann Thorac Surg 1994 ; 57 : 1044―1050.
アムホテリシンBの総使用量1000 mg 以上を用いた方が予後が良いとされている。
フルコナゾールや5-FCについては、アムホテリシンBとの併用投与で
効果を報告した文献もあるが、あくまで報告例である。

ポサコナゾールはin vivoでもin vitroでも効果が証明されている。
           Antimicrob Agents Chemother. May 2002;46(5):1581-2
           J Antimicrob Chemother. Jan 2003;51(1):45-52
           Int J Clin Pract. Jun 2004;58(6):612-24.

現実的には、アムホテリシンBのde-escalationの役割として
用いられていることが多いようである。

●zygomycosisの予後
かつて死亡率は80~90%と高かったが、2000年に入るまでに早期診断により
20~40% にまで低下している。
           Arch Intern Med 1999;159:1301―9.
           Ann Thorac Surg 1994;57:1044―50.

白血病などを基礎疾患として発症した場合、
出血性梗塞で急速な経過をたどり多くは2 週以内に死亡すると言われている。
しかし、重症の基礎疾患がない場合、慢性の経過をとるとされている。
           日胸疾会誌1988;57:116―8.
30 年間の肺ムーコル症をまとめた論文では、
内科治療のみの31 例の死亡率は55%、外科治療を行った30例の死亡率は27%。
           Arch Internal Medicine 1999 ;159 : 1301―1309.
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-06-20 22:04 | レクチャー